20世紀から21世紀へのバレエの変貌を鳥瞰する優れた舞台、スターダンサーズ・バレエ団「バランシンからフォーサイスへ」

スターダンサーズ・バレエ団「バランシンからフォーサイスへ 〜近代・現代バレエ傑作集〜」

『セレナーデ』『ウエスタン・シンフォニー』ジョージ・バランシン:振付、『N.N.N.N.』ウィリアム・フォーサイス:振付

スターダンサーズ・バレエ団が「近代・現代バレエ傑作集」とサブタイトルを付け、「バランシンからフォーサイスへ 」という公演を行った。演目は、バランシンの『セレナーデ』と『ウエスタン・シンフォニー』(ベン・ヒューズの振付指導)フォーサイスの『N.N.N.N.』(安藤洋子、島地保武の振付指導)だった。20世紀から21世紀へのバレエの鳥瞰を感じさせるプログラムである。

開幕は『セレナーデ』。バランシンが、チャイコフスキーの曲を使ってバレエ・スクールの生徒たちのために振付けた、といわれている。しかしもちろん、あだやおろそかに創られてはいない。音楽の構成としっかりと寄り添いながら、美しいヴィジュアルのフォーメーションを拵えている。『セレナーデ』という音楽の原義も踏まえて、アンサンブルとともに愛の形が、プリンシパルダンサーにより表され、ラストは愛への力強い賛美で終わる。古典的な美しさとヒューマンな姿が調和し、見事に調えられた作品である。

フォーサイスの『N.N.N.N.』は、脱力と緊張にもとづく動きを構成したもの。冒頭から腕を脱力して、重力に任せて現れる動きを見せる。時にだらりと垂れ、時にもう一方の手で受けたり、そのまま持ち上げて頭の上に固定しようとしたり、さまざまな動きが組み合わされ、二組の男性ダンサーのペアがいくつものヴァリエーションを見せて踊る。その間に意味のない掛け声を合わせて発したりするが、音楽はなく、時折、ほとんど聞き取れないくらいの重低音がブーッと流れる。それはおそらくは、現実の一段面を表していると思われる。『ステップ・テクスト』などでも見られた断裂する音の使用法が、さらに象徴化されている。個々の動きすべてが振付けられたものというが、バレエの動きとの類縁あるいは対照的な関係を見ることはできなかった。様式化が完全に破砕され、ムーヴメントは、今そこにある21世紀の現実と照応しているかのようにも感じられた。

「セレナーデ」Takashi Hiyama ©〈A.I Co.,Ltd.〉

「セレナーデ」Takashi Hiyama ©〈A.I Co.,Ltd.〉

「N.N.N.N.」 Takashi Hiyama ©〈A.I Co.,Ltd.〉

「N.N.N.N.」
Takashi Hiyama ©〈A.I Co.,Ltd.〉

「ウェスタン・シンフォニー」 Takashi Hiyama ©〈A.I Co.,Ltd.〉

「ウェスタン・シンフォニー」
Takashi Hiyama ©〈A.I Co.,Ltd.〉

最後はバランシンが彼の『スターズ・アンド・ストライプス』や『タランテラ』などにも音楽を提供しているハーシー・ケイに依頼して、アメリカのフォークソングなどを編曲・オーケストレーションした音楽に振付けた『ウエスタン・シンフォニー』。アメリカ西部の大草原に、人々が集って心ゆくまで踊る、そんな新大陸アメリカらしい、自由で闊達な気分があふれるようなダンスだ。4楽章に分かれていて、林ゆりえと吉瀬智弘、渡辺恭子と加藤大和、鈴木就子と関口啓、喜入依里と安西健塁とそれぞれのアンサンブルが見事に踊りきった。
これまでは(スターダンサーズの公演以外では)、バランシンとフォーサイス作品を同じ公演で見る機会は、案外、少なかったかもしれない。この「バランシンからフォーサイスへ」により、19世紀のグランド・バレエがバランシンの出現によって、舞台の主題が変わり、フォーサイスによってそのムーヴメントそのものが解体された、という道筋が感じられた。そこまで21世紀も深まってきたということだろうか。

「ウェスタン・シンフォニー」Takashi Hiyama ©〈A.I Co.,Ltd.〉

「ウェスタン・シンフォニー」Takashi Hiyama ©〈A.I Co.,Ltd.〉

ワールドレポート/東京

[ライター]
関口 紘一

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