シクリャローフが見事な踊りを見せた、フリードマン版『ロミオとジュリエット』NBAバレエ団

NBAバレエ団

『ロミオとジュリエット』マーティン・フリードマン:振付

NBAバレエ団が、マーティン・フリードマンが振付けた『ロミオとジュリエット』を上演した。『ロミオとジュリエット』の演出・振付は、最も著名なケネス・マクミラン版を始め、ジョン・クランコ、レオニード・ラヴロフスキー、ユーリ・グリゴローヴィチなど錚々たる巨匠たちのセルゲイ・プロコフィエフの音楽によるヴァージョンが、良く知られている。NBAバレエ団がフリードマン版を上演したのは、芸術監督がコロラド・バレエ時代にこのバレエを主演したという機縁があったからであろう。

フリードマンは、シェイクスピアの原作戯曲を忠実に視覚化しようと試みたという。そのためか、バルコニーのシーンは、パーティでの出会いの感動から覚めやらぬロミオが、中庭に下りてきたジュリエットの一人言に気づいて始まる。バレエや映画でも有名なバルコニーのシーンは、多くがヴェローナの街にある<ジュリエットの家のバルコニー>を連想させるようなセットを組んでいる。しかしそこは確かにシェイクスピアの戯曲のモデルになったと言われる家なのだが、バルコニーは後から観光用に設えたもの。というわけでフリードマン版にはバルコニーのセットは用いられていない。ラヴロフスキー版もバルコニーのセットではなく中庭で踊られた、と記憶する。しかしバルコニーは、この出会ったばかりの若い恋人たちを描くためには、高さがあってその距離感を表すには実に好都合なセットだ。

峰岸千晶、ウラジーミル・シクリャーリョフ 撮影/吉川幸次郎

峰岸千晶、ウラジーミル・シクリャーリョフ
撮影/吉川幸次郎

また、パリスとの結婚を両親から迫られ、なんとか逃れたが思いあぐねたジュリエットがロレンス修道士のもとに駆けつけると、そこにはジュリエットに拒まれたパリスが悩みを打ち明けている。そしてジュリエットは、決死の思いで仮死に陥る薬を飲むとき、短剣と薬をそれぞれの手に持って、死すべきかあるいは苦難の中を生きるべきか、とハムレットのように悩む。マキューシオがティボルト殺され、ロミオが親友の仇を討ってを彼を殺すまでは、マンドリンを使ったおどけた表現などは使わず、シリアスに描かれている。終幕で両家は和解する、などがこのフリードマン版の特徴だろうか。演出としてはあまり技巧を弄さず、真面目に物語を辿ろうとしているようにも見えた。

マリインスキー・バレエのプリンシパル、ウラジーミル・シクリャローフがゲストダンサーとしてロミオ役を踊った。シクリャローフのロミオはジャプも一段高く、表現も見事、チャンバラは格好よくと舞台全体を引っ張るさすがの演舞だった。峰岸千晶が踊ったジュリエットも良く頑張って踊りきった。特に愛を貫く決死の想いを固めてからは表現が安定し、観客の喝采を受けていた。もう少しジュリエットが一人の女性として成長していく姿がくっきりと描けたらさらに良かったと思われる。
もう一組の主役は、竹内碧のジュリエットと宮内浩之のロミオだった。
(2017年2月25日 東京文化会館)

「ロミオとジュリエット」撮影/吉川幸次郎

峰岸千晶、ウラジーミル・シクリャーリョフ
撮影/吉川幸次郎

「ロミオとジュリエット」撮影/吉川幸次郎

「ロミオとジュリエット」撮影/吉川幸次郎

竹内碧(他日公演)撮影/吉川幸次郎

竹内碧(他日公演)撮影/吉川幸次郎

竹内碧、宮内浩之(他日公演)撮影/吉川幸次郎

竹内碧、宮内浩之(他日公演)撮影/吉川幸次郎

ワールドレポート/東京

[ライター]
関口 紘一

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