ミリアム・ウルド=ブラームがジゼルを踊ったアデュー公演に大きな喝采と歓声が贈られた、パリ・オペラ座バレエ団速報!

ワールドレポート/パリ

三光 洋 Text by Hiroshi Sanko

Les Adieux de Myriam Ould-Brahm dans « Giselle »

『ジゼル』ミリアム・ウルド=ブラーム、アデュー公演

ミリアム・ウルド=ブラームが5月18日土曜日、ガルニエ宮のジャン・コラリ&ジュール・ペロー振付『ジゼル』公演でヒロインを踊って引退した。1982年1月パリ郊外ヌイイ・シュル・セーヌ生まれで、現在42歳4ヶ月。パリ・オペラ座バレエ団の規定42歳半のギリギリまで踊り続けたことになる。現在エトワールの多くが30代後半になると、稀にしか舞台に姿を現さないのと対照的だった。

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© Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

19時過ぎにガルニエ宮に着くと、招待客が切符引き取りカウンターに長蛇の列を作っていた。普段よりも着飾った人が多い。幕が上がって間も無くして左手の農家のセットからミリアム・ウルド=ブラームが姿を現すと早くも大きな拍手と歓声が上がった。42歳になってもきゃしゃな身体には少女の風情が感じられる。軽く小首を傾げる仕草や恥じらいがちな視線、流れるような身体のラインはロマンチック・バレエのヒロインそのものだ。手先から腕、衣装の下から見える膝から下の足による繊細そのものの表現は、シンプルでありながら抒情味をたたえたアドルフ・アダンの音楽と見事に溶け合っている。現在のオペラ座ダンサーでこれほど音楽との一体感のある人は他にいない。

恋人のアルブレヒトが別の女性と婚約していることを知ってから、母親の腕の中で息絶えるまでの狂乱の場面も、身体の動きと表情、視線が相まって自然そのもの。第二幕で実に細やかなポワントで後退して退場するとこでの重さを感じさせない動きからは「右足は痛み切っている」ことは全くうかがえなかった。

終演後は立ち上がった観客からの長い拍手が続く中、アルブレヒト役のポール・マルクから抱擁された後、舞踊監督ジョゼ・マルティネスから大きな花束が送られた。続いて、かつてのパートナーのダンサーや他のエトワールたちからも祝福された。夫のミカエル・ラフォンと二人の息子ライアン(9歳)とアントワーヌ(4歳)も登場し、舞台には和やかな雰囲気が広がっていた。

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© Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
(舞台写真は今回のシリーズではありません)

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© Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
(舞台写真は今回のシリーズではありません)

ミリアム・ウルド=ブラームの誕生はパリ郊外だったが、その後6歳まで父の祖国アルジェリアの首都アルジェで育った。6歳の頃、姉が習っていたダンス教室に預けられたが、母親が戻ってきた時には廊下で生徒たちと同じように踊っていた。帰国後、パリ郊外クルヴボワの文化センターで習ってから、1995年に国立高等音楽ダンス院(教師はクリスティーヌ・デュマ)に入り、地方コンクールでダンス教師マリー=エレーヌ・ル・ヴァンの目に止まった。教師がミリアムの写真をパリ・オペラ座バレエ学校長クロード・ベッシーに送り、年齢上限の12歳を超えていたものの、1996年に入学を認められた。ミリアムは「ダンスの世界に生まれなかった私にチャンスを与え、厳しいけれど公正な先生から学べるようにしてくださったベッシー先生に感謝しています。」と語っている。(5月16日付け「ルモンド紙」ロジータ・ルソー記者による)

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© Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
(舞台写真は今回のシリーズではありません)

1999年、17歳でコール・ド・バレエの一員となり、2005年に23歳でプルミエール・ダンスーズと順調に昇進した。しかし、クラシックを軸にしたミリアムはコンテンポラリーも踊るダンサーを優先したブリジット・ルフェーヴル舞踊監督(在任1995年から2014年)の方針に合わず、2012年6月18日に『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』のリーズを踊ってエトワールに任命されたときには30歳になっていた。

それから12年間、エトワールとして最後までの責務を果たした。インタヴューで「エトワールになるのは大変だけれど、それよりもむずかしいのは水準を保ち続けることです。」と語っている。「四年前からダンスを教え始めており、今は自分が踊ることよりも、自分の学んだことを次代に伝えることにより満足を覚えています。」

『ジゼル』のコーチをしたクロード・ド・ヴュルピアンは「破格の感受性で役に真実味を与え、みる人の心を動かしてきたダンサーが教師となるのは本当に素晴らしいことです」と熱いエールを送っている。(「フランス・ミュージック」5月17日放送による)ミリアムの薫陶を受ける若手の中から彼女のようなダンサーが育っていってもらいたい、というのはバレエファンの願いだろう。

なおオペラ座は引退したものの、2024・25年のシーズン中には日本と中国のツアーでネオクラシック作品を踊ることが決まっている。

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© Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
(舞台写真は今回のシリーズではありません)

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© Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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© Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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