バティストーニ、ムーセーニュ、ミエ=モーランなどが踊り、マルセリーノ・サンベがゲスト出演した『リーズの結婚』、パリ・オペラ座

ワールドレポート/パリ

三光 洋 Text by Hiroshi Sanko

Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

La Fille mal gardée Frederick ASHTON、Jean DAUBERVAL
『リーズの結婚』フレデリック・アシュトン:振付 、ジャン・ドーベルヴァル:原振付

パリ・オペラ座バレエ団が2018年以来となるフレデリック・アシュトン振付『リーズの結婚』を上演した。3月15日から4月1日まで13回公演が行われ、レオノール・ボーラック(コーラスはギヨーム・ジョップ)、マリーヌ・ガニオ(ジャック・ガズトット)、クララ・ムーセーニュ(アントニオ・コンフォルティ)、ブルーエン・バティストーニ(マルセリーノ・サンべ・客演)、エレオノール・ゲリノー(アントワーヌ・キルシャー)、オルタンス・ミエ=モーラン(アントワーヌ・キルシャー)の六人がリーズを踊った。前回の2018年公演では、四人のリーズが全員エトワールだったのに対し、今回は若手ダンサーが多く起用されたのが特徴だ。それにしても当初、コーラスを踊る予定だったマチアス・エイマンが今回も降板してしまったのは残念な限りだった。

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アントニオ・コンフォルティ、クララ・ムーセーニュ
© Benoïte Fanton/ Opéra national de Paris

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アントニオ・コンフォルティ
© Benoïte Fanton/ Opéra national de Paris

3月20日はリーズをクララ・ムーセーニュが踊った。彼女はパリ・オペラ座バレエ学校時代から優れたテクニックで注目され、2023年にスジェに昇進し、カルポー賞を受賞した。今年に入って、AROPパリ・オペラ座振興会賞をアントニオ・コンフォルティ(今回のコーラス役)、プルミエール・ダンスーズに昇格したイネス・マッキントッシュの二人と共に受賞したばかりで、今回初めて主役に抜擢された。
2004年パリ生まれのムーセーニュはリボンを手にした最初のソロから、安定した細やかな動きを見せた。初の主役ながら硬さはなく、若さと優れたテクニックによって伸びやかな演技だった。リボンの扱いは回を重ねれば、より円滑になっていくだろう。コーラス役のアントニオ・コンフォルティやアラン役のアンドレア・サーリとも息の合っていた。
2023年からスジェを勤めているアントニオ・コンフォルティも若さと努力の跡は感じられたが、リーズ役のムーセーニュに対して技術面で一歩譲る感じが残ったのは否めない。
クララ・ムーセーニュはリーズに続いて5月に『ジゼル』でミルタを踊ることが決まっている。リーズとミルタの成果が舞踊監督から評価されれば、今シーズン中にプルミエール・ダンスーズに昇格する可能性が開けるのではないか。

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クララ・ムーセーニュ
© Benoïte Fanton/ Opéra national de Paris

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アントニオ・コンフォルテ、クララ・ムーセーニュ
© Benoïte Fanton/ Opéra national de Paris

3月31日には26日の公演でエトワールに任命されたばかりのブルーエン・バティストーニが登場した。当初はマチアス・エイマンがコーラスを踊ることになっていたが、降板してしまい、英国ロイヤル・バレエ団のマルセリーノ・サンベ(リスボン、1994年生)となった。彼女は、2018年の『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』のシリーズではカドリーユで、四羽の雌鶏の一羽を演じている。わずか五年の間にカドリーユから頂点まで登り詰めたことになる。
最初にブルーエンが姿を現した時、横のフランス人バレエ評論家は思わず「リーズにはきれいすぎるわ」と漏らしたが、この懸念は杞憂に終わった。愛の絆を象徴するリボンを自在に操り、恋人のコーラスには愛嬌たっぷりの微笑を投げかけるのを見ているうちに、誰もが身体による喜劇の中に取り込まれていった。ブルーエンは振付家のフレデリック・アシュトンが拠点とした英国のロイヤルバレエ団に足を運び、パートナーのマルセリーノ・サンべと一緒にリハーサルをすることで、パントマイムに磨きをかけたそうだ。細やかな仕草や視線を駆使し、表情に富んだサンべとの呼吸がピッタリとしていたのは言うまでも無い。さらに、サンベがテンポの速い動きでエネルギーを注ぎ込んでドラマを活性化し、ヒロインの豊かな表情にいっそうの生気を吹き込んだ。二人の情愛は自然に周囲に広がって、客席だけでなく、コール・ド・バレエのダンサーたちも暖かい雰囲気に包まれていた。

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ブルーエン・バティストーニ
© Benoïte Fanton/ Opéra national de Paris

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ブルーエン・バティストーニ
© Benoïte Fanton/ Opéra national de Paris

ブルーエンという名前はブルトン語(フランスのブルターニュ地方の言語)で「白い花」を意味する。カーテンコールでもパートナーや周囲への配慮が感じられ、慎ましい清楚な花を思わせた。2022年7月13日のアリス・ルナヴァンのアデュー公演『ジゼル』の第二幕途中で怪我をして退場したアリス・ルナヴァンに代わって、全く動じることなくヒロインを演じ切った夕べのことが脳裏をよぎった。 念願の『ジゼル』と『白鳥の湖』を踊ることがすでに決まっているが、さらにヌレエフ振付『眠れる森の美女』や『ロメオとジュリエット』、クランコ振付『オネーギン』、ノイマイヤー振付『椿姫』といった演技力を求められる作品を踊ることを夢見ているという。
1999年リヨン生まれのブルーエンは4歳でダンスを始めたものの、オペラ座バレエ学校の入学試験に落ちた。パリ高等音楽・ダンス院でクレールマリー・オスタの下で一年学んでからオペラ座バレエ学校に入った。そこでも第一部門で落第している。こうして逆境を乗り越えてきたことで、常に先頭を走り続けたダンサーにはない強靭さが身についたのかもしれない。

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マルチェリーヌ・サンベ
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マリーヌ・ガニオ
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ところで、この作品はリーズの母シモーヌとリーズに求婚している金持ちの若者アランの二人が喜劇の成功に欠かせない。シモーヌ役のフロリアン・ロリユー(20日)と芸達者なユゴー・ヴィオレッティ(31日)、とぼけた表情が憎めないアラン役のアンドレア・サーリ(20日)とオーレリアン・ゲ(31日)がそれぞれ持ち味を出して舞台を盛り上げた。
実際の舞台を見ることはできなかったが、元エトワール、エリザベット・モーランの長女オルタンス・ミエ=モーラン(19歳)が3月25日に一回だけリーズを踊り、初めての主役をきちんとこなして評価された。
末尾になったがリハーサルには登場したポニーが、本番では姿を見せなかったのはちょっと意外な感じがした。
(2024年3月20日、31日 ガルニエ宮)

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アントワーヌ・キルシャー
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ジャック・ガッツトット
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レオノール・ボーラック、シモン・ヴァラストロ
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レオノール・ボーラック
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ギヨーム・ジョップ
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ギヨーム・ジョップ、レオノール・ボーラック
© Benoïte Fanton/ Opéra national de Paris

『リーズの結婚』
演奏 フィリップ・エリス指揮パリ国立オペラ座管弦楽団
『リーズの結婚』(『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』)
2幕バレエ(第1幕 農家の中庭、小麦畑 第2幕 農家の内部)
音楽 ルイ=ジョセフ=フェルディナン・エロール(1828年)
音楽アレンジメント ジョン・ランチベリー(1960年)
振付 フレデリック・アシュトン
装置・衣装 オズバート・ランカスター 
照明  ジャン=ピエール・ガスケ、パスカル・ヌニエーズ
リハーサル指導 クリストファー・カー
(原振付 ジャン・ドーベルヴィル(1789年7月1日 ボルドー グラン・テアトル歌劇場初演 当時の題名は「Le Ballet de la paille, ou Il n'est qu'un pas du mal au bien」 ジャン=ピエール・オーメール振付版として1828年11月17日 パリ王立音楽アカデミーのレパートリー入り)
(フレデリック・アシュトン版は1960年1月28日 ロンドン コヴェント・ガーデン歌劇場初演 2007年6月22日にパリオペラ座バレエ団のレパートリー入り)
配役(3月20日、3月31日)
リーズ:クララ・ムーセイニュ/ブルーエン・バティストーニ
コラ(コーラス):アントニオ・コンフォルティ/マルセリーノ・サンベ
シモーヌ:フロリアン・ロリユー/ユゴー・ヴィオレッティ
アラン:アンドレア・サーリ/オーレリアン・ゲ
トマ(アランの父親):ジャン=バティスト・シャヴィニエ
笛吹き:リュバンス・シモン/ポール・マユラ
雄鶏:オーレリアン・オゲ/ヒューマ・ゴカン
四羽の雌鶏:アンジェリック・ブロス ユーン・リー イロナ・クノ ディアーヌ・サレ/アンジェリック・ブロス ユーン・リー ディアナ・サレ ジューリア・シベラ
公証人:ダメン・アクステンス
リーズの友人たち:アリス・カトネ ニーヌ・セロピアン 他 
コラ(コーラス)の友人たち:ニコラ・ディ・ヴィーコ ミカ・ルヴィーヌ 他
村人たち:桑原沙希 エリザベス・パーティングトン 他 
二人の農民:ジュンス・リー スタニスラス・プリエト

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