スクダモア、ドゥルイ、ストヤノフなどオペラ座期待の若手が観客を沸かせた、パリ・オペラ座『バレエ・インペリアル』『フー・ケアーズ?』公演

ワールドレポート/パリ

三光 洋 Text by Hiroshi Sanko

Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

"Ballet Impérial" , "Who cares ?" George Balanchine
『バレエ・インペリアル』(レパートリー入り)『フー・ケアーズ?』(レパートリー入り)ジョージ・バランシン:振付

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George Balanchine © Tanaquil Le Clercq

ガルニエ宮でジョージ・バランシン(1904・1983)振付の『バレエ・インペリアル』と『フー・ケアーズ?』の二作品がレパートリー入りし、2月8日から3月10日まで上演された。
マリウス・プティパへのオマージュとして作られた『バレエ・インペリアル」は、バランシンが幼少時代から愛したチャイコフスキーの音楽を使い、帝政ロシアの華やぎを懐旧している。1941年にアメリカン・バレエ・キャラバン(後のニューヨーク・シティ・バレエ)の南米ツアーで初演されている。
ミハイル・アグレスト指揮のパリ・オペラ管弦楽団がチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第2番ト長調」を奏で始め、やがて静かに幕が上がると王冠型髪飾りを着けたチュチュの女性ダンサーたちと青の上着の男性ダンサーたちが現れた。『バレエ・インペリアル』にはストーリーはないが、デュオ、トリオ、カドリーユといったさまざまな組み合わせから、ロマノフ朝の宮廷舞踏会が蘇ってきた。
女性第1ソリストの動きはピアノの音を視覚化しているが、アラベスク、ピルエット、デブレが散りばめられている。当初予定されていた中で、アマンディーヌ・アルビッソンは怪我で、ヴァランティーヌ・コラサンテ(後半の『フー・ケアーズ?』には出演)の二人が降板し、リュドミラ・パリエロ、エロイーズ・ブルドンの二人が務めた。しかし、パリエロもシリーズ途中で足を痛め、代わってオニール八菜が加わった。(パリエロの怪我は重傷ではなく、負担の少ない後半の『フー・ケアーズ?』に役を絞っての出演となった)
2月9日、10日と二晩続けてパリエロとブルドンを見たが、やはり技術の安定だけでなく、フランスの中堅エマニュエル・シュトロセールのピアノとよく溶け合って表情のあるパリエロの踊りが印象に残った。男性ソリストはパブロ・ルガサが降板して、ポール・マルク、オードリック・ブザール、マルク・モロー、トマ・ドッキールが踊った。パブロ・ルガサは将来のエトワール候補の一人であるだけに、重要な役での欠場は残念だ。なお女性第2ソリストはシルヴィア・サン・マルタン、オニール八菜、ビアンカ・スクダモアの三人が務めた。
バランシンではソリストの華やかな踊りだけでなく、コール・ド・バレエが幾何学的に揃うアンサンブルも重要だ。それだけに、レパートリー入りでまだ作品に慣れていないためか、あるいは韓国ツアーの『ジゼル』にコール・ド・バレエの有力メンバーが参加して不在だったためか、隊列がもう一つ整っていなかったのが気になった。

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リュドミラ・パリエロ ポール・マルク
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

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オニール八菜
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ロクサーヌ・ストヤノフ、ジェレミー=ルー・ケール
© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

後半は雰囲気がガラリと変わって、ニューヨークを舞台にしたミュージカル調の『フー・ケアーズ?』だった。バランシンは渡米前にすでにロンドンで1928年にミュージカル『ファニー・フェイス』(1927年初演)を見てジョージ・ガーシュインの音楽が気に入っていた。その中の「マイ・ワン・アンド・オンリー」は『フー・ケアーズ?』に取り入れらている。『フー・ケアーズ?』には、1924年から1930年までにガーシュインが作曲した全部で17曲の歌をバックに、24人のダーサーが登場する。男性のソリストは一人だけで、女性が活躍するのが作品だ。ここにはニューヨークに到着した若いバランシンが、すぐに好きになった高いビルディングと陽気な人々から生まれる躍動感に溢れている。ミハエル・アグレストのスウィングを効かせた指揮に乗って、オペラ座のダンサーたちが実に楽しそうに踊っていた。
最初のパ・ド・ドゥ「ザ・マン・アイ・ラヴ」ではマチュー・ガニオにリュドミラ・パリエロが燃えるような視線を投げかけて、女性からの誘いを結晶させていた。一方、「フー・ケアーズ?」では、リラックスしたガニオを相手に、オニール八菜が伸びやかな踊りを見せてくれた。ビアンカ・スクダモア(「ソー・ワンダフル」)、まだコリフェのセリア・ドゥルイ(「ザット・サーティン・フィーリング」)、ロクサーヌ・ストヤノフ(「マイ・ワン・アンド・オンリー」)といったオペラ座期待の若手も持ち味を出して観客を沸かせていた。
このシリーズで3月2日に『バレエ・インペリアル』を踊ったオニール八菜とマルク・モローがエトワールに同時昇進した。また、このバランシン・シリーズが終わった翌日の3月11日には韓国のLGアート・センターで『ジゼル』のアルブレヒトを踊ったスジェのギヨーム・ジョップがエトワールに任命された。三人のエトワール誕生によって、ジョゼ・マルティネス舞踊監督が率いるパリ・オペラ座バレエ団は新たなスタートを切ったことになる。
(2023年2月9日、10日、3月4日 ガルニエ宮)

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ドロテ・ジルベール ジェレミー=ルー・ケール
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レオノール・ボーラック
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オニール 八菜
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マチュー・ガニオ
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オニール 八菜
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エロイーズ・ブルドン マルク・モロー
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© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

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© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

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© Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

『バレエ・インペリアル』(レパートリー入り)
1941年6月25日 リオデジャネイロ市立劇場でアメリカン・バレエ・キャラバンにより初演
振付 ジョージ・バランシン
音楽 チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第2番ト長調作品44」
衣装 ゼビヤー・ロンズ
照明 マーク・スタンレー
ピアノ独奏 エマニュエル・ストロセール
ミハイル・アグレスト指揮 パリ・オペラ管弦楽団
<ダンサー>
(2月9日)エロイーズ・ブルドン オードリック・ブザール オニール 八菜 
アントニオ・コンフォルティ フロラン・メラック カロリーヌ・ロベール ビアンカ・スクダモア 他 
(2月10日)リュドミラ・パリエロ ポール・マルク シルヴィア・サン=マルタン 
フロラン・メラック トマ・ドッキール マリーヌ・ガニオ ポーリーヌ・ヴェルデュセン 他
(3月4日)オニール 八菜 マルク・モロー シルヴィア・サン=マルタン 
フロラン・メラック トマ・ドッキール マリーヌ・ガニオ ポーリーヌ・ヴェルデュセン 他
『フー・ケアーズ?』(レパートリー入り)
1970年2月5日 ニューヨーク州劇場でニューヨーク・シティ・バレエにより初演
振付 ジョージ・バランシン
音楽 ガーシュイン
装置 ポール・ガリス
衣装 ゼビヤー・ロンズ
照明 マーク・スタンレー
<ダンサー>(2月9日 2月10日 3月4日)
「ストライク・アップ・ザ・バンド」コール・ド・バレエ
「スィート・アンド・ローダウン」 コール・ド・バレエ
「サムバディ・ラヴズ・ミー」(2月9日)シルヴィア・サン=マルタン マリーヌ・ガニオ シャルリーヌ・ギーゼンダンナー セリア・ドゥルイ セホー・ユン(2月10日)ロクサーヌ・ストヤノフ ビアンカ・スクダモア セリア・ドゥルイ アンブル・キアルコッソ セホー・ユン(3月4日) シルヴィア・サン=マルタン ビアンカ・スクダモア シャルリーヌ・ギーゼンダンナー ヴィクトワール・アンクティル リリアン・ディ・ピアッツァ
「ビディン・マイ・タイム」アントワーヌ・キルシャー フランチェスコ・ムーラ アントニオ・コンフォルティ トマ・ドッキール グレゴリー・ドミニアック
「ソー・ワンダフル」 (2月9日)マリーヌ・ガニオ アントワーヌ・キルシャー (2月10日)ビアンカ・スクダモア アントワーヌ・キルシャー(3月4日)ビアンカ・スクダモア アントワーヌ・キルシャー
「ザット・サーティン・フィーリング」(2月9日)シルヴィア・サン=マルタン フランチェスコ・ムーラ セリア・ドゥルイ アントニオ・コンフォルティ (2月10日)アンブル・キアラッソ フランチェスコ・ムーラ セリア・ドゥルイ アントニオ・コンフォルティ(3月4日)シルヴィア・サン=マルタン フランチェスコ・ムーラ リリアン・ディ・ピアッツァ アントニオ・コンフォルティ 
「ド・ド・ド」(2月9日)シャルリーヌ・ギーゼンダンナー グレゴリー・ドミニアック (2月10日)ロクサーヌ・ストヤノフ グレゴリー・ドミニアック (3月4日)シャルリーヌ・ギーゼンダンナー グレゴリー・ドミニアック
「レイディ・ビー・グッド」(2月9日 10日)セホー・ユン トマ・ドッキール (3月4日)ヴィクトワール・アンクティル トマ・ドッキール
「ザ・マン・アイ・ラヴ」(2月9日)ドロテ・ジルベール ジェレミー=ルー・ケール (2月10日)レオノール・ボーラック ジェルマン・ルーヴェ(3月4日)リュドミラ・パリエロ マチュー・ガニオ
「アイル・ビルド・ア・スターウェイ・ツー・パラダイス」(2月9日)ビアンカ・スクダモア (2月10日)オニール 八菜(3月4日)オニール 八菜
「エンブラシアブル・ユー」(2月9日)ロクサーヌ・ストヤノフ ジェレミー=ルー・ケール (2月10日)ヴァランティーヌ・コラサンテ ジェルマン・ルーヴェ (3月4日)ローラ・エケ マチュー・ガニオ
「ファシネイティン・リズム」(2月9日)ドロテ・ジルベール (2月10日)レオノール・ボーラック (3月4日)リュドミラ・パリエロ
「フー・ケアーズ?」(2月9日)ビアンカ・スクダモア ジェレミー=ルー・ケール (2月10日)オニール 八菜 ジェルマン・ルーヴェ (3月4日)オニール 八菜 マチュー・ガニオ
「マイ・ワン・アンド・オンリー」(2月9日)ロクサーヌ・ストヤノフ(2月10日)ヴァランティーヌ・コラサンテ (3月4日)ローラ・エケ
「リザ」(2月9日)ジェレミー=ルー・ケール (2月10日)ジェルマン・ルーヴェ (3月4日)マチュー・ガニオ
「アイ・ゴット・リズム」 全員

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