ジェルマン・ルーヴェの思い入れが伝わる『コンタクトホーフ』、マルティネスの舞踊監督着任についての言葉

ワールドレポート/パリ

三光 洋 Text by Hiroshi Sanko

Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

『Kontakthof』Pina Bausch & Prise de fonction de José Martinez comme Directeur du Ballet de l'Opéra national de Paris
『コンタクトホーフ』ピナ・バウシュ:振付 & ジョゼ・マルチネスのパリ・オペラ座バレエ舞踊監督着任

ガルニエ宮ではケネス・マクミラン振付の『マイヤリング』に続いて、ピナ・バウシュ振付の『コンタクトホーフ』が12月2日から31日まで上演されている。
ピナ・バウシュ(1940・2009)の作品はすでに1997年に『春の祭典』(1976年世界初演)と2005年に『オルフェとユーリディス』(1975年世界初演)の二演目がオペラ座バレエ団のレパートリーに入っており、『コンタクトホーフ』(1978年世界初演)は三つ目の作品となった。

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© Julien Behnamou/ Opéra national de Paris

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© Julien Behnamou/ Opéra national de Paris

『コンタクトホーフ』はドイツ語で「舞踏場」と「刑務所の遊歩場(中庭)」の二つの意味がある。ピナ・バウシュは男性13名と女性13名が参加する作品を作るに当たって、二重の意味を念頭に置いていたと思われる。
冒頭、椅子に座っていたダンサーが一人づつ立ち上がって前方に進んで動作で自己紹介する。額、歯、手、足と体の一部を突き出していく。これはピナ・バウシュがアメリカのバレエ団のオーディションを受けた時の経験が元になっている。
やがて男女が着飾って踊ったり、ゆっくりと輪を描いて歩いたり、駆け足で舞台を右袖から左袖へと駆け抜けたりする。
男女が相手を求めたり、椅子の背を前にして座った男性たちが右袖に手前から奥までずらりと並んだ相手に向かって進んで行ったり、接触を求めているのかと思っているうちに、暴力が振るわれ、身体が床に崩れ落ちる。いつの間にか場面が舞踏場から刑務所の遊歩場に移っていたのだ。

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© Julien Behnamou/ Opéra national de Paris

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© Julien Behnamou/ Opéra national de Paris

「危機に瀕している生息地」(「Lebensraum in Gefahr」)と題された水鳥たちの映像をダンサーたちが眺める場面、ジェルマン・ルーヴェがピアノを弾いて人々が踊る場面、彼がカメラマンに扮してカップルの記念写真をポロライドカメラで撮影する場面(この写真はその後でジェルマンが客席に降りて、何人かの観客に手渡した)、偶然見つかったネズミの死骸を男性が女性に投げつけてみんなを脅かす場面、プロのダンサーになったつもりの二人の女性がピンク色の衣装で踊る場面、女性が一人、他の人々から離れて客席の一列目の観客に小銭をもらって、舞台左袖に置かれた遊園地の揺り木馬に乗る場面、といった多様なシーンが重ねられていく。
ダンスと日常のさまざまな動作とが組み合わさり、2時間20分の舞台を通じて26人のグループ像が浮かび上がってくるとともに、人間の持つ残酷さ、二人でいても去ることのない孤独も身体と視線の交錯を通じて描き出されていった。
ダンサーたちは揃って、初演から40年以上が経過しても、身体表現によって人間性を探求したピナ・バウシュの世界に全力で取り組んでいた。中でもジェルマン・ルーヴェはスラリとした長身と気品のある所作で「ハイラルキーのない作品」にあっても、際立った存在感を示していた。この舞台のために、初めてピアノを習った。オペラ座ダンス学校生だった16歳の年に初めて『春の祭典』を見て以来、テアトル・ド・ラ・ヴィルでのピナ・バウシュ公演はすべて見てきた思い入れが自然に伝わってきていた。
12月31日の最終公演で引退するエヴ・グランツタインも、気品のある立ち振る舞いで華やかな姿の中に底の知れない孤独をにじませていた。

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© Julien Behnamou/ Opéra national de Paris

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© Julien Behnamou/ Opéra national de Paris

『コンタクトホーフ』の第4回公演があった12月5日にジョゼ・マルティネスがパリ・オペラ座バレエ団の新舞踊監督に着任した。エストニアの首都タリンで『海賊』の振付作業を終え、いよいよ監督としての仕事に専念することになる。マルティネスは「フィガロ紙」のアリアーヌ・バヴリエ記者へのインタヴューでオペラ座の現状と今後の展望について率直に語っている。

「年末公演の『白鳥の湖』に男性エトワールが一人しか参加しないという難しい状況にあります。(ユゴー・マルシャンとマチュー・ガニオは)リフトの多いルドルフ役を全力で踊り、身体面だけでなく、精神的に大きな負担がかかって消耗しました。そのためにジークフリートを踊れる状態ではなくなってしまったのです。特にヌレエフの振付は他の振付家による『白鳥の湖』とは違って、役の最終日を無事終えたら、翌日からは休養に入る必要があります。

【フランソワ・アリュのエトワール辞退については】
インスタグラムで有名になることと、エトワールとしての底深い作業とは別です。アリュは以前からオペラ座と並行して行った作業を通じて芸術面で成長してきていて、通常のエトワール像とうまく重なりません。彼は演劇と映画をやりたいようですが、私は彼がその分野で成功することを望んでいます。私個人としてはダンサーは一人でではなく、カンパニーと一緒に踊って名ダンサーになると思っています。私は彼が具体的にオペラ座で何をしたいのかを知りたいのです。単発で役を踊るのか、振付をするのか、それ以外のプロジェクトをやりたいのか、ということです。オペラ座の観客は彼をまた舞台で見たいと思っています。彼は芸術面で才能があり、驚くべき身体を持っています。

【ダンサーが広告に出たり、モデルになったり、本を出版している現状については】
今、オペラ座バレエ団がより開かれたものになり、あらゆる人々の手に届くようになるべきだ、という社会的な要請があります。エトワールが人々に知られ、夢を見させる存在であることは重要です。同時にエトワールはバレエ団を代表していることを忘れてはなりません。レオノール・ボーラックはコロナのロック・ダウンの間に南アの少女たちにレッスンをし、他のエトワールたちはネッカー病院(パリの小児科の大病院)で踊りました。こうしたプロジェクトの背中を押してあげることは大事です。

【昇級試験については】
改革すべきかどうか検討する必要があります。二ヶ月の間、スジェのダンサーが1分間のヴァリエーションを二曲練習しながら、夜は公演に参加している現状は適切でしょうか。スジェになったら、試験でのヴァリエーションではなく、年間の公演実績で評価できます。反面、カドリーユとコリフェにとって昇給試験はソロダンサーとして舞台に上がる機会になっています。

マルティネスはラジオ放送局「フランス・ミュージック」にも出演し、ネオ・クラシックの新作への意欲を示し、クラシック作品の強化を目指すとともに、コンテンポラリーではウィリアム・フォーサイスに新作を依頼していること、またこれまでオペラ座に来ていない振付家を招聘することを明らかにした。
来年春の23 - 24年シーズンのプログラムの発表が待ち遠しい。
(2022年12月5日 ガルニエ宮)

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© Julien Behnamou/ Opéra national de Paris

『コンタクトホーフ』(レパートリー入り)
1978年12月9日 ヴッパタール・オペラハウス初演
振付・演出:ピナ・バウシュ
装置・衣装:ロルフ・ボルツィック
振付再現:ジョー・アン・エンディコット
リハーサル指導:ジュリー・シャナハン、ブレアンナ・オマラ、フランコ・シュミット、アンヌ・マーティン
役柄の伝達:オードレー・ブレザン、ナザレト・パナデロ
音楽は録音を使用
音響アドヴァイザー:カルステン・フィッシャー
照明アドヴァイザー:ロジェー・イルマン

ダンサー(12月5日)
エヴ・グランツタイン、ルティツィア・ガローニ、クレマンス・グロス、カロリーヌ・オズモン、イダ・ヴィイキンコスキー、ヴィクトワール・アンクティル、ジュリエット・イレール、ニーヌ・セロピアン、アデル・べレム、カミーユ・ド・ベルフォン、リュシー・ドヴィーニュ、アワ・ジョワネ、アメリー・ジョワニデス
ジェルマン・ルーヴェ、アレクサンドル・ガス、アクセル・イボ、フロリモン・ロリユー、ファヴィアン・レヴィヨン、ダニエル・ストークス、イヴォン・ドゥモル、マクシム・トマ、アレクサンドル・ボカラ、サミュエル・ブレ、ジュリアン・ギユマール、ルー・マルコー=ドゥルアール、アントナン・モニエ

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