パリ・オペラ座バレエ団の昇級コンクールが開催され、プルミエ、スジェ、コリフェへの昇級者が決まった

ワールドレポート/パリ

大村 真理子(在パリ・フリーエディター) Text by Mariko OMURA

パリ・オペラ座バレエ団コール・ド・バレエの昇級コンクールが11月4日(男性ダンサー)と5日(女性ダンサー)に開催された。男女とも苗字のアルファベットが L からのスタート。男女共プルミエの1席、スジェの2席、コリフェの2席を目指してのコンクールで、以下が課題曲と各クラスの昇級者である。

<男性の部>
◎カドリーユの課題曲 フレデリック・アシュトン『リーズの結婚』第2幕より コーラスのヴァリエーション
コリフェ への昇級者 2名
1.Aurélien Gay(オーレリアン・ゲイ/ 自由曲 マニュエル・ルグリ『ドニゼッティ』)
2.Alexandre Boccara (アレクサンドル・ボカラ/ 自由曲 モーリス・ベジャール『アレポ』)

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Aurélien Gay
© Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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Alexandre Boccara
© Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

カドリーユは25名団員中、今年の入団者、そして年長者やコンテンポラリー・ダンスに主に配役されているダンサーたちを除く15名が参加。今回ヌレエフの超クラシック作品というのではなかったせいかもしれないが、参加者のほぼ全員が良い課題曲を見せてくれた。また自由曲では各人それぞれに持ち味があることを証明した。なかなか層の厚いクラスである。コリフェの空席が2つというのは残念だったが、この調子で育っていって欲しい。
一位で昇級したオーレリアン・ゲイは2018年に入団し、クラシック作品のコール・ド・バレエに主に配されているダンサーだ。自由曲の『ドニゼッティ』ではきれいなトゥール・アン・レールが舞台空間を満たし、実に楽しそうに軽快に踊る姿が印象的だった。課題曲では個性の発揮とまではいかなかったものの、高いソー、美しいバッテリー、安定感を生かした快適なダンスを見せた。入団4年目、良いタイミングでの昇級といっていいだろう。
アレクサンドル・ボカラも2018年の入団である。コンテンポラリー作品でコール・ド・バレエの中でも頭角を現している彼。シーズン開幕作品であるアラン・ルシアン・オイエンの『Cri de coeur』では主人公の弟役で演劇性、強い個性を発揮した。課題曲を力強く踊る中にキャラクターと存在感がみえかくれし、また課題曲『アレボ』はコンクールというより本公演なみの完成度の高いパフォーマンスだった。
昇級は叶わなかったが、課題曲でも自由曲でも正確さ、美しさという点で際立っていたのがナタン・ブリソンだ。自由曲の『マルコ・スパダ』のヴァリエーションは美しい出だし、そしてメリハリのあるダンス。さらにパフォーマンス後に舞台を去る時の端正な歩きぶりはまるでデフィレを見ているかのようだった。オペラ座の未来を安心させるダンサーの彼もまた2018年の入団である。彼より一年早く入団したミロ・アヴェックは学校公演の『ライモンダ』では主役を踊っているが、入団後コール・ド・バレエにおいても活躍が目立っていなかった。このコンクールではとりわけ課題曲で前回のコンクールに比べてテクニック、そしてダンスにこめた思いで大きな成長を感じさせた。存在感もついてきたようだ。2019年入団のマリウス・ルビオは課題曲では滑らかさ、しなやかさという点で注目に値したのだが、自由曲の『白鳥の湖』のスロー・ヴァリエーションは意欲的すぎる選択だったかもしれない。一方、自由曲に素晴らしい選択をしたのはマニュエル・ガリドだろう。正式入団は2022年だが、2017年から契約団員として舞台に立っているダンサーである。彼はジャン=ギヨーム・バールの『ラ・スルス(泉)』を自由曲に踊り、オペラ座にこんな素晴らしいダンサーがいたのか!と大勢に驚きをもたらした。つま先の仕事の美しさは特筆もので、彼のためにこの作品が再演されるのを願いたくなる。

◎コリフェの課題曲 ピエール・ラコット『マルコ・スパダ』第2幕より マルコ・スパダのヴァリエーション
スジェへの昇級者2名
1.Guillaume Drop (ギヨーム・ディオップ/自由曲 ルドルフ・ヌレエフ『白鳥の湖』第3幕より 王子のヴァリエーション
2. Antonio Conforti(アントニオ・コンフォルティ/自由曲 ハロルド・ランダー『エチュード』よりマズルカ)

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Guillaume Drop
© Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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Antonio Conforti
© Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

スジェ2席を目指して、コンクールに参加したコリフェは16名中の10名。1位で昇級したのはギヨーム・ディオップは課題曲では余裕たっぷりのパフォーマンスが印象的だった。発達した大腿四頭筋を活用し、難易度の高い技術も簡単にこなす姿は実に頼もしい。彼が自由曲に選んだのは『白鳥の湖』第3幕から王子のヴァリエーション。エレガンス、落ち着き、存在感あふれる踊りで光り輝いていた。2018年に入団した彼はカドリーユ時代に怪我で降板したジェルマン・ルーヴェに代わって『ロメオとジュリエット』で主役を踊ったことで、オペラ座バレエ団のファンの間では一躍話題の主に。そして次のシーズンは『白鳥の湖』の主役を踊り、コリフェの中で最も舞台慣れしているといえる。高い身体能力を備え、ジェルマン・ルーヴェの優雅さとユーゴ・マルシャンの力強さを併せ持つ彼。女性ダンサーのサポートもしっかりしている。この年末の『白鳥の湖』でも彼が再び王子を踊る機会があるかどうか・・・気になるところだ。
2位で上がったのはアントニオ・コンフォルティである。2012年に入団して以来、コンクール運がないのかコール・ド・バレエの中では比較的配役に恵まれていたものの、ここまで来るのにいささか時間を要し、今回の昇級には、ああ、やっと!という感がある。課題曲は1つ1つの動きに余裕が感じられ、流れるように最後まで安定したパフォーマンスだった。自由曲のランダー『エチュード』からのマズルカはエレガンスだけでなく力強さもあり、今回の昇級をバネに次のコンクールでプルミエにあがれるような配役に恵まれるといいのだが。
ミカエル・ラフォン、シュン・ウィン・ラム、イザック・ロペス=ゴメズ、ユーゴ・ヴィリオッティ、マチュー・コンタ、レオ・ドゥ・ブースロル、イヴォン・ドゥモウル、ニコラ・ディ・ヴィーコの8名も課題曲はコリフェらしい出来を見せ、自由曲ではソロをステージ上で披露する機会を楽しんでいる様子だった。その中でひときわ輝きを見せたのはシュン・ウィン・ラム。自由曲はジェローム・ロビンズの『Dances at a Gathering』からブラウン・ボーイの第二ヴァリエーションで、彼は小柄な身体をうまく利用して、きびきびした動きに優雅さのある回転、ソーを見せた。もしスジェへの空席が3つだったら!と思わずにはいられない出来だった。

◎スジェの課題曲 ルドルフ・ヌレエフ『くるみ割り人形』第2幕より 王子のヴァリエーション
プルミエ・ダンスールへの昇級者1名
Antoine Kirscher (アントワーヌ・キルシェール/ 自由曲 ジェローム・ロビンズ『other dances』より第二のヴァリエーション)

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Antoine Kirscher
© Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

プルミエール・ダンスール1席を目指し、コンクールに参加したスジェは18名のうちたった5名だった。アクセル・イボ、フロリモン・ロリユー、ヤニック・ビタンクールといった経験豊かなダンサーたちの不在に加え、スジェの中でもすでにソリストの配役を得ていてプルミエ・ダンスールに誰よりも近づいている印象のあるトマ・ドキールとフロラン・メラックが怪我で不参加。
人数的にいささか寂しく、また5名全員のパフォーマンスは過去のスジェのコンクールに比べると、レヴェルの点で少し失望させるコンクールだった。参加した5名中、アンドレア・サーリ、ニコラウス、ジャック・ガズゥォット、アクセル・マリアーノの4名はガルニエ宮の公演『マイヤリング』のステージで良い配役を得て毎晩遅くまでステージがある。そうした状況でコンクールの稽古時間を捻出し、準備をするのはさぞ大変だったことだろう。課題曲は通常のヴァージョンより出だしが複雑で誰もがあちこちで綻びを呈し、課題曲でも個性を発揮できずじまいだった。昇級したアントワーヌ・キルシェールは課題曲では軽やかさが際立ち、自由曲に選んだロビンスの『Other Dances』セカンド・ヴァリエーションにはポエジー、繊細さといったも彼の持ち味がこめられた良い出来栄えだったといえる。オペラ座ではクラシックとコンテンポラリーの両方に配役されている彼。今後の活躍に楽しみにしよう。

<女性の部>
◎カドリーユの課題曲 ピエール・ラコット『パキータ』第1幕より パ・ド・トロワの第一ヴァリエーション
コリフェ への昇級者 2名
1. Luna Peigné(ルナ・ペニェ/自由曲 ルドルフ・ヌレエフ『ライモンダ』第二幕からライモンダのヴァリエーション)
2.Hortense Millet-Morin (オルタンス・ミエ=モーラン/自由曲 セルジュ・リファール『Variations』の第一ヴァリエーション)

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Luna Peigné
© Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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Hortense Millet-Morin
© Chris Dève/ Opéra national de Paris

18名のカドリーユが2席を争ったコリフェへのコンクール。女性カドリーユはトップバッターはオルタンス・ミエ=モーランだった。聞き覚えのない名前ながら、課題曲をきれいな出だしに続き、一瞬危うい箇所があったものの、正確なポワント・ワークをみせて流れるようにエレガントに踊ったのには驚かされた。舞台慣れしているのか、ストレスもまったく感じさせない。この課題曲は新人にもそんなに踊り易いものなのか?と疑いたくなるほどの出来だった。その二人後がルナ・ペニェ。彼女もまた気持ち良さそうに滑らかなパフォーマンスで、少々ミエ・モーランに差をつけたようだ。結果、1位でルナ・ペニェ、2位でオルタンス・ミエ=モーラが昇級を決めた。自由曲についてルナは果敢にもヌレエフ作品を選び、素晴らしいテクニシャンであることを証明。オルタンスの自由曲はリファール作品で特にストーリーはないヴァリエーションなのだが、ドラマを感じさせる味付けが見事だった。今回プルミエール・ダンスーズに上がったブルーエン・バティストーニと似た仕事をするダンサーのようでフォローに価する。
昇級はしなかったがアポリーヌ・アンクティルの課題曲は、姉のヴィクトワール・アンクティルがコリフェにあがった時同様にポワントの美しさと腕のしなやかな広がりが魅力だった。またルーシー・ドゥヴィーニュは自由曲にロビンスの『Fous Seasons』から春のヴァリエーションを選び、フレッシュで喜びにあふれる印象に残るパフォーマンスを披露した。

◎コリフェの課題曲 ルドルフ・ヌレエフ『ライモンダ』第2幕より アンリエットのヴァリエーション
スジェへの昇級者 2名
1.Clara Mousseinge
(クララ・ムセーニュ/自由曲 セルジュ・リファール『Suite en Blanc 』からシガレットのヴァリエーション)
2.Hohyun Kang(ホーユン・カング/自由曲 ジョン・ノイマイヤー『くるみ割り人形』第二幕よりルイーズのヴァリエーション)

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Clara Mousseinge
© Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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Hohyun Kang
© Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

1位で上がったクララ・ムセーニュは課題曲では日頃舞台でみせる溢れるエネルギーを落ち着きに変えて、エモーションをこめたヴァリエーションを披露。自由曲の選択もよく、最後までコントロールされた見事なパフォーマンスだった。スジェに上がり、テクニックが要求される作品にドゥミ・ソリストとして重用されてゆくことだろう。
2位のホーユン・カングは『マイヤリング』でポール・マルクをパートナーに主役マリー・ヴェッツェラという大役を踊りながらコンクールを準備したとは思えないほどの立派な出来だった。課題曲ではしっかりした軸足を利かせてゆるやかに、中盤では舞台空間の中で遊ぶようにのびのびと・・・クラシック作品で素晴らしい活躍を見せて欲しいと思わせる、詩情と気品にあふれ実に美しいダンサーである。彼女の自由曲はノイマイヤーの『くるみ割り人形』からルイーズのヴァリエーションという珍しい選択だ。音楽性豊かに優美なポール・ド・ブラと脚さばきでしなやかに踊った。彼女はエトワールのセウン・パク、カドリーユのセーホー・ユンに次いで2018年に入団した韓国人ダンサーで、2019年のコンクールでコリフェに昇級した。
空席に限りがあるとはいえ、個性と成熟を感じさせるパフォーマンスを見せたセリア・ドゥルーイとニンヌ・セロピオンが上がれなかったのはとても残念だ。

◎スジェの課題曲 ハロルド・ランダー『エチュード』より エトワールのヴァリエーション
プルミエール・ダンスーズへの昇級者 1名
Bleuenn Battistoni
(ブルーエン・バティストーニ/ 自由曲 ロゼラ・ハイタワー『眠れる森の美女』第二幕よりヴィジョンのヴァリエーション)

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Bleuenn Battistoni
© Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

20名のスジェから8名がコンクールに参加した。30代半ば以降のダンサー、コンテンポラリー系のダンサーたちが不参加というのは男性スジェと同様だが、レヴェルについていえばこちらは層の厚さを感じさせた。その中で、プルミエール・ダンスーズへの昇格を決めたのはブルーエン・バティストーニだ。『マイヤリング』ではミッツィー・カスパールに配役され、ダンスの見事さおよび役者ぶりを発揮。前シーズン、アデュー公演『ジゼル』の第2幕中に膝をいためて退場したアリス・ルナヴァンに代わって、何事もなかったかのようにジゼルとしてアルブレヒト役のマチュー・ガニオを相手に公演を続行したのが彼女である。観客の中にはこの入れ替わりに気づかなかった人も少なくないほど、急遽の代役を見事に果たした功績の持ち主だ。課題曲では初めから終わりまで確かな技術を優雅さで包み、スピード感、力強さを感じさせながら滑らかに踊った。自由曲ではテクニック面の素晴らしさはもちろん、詩情、そしてプリンセスらしい格調をこめたダンスが魅力的だった。彼女は2017年に入団し、2021年にコリフェ、2022年にスジェに昇級。カルポー・ダンス賞、AROPダンス賞を授与されている。
2〜3シーズンか前からコンクールのたびに昇級を期待されているビアンカ・スクダモアは、課題曲では愛らしい''ビアンカ・スマイル''をみせ、ステージ上に明るさをもたらすパフォーマンスだった。自由曲はジョージ・バランシンの『シルヴィア・パ・ド・ドゥ』からピッティカットのヴァリエーション。こちらも良かったのだが、ブルーエンという強敵には敵わなかったようだ。次のコンクールにプルミエール・ダンスーズの空席があることを彼女のために期待したい。

審査員はアレクサンダー・ネーフ(総監督)、サブリナ・マレム(メートル・ドゥ・バレエ)、リヨネル・ドラノエ(メートル・ドゥ・バレエ)、マリオン・モタン(振付け家)、アザリ・プリセツキ(ダンサー、教師)。そして団員からの審査員は抽選によりユーゴ・マルシャン、アルチュス・ラヴォー、アレクサンドル・ガス、グレゴリー・ドミニアック、キャロリーヌ・オスモン。芸術監督に決定したジョゼ・マルティネーズは12月5日からの就任のため、芸術監督が不在のままのコンクールとなった。

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