オニール八菜に聞く「パリ・オペラ座バレエの今シーズン後半を振り返って」
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ワールドレポート/パリ
三光 洋 Text by Hiroshi Sanko
革命記念日7月15日の午後、バスチーユ・オペラ『真夏の夜の夢』のハーミア役でシーズンを終えるオニール八菜さんに今シーズンを振り返っていただき、来シーズンへの期待も話していただいた。
© 三光洋
――今回、ミルタを踊られた『ジゼル』のリハーサルはいかがでしたか。
八菜 ミルタのリハーサルはオペラ座ではサブリナ・マレム、それといつも通りフロランス・クレールと練習しました。技術的には今までと違うところはないけれど、サブリナはいつもサポーティブで、優しく教えてくれるので、助かりました。ミルタはたくさんやりました。前からやろうとしていたことがもっとできてきたような感じがしました。キャラクターを出すという点でも性格でも、全体的にミルタのイメージを深く表現しようと試せたのではないかと思います。大人になったからでしょうか。
――とても落ち着いて踊られて、女王らしい威厳や風格が出たのではないでしょうか。
八菜 そうですか。ジゼル役のアリス(相手はマチュー・ガニオ)、ミリアム(ジェルマン・ルーヴェ)、パク(ポール・マルク)、ドロテ(ユゴー・マルシャン)の四人とミルタを踊りましたが、三人とも全然違いますね。ジゼルとは(舞台の上で)会う機会はあまりないんです。アルブレヒトも四人それぞれがとっても違います。やっぱりユーゴはよく知っているので、一緒に舞台に立てるというのは嬉しいし、ポールは初めて踊ったので雰囲気が違っていました。でも私にとって一番素敵なアルブレヒトはマチューでしたね。
――次回のシリーズではぜひジゼルを踊っていただきたいです。
八菜 そうですね。今回はやっぱり、前よりも毎回音楽を聴いている時とか、横で立っている時に、「ジゼルがやりたい」という気持ちがもうすごく出てきました。
「ジゼル」ミルタ © Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
――そうでしょうね。アリスが怪我した日はミルタ役で舞台におられましたね。
八菜 アリスは残念ながら膝を痛めてしまったんです。袖にいた人たちがざわざわしていましたね。
――一人残されたマチュー・ガニオがしばらく戸惑った感じでしたね。
八菜 マチューも当然そうなるでしょうね。アリスの怪我に観客が気づかない、ということはないと思います。私は舞台に立っていて、頭のむいている方向がジゼルの踊っている場所と反対なので、ジゼルは見えていませんでしたが、なんとなくわかりました。怪我をした瞬間は見ていません。「あれ、本当ならこっち来るはずなのに、こちらに来ない。変だな、これで続けてしまっていいのかな」というような感じだったんです。幕が絶対降りると思っていたら、そのまま続いたので・・・。
――若いアメリカ人の指揮者が何となくうまくまとめて、舞台をつなぎましたよね。
八菜 そうですね。リハーサルも本番もブルーエン(急遽代役で踊った)のことはほとんど見ていません。
――いきなり舞台に出たのに良くやった、と拍手が沸きました。本番の舞台上の怪我はめったにない、と言ってもこうなることもありますから。
アリスは舞台の上で怪我したことはアデューの日まで一度もなかったそうですね。
八菜 そうですね。
「ジゼル」ミルタ © Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris
――アリスはマリー・アニエス・ジロの後継者としてエトワールに任命されたそうですが、コンテンポラリー中心に踊ってきて、エトワールになってからもう一度もともとのクラシックも踊ろうとしたようですね。両方踊るのは大変ですね。
カーテンコールでもしばらくアリスは出てこられなくて、観客も当惑していましたね。アデュー公演は来シーズンになりました。
八菜 来シーズンは結構いろいろな演目がありますし、やり直しのアデュー公演はアリスのためのソワレになるかもしれないし、今の時点では全然わからないです。でも「もうちょっとアリスがいられる、嬉しいな」とみんなが言っていました。どれくらいの怪我なのかもまだわからないし。あまりひどくない怪我だといいのですが。来シーズン、無事にアデューができるといいですね。
――アリスのリハーサルはオーレリーが付けていたんですか。
八菜 ちょこっとコーチしていました。もともとはモニク・ルディエールに習っていたんですが、でもいつものことではありますが、オペラ座から声がかかるのが遅くて、ルディエールは他の仕事をとってしまっていたんです。ずっと来ることは出来なくて、最初に少しやってから空いた時間があったので、その時にオーレリーがコーチしていました。私はルディエールからは習っていません。
――それにしても、6月から7月はマッツ・エクから始まってハード・スケジュールでしたね。
八菜 本当に大変でした!
――これだけ出番の多いソリストは他にいなかったのではないでしょうか。
八菜 そうですね。これだけ踊れるというのはうれしいですね。
――『真夏の夜の夢』はタイターニアとハーミアの二役でした。
八菜 ハーミアは今回初めて踊りました。タイターニアとはキャラクターが全く違います。でも、結局は舞台に立っていて結構楽しかったです。シェークスピアの芝居でもハーミアとエレナというのは対照的な女性です。
「真夏の夜の夢」タイターニア © Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
――いつもは可愛いハーミアがライサンダーとディミトリウスの両方からモテているのに、バックが人違いをしてしまってエレナと立場が逆転しますね。指導はどなたから受けましたか。
八菜 コーチはサンドラ・ジェニングズというバランシン・トラストの方でした。それ以外はベアトリス・マルテルとイレク・ムハメドフでした。
――タイターニアはもう仕上がっていたのではないですか。
八菜 まあまあ仕上がっていました。
――今回新たに工夫したことがありましたか。
八菜 この前に踊った時から自分の踊りもかなり進化していたので、踊り方が結構違う感じがします。踊っていて楽しかったです。踊りながら工夫ができました。
――今回のタイターニアはダブル・キャストでもう一人のタイターニアはリュドミラ・パリエロでしたね。
八菜 はい。前回(2017年3月)はエレオノーラ・アバニャートとマリオン・バルボーでした。
――アバニャートのタイターニアも個性的でしたね。
八菜 ええ、そうでしたね。
――エレオノーラの方が八菜さんより小さいですけれど、ともかく官能的な雰囲気で、八菜さんの清潔な感じとは違いますね。
八菜 ははは(笑)。ダンサーは一人一人違いますよね。
――エレオノーラはイタリアでもシチリアの出身ですから、濃厚な女性を感じますね。
八菜 ヘレナはローラ・エケ、ディミトリウスがオードリック・ブザールでした。
――ハーミアはどんな女性だと思われますか。
八菜 ともかくライサンダーが大好きで、フラれてしまう。若い、人生を楽しんでいる女の子でしょうか。
――相手役としてパブロ・ルガサさんはいかがでした。
八菜 楽しかったですよ。私にはちょっと背が低いですが、この役なら難しいパ・ド・ドゥもないから問題ありません。今回はむしろお芝居を楽しむという感じでした。バランシンは最近は踊っていなくて久しぶりです。バランシンは好きですね、踊っていて楽しいです。
――様式美というか、見ていて綺麗な振付ですね。ダンサーの身体を生かしてきれいに見えるように作られていますね。
八菜 ええ。
「真夏の夜の夢」タイターニア © Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
――7月17日からはロサンジェルスですか。
八菜 はい。7月21日と22日にハリウッド・ボールというところでソロとパ・ド・ドゥのガラ公演のツアーがあります。私はウイリアム・フォーサイスの「 The vertiginous thrill of exactitude」(精密の不安定なスリル)を踊ります。それから日本に行って8月13日と14日にジェルマン(・ルーヴェ)と『白鳥の湖』です。(東京シティ・バレエ団、新国立劇場オペラパレス)
――やはり、新しい舞踊監督次第ですね。来シーズンは10月末からの『マイヤリング』にヒロインのマリー・ヴェッツェラ男爵令嬢と皇太子ルドルフの元愛人マリー・ラリッシュ伯爵夫人という二つの役で出演しますね。
八菜 はい。マクミランの振付を踊るのは初めてなので楽しみです。こういうバレエを踊るのは『白鳥の湖』とは全然違うし、楽しみです。相手が誰になるのかはまだわかりません。ルドルフ役の男性たちは結構難しいのですごく大変らしいですね。ルドルフ役はマチュー、ユーゴです。フランソワも出るはずなんですけれど、まだそこはちょっとわからなくて。あと、ステファン・ビュリオンも戻ってきます。
――八菜さんが「踊りたかったのに機会がなかった」と前に言っておられたステファンとの共演が実現するかもしれませんね。
八菜 どうなるでしょうかね。マチアス(・エイマン)は来シーズンに戻ってきますが、いつになるかはまだわかりません。『白鳥の湖』の後になるかもしれませんね。怪我ではないのですが・・・。
――繊細な感じのダンサーですからね。ところでオーレリーが始めたガラ公演が来シーズンのプログラムには載っていませんね。
八菜 実際にはあるのですが、これまでのようにシーズンの一番最初ではなくて、パトリック・デュポンへのオマージュ公演と同じ時期にやるそうです。年間プログラムには載っていません。
――オーレリーの辞任をどう受け止めておられますか。
八菜 また、こうガラッと変わるというのは楽しみですが、その次が誰になるか全くわからないので、ちょっと不安もあります。どうなるのでしょうね。
――六年間務めたオーレリーの舞踊監督、ダンサーとしてはどう評価しますか。最初はエックマンを前面に出したりしましたが、最後にはマッツ・エック、バランシン、『ジゼル』というバランスの取れたプログラムになったと思うのですが。
八菜 この六年間プログラムはすごく良かったと思います。たくさん新しい振付家も来てくれたし、そういう意味ではすごく良かったのですけれど。でも、六年間監督がいないままでやって来たという感じはします。最後はほとんどいませんでした。バンジャマン(・ミルピエ)さんはもっと(現場に)いました。
――もうあと数日で夏休みに入ってしまいますが、後継者の発表がいつになるかは全くわからないですね。
八菜 よくわからないです。振付家のアンジュラン・プレルジョカージュは選考委員の一人なので舞踊監督に選ばれることはありません。サシャ・ヴァルツの可能性もないと思います。誰になるかは本当にわかりません。私自身のことでは心配していませんが、バレエ団としては誰になるのか不安があります。本当にどうなるでしょうか。
――ステファン・ビュリオンに続いて、アリス・ルナヴァン、エミリー・コゼットと来シーズンもエトワールの引退があり、世代交代の時期に入った感じがしますが。新しいエトワールが誕生するでしょうか。
八菜 『マイヤリング』でのエトワール任命はあり得ます。アマンディーヌ・アルビッソン、イザベル・シャラヴォラ、マチアス・エイマンも『オネーギン』でエトワールになっていますから。
――来シーズンについてはどんなお気持ちですか。
八菜 主役をたくさん踊れるのことを祈っています。
――八菜さんのいっそうのご活躍を期待しています。今日は貴重な時間を割いていただき、ありがとうございました。
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