オペラ座ダンサー・インタビュー:ルー・マルコー=ドゥルアール

ワールドレポート/パリ

大村 真理子(在パリ・フリーエディター) Text by Mariko OMURA

Loup Marcault-Derouard ルー・マルコー=ドゥルアール(カドリーユ)

3月15日の初演から4月3日まで13公演が行われたホフェッシュ・シェクターの『Uprising 』 と『In your rooms』の2作品で、エネルギーが爆発するようなダンスを見せ観客の視線をひきつけたルー・マルコー=ドゥルアール。パワーに加え高い音楽性、とりわけリズム感が素晴らしいダンサーだ。彼の父親はアフリカ音楽のパーカッショニストだというから、受け継いだものがあろうのだろう。2017年の学校公演の『ライモンダ』第三幕でアブディラム役に配役された彼は、しなやかさと獰猛が共存する猫科の動物のごとき踊りが深い印象を残した。今シーズン、彼は『ホフェッシュ・シェクター』以前に『プレイ』『Body and Soul』を踊っていて、次はマッツ・エクの『ボレロ』というようにコンテンポラリー作品での活躍が目立つ。22名の男子カドリーユの中でも、配役にとても恵まれているようだ。クラシック・ダンスへの愛も持ち続けている彼が、バレエ団でこれからどのようなキャリアを築いていくか。楽しみに見守ろう。

オペラ座の舞台で踊るダンサーたちの話を聞くと、上手くいかないことが1〜2度あったにせよ、さほど苦もなくバレエライフを前進しているような印象を受けることが多い。しかし2018年に入団するまでのルーは、まるでいくつもの障害レースを強い意志で乗り越えてきたよう。11歳にしてプロのダンサーになると決めた彼。オペラ座を目指した彼を、支え続けたウィフレッド・ロモリ(現在バレエ学校教師)やエリザベット・プラテル(現在バレエ学校ディレクター)の存在はとても大きい。ルーが入団するまでの話は、近頃ではあまり耳にしなくなったガッツ、ネヴァー・ギヴ・アップ!といった言葉を思い出させる。23歳ながら、ぼんやり生きている大人たちとは比べ物にならないほど彼の人生はすでに濃厚である。ダンスをこよなく愛する人たちとの興味深いエピソードを彼はたっぷりと語ってくれた。

Q:ホフェッシュ・シェクターの作品を初めて踊った体験を語ってください。

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Photo Julien Benhamou/ ONP

A:すごい驚きでした。全公演が終わったばかりなのでまだ少しばかりノスタルジックですけど・・・とても印象に残る体験として心に刻まれています。約1ヶ月間、踊るダンサーたちがみんな一緒に閉ざされた小さな空間で過ごしたという感じがありますね。ホフェッシュは情熱あふれる人物です。僕たちが踊った作品は音楽も彼が作曲したので、彼はコレグラファーでありコンポジター。作品の音楽に精通している彼から、音楽との関係も含めて振付を教えてもらうというスタジオでの仕事はとっても快適でした。彼のスタイルは大好きです。彼は音楽性、そしてリズムの大切さを語ってくれ、また彼はグルーヴについても多く語りました。振付と音楽との関係において、自分の動き方、自分自身のグルーヴ感をみつけることの大切さを。僕にとっては、これはいささか新発見でした。

Q:シェクターのオーディションは自分で希望して? それとも芸術監督が決めたのですか。

A:作品によるけれど、このオーディションはオーレリー(・デュポン芸術監督)が40〜50名くらいを選んでの参加でした。新型コロナ感染症がまだ猛威をふるっていた時期だったので、ホフェッシュとのオーディションはZOOMを介して。ガルニエのリハーサルスタジオに彼のアシスタントが2名いて、僕たちに踊る作品のフレーズを教えてくれて、それを画面の向こうのホフェッシュに見せるというオーディションでした。ホフェッシュのアシスタントのフレデリック・デピエールとブルーノ・ギヨールとは公演に向けて仕事を一緒にする間、ホフェッシュのカンパニーのこととかいろいろ話をしてもらえました。彼らはホフェッシュのスタイルを伝承することに力を惜しまず、僕たちが彼のスタイルを体得できるようにと精力的にレッスンしてくれて、とても豊かな時間を過ごすことができました。

Q:オペラ座で初めて踊られたシェクターの最初の作品『The Art of Not Looking Back』は見ましたか。

A:はい、何度も!というのも僕は同じプログラムでジェームス・ティエレの『フロロン』に配役されて毎晩踊っていたこともあって。ホフェッシュのこれ、とても気に入りました。パワフルな音楽にまずひかれたんです。叫び。過去にオペラ座ではなかったことで新しい提案があって、さらにこの作品を踊る女性ダンサーたちにも圧倒されました。彼女たちの踊りは個々に過去に見て知っていたけれど、この作品では全員がしっかりと結びついて1つになっていて・・・。動きのテクスチャー、クオリティも素晴らしく、ああ、僕はこの振付家と仕事をしてみたいなって、その時思ったんです。

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『Uprising』Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

Q:これ以外の彼の作品をYouTubeなどでチェックしたりしたのですか。

A:はい、もちろん。それにこの作品を踊ったダンサーたちとも話して、いろいろ情報を得ることができました。彼のカンパニーが踊るのを初めてみたのは去年のツアーの時で、シャトレ劇場での『double murder』。すごく強烈な作品との出会いで、これともう1つの作品のディプティックのプログラムでしたけど本当に気に入ってしまいました。彼のカンパニーのダンサーたちのクオリティの高さにも、驚かされました。

Q:彼のスタイルはあなたの身体にフィットするものでしたか。

A:僕にとっては幸運にも簡単でした。逆説的なのだけど、彼の振付を踊るのは身体的には、これまでになく難しいものだったんですよ。全力を注ぐことが要求されます。それはクラシック作品を踊る時以上でした。例えば膝を折るにしても、これ以上は無理というほど折る。それは腿も膝も動員することになります。足首は緩めて、ふくらはぎは張って、というように。それにまた背中の上部を丸めるという仕事もあれば、時にソーもあって・・・。手や手首にも気を配りますし、とにかく体全体の仕事なんです。プログラムの『Uprising』『In Your Rooms』の2つに配役されていたので、公演の晩はこうした仕事を1時間ノンストップで続けていたわけです。

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『Uprising』Photo Julien Benhamou/ ONP

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『In Your Rooms』Photo Julien Benhamou/ ONP

Q:2作品の幕間に身体の回復は可能でしたか。

A:幕間は20分ととても短い。水を少し飲んで、座って、衣装をかえて・・・頭を空っぽにして次の作品にとりかかるという毎晩でした。2つ目の作品は始まりがソフトですぐに強烈にはならないのが幸いでした。リハーサルの時、初めて『Uprising』を通しで踊った時は、ダンサー7名全員で唖然としました。踊り終わったときに呼吸も困難で、喉は乾いてはりついてしまって、頭痛はするし、と辛かった。公演が始まって、奇妙なことに気がついて楽屋で他のダンサーとも話したことがあるんです。疲労困憊して辛い作品も、公演が進むうちに日中のリハーサルはなくなるし、体も慣れてきて踊るのが少し楽になるのが通常なのだけど、ホフェッシュについては全然楽にならないね、と。最後まで大変でした。公演ごとに頭をリセットして臨んでいました。とにかく強烈な振付なので、その瞬間瞬間を舞台上で生きるというのはとても快適で、観客を忘れることって時にあるものだけど、ホフェッシュの時は完全に自分たちの世界に浸りきっていました。

Q:シェクターの作品を踊ってる間、体つきは変化しましたか。

A:はい。1ヶ月仕事をしている間に変化があって、こうしたことを実感したのは初めてだったのでびっくりしました。鏡にうつる自分の太ももがそれまでと全然違っていて、ボリュームがついて圧縮されたような・・・それに触ると以前よりずっと詰まった感じがして。そのおかげて膝もその周辺も強化されるので、良いことでもあるんです。怪我の可能性も低くなりますから。クラシックを踊る体からは遠ざかったので、徐々に伸ばす方向へと戻しています。

Q:とても高いソーが印象的ですけど、あなたの切り札ですか。

A:自分ではわからないけど、跳ぶのは好きですね。エネルギーがあふれていて活力がある。それが僕のクオリティなのでしょう。太もももしっかりしていて、おかげで高く跳ぶことができます。

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『In Your Rooms』Photo Julien Benhamou/ ONP

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『In Your Rooms』Photo Julien Benhamou/ ONP

Q:シェクターが本人役で出演しているマリオン・バルボー主演の映画『En Corps 』が3月30日に公開されました。

A:まだ見ていないんです!!今週、予定していますけど、良い評判しか聞きませんね。ダンスがとてもよく撮影されていて、ダンスへの敬意が感じられるって耳にしました。ホフェッシュはオペラ座でも公演があり、また彼のカンパニーの公演もアベス劇場であって、それにこの映画・・・パリは2ヶ月間のホフェッシュ・フェアですね。

Q:公演後、シェクターのカンパニーでしばらくやってみたい、というような気持ちが湧きましたか。

A:はい。彼のスタイルをもっと発見することには興味があるので考えてみました。例えば、彼のジュニア・カンパニーはどうだろうか、とか。ホフェッシュはカンパニーを2つ持っています。1つはツアーをし、クリエーションをしてというメイン・カンパニー。それに加えて、シェクター2というセッションがあるんです。8名ぐらいの構成で、メンバーを2年ごとに入れ替えるんです。これを試すのはどうだろうか、と思ったのだけど、ここパリ・オペラ座では芸術的な提案が他ではないほど豊かです。大勢のコレオグラファーとの仕事があり、古典大作もあれば、コンテンポラリーもあるし、創作も・・・と。コレオグラファーのカンパニーのチームとも出会うことができますから。

Q:ダンスはいつどのように始めたのですか。何かきっかけがあったのでしょうか。

A:習い始めたのは11歳半ですから、他の仲間たちに比べると遅いですよね。小さいときから僕はエネルギーがあふれていて、たくさんの習い事をしてました。サッカー、陸上、サキソフォーン・・・5歳上の姉はフォントネー・スー・ボワというパリの郊外のコンセルヴァトワールでバレエを習っていました。これは僕が生まれ育った街なんですけど。9歳か10歳のころ、学校が毎年主催するオープンドアの日に両親といったところ、じっとしてられない性分の僕はベンチに座っていられず、バーレッスンをしている姉の後ろに駆けつけて真似し始めたんです。ダンスがとっても気に入りました。でも、両親はこれ以上習い事を増やすのは複雑になりすぎるといって・・・。

Q:それはダンスクラシックをしたかったということですね。

A:はい。それから1年間、僕はクラシック・ダンスが好きだ、コンセルヴァトワールに行きたい、と何度も両親に繰り返してました。彼ら、やっと僕が真剣だということをわかってくれて・・・。その間に母がヒップホップの講習会に僕を登録したんですね。これも気に入りました。でも、クラシック・ダンスのほうがもっと気に入っていて・・・。おそらく美的な面に魅了されたんでしょう。姉の後ろで真似をしてるときに僕はとても落ち着いていて、クラシック・ダンスには鎮静作用もあるということを両親も感じたようだし。11歳のときに、地元フォントネー・スー・ボワのコンセルヴァトワールで始めることになりました。

Q:なぜオペラ座バレエ学校に移ったのですか。

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コンクール Photo Svetlana Loboff/ OnP

A:コンセルヴァトワールでは毎年進級テストがあって、おそらく最初のテストのときだったと思うのだけど、教師が両親にこう言ったんです。''彼はやる気が本当にあるのだし、クオリティもある。他にも男子生徒がいて、そして男性の教師のもとでより多く学べるところにゆくべきだ''と。それでパリ市のCRR(concervatoir à rayonnement régional de Paris)に受かったので、ここで2年学ぶことになったのですが、この間に僕のキャリアと人生における重要な出会いがありました。オペラ座のバレエ学校で教えているウィルフレッド・ロモリです。僕はCRRと並行してオペラ座のバレエ学校も3回トライし、でも受からないでいるうちに年齢制限が過ぎてしまいました。ある夏休み、自宅にいてエネルギーが溢れていてじっとしていることができない僕に母が耐えかねて、''何かダンスの講習を探しましょう''と。みつけてきたのが、ウィルフレッド・ロモリの講習会でした。僕にはレベルが高いものだったけれど、以前一度彼の講習をとったことがあり、僕は彼の仕事がとても好きだったし、彼も僕を覚えていてくれて・・・素晴らしいレッスンを受けることができました。彼はポジションとかテクニック面やエステティック面だけではなく、芸術面や人間的な面についてもとても強い語りをします。僕は彼の教え方にすっかり興奮し、熱狂し・・・そんな僕をみた母は、可能な限り僕を指導してほしいと彼にお願いしたんですね。その夏休みが明けた9月の頭に、彼から母に''まだダンスに興味があるなら、今日会いましょう''と連絡がありました。僕より年上の他の2名と一緒に受けたレッスンは大変だったけど、とても面白くって、100パーセント理解できるように僕は集中しました。彼は僕という人間を気に入ってくれたようで、その時に僕と彼との間に通じ合うものがあったと感じられました。人生には出会うべくして出会う人がいます。まるで映画のような感じ。エネルギーとか、きっと彼は僕に彼の若い時代の自分を見出したのではないでしょうか。それ以降、彼と毎土曜にレッスンをするようになりました。

Q:オペラ座のバレエ学校が近づいた感じがありましたか。

A:いえ、僕がオペラ座のバレエ学校を試すことは僕にとっても彼にとっても、まったく問題外でした。踊りたい、ダンサーになりたい、クラシック・ダンスが好きという自分を知っている僕は、そこに至れるまでは何でもする覚悟でした。でも、オペラ座のバレエ学校は失敗したし、オペラ座が求めるクラシックを踊るのに相応しいクオリティが僕にはないので。彼にしても僕にレッスンすることが気に入っているだけであって・・・。それがある時、彼が母に''ルーは13歳の年齢制限を過ぎているけれど、オペラ座の学校で学ぶべきだ''と言って。ビデオをエリザベット・プラテル校長に送ったところ、オーディションに招かれて、その結果入学できたんです。その間、僕はレッスンに熱心に励みました。当時はCRRの生徒なので、午前は学校で勉強をし、午後にCRRのクラスがあって、夜と土曜にウィルフレッドのレッスンを受けて、と。オペラ座バレエ学校に入るために激烈な日々を過ごしたんです。ダメだった場合に備えて、パリにある国立コンセルヴァトワール(CNSM)の試験も受けていて、こちらに入学が決まっていたんですよ。あとでウィルフレッドから聞かされました。最初のレッスンの時に僕には難しすぎて絶対無理だと思った、と。上手くゆくようにできる限りのことをしましょうと言ったものの、確信できるまでには時間がかかったたとも。僕が挫けずにやる気満々なのをみているうちに、上手くゆくだろうと思えるようになったそうです。彼は最後まで僕を支えてくれました。12歳の時から、彼がぼくのずっとプライヴェート教師なんですよ。

Q:2013年に入学ですね。

A:そうです。年齢的には第三ディヴィジョンなのだけど、第四ディヴィジョンから始めました。バレエを始めたのは遅かったし、この学校と同じシェーマでは習ってこなかったので学んでいないテクニックもあったので。ウィルフレッドのクラスだったので、それまでの延長という感じに彼から確固とした基礎が築けるように教わりました。入学したてに難しかったのは、学校のリズムに慣れることでした。特に食後13時30分から1時間30分のレッスンは、とにかく内容が濃くってきつかった。CRRではこんなじゃなかったのでこれに慣れるのが大変だったんです。でも、学校に入れてすごく幸せだと感じていたことをよく覚えています。同じ年齢の少年たちに囲まれて、しかも全員が同じ情熱を持って、同じことを願い、同じ方向を向いていて・・・信じられない環境でした。素晴らしい体験をしました。

Q:4年間の学校時代、未来の夢はクラシック・ダンサーでしたか。

A・クラシック・ダンサーというより、単にダンサーというだけだったように思います。模範はウィルフレッドでしたね。彼が踊る姿をダンサーというより人間としてみていました。彼の目、表現、動き方・・・何もかもが演じているのだけど、とても自然で。裏の大きな仕事ゆえにとても自然で適切なことにしか見えなくなっていて・・・。そのことに、とても心がひきつけられました。これが僕がしたいことだって思いました。自然に、正直に、自分の内面に誠実に踊るということが。学校時代の最初の年に学校公演でシモン・ル・ボルニュが『ヨンダリング』を踊るのをみた時には、彼のダンスのクオリティに圧倒されました。この作品はピュアなクラシックではなく、この頃から他のタイプのダンスも発見したい、と願うようになったのを覚えています。もちろんクラシック・バレエへの興味は変わらずにあったけれど、こうして他のことを知ることは最高!って思ったんですね。そして僕に巡ってきたチャンスは『オーニス』を学べたことです。これはウィルフレッドも踊っていて、彼が指導してくました。クラシックのランゲージも含まれてるけれど、タンゴ、キャラクターダンスなどたくさんの要素がある作品で、音楽も気に入りました。第二ディヴィジョン時代のことで、僕は代役だったけれど大発見でした。この世には僕たちの手の届くところに、こんなにたくさんの素晴らしいことがあるんだ、って思ったことを覚えています。そして学年末には、ジャズやコンテンポラリーのレッスンがあって、そこでまた出会いがありました。ラリオ・エリクソンです。彼は視線について、また強い何かを生きることなどを語ってくれて。彼が舞台上でのセンセーションを語る時には、目が光り輝いていました。まるで映画か演劇をみているようで、すごくスピリチュアルな感じ。第三ディヴィジョンの時だったと思うのだけど、こうした仕事にすごく関心がわきました。

Q:ダンサーを職業にしたいと思ったのはいつ頃ですか。

A:姉がダンスをするのをみて・・・先に話したように10〜11歳の頃ですね。両親に自分はダンサーになりたいのだと告げました。学校公演か公開レッスンを見にガルニエ宮に来た時に、母に言ったんですよ。僕が踊りたいのは、ここなんだ!って。この時、ダンサーになりたいのだということが自分には確かでした。もちろん、どんな未来が自分に待ってるかはさておいてでしたけど。

Q:第一ディヴィジョンを終えた2017年には入団できませんでした。

A:これはひどく辛いことでしたね。普通、そうした場合は第一ディヴィジョンを繰り返すことができるのだけど、僕は年齢のことがあってそれができない。大きな失望もありましたけど、学校にはもう戻れないという悲しみもありました。大人への移行です。仕事をみつけなければならない。学校の課程は終了し、卒業証書も持っているので書類の上では僕はどこにでも働きにゆけるわけです。でも、人によるけれど、18歳の僕は一人で飛び立つ準備ができているとは思えなかった。僕には組織が必要で・・・だからすごく恐ろしかった。これまでの努力、犠牲が何も役立たないのかという恐れが。チャンスは、その夏にサンフランシスコ・バレエの講習に参加できたことです。パリ・オペラ座のバレエ学校のパートナー校で交換生徒のような制度があって、僕は同期のミロ(・カルピ)と1ヶ月行きました。おかげで頭を切り替えることもできて。この講習はセレクション的意味のあるものでサンフランシスコ・バレエあるいは学校に入れる機会でもあり、僕が望むなら残ってもいい、というように学校長からいわれました。だけど、サンフランシスコ滞在が経過するにつれて、それは上手くゆかないことだと思うようになったんですね。家族、姉、友達と離れて海外で一人で生活してゆく心の準備が僕にはできていずに怖いし、勇気も見出せず。それに僕の心の奥底で、''まだオペラ座からは最後通告されたわけじゃない''と囁く声もあって。しがみついて、試してみなければと思いました。3回上手くゆかなかった学校に入れたのだから、入団だって諦めずにねばり続けようって。その間、エリザベット(・プラテル)が両親に言っていたことは、「もしオペラ座の何かの公演で怪我人がでたり、追加ダンサーが必要となったら連絡してくることもあるでしょう。こうした契約はよくあることです」と。

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Photo Svetlana Loboff/ OnP

Q:シモン・ル・ボルニュも入団前、長いこと契約ダンサーでしたね。

A:そうです。彼は確か契約ダンサー時代が3年あったと思います。彼、諦めませんでしたね。ニコラ・ル・リッシュにしても、最初の1年は期間限定契約(CDD)だったんじゃないかな。それで、僕はパリにいることにしました。エリザベットは僕が9月に学校に戻れるように取り計らってくれたんです。僕の生年月日によると規定上その年の12月まで残れることになってるので、戻ってらっしゃいということで。個人レッスンをあちこちでうけるよりレッスン代も支払わずに済むし、それに万が一、オペラ座から契約の話がくるのであれば・・・とも。そうしたところ、僕の頭上では星が輝いてる!!って思えるチャンスが訪れたんです。学校が始まる2日前にオペラから電話があって、''ピナ・バウシュの『春の祭典』でダンサーが必要になり、今日の13時30分からオーディションがあります''って。慌てて駆けつけた結果、CDDの1年目をスタートすることになりました。あっという間の出来事。幸運だったのは、『春の祭典』と並行してオペラ座では『プレイ』の創作があり、大勢のダンサーがそれにとられていたんですね。だから残っているダンサーはわずかで代役が誰もいない状況だったんです。僕にはチャンスでした。

Q:翌2018年に入団。以来、オペラ座ではコンテンポラリー作品に多く配役されています。

A:外部入団試験を受けて入団できました。コンテンポラリーが多いのは、なんとなく自然にそうなったように思います。オペラ座では公演と次の作品の稽古が重なることもあるし、またコンテンポラリーではオーディションの結果というのもあって、そうしたことからでしょう。最初のオーディションは2019年のマッツ・エクの『ボレロ』のクリエーションの時でした。でも、クリスタル・パイトの『Body & Soul』の方に僕は決まったので、マッツ・エクのクリエーションには参加しないことに。今、5月7日から始まる公演「マッツ・エク」で『ボレロ』を踊るので、この作品を発見中です。今回も新たにオーディションがありました。シーズン最初の『プレイ』では、アドリアン・クヴェーズがゲネプロの前夜に怪我をして降板したので、代役だった僕が本公演をすべて踊ることになりました。アンドレア・サーリとのデュオですね。創作時はフランソワ・アリュとアドリアン・クヴェーズに振付けられたものですが、今回はアリュが不在だったのでそのパートをアンドレア・サーリが踊ったんです。

Q:ロックダウン期間中、どのようなレッスンを自宅でしていましたか。

A:この期間に僕はインプロビゼーションを発見したんですよ。劇場封鎖となり、しばらくしてからオンライン・レッスンがZoomで始まり、バーがあって、少しセンターがあって・・・でも、自宅内の限られたスペースなので、あまりたくさんのことはできないし、モラル的にもこれは辛かった。午後はクラシックのレッスンを続けたり、あるいはガガのレッスンを見たりと。僕のガールフレンドのイダ(・ヴィキンコスキ)は、オハッド・ハナリンの『デカダンス』を踊っています。それで彼のガガ・スタイルを知ってる彼女が、これ最高だからやってみましょうよ!というので。頭を空にできる機会だし、踊りたいという欲と踊る喜びに再びコネクトできました。幸いなことにロックダウンの間、庭のある両親の家で過ごしていたので、庭でガガのオンライン・クラスに参加してインプロを発見し、自分の喜びのために踊っていました。

Q:その間、クラシック・ダンスを恋しく思いましたか。

A:はい。僕、クラシックは好きですから。僕にとってクラシックは他のダンスと並列しています。マッツ・エク、クリスタル・パイト、クラシック・・・という感じなんです。エステティック面でのコードも好きで、満足をもたらしてくれる仕事です。それにとても身体的仕事でもあって、ソー、バットゥリー、ピルエットとか好き。

Q:『ラ・バヤデール』のブロンズ・アイドルのような役に興味があるのではないでしょうか。

A:はい。それから『ライモンダ』のアブディラム、『白鳥の湖』のロットバルト・・・こうした人物には関心があります。クラシックなランゲージだけど、ロットバルトは鳥のイメージで飛び、アブディラムは忍び足の猫のように、といったクオリテイをもたらして・・・。クラシック作品は入団年に『ドン・キホーテ』でマタドールを踊っています。ケープをつけて役柄になりきって・・・それにナイフを床に投げつけるなんてこともできて楽しかった。『白鳥の湖』ではポロネーズを。ふくらはぎにはきつい仕事だけど、グループで一丸となって踊るのが気に入りました。ダンサー間に真の支え合いがあるんですよ。こうした集団のパワーはコンテンポラリーでも味わえますね。

Q:例えば次のシーズンのプログラムではどの作品に興味がありますか。

A:次のシーズンは、アラン・ルシアン・オイエンの創作を踊ると思います。この作品で新しいシーズンを始められるのは嬉しい。早く作品を知りたいって、興奮しています。2020年3月に公演が予定されていたときに創作に1ヶ月ぐらい参加し、アランと出会いました。そのあとの公演「若きダンサーたち」では、僕は彼の『アンド・キャロライン』を踊ったんですよ。アランの仕事の仕方はオペラ座での通常の仕事とはまったく違うもので、とても豊かになれると同時に難しい経験でした。アランは僕たちをダンサーとしてだけでなく、一個人としても知りたいと共通質問がたくさんあって・・・。その質問の次には、動きをクリエートしてみて、インプロやってみて・・・と。音楽も自分で選んで、ちょっとした創作のようでもあってとても自由で。創作期間中、時には5時間の間、実験的な仕事やインプロをしてというようなこともありました。当時の僕にとっては習慣のなかったことなので難しかったんです。ジャッジされるというような気もし、自分は興味深い存在じゃないのだと思い込みもあったし・・・。彼との仕事の後で、コンテンポラリーのコレオグラファーやインプロに興味をより持つようになりました。

Q:他の作品についてはいかがですか。

A::僕はアラン・ルシアン・オイエンの創作の後は、ピナ・バウシュの『コタンクトホーフ』なんです。『春の祭典』以来、ピナのチームと仕事をしていないので、再会が待ち遠しいです。それにこの作品には演劇面、コメディもあるので。小さい時に映画『ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』を見たときに、この作品の雰囲気とかとっても気に入ったんですね。先になるけれど、ボビー・ジーン・スミスの創作、これには興味がありますね。まだオーディションの日程もでてないけど、これ踊りたいです。彼女とぜひ会いたい!それから『ベジャール・プログラム』にも関心があります。『火の鳥』は踊ったことがないだけでなく、見たこともない作品なんです。

Q:ベジャールの『ボレロ』は踊りたいと夢見る作品ですか。

A:テーブルの上で感じることって信じられないものだと想像します。本当のトランスが味わえるんじゃないかな。18分の間に、どんどんと強烈になっていくので身体的にはすごいものでしょうね。ソーや回転・・・見るたびにそのダンサーの身体的投資に驚かされます。

Q:クラシック作品についてはいかがですか。

A:シーズンの最後の『マノン』の雰囲気、コスチューム、物語はどれも素晴らしく、語り方がいろいろあるので、こうした作品の内側はぜひ見たいですね。

Q:クラシック作品でプリンスを踊ることには興味がありますか。

A:ロットバルトのような悪意のある役にはひかれるけれど、プリンスは・・・。それは心の奥底で、僕はこうした役に適していないって分かってるせいかもしれません。僕の持つエネルギーには不向きでしょう。例えばヌレエフ作品でいえば『ドン・キホーテ』のバジリオ役は好きですよ。ガラで時々踊ることがあって、エネルギーを炸裂させています。『海賊』でも!

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