オペラ座ダンサー・インタビュー:ロクサーヌ・ストヤノフ

ワールドレポート/パリ

大村 真理子(在パリ・フリーエディター) Text by Mariko OMURA

Roxane Stojanov ロクサーヌ・ストヤノフ(プルミエール・ダンスーズ)

昨年11月に開催されたコールドバレエ昇級コンクールでロクサーヌ・ストヤノフがプルミエール・ダンスーズの1席を得たことは、バレエファンなら記憶に新しいことだろう。1月1日から新たな階級に上がった彼女は、オペラ・バスチーユで公演のある『ラ・バヤデール』でガムザッティを初役で踊る。

3月13日にNHK BS プレミアムシアターでピエール・ラコットの最新作にして最終作である『赤と黒』が放映される。フランスでは10月20日に映画館でライブ上映されたもので、当初はジュリアン・ソレルがマチュー・ガニオ、レナール夫人がアマンディーヌ・アルビッソンの予定だったが、前者の怪我による降板のためユーゴ・マルシャンとドロテ・ジルベール組でのライブとなった。この組みあわせにおいて召使いエリザ役に配役されていたのがロクサーヌである。公演当時はコンクール前でスジェだった彼女だが、この作品において物語の展開を司る重要な役を巧みに演じた彼女は、物語に厚みをもたらし好評を博した。この役について、多くを語ってもらうことにした。プルミエール・ダンスーズに上がっても自分を切磋琢磨することに余念がなく、このように役を演じることに大きな願望を抱いているロクサーヌ。それだけに、どのようなガムザッティを彼女が作り上げるのか興味津々だ。DVD化されている『未来のエトワールたち パリ・オペラ座バレエ学校の一年間』で学校最終年に一回目の入団試験に受からず涙している彼女を覚えている人には、10年も経たぬ間にソリストとして彼女が踊るのを見るのは感慨深いことだろう。この間順調にカンパニーのピラミットを上がっていった彼女は、しっかりと地に足をつけ、ダンサーとしての精進と一人の人間として成長する努力を怠らない毎日を送っているようだ。

Q:4月に公演のある『ラ・バヤデール』ではガムザッティに配役されていますね。

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Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

A:公演初日まではまだ時間があり、今日が始めての稽古日でした。今回は初役でガムザッティを踊ります。それから''3人のオンブル(影の王国の精霊)''も。前回(2020年12月)の公演が実現したなら、これは踊っていたはずなんですけど・・・。もっともその時は3人の中で最初のヴァリエーションに配役されていたのだけど、今回は3人目のヴァリエーションなのでこれも初といえば初ですね。

Q:ガムザッティは踊りたいと思っていた役でしたか。

A:これを踊るのは、私の夢だったんですよ! もちろんニキヤもいつかは踊りたいけれど、今はガムザッティを踊る時だと思うのです。というのはプルミエール・ダンスーズに上がったばかりの私がこれを踊るのは、その後への基本作りになると思うので。これはテクニック面でも見せるものがあるけれど、物語を語るのでダンサーとして鍛えられる役。だからガムザッティから始めるのがロジカルだと考えています。もしガムザッティなしでニキヤに配役されていたら、残念に思ったことでしょうから、とても幸せです。このように強いキャラクターの役を踊るのが、すごく好きなんです。自分が本来持っている面ではなく、実生活では私はこうしたタイプではありません。だから強い面を表現する機会を得ることによって、自分に一種自信を持つことができるんです。過去にはリュドミラ・パリエロがニキヤ役の前にまずガムザッティを踊っていますけど、このようにニキヤより先にガムザッティ、というのは私には理想的なことなんです。

Q:ガムザッティは強い女性ですが、悪意もあると思いますか。

A:私はそうは思いません。彼女がどんな女性かというと、まず確かなのは甘やかされた女性ですね。国を支配するラジャの娘ですから、家の名声を守る義務があります。親が決めたソロールとの縁談は、彼女が希望していたことではなくとりわけ望んでいるわけではないのだけど、家名のため、自分の名誉のため、そして未来のためにこの結婚は実行されなければならないと彼女は考えています。こうした混じり合った感情があるところに、その結婚相手が自分より別の女性を好むということについて嫉妬があって、正しくない反応をしてしまうのです。ニキヤにプッシュされて・・・。彼女はニキヤが自分に反することを立場上受け入れるわけにはいきません。ニキヤの階層の人間が短刀を振りかざすというのは、ガムザッティにとっては限界を超えた行為としか思えない。それが花籠に蛇を仕込ませて・・・という結果をもたらすことになるのです。歴史的な状況を考えると、こうした結婚はファミリーのため。彼女の気持ちなど親は確認もしていませんが、自分の置かれている立場を理解している彼女なので受け入れるのです。理にかなったこととして。だから、それが実現するために彼女は手を尽くすわけですね。私は彼女は悪意があったり意地が悪い女性だとは見ていず、もしかすると彼女の内部では引き裂かれている面もあるのではないかと思っています。

Q:配役はもう決まっているのですか。ダンサーのタイプや体格のバランスなど、どのようなことで配役はきめられるのでしょうか。

A:私のニキヤはヴァランティーヌ・コラサントで、ソロールはジェレミー=ルー(・ケール)です。この間のコンクールで彼もプルミエ・ダンスールに私と同時にあがっているので、この配役は新昇進組ですね。どのように上層部が配役を決めるのかは私にはわかりませんが、確かにジェレミー=ルーはソロールに配役されているダンサーの中で最も長身で、私も173cmあってガムザッティの中で一番背が高いんです。そうしたことも関係してるかもしれません。ニキヤがヴァランティーヌというのはとても興味深いことなんです。というのも過去にガムザッティ役を踊って役を熟知している彼女なので、言い争いのシーンではきっと面白い応酬を生み出せるでしょうから。まだ二人一緒の仕事を始めてはいないけれど、彼女はきっと私を導いてくれると思います。強い個性の人物を多く踊ってきた彼女がニキヤ役というのは意外でもあります。こうして同じ役に配されるタイプの二人が向かい合うというのは驚きですけど、なかなか見事な平手打ちシーンになることでしょう。

Q:2020年12月13日にライブ配信された『ラ・バヤデール』では、アラベスクでステージを降りてくる32名のオンブルの先頭でした。これを踊るのはどんな感じでしょうか。

A:これはコール・ド・バレエの仕事なので、今回はもう踊りません。プルミエール・ダンスーズに上がって大きな違いはコール・ド・バレエをしない、ということです。以前7番目のオンブルだったことがあって振付的には先頭だとアラベスクが7回増えたというだけで難易度はさほど変わりませんでした。32名の先頭を切るというのは調子を作るリーダー役なんです。私はヨガの瞑想をしてるという感じの雰囲気を作りました。いずれにしてもオピオムの世界の雰囲気なので、とても禅的に・・。この先頭に配役されたことは今でもとても誇りに感じています。

Q:あいにくと公演が全てキャンセルされ、12月13日に一度主役をミックスした配役でライブ配信されたのでしたね。

A:そうです。それまで私たちはほぼ2ヶ月間稽古を続けていました。これが外出制限解除後の初の大古典作品だったのに、初日の3日前に公演キャンセルが決定されたんです。がっかりしたけれど、たとえ舞台で踊れなかったにしても劇場再開にむけてこの稽古ができたことは喜びでした。幸い一度だけライブ公演があったし。でも、空っぽの客席を前に踊るのは通常と異なるのでちょっと調子が狂いますね。観客からの拍手やエネルギーによって、私たちは舞台上で支えられています。客席と分かちあっている、という感じが得られるのです。彼らが幸福な気持ちで劇場を後にできるようにと、私はいつも舞台上で全力を尽くしています。そもそも、それゆえにこの仕事をしてるんですけれど・・・。だから公演のキャンセルは辛かった。でも、あちこちの劇場がクローズし、自宅のキッチンなどでレッスンを一人で続けているダンサーが多いという時期に、私たちはこうして稽古もできたということには満足しなければ!と。この新型コロナ禍下では何度もうちのめされる状況があったけれど、そのたびにポジティブにレッスンを引き出すようにしていました。この一度のライブ配信については、自宅待機状態にあった私の同居人がスクリーンで見られらることをとても喜んでいて、ああこういう人が大勢いるのだということに気づいき、それを踊る際のモティベーションに反映することができました。

Q:フランスでテレビ放映された映画『Opéra de Paris, une saison (très) particulière( An Unusual Season)』では、この時の『ラ・バヤデール』のリハーサル光景がたっぷりと撮影されています。あなたの登場シーンも少なくないですね。

A:こんな状況において私たちダンサーががどのように仕事をしていたのかを見せる、とても良い映画ですね。それにスタジオでのリハーサルをこれほど映像におさめた作品って過去にはなかったように思います。観客にとっても舞台で踊られる前の裏の仕事を見ることができるのは興味深いといった反響が、私の耳にもはいりました。確かに私が踊り、語るシーンも含まれていてそれはうれしいですけど、それはさておいて、厳しい現実の中で希望を感じさせるとてもポジティブな映画だと思います。

Q:今シーズンは昨年10月の『赤と黒』のエリザ役からでしたね。これ以前にも演技面が大きい役を踊っていますか。

A:スジェに上がったときに『椿姫』のプリュダンス役を。これは多いに楽しめました。前シーズンはローラン・プティの『ランデヴー』で''世界一の美女''役を踊っています。これがあって、エリザ役があって、そしてガムザッティ・・・今季最後の公演『ジゼル』ではミルタを踊れるかもしれず。どれも夢見た役ばかりなんですよ。

Q:エリザはどのように役作りしましたか。

A:スタンダールの原作ではさほど登場しない人物なんですね。このバレエは創作だったので最初はどんな役かはわからず、徐々に発見してゆきました。創作者ピエール・ラコットからは、エリザは導線で彼女なしに物語は存在しないのだと説明がありました。エリザの第一配役にヴァランティーヌ・コラサントというエトワールを配したことからも、彼がこの役に価値を与えたいと思ったことがわかりますね。登場人物それぞれに個性があるけれど、エリザは恋する女性、嫉妬する女性、絶望した女性・・・と複数の面があって、それぞれの追求が楽しめる役でした。舞台に彼女が姿を表すたびに、別の感情を表現するってまるで演劇のよう。振付は毎回のエリザの感情に沿うものなので、演じることの助けとなります。また踊りのない部分も舞台上であってまさに演劇そのものなんです。でもそれは俳優の仕事なので最も難しい部分だったといえますね。こうした作品はピエール・ラコットならでは。私の姉は舞台女優なので私に演技指導をしてくれたことがあります。学校でも演じることは少し学んでいて、それも役立っていますね。ダンサーは役者でもあります。語ることがある役ほど、私のやる気がかきたてられので嬉しいんです。

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「赤と黒」
Photo Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

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「赤と黒」
Photo Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

Q:『赤と黒』はオーディションの結果で配役されたのですか。

A:いえ、オーディションはありませんでした。ラコット作品は入団したときに、『パキータ』で私はコール・ド・バレエでした。それから『ラ・シルフィード』。これは随分と以前のことだけど私はエフィの代役で、この時に一度私が代役で踊るのを彼は見ているので、私の名前を彼は記憶したのでしょうね。エリザ役を提案されたんです。『赤と黒』のすべての配役を彼はオーディションなしで、最初に作り上げていました。

Q:彼の思い入れがこもった作品で、それゆえリハーサルでの彼の要求はとても厳しいものだったと聞いています。

A:舞台装飾もコスチュームも彼が5年がかりで準備した作品です。演技もダンスも彼が求めるものはとてもレヴェルが高いものでした。創作期間中、時に傍目には我慢が欠けてるように思えてしまうこともありました。でも彼自身がダンサー時代に受けた厳しい教育に思いをはせ、また彼が自分のアイディアを一刻も早く形にしたいという気持ちにかき立てられていたことを思えば理解できます。彼はこのバレエの実現がとにかく待ち遠くてたまらなかったのですね。『赤と黒』の物語には多くの要素があって、とても複雑です。3時間半というのはバレエ作品としては長いけれど、この物語には十分ではない(笑)。大人数のコール・ド・バレエを監督し、彼にとって大変な仕事だったと想像できます。確かに彼から私たちへの要求はとても高かった。でも、それゆえに良い作品が出来上がったといえます。

Q:映画館でライブ上映の公演でエリザ役をあなたが踊ったのですね。

A:はい。当初はヴァランティーヌが踊る予定だったのが、2日前に私が踊ることが決まりました。
これはすごいプレッシャーがありましたね。コンクールの3週間前でその準備もある時期だったので。彼が私を信頼してくれたのだから、うまくいかないという理由はないとはいえ、コンクールを優先するということはしたくなく、エリザ役も全力投入で踊りたいと思って・・とにかく目一杯の時期でした。肉体的にもハードでした。頭の中からエリザ役のディスクをとり出さなければ!(笑)、という感じだったので、コンクールにしっかりととりかかれたのは1週間前となりました。

Q:予定よりも回数多く、エリザ役を踊ったのですか。

A:そうなんです。これは素晴らしいことに8公演も踊ったんです。1つのシリーズでこれほどの回数は珍しいことで、毎回新しいことを試せる機会となりました。2回くらいしか公演がないと、その2回を全うすることが重要ですけど、8回もあるとその日の自分の精神状態や体の痛みなどともあわせて新しいことを試してみることができるんですね。それに主役のソリストのダンサーも毎回が同じではなかったので・・・。彼ら、パントマイムなど微妙にそれぞれ違うんですよ。

Q:日本での放映もあるので、エリザ役についてもう少し語ってください。

A:これはテクニック面でいえば第一幕が一番ハードでした。最初に各登場人物の紹介があって、このときのヴァリエーションは全員がピュアなクラシックの振付。エリザはとても明るい女性で、ジュリアン・ソレルをあっと言わせたくって、自分はうまく踊れるんだというのを彼に見せつけようとします。このヴァリエーションでは、舞台上で他の登場人物が拍手をしてくれるので気持ちいいですね。演劇でいうといころの脇ゼリフのようなシーンもあるんです。例えば、ジュリアンの手がレナール夫人の手に触れるところで、エリザは "考えられないことだわ。彼女に私はサービスしなければいけない、でも彼女なんて大嫌い。彼、こんなことがどうしてできるの? 失礼だわ。私(エリザ)のほうが彼と階層的にふさわしいはずなのに。私は召使い、彼だって製材所の息子か何かなんだし・・・" というように。
一番大変なのは、二人が抱き合うをみたときの怒り。ここでエリザはすごく苛立ちます。かなり爆発的な振付に怒りをこめて踊るのはとてもきつく、これが終わるとまるでトリップから抜け出た、という感じになってしまうほどでした。その後、彼女はレナール氏あてに二人を告発する匿名の手紙を書くのですね。''これで彼らを負かしてやるわ''と。これって、ちょっとガムザッティですね(笑)。
エリザはしっかりと根回しをするのです。第一幕はテクニック的に私には一番ストレスが大きいんです。幸いなことに感情面がとても強く、それを表す振付のおかげで支えられるのです。第一幕の最後、好きな場面があります。自分で書いたとはおくびにも出さず、エリザが匿名の手紙を夫人の寝室でレナール氏に手渡します。その瞬間、レナール夫人はすぐに真実を解するのですね。彼がその後寝室からでてゆくと、夫人とエリザだけとなります。エリザが ''もうあんたはジュリアン・ソレルにこれで2度と会えないのよ'' と誇らしげに夫人に目を向けると、彼女が私を見返すのですが、このシーンで一度忘れられない事が起きました。リュドミラが夫人役だった時の彼女の視線!!その彼女の視線にこめられた緊張。これは信じられないものでした。このシーンの音楽はもともとスローなんですけど、このリュドミラとの公演の日はいつも以上にゆっくり。だから彼女は緊張を高める必要があったのですけど、もう、これ以上ないというほど高めたんですね。この後二人揃って、鳥肌がたってしまったほど。ライブの録画はリュドミラとではなかったけれど、このシーン、この瞬間、私は大好きなんで。エリザとレナール夫人はバレエ全体を介して、この視線だけが唯一のコンタクトなんです。

Q:第二幕はエリザは登場せず、次は第三幕ですね。

A:そう、第三幕ではジュリアのと令嬢マティルドの結婚話を牧師に告げて、なんとしてでもその実現を阻止せねば、と司祭館にかけつけます。レナール夫人であろうとマティルドであろうと、彼女はジュリアン・ソレルが自分以外の女性と、というのが耐えられないのですね。''なぜ、ジュリアンは私には目もくれないの? '' と。でも、その後に彼女が引き起こすことといったら・・・。レナール夫人の手紙を知ったジュリアンが銃を持って飛び出すのをみて、''ああ、一体自分はとてつもなく大それたことをしてしまった'' と自分を恨んで、絶望のヴァリエーションがあります。不幸に終わるエリザですけど、こうした全ては彼女が元凶。エリザ役がこの作品で担うものはこのようにとても大きいのです。

Q:公演後は毎回どんな状態でしたか。

A:眠りにつくのが難しかったですね。作品の中から抜け出ことがなかなかできなかったのに。こうした役を踊るのは、自分にまったくないものを演じるというより、きっと私の奥底にもこうした面が少しあるのかもしれないと考えさせられ、自分の奥にあるものをみつけようとします。私、こうした役は大好きです。チャレンジが大きく、それだけにエキサイティング。こうした役を一度得ると、次もまた次もとなってしまうのです。

Q:ローラン・プティの『ランデヴー』の美女役はどのような体験でしたか。

A:この作品もとっても演劇的ですね。私、小さいときにこの作品を踊っています。最初に男女の子供が踊る場面がありますね。これは学校時代、私が創作ダンサーだったんですよ。その時にイザベル・シャラヴォラやエレオノーラ・アバニャートがこのヒロインを踊るのを見ていて、この役には憧れていました。だから前シーズン、これに配役されたのを知った時は感激がありました。彼女たちはそれぞれの ''世界一の美女'' を踊っています。1人は少し優しかったり、一人はいささか陰険だったり・・・と。私はそうしたインスピレーションをもとに自分なりの役作りをしました。この美女の使命は男性を魅了することですが、結末を知ってる彼女は少し自分でも楽しんで遊ぶんですね。あまり悪意を持たずに。ところが彼を殺すときはまったく無感情なロボット状態に戻ります。突然、魂がなくなる、ということをポイントにしました。彼女はナイフを閉じ、次の使命へと向かってゆくという、心を持たず自分の役割を果たすだけの道具のようにこの女性をイメージしました。ちょっと恐ろしいですよね、でも、この役創りのためのリサーチはワクワクするものがありました。

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「ランデヴー」Photo Ann Ray/ Opéra national de Paris

Q:この時のパートナーだったフロラン・メラックとは体格的にも調和がとれていますね。

A:公演『若いダンサーたち』でもフロランと素晴らしいパ・ド・ドゥを踊る機会に恵まれたんですよ。クリストファー・ウィールドンの『After the Rain』。これは踊るのが最高の作品で、またぜひ踊りたいですね。私たち、お互いに良いパートナーと出会ったという感じがあります身体的にだけでなく、二人の間にはわかちあうものがあって。一緒に彼と築き上げることはとても楽しく、ぜひとも今後他の作品を再び一緒にと願っています。

Q::『若いダンサーたち』は基本的には24歳以下のダンサーによる公演なのではないでしょうか。
A:私は26歳。フロランも26歳です。確かにオーレリー・デュポン(芸術監督)は私たちが少しマチュア過ぎるのではなのではないかと心配だったようです。でもゲネプロの後で彼女、若いダンサーの成長を見せることができることになると満足していました。この作品は彼女が私たちのために選んだネオクラシック作品なんです。彼にはポルテが多いのでハードかもしれませんけど、すごい技巧を要する振付けではありません。男女があるがままで・・・という振付で、衣装もほとんど裸体のよう。観客との関係もとてもインティメートという作品です。この時に初めて踊ったのですが、とても楽しめました。もしかすると今年の夏、セウン・パクがガラをオーガナイズするかもしれないので、その際にこれを再び踊れるかもしれず。実現したらうれしいですね。

Q:後半、彼に高くポルテされ、上げられた空間で両腕を大きく広げるときはどのような感覚がありますか。

A:これはとても快適なんですよ。安心感があります。このパ・ド・ドゥの振付ゆえか、それとも私とフロランの間にインティメートな面が築かれているせいなのかわからないけれど。私は彼の一種の延長という存在で、二人が融けあって1つになるという感じがあります。彼が下にいて私が上で一人っきり、という離れた関係ではなくって。さらにそこで時間が停止、という印象が感じられます。この時は観客席からは咳払いも何一つ雑音もなく・・・。

Q:You Tubeで視聴できる他のダンサーたちのビデオでは、このポルテの瞬間に大きな拍手がおこるものもあります。

A:オペラ座ではそれはありませんでした。拍手するなら、この時間の停止の終わりを待つのがいいでしょう。というのも、パワーのデモンストレーションではないので。このポルテに限らず、力強さを見せるパ・ド・ドゥではありません。

Q:オペラ座ではコンテンポラリー作品に配役されることもありますか。

A:はい、マッツ・エクの『ボレロ』の創作に参加していています。その後は劇場封鎖となって・・・。その前にはフォーサイスの『Blake Works I』の創作がありました。でもこれはジルベール・メイエールにインスパイアーされたクラシック・ベースの作品ですから、コンテンポラリーではないですね。コンテンポラリーのオーディションでマッツ・エク以外、私は選ばれてないんです。彼の仕事は大好きだから、彼の作品に選ばれたということには感激がありました。私は『ラ・バヤデール』組なので、今シーズンの彼の公演には参加できませんが、今の私はクラシック作品で役を演じて経験を積む時期にあると思うので・・・。その後に両方踊れたら、と願います。というのも、コンテンポラリーを踊ることで、クラシックですごい進歩が得られるものなので。

Q:2020年の外出制限期間中、自宅ではクラシックのレッスンをしていましたか。コンテンポラリーの動きも試してみたりしましたか。

A:毎日バーレッスンをする必要を感じていました。バー、センター、そして怪我をしないように床にマットをひいてソーも。それを週に6日。自宅にはリノリウムを敷いた床があるので、そこでポワントのレッスンを。こうして体調を維持し、またこれゆえに1日のリズムが作れていました。さらに週に2度ピラテスとバーオソル、週に3回走るという良いプログラムでした。でも、それでも十分じゃないっていう印象が拭えずにいましたけど。

Q:オペラ座でのレッスン再開時は身体的に問題を感じませんでしたか。

A:後退したという感じもなく、快適でした。でも自宅から突然大きなスタジオへ、ということが怖かった。自宅に閉じ込められているときは、壁の鏡を介して自分の姿を見ることこともなかったですし。オペラ座の仕事が再開し、その夏はセバスチャン・ベルトーのコンテンポラリー作品でスイスのフェスティヴァルに参加したんです。舞台、観客との再会がありよいことでした。1時間30分を6名のダンサーで踊る作品で全部で4公演。それからバカンスへ。自分はこのバカンスに出る価値があると思えました(笑)。

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コンクール 課題曲
Photo Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

Q:昨年のコンクールでは『眠れる森の美女』のヴァリエーションが課題曲。自由曲は何を選びましたか。

A:ローラン・プティの『ノートルダム・ドゥ・パリ』からエスメラルダのソロを選びました。これまた強い女性ですね! おそらく私は自分にあまり自信がないんだと思うのです。それでこうした自分にしっかりと自信を持ってなければならない人物を踊ることを選ぶのでしょうね。舞台で演じるのであって、それは私自身じゃない。この女性はこうなのだから、そう演じるのがノーマルなんだというように・・・。こうした役の人物を介して、自分に自信が持てるのだと思います。自分自身を超えることができるのだと思います。

Q:例えばこうした強い女性がするような目つきとか・・・。

A:そうなんです。自分は実生活ではしないけれど舞台でそうした視線をすることには、ためらいも恥じらいもなくできるんです。しかも奇妙なことにとっても自然にできるんです。それにコンクールでは、人が私に期待していないことを見せて自分を際立たせる必要があると、ある時気がついたんですね。それゆえにバチンと活力に満ちたヴァリエーションを常に選んできたのです。『バクチ』や『白の組曲』のシガレット・・・そして今回はエスメラルダというように。もっともスジェに上がった時の自由曲はオデットでしたけど。このオデット/ オディールも私が夢見る役の1つなんですよ。

Q:自由曲を踊り終わったとき昇級の可能性が感じられましたか。

A:全然!この時期、『赤と黒』でとにかく疲労困憊の時期だったので・・・。エスメラルダはその前からとりかかっていて、毎日稽古するほど、だめ、大丈夫じゃないとなっていって・・・。やり過ぎからくるストレスですね。体がもうエルメラルダを欲していないとなったのでしょうね。だからコンクール当日はどのようになるかわかりませんでした。それに実は9月からずっと膝を痛めていて・・・。12月22日に手術をしましたが、コンクールは膝に痛みがあるまま参加したんです。キトリの友人とドリアードの女王に配されていた『ドン・キホーテ』の公演もそう。手術はできれば避けたいと延ばし延ばしにしていました。術後、今では稽古で飛ぶこともできるし結果は順調です。で、コンクールに話しを戻すと、疲労と膝の痛みとプレッシャーがあり、とりわけ頭の中はこの痛みのことでいっぱいになっていました。課題曲は自分が選んだものではないけれど、何かはできた、という感触がありました。ダンサーにとって公演というのは生きる芸術です。だから自分の最高のものを舞台で差し出すことができたら良く、あとは審査員が決めること、と私は考えています。エスメラルダの自由曲はというと、これは心底ステージ上で楽しんでしまいました。

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コンクール 自由曲
Photo Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

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コンクール 自由曲
Photo Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

Q:昇級の結果はどのようにして知りましたか。

A:母と一緒に外にいました。ボルドーに住んでいる母は私の公演もコンクールも見逃したことがありません。結果を知って彼女は泣いてしまい、私はというと、実は今でも昇級が信じられないでいるんじゃないか、っていう感じなんです。ここのところ役に恵まれ、プルミエール・ダンスーズとしての仕事をしているので、''ついに'' という気持ちもある一方で、''この私が本当にパリ・オペラ座のソリストなの? " という気持ちもあるんです。私が願っていたのは演じることのある役を踊ることだったので、1つ役につくと、先にも話したようにそれは麻薬のようで、ぜひ次も!!となって、その次の役の後も、また・・・と。

Q:『ラ・バヤデール』がプルミエール・ダンスーズとなって最初の舞台ですね。

A:そうですね。プルミエール・ダンスーズとして初めて今日リハーサルをし、それが終わって、今、こうして13時30分にインタビューを受けています。コール・ド・バレエ時代はリハーサルが終わるのは19時でしたから、まったく異なりますね。13時30分まで集中して仕事をし、それで1日が終わる日がある!コール・ド・バレエ時代は5時間のリハーサルに体を管理しなければならず、まったく別の仕事です。

Q:以前より増えた自由時間はどのように使いますか。

A:時間ができるやすぐに基礎に戻り、また先の準備をしたりと、いつも何かしらやるべき仕事があるんです。改善する必要、進歩する必要が常にあって・・・。例えばガムザッティにしてもリハーサルを待たずに自分で少し始めてみようとか、膝を強化しておこうとか。でも自由時間は仕事以外の人生を生きる機会でもあります。10時から19時までここで仕事をしていたら、外で誰にも会えません。気分転換のためにもオペラ座の外に出なければ! 他所で踊っているダンサーもいれば、ダンスとは無縁の仕事をしていたり、とオペラ座で働いていない外部の友だちが私にはたくさんいます。私とは別の視点をもってる彼らと話をするのはとても興味深い。例えば私が入団したときの『眠れる森の美女』でエキストラで舞台にでたダンサーと仲良くなりました。今はダンス教師で、何度か私のコンクールの準備をコーチしてくれたこともあります。また彼女のパートナーがコンテンポラリーのコレオグラファーなので彼の作品を私がガラで踊ったりして・・・。
彼らのようにダンス関係者でも、パリ・オペラ座の人々とはメンタリティが異なります。レストランで働いている友達もいて、これまた全然別世界ですね。オペラ座のバレエ学校で一緒だった仲良しは、ダンスをやめてインテリアデザインの仕事をしています。こうした彼らと話して外でどんなことがおきているのかを知るのは面白い。ダンス以外の芸術に触れることも自分の栄養になるので大切です。展覧会や劇場へも。演劇はコメディ・フランセーズの演目が好きだけど、少し軽めの演劇も見ますよ。原作のセリフを俳優がどう言葉で表現するのかとか興味をもって観劇します。例えば先週見たのは『椿姫』。この後、バレエ『椿姫』の主役を踊ってみたい、という気持ちが起きました。また1つ夢の役ができたのです。でもマルグリットを踊るには成熟が要るので、もう少し年を取ってからですね。以前から踊りたいと思っている1つは『ドン・キホーテ』のキトリ。このようにさまざまなタイプの人物を幅広く踊れるようになりたいんです。

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「ドン・キホーテ」ロクサーヌ(左)
Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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「ドン・キホーテ」
Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

Q:コンクールにもう参加しない、というのは嬉しいですか。

A:はい。昨年の4月にコンクールがあった時はプルミエールのポストに空きがなかったので、私は参加していず。このとき、このストレスのエネルギーの渦から離れていられるのは実にいいことだ、と感じました。コンクールの時期って、オペラ座中に電気がびしびし走っているような感じがあるんですよ。プルミールに上がって肩の荷がおりました。ダンサーとしては参加しなくても、コンクールの反対側にまわって審査員をするのもいいかなと思っています。

Q:次の段階を目指し、どのような努力をしますか。

A:進歩を求め、仕事を続けます。そして経験を積むためにも、与えられた役をしっかりと次に役立たせるようにします。全力投球は自分のために常にしていること。エトワールにあがったダンサーたちだって、みんな誰もそこで止まらず続けていますよね。

Q:ダンスをする子供たちに将来の夢を聞くと多くが、単にダンサーになりたいとは言わず、''エトワール・ダンサーになりたい'' と答えます。あなたもそうでしたか。

A:よく覚えていませんが、ダンサーになりたいと言っていたと思います。というのも階級について知らなかったから。だから ''ダンサーになりたい'' 言っていたときに私の頭の中にあったダンサーのイメージというのは、イコール・エトワールだったと思います。オペラ座のバレエ学校に入って分かったことは、入団コンクールはとても大変でカンパニーに入るのがどれだけ難しいかということでした。だから入団できる!というだけで、もうワーオ!!です。そして入団してからは、ダンサーによっては上がるのに年数がかかることがあるというケースをみました。例えばレオノール(・ボラッック)。彼女はカドリーユ時代がけっこう長く、あんなに素晴らしく踊るのになぜかブロックされている、と思っていたら、突然上がっていって。だから私も長くかかるかもしれないけれど、その間しっかりと稽古を続けていこう、と。各人各様のリズムがあって、来る時はくるときは来るのだから。私、スジェに上がった時もそれが信じられなかったんです。スジェというのはソリスト。責任のあるランク。ソリストになれるというのは素晴らしいトロフィーなんです。

Q:2013年に入団し、プルミエール・ダンスーズに至るまで長かったと感じますか。

A:いいえ。スジェからプルミエールは三度めのコンクールだったけれど、それまで2年ごとにコリフェ、スジェと上がってきました。これが私のリズムなんです。もしもっと前のことだったら、今私が担っている責任を負える準備はできてなかったと思うし、もしも、もっと後だっとしたら、そうですね、もしかすると他のカンパニーにいくことを考えたかもしれませんね。ディレクションから評価されていないカンパニーにいるより、役につくべく他にゆく、というように。26歳でプルミエール・ダンスーズというのは悪くありません。

Q:2017年にはカルポー・ダンス賞、2020年にはアロップ・ダンス賞を授けられています。

A:そうです。不平をいうことは私には何もありません。とても満足しています。

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