パリ・オペラ座バレエ団2022年昇級コンクールの結果【男子編】

ワールドレポート/パリ

大村 真理子(在パリ・フリーエディター) Text by Mariko OMURA

パリ・オペラ座バレエ団コール・ド・バレエ昇級コンクールの男子の部が予定通り、11月4日10時30分から開始された。コリフェ3席を巡り18名のダンサーが、スジェ2席を巡り7名が、そしてプルミエ・ダンスール1席を巡り7名が参加。カドリーユは最近入団したダンサーそれぞれの力を確認できる機会となり、そしてスジェの7名はダンサーとして各人各様の魅力があるので、なかなか見応えのあるコンクールだった。なお昇級者6名の顔ぶれを見ると、パリ・オペラ座バレエにおけるダイバーシティが着々と進んでいることが明快だ。

スジェからプルミエ(1席)
課題曲 『ライモンダ』(ヌレエフ/プティパ)第三幕ジャン・ドゥ・ブリエンヌのヴァリアション

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ジェレミー=ルー・ケール
Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

昇級決定者はジェレミー=ルー・ケール。彼の入団は2011年というから、ユーゴ・マルシャン、ジェルマン・ルーヴェの同期である。ジェレミー=ルーがコリフェに上がったのは、彼ら二人より1年早い2013年で、その翌年にはヴァルナ・コンクールでブロンズ賞を得ている。彼がスジェに上がったのは2015年。以来彼のプルミエ昇進は待たれていたのだが、前々回は彼の不参加が惜しまれ、前回はプルミエに空席がなかった。今回、すらりとした長身を生かし、ノーブルにテクニックもしっかりと課題曲を踊った彼。他の参加者に大きく差をつけた感があり、さらに自由曲に選んだ『ラ・スルス(泉)』の第二幕ジェミルのヴァリアションも技術的に高いレヴェルの出来だった。すでに『オネーギン』のレンスキーおよびグレミン公爵、『白鳥の湖』のロットバルト、『ロメオとジュリエット』のティバルトなどプルミエ・ダンスールの役を経験しているだけのことはある。2年前にプルミエにあがっていても不思議のない実力のある彼。今後、アーティスティック面をより豊かにすることがエトワールを目指す彼の課題だろう。
3位にとどまったがダニエル・ストークス(2005年入団)の課題曲も、テクニック面も表現の点でも素晴らしい出来だった。この世代のダンサーがこうして健闘する姿を見るのは嬉しいものだ。アクセル・イボ(2003年入団)やヤニック・ビタンクール(2007年入団)を久しくコンクールでみていないような気がする。前回のコンクールでスジェに上がったニコラウス・チュドランは7月の怪我からまだ回復していないようで、不参加だった。またアクセル・マリアーノはプログラムには予定されていたが欠場。怪我から1か月半前に復帰したものの、足首の痛みがあり万全の体制で臨めないゆえに参加を断念したと自身のインスタグラムでメッセージしていた。

参加者7名の6位までの順位
1. Jérémy-Loup Quer (ジェレミー=ルー・ケール) 昇級
2. Florent Melac (フロラン・メラック)
3. Daniel Stokes (ダニエル・ストークス)
4. Andrea Sarri (アンドレア・サーリ)
5. Antoine Kirscher (アントワーヌ・キルシェール)
6. Thomas Docquir(トマ・ドキール)

コリフェからスジェ(2席)
課題曲『ラ・バヤデール』(ヌレエフ/プティパ)第二幕ソロールのヴァリアション

昇級したのはジャック・ガシュトゥットとアレクサンドル・ガースだ。ジャックは2017年に入団し、今年4月のコンクールでコリフェに上がったダンサーである。課題曲は少々雑な感じがあり傑出した出来というわけではなかったが、自由曲に選んだ『ラ・シルフィード』のジェームスのヴァリアションではつま先も美しく、脚力を生かして実に軽やかに弾び、音楽にぴったりと乗った目に鮮やかなパフォーマンスだった。2位で昇級したアレクサンドル・ガースは2007年に入団し、2011年にコリフェに上がった。ローラン・プティの『ランデヴー』で若者役、ニコラ・ル・リッシュの『カリギュラ』と主役に抜擢される機会にも恵まれている。最近ではプレルジョカージュの『ル・パルク』でコンテンポラリーの動きの中にもエレガンスがこめられた美しいダンスを見せた。コンクールではベジャールの『ギリシャの踊り』を自由曲に選んだ彼。コンクールの結果以上に、舞台空間を占領して自分のために踊る幸福感を求めて踊っていると感じられるパフォーマンスを披露した。それにより、優れたダンサーここにありと存在を示したのだ。これまでコール・ド・バレエの中でもキビキビと男性的な動きで抜きんでていたが、スジェとなってソリスト、ドゥミ・ソリストとしてより一層の良い配役を彼のために期待したい。
さて3位のユーゴ・ヴィリオッティは『ドン・キホーテ』ではサンチョ・パンサ、プティの『ランデブー』では背中にコブのある男といったドゥミ・キャラクター的役に配役され、クラシックよりはコンテンポラリーというダンサーだ。しかし、今回の課題曲はそうしたイメージを打ち破らんとばかりにクラシック作品における技術と優美さを見せたことが強く印象に残った。
なお、前回のコンクールでジャックと一緒にコリフェにあがったシュン・ヴィン・ラムは『赤と黒』の公演で怪我をしてしまい、コンクールにも参加できず。さぞ無念なことだろう。

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ジャック・ガシュトゥット
Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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アレクサンドル・ガース
Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

参加者7名の6位までの順位
1. Jack Gasztowtt (ジャック・ガシュトゥット)昇級
2. Alexandre Gasse (アレクサンドル・ガース)昇級
3. Hugo Vigliotti (ユーゴ・ヴィリオッティ)
4. Yvon Demol (イヴォン・ドゥモル)
5. Antonio Conforti (アントニオ・コンフォルティ)
6. Mathieu Contat (マチュー・コンタ)

カドリーユからコリフェ(3席)
課題曲『白鳥の湖』(ヌレエフ/プティパ)第一幕パ・ド・トロワのヴァリアション

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ギヨーム・ディオップ
Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

ヌレエフによるテクニック満載のヴァリアションゆえ、課題曲には多くのダンサーが少々苦戦気味だった。そんな中で余裕のパフォーマンスを披露したのが一位で昇級を決めたギヨーム・ディオップである。前回のコンクールではコリフェ2席のところ、彼は3位と惜しいできだった。今回の自由曲には『白鳥の湖』第一幕からプリンスのスローのヴァリアションを選び、若く勢いが良い堂々としているだけではなく芸術面でも見せるべきものを持っていることを証明。今年5月にジェルマン・ルーヴェに代わって『ロメオとジュリエット』の主役を踊ることになり、パートナーを務めたレオノール・ボラックのサポートも大きかっただろうが、彼はカドリーユとは思えぬしっかりとした舞台を作り上げて上層部の期待に応えた。年末公演『ドン・キホーテ』でもバリジオとエスパダの代役に彼は入っている。バジリオに配役されているのはマチアス・エイマン、ジェルマン・ルーヴェ、ユーゴ・マルシャン、ポール・マルク。前者2名は怪我で降板中であるゆえに、代役のギヨームが正式配役に上がり観客を前に活躍できる機会があるかもしれない。

2位のニコラ・ディ・ヴィコはその名前が物語るようにイタリア人である。2018年から臨時採用でコール・ド・バレエとして舞台にたっている彼。外部入団コンクールを重ね、やっと今年正式入団に至ったというパリ・オペラ座バレエ団へ大きな想いを抱くダンサーのようだ。課題曲はしっかりとしたテクニックで滑らかに踊る姿が目に快適だった。自由曲の『白鳥の湖』第3幕からプリンスのヴァリアションは豊かな音楽性の持ち主であることを証明した。これからの彼の活躍が楽しみだ。3位のイザック・ロペス=ゴメスは2004年にオペラ座バレエ学校に入り、2014年に入団という純粋培養ダンサーである。安定したテクニックで回転も力強く課題曲を踊った彼。4、5、6位の顔ぶれをみると次の世代の台頭が感じられる今、入団7年目の良い時期に彼はコリフェに上がったといえそうだ。4位のジョルジオ・フーレスはアレッシオ・カルボーネ率いる『パリ・オペラ座のイタリア人』のメンバーで、ソー、回転といった超技巧に優れたダンサーとして『海賊』を自身のレパートリーにしている。今回の課題曲でも、お手の物といった余裕でトゥーアンレールを披露。自由曲にはキャラクターを要する『アレポ』を選び、強い個性を光らせてみせた。次回に期待しよう。4位のマリウス・ルビオは2019年に入団したダンサー。課題曲は技術面では危ない箇所もあったものの、のびのびとした踊りでステージを楽しんでいる様子が印象的だった。自由曲の『白の組曲』のマズルカでは、力強さと同時に繊細さを感じさせ大きな可能性を感じさせた。6位のルー・マルコー=ドゥアールは『play』では現在スジェのアンドレア・サーリの役を受け継ぎ、大活躍。自由曲にクリスタル・パイトの『ボディ&ソウル』を選んでいるように、クラシックよりコンテンポラリー作品でより力を発揮する獣的しなやかさを持つダンサーである。

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ニコラ・ディ・ヴィコ
Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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イザック・ロペス=ゴメス
Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

参加者18名の6位までの順位
1. Guillaume Diop (ギヨーム・ディオップ)昇級
2. Nicola di Vico (ニコラ・ディ・ヴィコ) 昇級
3. Isaac Lopes Gomes (イザック・ロペス=ゴメス) 昇級
4. Giorgio Foures (ジョルジオ・フーレス)
5. Marius Rubio (マリウス・ルビオ)
6. Loup Marcault-Derouard(ルー・マルコー=ドゥルアール)


審査員は以下の通りだった。

パリ・オペラ座総裁:Alexander Neef
バレエ団芸術監督:Aurélie Dupont
バレエ・マスター:Sabrina Mallem
ゲスト・コレグラファー:Carolyn Carlson
ゲスト・エトワール:Cyril Atanassoff
予備: Béatrice Martel

抽選で選ばれたカンパニー団員
Héloïse Bourdon
Pablo Legasa
Cyril Mitilian
Julia Cogan
Grégory Dominiak

予備
Léonore Baulac
Ludmila Pagliero
Lucie Matéci
Julien Cozette
Lucie Fenwick

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