パリ・オペラ座バレエ団2022年昇級コンクールの結果【女子編】

ワールドレポート/パリ

大村 真理子(在パリ・フリーエディター) Text by Mariko OMURA

コール・ド・バレエのダンサーたちの昇級コンクール。前回は秋の予定が延期されて、今年4月に開催されたが、今回は通常通り秋の開催となり、日程は10月30日が女子、11月4日が男子だった。参加者は『Play』『赤と黒』の公演と12月の公演のリハーサルもこなしながら、コンクールの準備をしたことになる。前回のコンクールは公開ではなく、さらにプルミエ/ダンスールの空席が男女共なかったが、今回は公開コンクールの上、男女それぞれ1席の空席があったため、外の目にも興味をそそられるものだった。なお、今年の入団者たちはまだ正式採用前なのでコンクールには参加できず。

女子コール・ド・バレエ(10月30日)
コリフェ2席をめぐり17名が参加し、スジェ2席を巡り7名が、そしてプルミエール1席をめぐり10名が参加し、熱気を帯びたコンクールが展開された。昇級した5名は偶然にも全員が『赤と黒』で、ほぼ毎晩のように23時近くまで舞台で踊っているダンサーたちである。彼女たちの健闘を多いに讃えたい。

スジェからプルミエール(1席)
課題曲『眠れる森の美女』(ヌレエフ)第二幕、オーロラのヴァリアション''ヴィジョン''

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ロクサーヌ・ストジャノヴ
Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

昇級決定1名はロクサーヌ・ストジャノヴ(2010年入団)。DVD『未来のエトワールたち パリ・オペラ座バレエ学校の1年間』の視聴者たちは、彼女が入団コンクールに落ちて泣いている姿を覚えていることだろう。その中の大勢が二度目の挑戦で入団できた彼女を応援していて、今回の昇級に安堵の胸をなでおろす結果となった。2018年にスジェに上がったロクサーヌ。2年前、シルヴィア・サンマルタンが1席のプルミエールを獲得したコンクールで彼女は2位という惜しい結果に終わり、またビアンカ・スクダモアとナイス・デュボスクという強敵も同じクラスに上がってきていたが、今回、見事に昇級を決めたのだ。
彼女が選んだ自由曲は、ローラン・プティの『ノートルダム・ド・パリ』からエスメラルダのヴァリアション。ピュアなクラシックのテクニックについては課題曲で披露し、この選択で個性、演技の面を見せる作戦は功を奏したといえる。10年近いコール・ド・バレエ歴で、クラシック作品もコンテンポラリー作品もバランス良く配役されている彼女は、オペラ座の現芸術監督が抱く未来のオペラ座にふさわしい人材なのかもしれない。7月の公演『若きダンサーたち』ではクリストファー・ウィールドンの『After the rain』をフロラン・メラックと踊り、完成度の高いパフォーマンスで公演のレヴェルを高め、また『赤と黒』ではピエール・ラコットが原作の人物をふくらませてストーリーの展開を託すという重要なエリザ役で、好評を得ている。こうしたことも今回の昇級の後押しとなったのだろう。

惜しくも2位に甘んじることになったビアンカ・スクダモアについては、課題曲では技術面での出来の良さ、表情の豊かさが印象に残った。そして自由曲のロビンズ『アザー・ダンシーズ』の最初のヴァリアションでは、明るさをステージ上にもたらし、彼女のトレードマークである愛らしい笑顔は相変わらずだが、幼さより成熟へと向かう女性らしさも交えて、目に気持ちのよい踊りであっただけに1席しかプルミエールの空席がなかったのが実に残念だ。
ナイス・デュボスクは2018年2月の公演『オネーギン』でカドリーユながらオリガ役に抜擢されて以来、未来のエトワールとの呼び声高いダンサーである。課題曲はポエジーを感じさせ、1つ1つのステップに余韻を残す素晴らしいできだったが、順位は6位に留まった。

参加者10名の6位までの順位
1- Roxane Stojanov(ロクサーヌ・ストジョノヴ) 昇級決定
2- Bianca Scudamore(ビアンカ・スクダモア)
3- Letizia Galloni(レティシア・ガロニ)
4- Eléonore Guérineau(エレオノール・ゲリノー)
5- Ida Viikinkoski (イダ・ヴィキンコスキー)
6- Naïs Duboscq(ナイス・デュボスク)

コリフェからスジェ(2席)
課題曲『ラ・バヤデール』(ヌレエフ)第二幕、ガムザッティのヴァリアション

14名のコリフェから7名が参加。2席のスジェの空席を獲得したのは、前回のコンクールで共にカドリーユから上がったブルーエン・バティストーニ(2017年入団)とイネス・マッキントッシュ(2019年入団)である。ブルーエンもイネスも課題曲では何よりも舞台の出にドラマを感じさせたのが、他の参加者との大きな違いだった。とりわけブルーエンはガムザッティのプリンセス然とした威厳もこめ、ステージ上での存在感を際立たせた。彼女が選んだ自由曲はセルジュ・リファールの『白の組曲』からシガレットのヴァリアションで、音楽性豊かに滑らかに踊った。イネスの自由曲はジョン・ノイマイヤーの『マニフィカート』。指先、つま先に表情をこめた力強さもあるパフォーマンスを見せた。次に彼女たちが目指すのは、プルミエールのポスト。空席が2つあり、この勢いで二人っそろって上がれる機会があることを祈りたい。

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ブルーエン・バティストーニ
Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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イネス・マッキントッシュ
Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

参加者7名の6位までの順位
1- Bleuenn Battistoni (ブルーエン・バティストーニ)昇級
2- Inès McIntosh (イネス・マッキントッシュ)昇級
3- Célia Drouy (セリア・ドゥルーイ)
4- Hohyun Kang (ホーユン・カング)
5- Nine Séropian (ニンヌ・セロピアン)
6- Victoire Anquetil (ヴィクトワール・アンクティル)

カドリーユからコリフェ(2席)
課題曲『リーズの結婚』(アシュトン)。第一幕、タブロー2からリーズのヴァリアション

昇級したのはクレール・ガンドルフィとクララ・ムセーニュの2名。クレールはパリ・オペラ座バレエ学校で2年学んだ後、2006年に入団している。15年のキャリアゆえか課題曲ではガルニエ宮の舞台空間を享受している様子が伺えた。自由曲の『ジュエルズ/エメラルド』で、彼女はフレンチ・エレガンスあふれる安定したパフォーマンスを見せ、コンクールではなく公演を観ている気分にさせられた。これまでコール・ド・バレエの中でも配役に恵まれていた風もないが、着々と積み上げてきた実りが昇級につながったのだろう。成熟を得ることで自信がつく遅咲きの花もある、という1つの例として、過去にはジスレーヌ・レイシェーが17回目のコンクールでコリフェに上がっている。
2位でコリフェに上がったクララはクレールと逆に、2020年入団という新人である。今春に開催されたコンクールが彼女にとっては初参加で、3名のコリフェの空きがあるところ彼女は4位。今回の結果は下馬評通りといってもいいだろう。課題曲は緩急のメリハリが美しく、他を制する出来ばえだった。自由曲の『白の組曲』からセレナーデを選び、しっかりとしたテクニックの持ち主であることをアピール。身体の内から弾けでるエネルギー、美しいポール・ド・ブラでこれからも昇級を続けてゆくだろう。彼女はケイタ・ベラリ、オニール 八菜と同じく日本人のハーフ。そして100パーセント日本人はサキ・クワバラに加え、今年の入団者の中にも男子ダンサーがいる。パリ・オペラ座バレエ団はアフリカ勢に劣らず、日本人パワーも勢いをつけているようだ。

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クレール・ガンドルフィ
Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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クララ・ムセーニュ
Photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

参加者17名の6位までの順位
1- Claire Gandolfi (クレール・ガンドルフィ) 昇級
2- Clara Mousseigne(クララ・ムセーニュ) 昇級
3- Luna Peigné (ルナ・ペーニュ)
4- Lucie Devignes (リュシー・ドゥヴィーニュ)
5- Ambre Chiarcosso (アンブル・キアルコソ)
6- Apolline Anquetil (アポリーヌ・アンクティル)

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