パリ・オペラ座のラコットによる注目の新作バレエ『赤と黒』がスタート、主役レナール夫人を踊るオニール八菜に最新情報を聞く

ワールドレポート/パリ

三光 洋 Text by Hiroshi Sanko

89歳のベテラン、ピエール・ラコット振付による新作バレエ『赤と黒』のプルミエが10月16日に行われた。その二日後、10月18日にガルニエ宮の目の前にあるカフェ・ド・ラ・ぺでオニール八菜さんにお会いした。

ピエール・ラコットは『ラ・シルフィード』『パキータ』(1971年、主役はラコット夫人のギスレーヌ・テスマー)といった19世紀ロマンチック・バレエの名作を綿密な考証作業を積み重ねることで、今日の舞台に再現してきた。そして今回は、フランス文学の大作スタンダールの小説『赤と黒』にインスピレーションを受けて、全3幕の大作バレエに仕立て上げた。文学作品を素材にしている点ではジョン・クランコが振付けた『オネーギン』やジョン・ノイマイヤーの『椿姫』といった作品の系列に連なることになる。
主役のレナール夫人役を踊るオニール八菜さんがパリ・オペラ座バレエ団2021・22年シーズンで最も注目されている作品の誕生について話してくださった。

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© 三光洋

オニール 八菜 昨年の3月にラコットさんが私とマチュー(・ガニオ)を相手に振付の作業を始めたのですが、すぐコロナ禍によってパリはロック・ダウンになってしまいました。それで、ズームを使ってリハーサルを進めました。ラコットさんは自分が頭に描いているようにならないと気分を害されますので、マチューと二人で準備ができたところでズームで見ていただくというやり方でよかったと思います。久しぶりにクラシカルの新作のクリエーションでマチューと踊れて、とっても楽しめましたしエキサイティングでした。今年の3月には振付はすべて終わっていました。(ガルニエでの公演ではなく、作品を作るときにマチュー・ガニオといっしょにできて楽しかったという意味)

ーープルミエの公演でアクシデントがあったという話ですが。

オニール 八菜 マチューが第1幕の最初のヴァリエーションで肉離れを起こしてしまって、フロリアン(・マニュネ)が代わって踊りました。ダンサーにはよくある仕方がない事故ですが、配役ががらりと変わることになりました。私は最初レナール夫人を二回踊る予定だったのが、今日の午後にはいったん一回だけの予定になってしまいました。でも、最終的には出演日は変わり(11月2日と4日)、二回踊ることができるようになりました。

ーーラコットさんが白羽の矢を立てたマチュー・ガニオの降板は本当に残念ですね。フロリアン・マニュネは八菜さんが見ていていかがでしたか。

オニール 八菜 フロリアンは準備ができていて、力強い良い踊りでした。ジュリアン役は出番が多いので、ダンサーは大変なのです。

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第2幕より、舞踏会のシーン © Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

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マチュー・ガニオに代わってジュリアン・ソレルを踊るフロリアン・マニュネ © Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ーーオニール 八菜さんがレナール夫人を踊る時のパートナーはマチアス・エイマンですね。

オニール 八菜 いいえ、マチアスはハロルド・ランダー振付の『エチュード』(9月の開幕ガラ公演)で怪我をしてしまって、踊れなくなってしまったのです。私のパートナーはフロリアンですけれど、彼はアマンディーヌ(・アルビッソン)とも踊り、全部で七回にもなるので「頑張ってね」と言って励ましています。(リュドミラ・パリエロと踊る)ジェルマン・ルーヴェは「彼ができなかったら、僕が踊るよ」と言ってくれたので、ちょっと安心しました(笑)。ジュリアン役は相手をリフトする場面が多いので大変ですけれど、リュドミラは軽いので、ジェルマンにはそれほど負担にはならないと思います。

ーージュリアン・ソレルとレナール夫人という二人はどんな人だと八菜さんは思われますか。

オニール 八菜 レナール夫人はカトリックの熱心な信者で、田舎のですがお嬢様、世間知らずのまま結婚をして3人の子供を育てています。とても幸せに暮らしているナイーブな女性です。ジュリアンは若いアンビシャスな頭のいい男性ですね。

ーーマチアス・エイマンとのパ・ド・ドゥが見られないのは残念ですね。レナール夫人の役は踊って見て、どのように感じられましたか。

オニール 八菜 振付はクラシックで、踊っていて楽しい役です。
パリ・オペラ座ではかなり長い間、コロナ禍で踊る機会が限られていましたが、無観客でもアンジュラン・プレルジョカージュ振付の『ル・パルク」は素敵な作品でした。とてもきれいなモーツアルトの曲、「ピアノとオーケストラのための協奏曲」が使われています。
その後、夏の前には観客を前にしてローラン・プティの『カルメン』を踊りました。それ以外には大きな役はしばらくなかったので、レナール夫人の役が付いて本当にうれしいです。レナール夫人の恋敵になるエリザは、初日はヴァランティーヌ・コラサンテでしたけれど、すごく意地悪な感じになっていました。私の時はナイス・デュボスクなので、また全然感じが違います。

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アマンディーヌ・アルビッソン(レナール夫人)、ステファン・ブリヨン(レナール氏) © Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

ーー同じ役でもダンサーによって、描かれる人物像が変わってくるのですね。八菜さんから見て、初日にレナール夫人を務めたアマンディーヌ・アルビッソンはいかがでしたか。

オニール 八菜 アマンディーヌはていねいな踊りと演技で、夫人の雰囲気が出てよかったと思います。

ーー今日はお忙しいところ、お時間を割いていただいてありがとうございました。八菜さんの踊るレナール夫人を楽しみにしています。

オニール 八菜の出演日の主要配役は以下の通り。
フロリアン・マニュネ(ジュリアン・ソレル)
レオノール・ボーラック(侯爵令嬢マチルド)
ナイス・デュボスク(エリザ)

『赤と黒』公演はフランス国営テレビにより録画され、ヨーロッパの映画館で放映される。マチュー・ガニオ(ジュリアン・ソレル)、アマンディーヌ・アルビッソン(レナール夫人)、ミリアム・ウルド=ブラーム(侯爵令嬢マチルド)、ステファン・ブリヨン(レナール氏)の予定だったが、キャスト変更によりユゴー・マルシャン(ジュリアン・ソレル)、ドロテ・ジルベール(レナール夫人)、ビアンカ・スキュダモア(侯爵令嬢マチルド)、ステファン・ブリヨン(レナール氏)となった。ガニオとエイマンの怪我だけでなく、初日に侯爵令嬢を踊ったミリアム・ウルド=ブラームとヴァランティーヌ・コラサンテも降板となった。この二人がキャンセルとなった理由はわかっていない。
全15回の公演が行われるが、ジュリアン・ソレルは、フロリアン・マニュネが7回、ユゴー・マルシャンとジェルマン・ルーヴェがそれぞれ4回、レナール夫人はアマンディーヌ・アルビッソンが5回、ドロテ・ジルベールとリュドミラ・パリエロがそれぞれ4回、オニール 八菜が2回踊ることになった。

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リハーサルより © Opéra national de Paris/ Svetlana Loboff

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