パリ・オペラ座バレエ団 2021年昇級コンクールの結果

ワールドレポート/パリ

大村 真理子(在パリ・フリーエディター) Text by Mariko OMURA

毎年開催されるパリ・オペラ座バレエ団コール・ド・バレエの2021年度昇級コンクール。2020年12月に開催予定だったが延期され、4月15日に男性ダンサー、4月17日に女性ダンサーという日程で開催された。
今回は男女ともにプルミエ・ダンスールに空席がなかったため、スジェのダンサーは参加していない。空きポストは男性コリフェ2席、女性コリフェ3席、男性スジェ2席、女性スジェ2席。それを目指し、無観客のオペラ・ガルニエで審査員だけを前にダンサーたちは課題曲、自由曲を踊った。コンクールの数日前にAROP会員向けに行われたオン・ライン・インタビューでオーレリー・デュポン芸術監督が語ったことによると、劇場閉鎖中でオペラ・ガルニエでは公演がないため、ダンサーたちはガルニエの舞台で稽古をすることができたそうだ。これは傾斜のあるステージに慣れていない若いダンサーたちのストレス軽減に多いに役立ったに違いない。

4月15日の結果は次の通りである。コリフェからスジェに上がった男性ダンサー2名はアンドレア・サーリ(2016年入団)とニコラウス・チュドラン(2018年入団)。課題曲はパトリス・バール版『海賊』のヴァリアションだった。
アンドレア・サーリは2019年度のコンクールで、カドリーユからコリフェにあがったダンサーだ。翌年の2020年度のコンクールでは課題曲、自由曲ともに良いパフォーマンスを見せたのだが、スジェは空きが3席のところ4位だった彼は昇級がかなわなかった。今回は見事1位での昇級。コンテンポラリー作品でも力を発揮するテクニシャンの彼は、自由曲にベジャールの『アレポ』を選んだ。3月から7月に公演が延期された「若手ダンサーたち」公演では、クロード・ブルマションの『Les Indomptés』、そしてアラン・ルシアン・オイエンの『And Carolyn』に配役されている。ちなみに、後者は3年前のワールド・バレエ・フェスティバルで創作者とオーレリー・デュポンが踊った作品である。
ニコラウス・チュドランは2020年1月にコリフェにあがったが、その後オペラ座では公演が次々と中止されているため、コリフェとしての活躍の場に恵まれず。もっとも3月に「若きダンサーたち」が無観客で踊られた際に、怪我で降板したジョルジョオ・フーレスに代わり彼は『パリの炎』のパ・ド・ドゥを公演前日に覚えて、本番に挑んだ。コンクールの出来もよかったに違いないが、こうした要素も年間の仕事ぶりとして評価対象となったのだろう。2012年のローザンヌ国際バレエコンクールの受賞者である彼は、ライプチヒのカンパニーを経由し、オペラ座に入団したダンサーだ。初回のコンクールでは6位にも入らなかったが、クラシック・ダンサーとしての素晴らしい可能性を見せた。今回彼が選んだ自由曲はマニュエル・ルグリの『ドニゼッティ・パ・ド・ドゥ』。正確なテクニックで優美に踊った姿が想像できる。
コリフェのコンクールには実績の長いダンサーたちも参加しているが、彼らを差し置き昇級を手にしたのは若手2名だった。この二人がスジェとなったことで、プルミエ・ダンスールのわずかな空席を競うスジェたちの今年11月に開催されるコンクールは、かなり興味深いものとなるのではないだろうか。

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アンドレア・サーリ(スジェ)photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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ニコラウス・チュドラン(スジェ)photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

カドリーユからコリフェに上がった2名はシュン・ヴィン・ラム(2015年入団)とジャック・ガシュトゥット(2017年入団)。課題曲は『ラ・シルフィード』からジェームスのヴァリアションだった。
1位であがったシュン・ヴィン・ラムは、毎回自由曲にクラシック作品を選び健闘してきた。今回はジャン・ギヨーム・バールの『ラ・スルス(泉)』からザエルのヴァリアション。優れたテクニックの持ち主で、小柄で華奢な身体の軽やかさが生かして回転も跳躍もお手の物である。彼ならではの持ち味を発揮できる良いセレクションをしたといえる。「若きダンサーたち」では『眠れる森の美女』のブルーバードで軽快に跳ぶことだろうし、また『Les Indomptés』ではコンテンポラリーにも優れていることを証明するだろう。
2位で上がったのはジャック・ガシュトゥット。入団間もない2018年4月に、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルの『Die grosse Fuge』で力強さと優れた身体能力を発揮し、ステージを満喫していた姿が印象的だった。彼の自由曲はニコラウスと同じ、『ドニゼッティ・パ・ド・ドゥ』。弾けるようなパフォーマンスだったろう。「若きダンサーたち」では、『白鳥の湖』のロットバルト、プレルジョカージュの『ロメオとジュリエット』に配役されている。

昨年後半から、パリ・オペラ座におけるダイバーシティがメディアの話題となることが多い。偶然とはいえ、今回の男性昇級者4名は誰もフランス人ではないという結果となった。

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シュン・ヴィン・ラム(コリフェ)
photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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ジャック・ガシュトゥット(コリフェ)
photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

4月17日に開催された女性ダンサーのコンクールの結果は、次の通りだ。コリフェからスジェに上がったのは、カミーユ・ボン(2015年入団)とクレマンス・グロス(2013年入団)。課題曲はジャン・ギヨーム・バール版『海賊』オダリスクのパ・ド・トロワの第三ヴァリアションだった。
カミーユ・ボンは前回の3席のスジェを目指すコンクールで、たいそう優美に『白鳥の湖』の第二幕のヴァリアションを披露。コンクールでのパフォーマンスは3位でスジェに上がったナイス・デュボスクを超えていたように見えたが、ナイスの日頃の活躍ぶり、スター性に敵わなかったのかカミーユは4位に終わり昇級できなかった。今回は自由曲にバランシンの『ジュエルズ』から「エメラルド」の最初のヴァリアションを選び、今回は一位で昇級。「若きダンサーたち」では『白鳥の湖』に配役されている。
2位で上がったクレマンス・グロスは長くカドリーユを務め、前回のコンクールでコリフェに上がった。今回は、その時に一緒にあがったホーユン・カング、セリア・ドゥルーイを差し置いて、スジェに昇級を決めた。コンテンポラリー作品で素晴らしい魅力を発揮するのは前回のコンクールで証明済である。今回はジョン・ノイマイヤーの『椿姫』からマノンのヴァリアションという珍しい選択をし、自身の別の可能性を見せる戦略だったようだ。「若きダンサーたち」ではアンドレア・サーリと『And Carolyn』を踊る。若手の中では舞台歴も長く、またサミュエル・ムレーズ率いるグループ「トロワジエム・エタージュ」でコンテンポラリー作品の経験を増やしている彼女は、芸術監督が組むプログラムに今後重用されてゆくことだろう。

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カミーユ・ボン(スジェ)
photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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クレマンス・グロス(スジェ)
photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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イネス・マッキントッシュ(コリフェ)
photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

カドリーユからコリフェに上がった3名は、イネス・マッキントッシュ(2019年入団)、ブルーエン・バティストーニ(2017年)、ニンヌ・セロピアン(2019年)。課題曲はポリアコフ版『海賊』のヴァリアションだった。
一位であがったイネス・マッキントッシュは2019年に入団し、今回が最初のコンクールだった。バレエ学校の卒業公演では『二羽の鳩』の主役を踊り、「若きダンサーたち」では『パリの炎』に配役されているようにクラシック作品を任されるダンサーのようだ。自由曲に彼女が選んだのは、セルジュ・リファールの『白の組曲』からシガレットのヴァリアション。インスタグラムを積極的に活用し、セルフプロデュース力にも優れる彼女は、これからの時代を代表するダンサーといえる。
ブルーエン・バティストーニにとって、これは3回目のコンクールだった。クラシック作品を自由曲に選び、毎回、喜びを感じさせる気持ちのよいパフォーマンスを見せている彼女。今回、自由曲に選んだのはジェローム・ロビンズの『フォー・シーズンズ』から春のヴァリエーションだった。爽やかで明るい彼女の魅力が生きるセレクションだろう。「若きダンサーたち」で踊る『ジェンツァーノの花祭り』を楽しみに待ちたい。
三位であがったのはニンヌ・セロピアン。入団は2019年だが、それ以前、契約団員だったことから入団年である前回のコンクールにも参加している。昇級しなかったものの、参加した14名のカドリーユの中で6位と健闘した。11月にオペラ座のfacebookで有料公開されたメディ・ケルクーシュによるオペラ座のための初創作『Et si』では、先輩ダンサーたちに混じり彼女もステージでエネルギーを爆発。射るような視線が印象的なダンサーだ。前回の『エチュード』に続き、今回は『パキータ』のグラン・パのヴァリアションというように、自由曲はクラシックそのものを選び、コンテンポラリーにもクラシックにも優れていることをアピール。「若きダンサーたち」では今回コリフェにあがったジャク・ガシュトゥットをパートナーに、プレルジョカージュの『ロメオとジュリエット』に配役されている。この二人がそれぞれ死者を相手に踊るパフォーマンスは、なかなかの見ものだろう。

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ブルーエン・バティストーニ(コリフェ)
photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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ニンヌ・セロピアン(コリフェ)
photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

今回の昇級者たちは、在団年数も短く、また劇場封鎖のためにオペラ座のステージで実力を発揮する機会に まだ多く恵まれていない。「若きダンサー」たちで彼らが配役されている作品から、バレエ団の上層部が彼らに期待していることを垣間見ることができるはずだ。なお、「若きダンサーたち」が公演予定の3月に映像化されず、7月に延期されたのは、無観客の劇場ではなく、観客を前に踊るダンサーを見たい、という芸術監督の願いからだという。クリストファー・ウィールドンの『アフター・ザ・レイン』は経験を積んだダンサーが踊るべき作品であるとの理由からフロラン・メラック(スジェ)とロクサーヌ・ストヤノフ(スジェ)が配役されているが、芸術監督は基本として25歳以下くらいのダンサーを選んでいる。今回のコンクールで昇級したダンサーたちがどのような舞台を見せるか。公演の実現を期待したい。

今回のコンクール結果は通常通りに裏口に張り出されることがなかったため、各クラスの6位までの順位は正式には発表されていない。非公式情報なので誤りもあるかもしれないが、最後に紹介しておこう。

男性コリフェ(スジェ空席2)課題曲/パトリス・バール版『海賊』のヴァリアション
1.Andrea Sarri(アンドレア・サーリ)昇級
2.Nikolaus Tudorin(ニコラウス・チュドラン)昇級
3.Antonio Conforti(アントニオ・コンフォルティ)
4.Yvon Demol(イヴォン・ドゥモル)
5.Alexandre Gasse(アレクサンドル・ガス)

男性カドリーユ(コリフェ空席2)。課題曲/『ラ・シルフィード』からジェームスのヴァリアション
1.Chun-Wing Lam(シュン・ヴィン・ラム)昇級
2.Jack Gasztowtt(ジャック・ガシュトゥットゥ)昇級
3.Guillaume Diop(ギヨーム・ディオップ)
4.Alexandre Boccara(アレクサンドル・ボカラ)
5.Millo Avêque(ミロ・アヴェック)
6.Enzo Saugar(エンゾ・ソガール)

女性コリフェ(スジェ空席2)課題曲/ジャン・ギヨーム・バール版『海賊』オダリスクのパ・ド・トロワの第三ヴァリアション
1.Camille Bon(カミーユ・ボン)昇級
2.Clémence Gross(クレマンス・グロス)昇級
3.Hohyun Kang(ホーユン・カング)
4.Célia Drouy(セリア・ドゥルーイ)
5.Jennifer Visocchi(ジェニファー・ヴィゾッキ)
6.Juliette Hilaire(ジュリエット・イレール)

女性カドリーユ(コリフェ空席3)課題曲/ポリアコフ版『海賊』のヴァリアション
1.Inés MaIntosch(イネス・マッキントッシュ)昇級
2.Bleuenn Battistoni(ブルーエン・バティストーニ)昇級
3.Nine Seropian(ニンヌ・セロピアン)昇級
4.Clara Mousseigne(クララ・ムーセーニュ)
5.Ambre Chiarcosso(アンブル・キアルコッソ)
6.Lise Gaillard-Bortolotti(リズ・ガイヤール=ボルトロッティ)

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