改修されたガルニエ宮で「ガラ」公演は無料配信されたが、新型コロナ禍中のフランスの状況は・・・

ワールドレポート/パリ

三光 洋 Text by Hiroshi Sanko

Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

« Gala » de l'ouverture de la saison & la situation en France sous Covid

ヨーロッパでコロナ変異種への不安が増す中、1月後半にフランスでは三度目の都市封鎖(ロックダウン)が行われるのではないか、という懸念が広がっていた。一時は医療関係者や厚生大臣の発言から「都市封鎖は不可避」との報道が流れたが、1月29日金曜日の夜8時からカステックス首相がエリゼ大統領府において記者会見を行い、大方の予想に反して、従来の夜間外出禁止令を強化するという政府決定が発表された。具体的には、まずEU以外の国(日本もここに含まれる)との出入国は特例を除いて禁止された。すでに日仏間の飛行機便は大幅に減便となっており、この措置により更に運行本数が減る見通しとなった。空港ならび港、国際鉄道到着駅での出入国審査も強化され、今まではなかった入国者への一週間の隔離が科せられることになった。こうして、日本からのフランスへの入国とフランスからの日本への出国は事実上不可能になってしまった。またフランス国内では2万平方メートルを超えるショッピングセンターが、薬局と食料品店を除いて閉鎖された。
この結果、劇場やコンサートホールは閉鎖されたままだが、従来通りリハーサルと無観客の録画は継続できることになった。ただし、新型コロナの新規患者数は平日で2万人を超えたままであるだけでなく、感染力の強い英国型変異種の占める割合がパリ周辺では20パーセントになるなど、予断を許さない状況そのものは変わっていない。劇場公演再開の目途が立たないままだ。

昨年夏からの舞台機構改修工事を終えたガルニエ宮では当初2020年9月22日に予定され、2020・2021年のオペラ座バレエシーズンの開幕を飾るはずだったパリ・オペラ座振興会(AROP)との共催による「ガラ」公演が1月27日に無観客で録画され、今冬にスタートしたオペラ座のプラットフォーム「自宅でオペラを」(L'Opéra chez soi https://chezsoi.operadeparis.fr/ballet/videos/gala-d-ouverture)上で無料配信された。
冒頭、アレクサンダー・ネーフ総監督とオーレリー・デュポン舞踊監督がビロードの舞台幕の前に登場し、録画のために援助を惜しまなかったロレックス、シャネルを始めとするメセナへの謝辞が述べられた。
この後、ヴェロ・ペーン指揮のパリ・オペラ座管弦楽団が奏でるベルリオーズの『トロイアの人々』第1幕からの行進曲に乗って、オペラ座バレエ学校生徒とダンサー全員による恒例のデフィレが行われた。

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「グラン・パ・クラシック」ヴァランティーヌ・コラサンテ、ユゴー・マルシャン ©Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

最初に登場したバレエ学校の最年少の女子生徒から、トリのマチュー・ガニオまで全員がマスクを装着している異様な光景は、コロナが跳梁跋扈している現在のフランスの象徴であるかのようだった。
つづいて3作品がエトワールとプルミエール・ダンスールによって、幸いなことにマスクなしで踊られた。
最初はヴィクトル・グソフスキー振付の『グラン・パ・クラシック』(1949年シャンゼリゼ歌劇場初演)だった。「ポルティチの唖娘」「マノン・レスコー」「黒いドミノ」といったオペラの作曲家として知られるダニエル・フランソワ・エスプリ・オーベールの音楽に乗って、シャネル社が作った衣装をまとったヴァランティーヌ・コラサンテとユゴー・マルシャンが安定したテクニックを披瀝した。
二つ目はジェローム・ロビンズ振付の『イン・ザ・ナイト』(1970年ニューヨーク州立劇場初演)だった。久山亮子が弾くショパンの「ノクターン」の調べに伴なわれて、第1 パ・ド・ドゥにリュドミラ・パリエロとマチュー・ガニオ、第2 パ・ド・ドゥにレオノール・ボーラックとジェルマン・ルーヴェ、第3 パ・ド・ドゥにアリス・ルナヴァンとステファン・ブリヨンという、三組のエトワール・カップルが登場した。この中では音楽の響きに身体をしなやかに乗せて、男女の出会いを描き出したリュドミラ・パリエロとマチュー・ガニオの二人が特に印象に残った。

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「イン・ザ・ナイト」レオノール・ボーラック、ジェルマン・ルーヴェ
© Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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「イン・ザ・ナイト」リュドミュラ・パリエロ、マチュー・ガニオ
© Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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「精密の不安定なスリル」ポール・マルク
© Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

最後はウイリアム・フォーサイス振付の『精密の不安定なスリル』(1996年フランクフルト歌劇場初演)。怒涛のように激しいシューベルトの管弦楽に突き動かされるかのように、5人のダンサーたちが素速い、細やかな動きを見せてくれた。12月に無観客の『ラ・バヤデール』公演でエトワールに昇進したばかりの溌剌としたポール・マルク、テクニックと表現とが一体となったリュドミラ・パリエロとともに、オニール八菜が足先の刻々と変わる変化に富んだ表情を見せて、フォーサイス作品との相性の良さを改めて感じさせた。

アレクサンダー・ネーフ総監督は2月1日にオペラ座サイトとフェイスブックの声明で、2月にガルニエ宮で予定されていたジェローム・ロビンズ、ウイリアム・フォーサイス、ハラルド・ランダーのトリプルビルが中止されたことを発表した。コロナウイルスの動向から目が離せないが、近日中に7月までの新たな公演日程が発表されるという。
(2021年1月27日 ガルニエ宮)

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「精密の不安定なスリル」アマンディーヌ・アルビッソン、パブロ・ラガサ
© Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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「精密の不安定なスリル」オニール八菜
© Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

「デフィレ」
振付 アルベール・アヴリーヌ、セルジュ・リファール
音楽 エクトル・ベルリオーズ  オペラ『トロイアの人々』第1幕より行進曲

『グラン・パ・クラシック』
振付 ヴィクトル・グソフスキー
音楽 ダニエル・フランソワ・エスプリ・オーベール
衣装 シャネル社
ダンサー ヴァランティーヌ・コラサンテ ユゴー・マルシャン

『イン・ザ・ナイト』
振付 ジェローム・ロビンズ
音楽 フレデリック・ショパン 「ノクターン」作品27第1番、作品55第1番、第2番,作品2第2番
衣装 アンソニー・ドーウェル
照明 ジェニファー・ティプトン
ピアノ演奏 久山亮子 
第1パ・ド・ドゥ リュドミラ・パリエロ マチュー・ガニオ
第2パ・ド・ドゥ レオノール・ボーラック ジェルマン・ルーヴェ
第3パ・ド・ドゥ アリス・ルナヴァン ステファン・ブリヨン

『精密の不安定なスリル』(The vertiginous thrill of exactitude)
振付 ウイリアム・フォーサイス
音楽 フランツ・シューベルト 「交響曲第9番」D944からアレグロ・ヴィヴァーチェ
衣装 ステファン・ギャロウェイ
照明 タニヤ・リューエ
ダンサー アマンディーヌ・アルビッソン リュドミラ・パリエロ ポール・マルク オニール八菜 パブロ・ラガサ

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