パリ・オペラ座バレエ団がガルニエ宮公演「今、新しい作品を創造すること」を有料配信
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ワールドレポート/パリ
三光 洋 Text by Hiroshi Sanko
Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
« Créer aujourd'hui » 「今、新しい作品を創造すること」
「露出(エクスポージャー)」photo/Julien Benhamou
10月30日から外出禁止令が再度施行されている中で、パリ・オペラ座バレエ団は11月13日に有料ストリーミング公演をガルニエ宮から配信した。4ユーロ55サンチーム(約600円)を支払った5500人(パリ・オペラ座公式サイトによる)が約1時間半の夕べを見た。パリ・オペラ座はすでに3月にオペラ公演、マスネの『マノン』をストリーミングで配信しているが、有料配信は初めての試みだった。ガルニエ宮が舞台機構の工事中のため、前回の「オペラ座のエトワール」「ルドルフ・ヌレエフ」同様にプロセニオム(本来の舞台前に作られた仮設舞台)での公演となった。
「今、作品を創造すること」と題された晩は3つの新作が並んだ。最初はシディ・ラルビ・シェルカウイ振付の『露出(エクスポージャー)』(Exposure)だった。白と黒のシャネルの衣装をまとった若手ダンサー9人が袖から階段でプロセニオムに次々に現れた。
日本でも荒木経惟との共作で知られるアメリカの女流写真家ナン・ゴールディン(1953年生)の言葉が投射され、フランスのアーティスト、ウッドキッド(本名ヨアン・ルモワーヌ)作曲の音楽が流れる中、ダンサーたちがなめらかに動いて、白と黒の組み合わせから刻々とイメージが作られていった。マリオン・バルボー、エレオノール・ゲリノーの女性二人とシモン・ル・ボルニュとマルク・モローの男性二人が作品の中心に据えられ、熱の入った動きを見せていたが、同性愛者を被写体に選び、麻薬や暴力に焦点を合わせたナン・ゴールディン作品の特異な世界との関連はもう一つわからないままにダンスが終わっていた。
「露出(エクスポージャー)」photo/Julien Benhamou
「露出(エクスポージャー)」photo/Julien Benhamou
これにつづいたのがマリオン・ゴーチエ・ド・シャルナセとアントナン・モニエによるデュオ『クラウズ・インサイド』だった。わずか23歳(1997年サンフランシスコ生)のアメリカ人ダンサー(ネーデルランズ・ダンス・シアター所属)テス・ヴォルカーの振付で、歩きをはじめとした日常の動作が多く取り入れられた短い作品だが、一年振りに舞台に上がったマリオン・ゴーチェ・ド・シャルナセがパートナーのアントナン・モニエとぴったりと息の合った軽妙な動きを見せて、きれいにまとまった作品という印象を残した。
「クラウズ・インサイド」photo/Julien Benhamou
「クラウズ・インサイド」photo/Julien Benhamou
「クラウズ・インサイド」photo/Julien Benhamou
「クラウズ・インサイド」photo/Julien Benhamou
最後はテレビやソーシャル・ネットワークで活躍しているメディ・ケルクーシュ振付の『そして、もし』(Et Si)だった。十人の若手ダンサーは全員が上に向かって両腕を振り上げたり、身体を寄せ合って一つの塊になったりしたりして、さまざまなシークエンスを展開した。ストロボも含めた照明も変化に富んでいて、よくそろってエネルギッシュなダンサーたちを照らしていた。
この三つの新作で今後レパートリーに定着する作品があるかどうかはわからないが、クラシック作品では必ずしもスポットライトが当たらない、若手のダンサーたちの生き生きとした姿が何よりも記憶に残った夕べだった。
パリ・オペラ座の公演が再開されるかどうかは、11月末に予定されているマクロン大統領の演説までは全くわからない状態だが、パリ・オペラ座のダンサーたちは『ラ・バヤデール』のリハーサルに余念がない。新型コロナ禍が一日も早く下火になって、劇場の扉が開かれることを切に祈るばかりだ。
「そして、もし」photo/Julien Benhamou
「そして、もし」photo/Julien Benhamou
「そして、もし」photo/Julien Benhamou
「そして、もし」photo/Julien Benhamou
≪今、作品を創造すること≫(11月13日)
『露出(エクスポージャー)』
音楽 ウッドキッド(音楽は録音に加えてピアノとチェロの生演奏)
振付 シディ・ラルビ・シェルカウイ
衣装 シャネル
照明 ファビアナ・ピチオーリ
ダンサー マリオン・バルボー、エレオノール・ゲリノー、エロイーズ・ジョックヴィエル、ソフィア・ロゾリーニ、マルク・モロー、シモン・ル・ボルニュ、マチュー・コンタ、イヴォン・デュモル、アレクサンドル・ボッカラ
『クラウズ・インサイド』(Clouds Inside)
音楽(録音を使用) ニック・ドレイク「チェロ・ソング」、ホセ・ゴンザレス「ザ・ブックス・フィート」
振付 テス・ヴォルカー
ヴィデオ サンダー・ローネン
照明 ファビアナ・ピチオーリ
ダンサー マリオン・ゴーチエ・ド・シャルナセ、アントナン・モニエ
『そして、もし』(Et Si)
音楽(録音を使用) ギヨーム・アルリック
振付 メディ・ケルクーシュ
照明 ファビアナ・ピチオーリ
ダンサー カロリーヌ・オズモン、イダ・ヴィキンコフスキー、リュシー・フェンヴィック、ニーヌ・セロピアン、セ・ホ・ユン、アクセル・イボ、アントワーヌ・キルシャー、アンドレア・サーリ、ユゴー・ヴィリオッティ、ジャック・ガツトヴィト
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