フランスの5つのバレエ団がそれぞれの特徴を表した演目を披露した、シャンゼリゼ歌劇場<トランサンダンスシリーズ>

ワールドレポート/パリ

三光 洋 Text by Hiroshi Sanko

TransceenDanses トランサンダンスシリーズ公演

« Francendanse Pas de deux et Solo» ≪フランサンダンス パ・ド・ドゥとソロ≫

ディアギレフが率いるロシア・バレエ団がニジンスキー振付『春の祭典』を1913年に初演したシャンゼリゼ歌劇場で、今年もトランサンダンスシリーズが10月15日に始まった。当初予定されていたスウェーデン王立バレエ団が新型コロナ禍で来仏できなくなったため、民間プロデューサーのボニ・サルファティは、フランスの主要バレエ団の監督に声をかけ、それぞれの監督が自由に選んだ各バレエ団の特徴を反映した演目が「フランサンダンス パ・ド・ドゥ」と題されて上演された。参加したのはパリ・オペラ座バレエ団、リヨン国立歌劇場バレエ団、ボルドー国立歌劇場バレエ団、トゥールーズ・カピトル歌劇場バレエ団、マランダン・ビアリッツ・バレエ団という5つのフランスのバレエ団である。

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「三つのグノシエンヌ」© Svetlana Loboff/ Opéra naiontal de Paris

舞台はパリ・オペラ座バレエ団の『三つのグノシエンヌ』でまった。ガルニエ宮で行われた「オペラ座のエトワール」でも上演された、オランダの振付家ハンス・ファン・マーネンの作品である。ファン・マーネンは男性ダンサーと女性ダンサーによるダンスとサティの音楽との「デュオ」として構想している。一見したところ派手な動きはなく、最初はゆったりとした感じだが、大柄なユゴー・マルシャンときめ細かなリュドミラ・パリエロの身体が、サティの音楽との対話を通じて語っている無言の劇に惹き入れられた。

次はリヨン国立歌劇場バレエ団のバレエ監督となったばかりのジュリー・ギベールがジャン・マルテンスに委嘱して、9月17日のシーズン開幕公演で初演されたばかりの新作のソロ作品『ピリオド・ピース』だった。音楽はヘンリック・ゴレッキが1973年に作曲した『三つのダンス』で、ミニマルミュージック、フォークソング、ストラヴィンスキーといった多様な影響の下に書かれ、コントラスが明快な曲。金色の円を連ねた衣装をまとったクリスティナ・ベンツが音楽にぴったりと合った切れ味の良い動きで観客の目を奪った。秀逸なテクニックを持ったダンサーはパリ以外の地方都市にもいる。

 

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「三つのグノシエンヌ」© Svetlana Loboff/ Opéra naiontal de Paris

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ボルドー国立歌劇場バレエ団 © Julien Benhamou

その後は、エリック・キユレ、バレエ監督が率いるボルドー国立歌劇場バレエ団が登場した。2011年にボリショイ・バレエ団がガルニエ宮で全曲上演した『パリの炎』からのパ・ド・ドゥ。フランス革命を舞台にしたワシリー・ワイノーネン振付作品により、太田倫功が高くて安定した跳躍、マリニ・ダ・シルヴァはきれいなフエッテを見せてくれた。

元パリ・オペラ座バレエのエトワール、カデール・ベラルビは、トゥールーズのカピトル歌劇場バレエ団のバレエ監督として精力的な活動を行っている。今秋は新作『トゥールーズ・ロートレック』が11月4日に初演される予定だった。この中からのパ・ド・ドゥをナタリア・ド・フロベルヴィルとゴメス・サモンが踊った。ブリュノー・クーレ作曲の哀感にあふれる音楽をバックに、呪われた画家ロートレックの姿がくっきりと舞台に浮き上がった。この二人のダンサーは、最後の演目カデール・ベラルビ振付の『海賊』パ・ド・ドゥでも優れたテクニックを見せ、観客を沸かせていた。

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「海賊」© davidherrero.com

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「海賊」© davidherrero.com

ビアリッツ・バレエ団はバレエ監督チェリー・マランダンが1997年に振付けた『モールアルト・ア・ドゥ』の3つのパ・ド・ドゥを取り上げた。発表当初は『孤独な舞踏会』と題され、モーツアルトのピアノ協奏曲からインスピレーションを受けて作られた作品である。アルノー・マウイ、クレマンス・シュヴィヨット、ラファエル・カネ、ヌリア・ロペス・コルテス、ミカエル・コント、イルマ・オフランという三組が舞踏会に現れた相愛のカップルに扮した。舞踏会という華やいだ場所で、男女の感情が一体となるかと思うと、揺れ動いて、いつの間にか個々の孤独が立ち現れてくる。こうした心情の情景が、緊張感のある変化に富んだ動きによってきれいに描かれていた。

わずか一時間余りの短い夕べだったが、フランスのバレエ団の演目やダンサーの多様性を知るとともに、ボルドー国立歌劇場バレエ団のようにパリではなかなか見ることのできないダンサーたちを見る貴重な機会だった。
なお、トランサンダンスシリーズの次回公演は、2021年1月19、20日の「アバニャート・プロジェクト」が予定されている。ヴィヴァルディとドメニコ・スカルラッティの音楽を使ったジュリアーノ・ぺパリーニ振付『四季』を、エレオノーラ・アバニャートとイタリア人ダンサーたちが踊ることになっている。
(2020年10月15日 シャンゼリゼ歌劇場)

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「Mozart à 2」© Olivier Houeix

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「Mozart à 2」© Olivier Houeix

« Francendanse Pas de deux et Solo» ≪フランサンダンス パ・ド・ドゥーとソロ≫

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◎Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
『三つのグノシエンヌ』(Trois Gnossiennes) パ・ド・ドゥ(1982年3月5日アムステルダムStadsschouwburg初演)
音楽 エリック・サティ(「グノシエンヌ第1、2、3番」1890年)
振付 ハンス・ファン・マーネン
衣装 ハンス・ファン・マーネン、ジョープ・ストコヴィス
ピアノ エレナ・ボネ
ダンサー リュドミラ・パリエロ、ユゴー・マルシャン
◎Ballet de l'Opéra de Lyon リヨン歌劇場バレエ団
『ピリオド・ピース』(Period piece)ソロ(2020年9月17日、リヨン歌劇場初演)
音楽 ヘンリック・ゴレッキ
振付 ヤン・マルテンス
照明 リュディ・パラ
ダンサー クリスティナ・ブレンツ
◎Ballet de l'Opéra national de Bordeaux ボルドー国立歌劇場バレエ団
『パリの炎』(Les Flammes de Paris) パ・ド・ドゥ
原振付 ワシリー・ワイノーネン
音楽 ボリス・アサフィエフ
ダンサー マリニ・ダ・シルヴァ、太田倫功
◎Ballet du Capitole de Toulouse カピトル歌劇場バレエ団
『トゥールーズ・ロートレック』(Toulouse Lautrec) パ・ド・ドゥ
振付 カデール・ベラルビ
音楽 ブリュノー・クーレ
ダンサー ナタリア・ド・フロベルヴィル、ゴメス・サモン
◎Malandain Ballet Biarritzマランダン・ビアリッツ・バレエ団
『モーツアルト・ア・ドゥ』(Mozart à 2) 3つのパ・ド・ドゥ
振付 チェリー・マランダン
音楽 モーツアルト
装置・衣装 ホルへ・ガラルド
照明 ジャン=クロード・アスキエ
ダンサー アルノー・マウイ、クレマンス・シュヴィヨット、ラファエル・カネ、ヌリア・ロペス・コルテス、ミカエル・コント、イルマ・オフラン
◎Ballet du Capitole de Toulouse カピトル歌劇場バレエ団
『海賊』 (Le Corsaire) パ・ド・ドゥ
振付 カデール・ベラルビ
音楽 アドルフ・アダン
音楽編曲 デヴィッド・コルマン
ダンサー ナタリア・ド・フロベルヴィル、ゴメス・サモン

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