NYCBとパリ・オペラ座バレエの若手中心のダンサーたちによる活発な舞台が観客の喝采を浴びた

ワールドレポート/パリ

三光 洋 Text by Hiroshi Sanko

PARIS DE LA DANSE 第2回パリ・ダンス・フェスティヴァル

"De New-York à Paris" Stars of American Ballet & Les Italiens de l'Opera de Paris
「ニューヨークからパリへ」スターズ・オブ・アメリカン・バレエ & オペラ座のイタリア人ダンサー

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© 三光洋(すべて)

ガルニエ宮から歩いて10分のところにあるテアトル・ド・パリで、リザ・マルティーノが主宰するパリ・ダンス・フェスティヴァルが昨年から始まり、今年二回目を迎えた。リザ・マルティーノは女優だが、少女時代にはパリ・オペラ座バレエ学校の寄宿舎でマリ=アニエス・ジローと同窓だったという経歴の持ち主だ。
フェスティヴァルは6月3日から23日までの三週間にわたった。まず6月3日には、元パリ・オペラ座バレエのエトワール、ローラン・イレールによるブルメイステル版『白鳥の湖』のマスター・クラス、ニューヨーク・シティ・バレエ団(NYCB)のソリストとパリ・オペラ座バレエのイタリア人ダンサーによるガラ「ニューヨークからパリへ」(6月13〜16日7公演)、ペティア・イルチェンコによる「ジプシーの夕べ」(6月17日)、昨年も参加して好評だったイスラエルのキブツ舞踊団による『アシルム』(6月21〜23日4公演)というラインアップで開催され、好評のうちに幕を閉じた。
この4公演のうち、「ニューヨークからパリへ」の二つのプログラムを見た。パリ・オペラ座バレエのイタリア人ダンサーとニューヨーク・シティ・バレエのソリストとがガラで競演する企画は、オペラ座バレエのプルミエ・ダンスール、アレッシオ・カルボーネによって生まれた。
カルボーネは2016年に「オペラ座のイタリア人ダンサー」というグループ(イタリア人以外にオーストリア人ビアンカ・スキュダモア、フランス人ポール・マルクほかも参加している)を創設している。このダンサーたちがガラ公演で知り合ったニューヨーク・シティ・バレエのプリンシパル、ダニエル・ウルブライトが立ち上げた「スターズ・オブ・アメリカン・バレエ」のダンサーたちと交互にパ・ド・ドゥを踊った。そしてフィナーレでは、二つのグループ全員が一堂に会し、同じ舞台の上で交流した。
この公演は「スターズ・オブ・アメリカン・バレエ」のメンバーがバランシン、ロビンズ、ウィールドンといったアメリカのバレエで活躍した名振付家の作品を、オペラ座のメンバーがマルティネス、ブルノンヴィル、ジュール・ペロー、ヌレエフなどヨーロッパの振付家の作品を採り上げて、より彩りの豊かなプログラムを構成した。

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印象に残ったのは、まずニューヨーク組のプログラムA2曲目『アンダンティーノ』だった。ゴンザーロ・ガルシアとよく息の合ったメガン・フェアチャイルドの伸びやかな華のある動きはチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番」第2楽章(アンダンティーノ)の優美な旋律にぴったりで、ロビンズ振付らしい詩情がぱっと舞台に漂った。4曲目のイタリアの民族舞踊を素材にしたバランシン振付『タランテッラ』で男性役を踊ったダニエル・ウルブライトもまた、音楽によく乗って小柄な身体で所せましと跳ね回り、ユーモアにあふれる表情も相まって客席を沸かせていた。
オペラ座組では、第5曲のジュール・ペロ―振付『海賊』でフエッテで安定したテクニックを見せたビアンカ・スキュダモア、第3曲で『ラ・シルフィード』(ブルノンヴィル振付)で茶目っ気のある空気の精を演じたレティツィア・ガローニが女性らしい美しさを見せた。男性では第9曲のマニュエル・ルグリ振付『ドニゼッティ・パ・ド・ドゥ』で見事なピルエットやアントルシャを次々に披瀝したフランチェスコ・ムーラが、オペラ座メンバーの中でも際立っていた。Aプログラムのフィナーレ前の最後を飾ったニューヨーク組『小妖精』(ヨハン・コボー振付)では、女性(インディアナ・ウッドワード)の気を惹こうとジョセフ・ガッティとダニエル・ウルブライトの二人が交互に難しいテクニックを出し合って、会場に笑いが広がっていた。

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また、14日に行われたプログラムBの前半では、バランシン振付の3曲でニューヨーク・シティ・バレエのダンサーたちが完成度の高い踊りを見せた。ラヴェルの音楽を使った第2曲『ソナチネ』のメガン・フェアチャイルドとゴンザーロ・ガルシアの緻密さ、第4曲の「ダイヤモンド」パ・ド・ドゥを踊ったテレサ・ライシュレンとアスク・ラ・クールの隙のないテクニック、第6曲の『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』では体操選手かと思われるような高く安定した跳躍でヴィルチュオーソぶりを発揮したダニエル・ウルブライトが観客の目を奪った。 
後半では第10曲のバランシン振付『アポロ』でアポロに扮したスターリング・ヒルティンの実に長い脚となめらかな身体線が見事だった。この理想的な体型を活かした繊細かつあふれるような躍動感にみちた演技には誰もが圧倒された。オペラ座組では第5曲の『ドン・キホーテ』と第9曲『ドリーブ組曲』を踊ったポール・マルクが存在感を見せていた。
フィナーレ前の第11曲『オーニス』(ジャック・ガルニエ振付)では、二人の練達のアコーデオン奏者の奏でる音楽に合わせて、シモン・ヴァラストロ、フランチェスコ・ムーラ、アンドレア・サーリのオペラ座の三人の男性ダンサーの若さが迸り、ユーモアも感じさせる熱の入った踊りで会場に熱気をもたらした。
オペラ座の若手ダンサーにとってはどのプログラムも、オペラ座の舞台ではソリストとして踊ることのできないパ・ド・ドゥを踊る貴重な機会であり、誰もが全力投球を見せた。ニューヨーク・シティ・バレエのダンサーたちもまた完成度の高いテクニックを披瀝して、それに応えた。会場に詰め掛けたパリのバレエファンは、将来を嘱望されるダンサーたちに大いに喝采を浴びせていた。
(2019年6月14日Bプロ、16日Aプロ テアトル・ド・パリ)

「ニューヨークからパリへ」プログラムA
1『スカルラッティ・パ・ド・ドゥ』振付 ホセ・マルティネーズ 音楽 ドメニコ・スカルラッティ (Op)ダンサー ヴァランティーヌ・コラサンテ、アントニオ・コンフォルティ
2『アンダンティーノ』振付 ジェローム・ロビンズ 音楽 チャイコフスキー(Nyc)
ダンサー メガン・フェアチャイルド、ゴンザーロ・ガルシア
3『ラ・シルフィード』振付 オーグスト・ブルノンヴィル 音楽 ヘルマン・レーヴェンスヨルド(Op)ダンサー レティツィア・ガローニ、アンドレア・サーリ
4『タランテッラ』振付 ジョージ・バランシン 音楽 ルイ=モロー・ゴットシャルク(Nyc)ダンサー インディアナ・ウッドワード、ダニエル・ウルブライト
5『海賊』振付 ジュール・ペロ― 音楽 アドルフ・アダン (Op)ダンサー ビアンカ・スキュダモア、ジョルジオ・フーレス
【休憩】
6『白鳥の湖』(第4幕より抜粋) 振付 ルドルフ・ヌレエフ 音楽 チャイコフスキー (Op)ダンサー ソフィア・ロゾリーニ、アントニオ・コンフォルティ
7『真夏の夜の夢』パ・ド・ドゥ 振付 ジョージ・バランシン 音楽 フェリックス・メンデルスゾーン (Nyc)ダンサー スターリング・ヒルティン、タイラー・アングル
8『リトゥルジー』振付 クリストファー・ウィールドン 音楽 アルヴォ・ペルト(Nyc)ダンサー テレサ・ライシュレン、アスク・ラ・クール
9『ドニゼッティ・パ・ド・ドゥ』 振付 マニュエル・ルグリ 音楽 ガエタノ・ドニゼッティ (Op)ダンサー アンブル・キアルコッソ、フランチェスコ・ムーラ
10『小妖精』 振付 ヨハン・コボー 音楽 G・ヴィニアフスキ& A・バズィーニ (Nyc)ダンサー インディアナ・ウッドワード、ジョセフ・ガッティ、ダニエル・ウルブライト
11「フィナーレ」 ダンサー 全員

「ニューヨークからパリへ」プログラムB

1『瀕死の白鳥』 振付 ミハイル・フォーキン 音楽 カミーユ・サンサーンス (Op)ダンサー ソフィア・ロゾリーニ
2『ソナチネ』振付 ジョージ・バランシン 音楽 モーリス・ラヴェル (Nyc)ダンサー メガン・フェアチャイルド、ゴンザーロ・ガルシア
3『カラヴァッジオ』 振付 マウロ・ビゴンゼッティ 音楽 モンテヴェルディ (Op)ダンサー ビアンカ・スキュダモア、フランチェスコ・ムーラ
4「ダイアモンド」パ・ド・ドゥ 振付 ジョージ・バランシン 音楽 チャイコフスキー (Nyc)ダンサー テレサ・ライシュレン、アスク・ラ・クール
5『ドン・キホーテ』パ・ド・ドゥ 振付 ルドルフ・ヌレエフ 音楽 ルドヴィッヒ・ミンスク (Op)ダンサー ヴァランティーヌ・コラサンテ、ポール・マルク
6『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』 振付 ジョージ・バランシン 音楽 チャイコフスキー (Nyc)ダンサー インディアナ・ウッドワード、ダニエル・ウルブライト
【休憩】
7『パランドローム・プレスク・パクフェ』振付 シモン・ヴァラストロ 音楽 ジョン・アダムズ (Op)ダンサー レティツィア・ガローニ、アントニオ・コンフォルティ
8『アゴン』パ・ド・ドゥ 振付 ジョージ・バランシン 音楽 イゴール・ストラヴィンスキー(Nyc)ダンサー テレサ・ライシュレン、タイラー・アングル
9『ドリーブ組曲』 振付 ホセ・マルティネーズ 音楽 レオ・ドリーブ (Op)ダンサー アンブル・キアルコッソ、ポール・マルク
10『アポロ』 振付 ジョージ・バランシン 音楽 イゴール・ストラヴィンスキー (Nyc)ダンサー スターリング・ヒルティン、アスク・ラ・クール
11『オーニス』 振付 ジャック・ガルニエ 音楽 モーリス・ピシェール (Op) シモン・ヴァラストロ、フランチェスコ・ムーラ、アンドレア・サーリ
12「フィナーレ」

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