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エクマン、ゲッケ、レオン&ライトフットの振付作品をNDT 2 がエネルギーが溢れるように踊った、シャイヨ劇場

ワールドレポート/パリ

三光 洋 Text by Hiroshi Sanko

Nederlands Dans Theater 2 ネザーランド・ダンス・シアター2(NDT2)

"Fit" Alexander EKMAN, "Wir sagen uns Dunkles" Marco GOECKE, Sol LEON & Paul LIGNTFOOT "Signing off"
『Fit』アレクサンダー・エクマン振付 『Wir sagen uns Dunkles』マルコ・ゲッケ振付 『Signing off』ソル・レオン&ポール・ライトフット振付

オランダのデン・ハーグにあるネザーランド・ダンス・シアターは1959年に創立されている。この舞踊団は1978年から1999年までイリ・キリアンが芸術監督を務め、世界的に評価されるようになった。
キリアンは1978年に新たにネザーランド・ダンス・シアター2(NDT2)を作った。NDT2にはネザーランド・ダンス・シアター1(NDT1)への入団を希望する若手ダンサーが在籍している。NDT2の在籍期間は3年間で、コンテンポラリー・ダンスの幅広い秀作がずらりと並んだレパートリーにふれるとともに、最先端を行く振付家の作品に取り組む。
なお、NDT にはパリ・オペラ座バレエのようなダンサーの序列はなく、一人一人のダンサーをアーティストとして同等に扱っている。また、観客の目を奪うような超絶技法ではなく、いかに身体を動かすかが重視される。古典作品を上演しないことも大きな特徴となっている。
NDT2のシャイヨ劇場での引越公演を見た。

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『Fit』© Rahi Rezvani/ NDT

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『Fit』© Rahi Rezvani/ NDT

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『Fit』© Rahi Rezvani/ NDT

最初の演目は、スウェーデン人アレクサンダー・エクマン(1984年生)がNDT2のために振付けた『Fit』(2018年11月15日デン・ハーグ初演)だった。
「あなたはずっと同じ場所にいるのか?」「どの空間にいるのか?」「どこがあなたの場所なのか?」こうした問い掛けが27分間にわたって行われる。大きなゴミ箱の中に頭を入れるダンサー、といったソロの部分と集団の動きとがうまくパズルのように組み合わされていた。舞台上には右手に大きな石、左の袖には異常に長い竿の先に吊り下がった裸電球が配置され、天上からはミストのように微細な粉を吐く箱が次第に降りてきた。長い竿は時間の経過とともに位置が変わり、それに伴って電球も移動するとともに、照明も変化して夢の中にいるかのように舞台空間が変貌していった。視覚面が斬新な一方で、「テイク・ファイヴ」という誰もが知った音楽をバックに流すことで観客に親しみやすい印象が与えられた。
白のチュールスカートに黒の上着という男女とも同じ衣装をつけた18人のダンサーたちはつま先から頭まで全身を駆使し、ささやいたり、叫び声を出したりもして、人間の身体による表現の可能性を探っていった。動物の耳をまねた動作を始めとする遊びの要素が多く取り入れられ、個性的であるとともに誰もが陽気な気分となるような作品に仕上がっていた。

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『Fit』© Rahi Rezvani/ NDT

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『Fit』© Rahi Rezvani/ NDT

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『Fit』© Rahi Rezvani/ NDT

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『Wir sagen uns Dunkles』© Rahi Rezvani/ NDT

休憩後はドイツ人マルコ・ゲッケがNDT2のために振付けた『Wir sagen uns Dunkles』(2017年11月初演)だった。ゲッケは2005年からシュツットガルト・バレエ団のレジデント振付家を務め、2006年にニジンスキー賞を受賞し、ヨーロッパでは高い評価を得ている。今年2月にはガルニエ宮で『犬の眠り』がパリ・オペラ座バレエ団によって初演された。
作品は日本人ダンサー、福士宙夢のソロで始まった。上半身の痙攣するような、目まぐるしく繰り返しの多い動きは『犬の眠り』でも多用されていたが、福士の緊張感にあふれる動きに観客はすんなりと作品の中に入っていけた。シューベルトからプラシーボまで多種多様な音楽をバックに、11人のダンサーが特に前腕の複雑きわまりない動き、恐怖に憑りつかれたような表情、大きく開かれた女性ダンサーの口、といった要素が絡み合い独自の影のある世界を構成していた。ゲッケによれば、「ダンサーたちは即座に私のことを理解してくれた」という。

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『Wir sagen uns Dunkles』© Rahi Rezvani/ NDT

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『Wir sagen uns Dunkles』© Rahi Rezvani/ NDT

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『Wir sagen uns Dunkles』© Rahi Rezvani/ NDT

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『Wir sagen uns Dunkles』© Rahi Rezvani/ NDT

最後はNDTの現芸術監督ソル・レオン&ポール・ライトフットのカップルが、2003年6月にDNTのダンサーのために振付けた『Signing off』だった。黒い可動性の袖幕を複数使って、舞台空間を自在に変えるとともに、時にはダンサーの身体を包み込んだ。ポルテ、パ・ド・ドゥ、アラベスクといったクラシック・バレエの要素を巧みに組み合わせた作品が、6人のダンサーによって踊られた。また、フィナーレでは幕の向こうに移動した二人のダンサーのシルエットが浮かび上がり、実に効果的な幕切れだった。
三つの作品を通じて、振付家の意図を掌握し、あふれかえるようなエネルギーと抜群のテクニックを披瀝したダンサーたちの水準の高さは誰の目にも明らかで、カーテンコールでは長い大きな拍手が広いシャイヨ劇場大ホールにこだました。

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『Signing off』© Rahi Rezvani/ NDT

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『Signing off』© Rahi Rezvani/ NDT

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『Signing off』© Rahi Rezvani/ NDT

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『Signing off』© Rahi Rezvani/ NDT

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『Signing off』© Rahi Rezvani/ NDT

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『Signing off』© Rahi Rezvani/ NDT

なお、創立60周年を迎えたネザーランド・ダンス・シアター(NDT 1 とNDT 2 )はパリ・オペラ座バレエに招聘され、2020年6月3日から7日までガルニエ宮でソル・レオン&ポール・ライトフット、クリスタル・パイト、マルコ・ゲッケ振付の作品を踊る。
(2019年5月16日 シャイヨ劇場)

『Fit』
振付・装置・テキスト アレクサンダー・エクマン
照明 アレクサンダー・エクマン、リゼッテ・ファン・デア・リンデン
衣装 アレクサンダー・エクマン、ヨランダ・クロンプストラ
音楽 ニコラス・ジャール(No)、ザ・デイヴ・ブルベック・クワルテット(Take Five)、ドゥーグ・キャロル(Peacocks)、アニマル・サウンド
ダンサー18名

『Wir sagen uns Dunkles』
振付・装置・衣装 マルコ・ゲッケ
照明 ウド・ハバーランド
音楽カウンセラー ヤン・ペーター・コッホ
音楽 シューベルト 「夜想曲変ホ長調 作品148 D897」、プラシーボ「Song to Say Goodbye」「Slave to the Wage」「Loud like Love」アルフレッド・シュニットケ「ピアノ五重奏曲パート2In tempo di Valse」
ダンサー11名

『Signing off』
振付・装置・衣装 ソル・レオン、ポール・ライトフット
照明 トム・べヴォールト
音楽 フィリップ・グラス「ヴァイオリン協奏曲パート1&2」

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