オデット/オディールのジルベール、ジークフリートのマルシャン、そしてロットバルトのアリュが印象的だったヌレエフ版『白鳥の湖』

ワールドレポート/パリ

三光 洋 Text by Hiroshi Sanko

Ballet de l'Opera national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

"Le Lac des Cygnes" Rudolf NOUREEV 『白鳥の湖』ルドルフ・ヌレエフ:振付

パリ・オペラ座バレエ団の今シーズン最後のクラシック作品『白鳥の湖』が、2月16日から3月19日まで上演された。今回オデット&オディール、ジークフリート王子はレオノール・ボーラックとジェルマン・ルーヴェ、ドロテ・ジルベールとユゴー・マルシャン、アマンディーヌ・アルビッソンとフロリアン・マニュネ、ミリアム・ウルド=ブラームとポール・マルク、セ・ウン・パクとマチュー・ガニオ、ヴァレンティーヌ・コラサントとユゴー・マルシャンの6組が踊った。そのうち、最初の2組を見た。

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レオノール・ボーラック、ジェルマン・ルーヴェ
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

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レオノール・ボーラック
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

初日を踊り、録画が映画館で放映された第1キャストは2016年の暮れにわずか三日違いで続いてエトワールに昇進したレオノール・ボーラック(2016年12月31日)とジェルマン・ルーヴェ(同年12月28日)だった。
ジェルマン・ルーヴェは姿の良い繊細な、気品のある典型的なダンスール・ノーブルで、夢見がちでメランコリックな清潔感のあるジークフリート王子を描き出した。線が細く存在感がもう一歩なのが惜しまれたが、経験を積めばより演技面に深みが出てくるのではないだろうか。

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レオノール・ボーラック、ジェルマン・ルーヴェ © Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

レオノール・ボーラックは小柄な愛くるしい容貌を活かし表情豊かな演技を見せてくれるダンサーだが、オデット&オディールではテクニックの不安定さが目に付いた。特に第3幕のグラン・フェッテではかろうじて踊り切ったものの見ている人をはらはらさせた。どんなに演技に工夫を凝らそうと、確かな技術に裏打ちされていないとどうしても表面的な印象に終わってしまう。
こうして主役二人がやや精彩に欠けただけに、家庭教師&ロットバルト役のフランソワ・アリュが観客の注目を集めることになった。不気味さをたたえた射るような鋭い視線、エネルギーが周囲に飛び散っていくかのような高い跳躍からの切れ味のよい空中での回転からは、誰も目が離せなかった。
第1幕のパ・ド・トロワでは昨年夏の怪我から復帰したオニール 八菜が、変わらない優れたテクニックを見せてくれた。今回はオデット&オディールの代役に指名されリハーサルを重ねていながら、4月のコンテンポラリーダンス公演の練習と日程が重なってしまったために、主役として舞台に立てなかったのは残念だが、次回はぜひ踊ってもらいたいものだ。

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ジェルマン・ルーヴェ © Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

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フランソワ・アリュ © Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

第2幕の四羽の小白鳥はアリス・カトネ、マリーヌ・ガニオ、シャルリーヌ・ギーゼンダンナー、ポーリーヌ・ヴェルドゥーセンがよくそろい、また独特の首を振る所作に客席から微笑がもれた。
また第2幕と第4幕の湖の場面でぴたりと一線にそろって並んだコール・ド・バレエによる32羽の白鳥たちの美しさは比類がなく、大きな拍手が客席から送られた。

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ユゴー・マルシャン © Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

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ドロテ・ジルベール、ユゴー・マルシャン
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

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ドロテ・ジルベール、ユゴー・マルシャン
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ドロテ・ジルベール
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ドロテ・ジルベール、ユゴー・マルシャン
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

第2キャストはドロテ・ジルベールが優れたテクニックに支えられた演技を見せ、力強く若さにあふれたパートナーのユゴー・マルシャンとも息が合って観客、批評家の双方から高く評価された。第3幕の軸の安定した切れ味の良いグラン・フェッテも客席を大いに沸かせた。
トマ・ドッキールも大きなケープの扱いにまだ不慣れだったものの(12月に引退したカール・パケットの鮮やかなケープ捌きが思い出された)、底意を秘めたロットバルトを明快に演じていた。

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トマ・ドッキール © Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

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© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

今回見られなかった配役では、ミリアム・ウルド=ブラームが他のダンサーにはない独特のロマンチックな詩情をかもしだしたオデット&オディールを演じた、と絶賛された。また新しいエトワールが誕生するのではないか、という噂がバレエファンの間で一時流れたようだが、結局任命はなく、来シーズンに持ち越された。

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ポール・マルク
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ミリアム・ウルド=ブラーム
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ミリアム・ウルド=ブラーム、ポール・マルク
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ミリアム・ウルド=ブラーム、ポール・マルク
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

最後になったが、ロシアのワガノワ・バレエ・アカデミーの音楽監督でマリンスキー歌劇場でもしばしばピットに入っているヴァリー・オフシアニコフの悠揚迫らぬテンポの指揮によって、チャイコフスキーが楽譜に託した情感が実に鮮やかに引き出されていたことも加えておきたい。
(2019年2月19、20日 ガルニエ宮)

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アマンディーヌ・アルビッソン
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アマンディーヌ・アルビッソン、フロリアン・マニュネ
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

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セ・ウン・パク
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

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セ・ウン・パク、マチュー・ガニオ
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou

『白鳥の湖』全4幕バレエ
音楽 チャイコフスキー(1877年)
振付 ルドルフ・ヌレエフ(1984年12月20日 パリ・オペラ座)
原振付 マリウス・プティパ、レフ・イワノフ
装置 エジオ・フリジェリオ
衣装 フランカ・スカルチアピーノ
照明 ヴィニチオ・ケリ
配役(2月19日・20日)
オデット&オディール レオノール・ボーラック、ドロテ・ジルベール
ジークフリート王子 ジェルマン・ルーヴェ、ユゴー・マルシャン
ロットバルト フランソワ・アリュ、トマ・ドッキール
第1幕
女王 ソフィー・マイユ―
パ・ド・トロワ オニール 八菜、セ・ウン・パク、ポール・マルク/ファニー・ゴルス、イダ・ヴィキンコスキー、ジェレミー=ルー・ケール
第2幕
4羽の小白鳥 アリス・カトネ、マリーヌ・ガニオ、シャルリーヌ・ギーゼンダンナー、ポーリーヌ・ヴェルドゥーセン/マリーヌ・ガニオ、パーリーヌ・ヴェルドゥーセン、オーバーヌ・フィリベール、ビアンカ・スキュダモール
4羽の大白鳥 ファニー・ゴルス、イダ・ヴィキンコスキー、ロール=アデライド・ブーコー、エミリー・アズブーン
第3幕
チャルダーシュ シャルリーヌ・ギーゼンダンナー、シリル・ミティヤン他/オーバーヌ・フィリベール、フロリモン・ロリユー他
スペイン舞踊 オニール 八菜、セ・ウン・パク、ジェレミー=ルー・ケール、パブロ・ラガサ/ファニー・ゴルス、サブリナ・マレム、ヤン・シャイユー。ジェレミー=ルー・ケール
ナポリ舞踊 マリーヌ・ガニオ、フランチェスコ・ムーラ他/アリス・カトネ、シモン・ヴァラストロ他
演奏 ヴァリー・オフシアニコフ指揮 パリ・オペラ座管弦楽団

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