サン=レオンの振付を復元したオペラ座バレエ学校のラコット版『コッペリア』
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掲載
ワールドレポート/パリ
- 三光 洋
- text by Hiroshi Sanko
Ecole de Danse de l'Opéra national de Paris
パリ国立オペラ座バレエ学校公演
John TARAS DESSEINS POUR SIX ジョン・タラス振付『6のためのデッサン』
Pierre LACOTTE COPPELIA ピエール・ラコット復元振付『コッペリア』
パリ国立オペラ座ダンス学校の公演日には、ガルニエ宮にいつもとはちょっと違う雰囲気が漂う。晴れ着を着た子供たちを連れたダンス学校の生徒の家族が客席をうめ、兄妹の名前を配役表で探したり、ちょっとした見せ場が終わると歓声がわいたりする。
当夜の最初はジョン・タラス(1919-2004)振付の『6のためのデッサン』だった。アジア系の女性が一人入っている以外はヨーロッパ人で、体型も似ている。青い照明をバックに女性4人男性2人が影絵となって浮かびあがった。青春と音楽の喜びを讃えながらもスラブ的な哀愁をおびたチャイコフスキーの「ピアノ、ヴァイオリン、チェロのための三重奏曲イ短調」の第2楽章にのって20分間にわたってさまざまな模様が描かれ、最後に最初と同じ影絵になって終わった。
短いがよくまとまった作品(1948年)で、その抽象的な指向はバランシンを思わせた。各人の個性はすでに歴然としているが、全体としての水準は驚くほど高い。
休憩後はいよいよピエール・ラコットが復元した『コッペリア』である。
「一人でも多くの生徒に役を与えたい」というエリザベット・プラテル校長の配慮で普段はカットされてきた第3幕が一部上演され、アルチュール・サン=レオンの原振付を目にする絶好の機会となった。
装置は1875年の公演で使われた模型をもとにしており、はりぼてと絵を描いた大布を垂らされ、ガリシア地方の小さな町の広場が舞台に広がった。右手のコッペリウスの家の窓辺には読書する少女が見える。1870年の初演のデッサンをもとに復元されたカラフルな衣装とあいまって、ほのぼのとした叙情が舞台に立ち込めた。
スワニルダが家の扉を開けて広場に現れると、さっと周囲に若々しい華やぎが広がる。アリゼ・シクレは乙女らしい軽やかななめらかに身ごなしと安定したポイント、ヒロインに欠かせない輝きを放って観客を魅了した。ソロを踊るたびに、自然と客席から歓声とブラヴォーの声があがった。
フランツ役のマチュー・コンタ、老コッペリウス役のジュリアン・ギユマールの二人も堂に行ったパントマイムを演じ、よく揃った群舞とともに舞台を盛り上げていた。
先月にパトリス・バール振付の『コペッリア』を見たばかりだったために、いやでも比較せずにはいられなかった。登場人物の名前と音楽の一部が同じとはいえ、二つの振付の違いは一目瞭然で、まったく別の作品と言ってもよいだろう。コッペリウスが踊らないパントマイム役となっているのはその顕著な例だ。パリ国立オペラ座管弦楽団が演奏したドリーブの音楽が本来この作品のために書かれたもので、つぎはぎではなかったこともあって、ダンスと音楽との自然な一体感があったのは復刻版の魅力となっていた。
ラコットの振付は丁寧に原振付のニュイテールの台本をたどっている。それだけに原作のETAホフマンの不気味な世界とは対極的な点は気にはなったが、どこにもこれといった影のない、明るい娯楽作品に仕上がっていて、誰にも楽しめた。意外だったのは学校公演とは思えないほどに完成度が高かったことで、これからの若手世代への期待が広がった。
(2011年4月12日 ガルニエ宮)
Photos:(C)David Elofer/Opéra national de Paris
『6のためのデッサン』
音楽/チャイコフスキー
振付/ジョン・タラス
ピアノ/ジャン・イヴ・セビヨット
ヴァイオリン/エリック・ラクルー
チェロ/マチュー・ロゲ
ダンサー/アリス・カトネ カロリーヌ・オズモン クロティルド・トラン・パット クレール・トルーヴェ ナタン・ブージ ジェルマン・ルーヴェ
『コッペリア』
音楽/レオ・ドリーブ
振付/ピエール・ラコット(アルチュール・サン=レオン原振付)
スワニルダ/アリゼ・シクレ
フランツ/マチュー・コンタ
コッペリウス/ジュリアン・ギユマール
市長/ラファエル・ブチエ
農婦/エレオノール・トマ 他
マリウス・スティーグホルスト指揮 パリ国立オペラ座管弦楽団