ワールドレポート／パリ

三光 洋　Text by Hiroshi Sanko

5月29日から6月8日までガルニエ宮では4人の現代振付家の作品を並べた夕べが11公演行われた。
19時過ぎから、ガルニエ宮に足を踏み入れた観客たちは、大階段、年会会員のロトンド、フォワイエに金色に光る衣装をまとったダンサーたちを目にすることになった。たくさんのダンサーが音量の大きい音楽をバックに床を這いまわっていた。題名の『フロロン』はフランス語で「すれすれで通ろう」という意味だが、立っている観客たちの目前でダンサーたちが「演技」する近さの面白さはあった。しかし、動きそのものにこれといった魅力がなく、ダンスよりもサーカスを見ているような気分になった。
最後に観客が席について、ダンサーたちは平土間の通路から舞台に上がり、天井から吊り下げられた巨大な幕がはためく中で奥に消えていった。この最後は視覚的にはきれいだったものの、50分という長い「作品」のどこを取ってもダンスからは遠かった。

ジェームス・ティエレ振付『フロロン』
Frôlons　© Opéra national de Paris / Agathe Poupeney

二本目の『ザ・アート・オブ・ナット・ルッキング・バック』は一転して、9名の女性ダンサーたちが耳をつんざくような音楽をバックに集団となって激しい動きを展開した。照明を落とした薄闇のような空間でダンサーの顔はよく見えないが、シルエットからすらりとしたオニール八菜の姿はすぐに見て取れた。マイクを通して英語で語られる台詞には、イスラエルの振付家ホフェッシュ・シェクターが自分を二歳の時に棄てた母親を許せない、というメッセージが入っていたらしい。クラシックとは全く違う動きだが、9人のダンサーたちの実にエネルギッシュな動きからは目が離せなかった。

ホフェッシュ・シェクター振付『ザ・アート・オブ・ナット・ルッキング・バック』
The Art of not looking back © Opéra national de Paris / Agathe Poupeney

最初の休憩後はスペインの振付家イヴァン・ペレーズの新作『ザ・メイル・ダンサー』。人気作曲家アルヴォ・ペールトの『スタバット・マーテル』が流れる中で女性の派手な衣装をまとったマチュー・ガニオを始めとする男性ダンサーたちが、優雅な動きを見せた。半透明の下着が透けて見える衣装でエロチックな雰囲気を出そうとしたらしい。しかし、ニジンスキー『牧神の午後』が引用されていたり、女性に扮した男性たちの「ファッションショー」があったり、という作品には、個性的な動きもこれといったインパクトもなかった。

イヴァン・ペレーズ振付『ザ・メイル・ダンサー』The Male Dancer © Opéra national de Paris / Agathe Poupeney

最後は2016年9月に初演されたカナダの人気振付家クリスタル・パイトの『ザ・シーズンズ・カノン』の再演だった。ヴィヴァルディの魅惑的な旋律が流れる中、「四季」の変化を示唆するニュアンスに富んだ照明に包まれて、ダンサーたちが一つになったかと思うとばらばらに分かれる。熱気の入ったグループの動きとともに、マリー・アニエス・ジロとフランソワ・アリュのソロには強烈な個性を持ったダンサーだけが持つ抗いがたい魔力があった。
４つの作品に凹凸があったものの、最後を飾った『ザ・シーズンズ・カノン』はメリハリの効いた、情感にあふれる佳作でカーテンコールでは観客から熱狂的な拍手が送られた。
（2018年5月22日　ガルニエ宮）

クリスタル・パイト振付『ザ・シーズンズ・カノン』The Seasons' Canon © Opéra national de Paris / Agathe Poupeney

『フロロン』
振付・オリジナル音楽・装置・衣装：ジェームス・ティエレ
制作：エマニュエル・タッカール、ステファニー・リオドノ（カンパニー・デュ・アヌトン）
照明：セシル・ジョヴァンシリ＝ヴィシエール
技術コーディネーション：アントニー・ニコラ
音楽ミキシング：ブラッド・アックリー
リハーサル指導：ノエミ・エットラン
音楽家：ミルティーユ・エルツェル（チェロ）、マリー・ワルター（ヴィオラ、パリ国立オペラ座アカデミー）、ロザリー・アルトーク（ヴァイオリン）
歌手：オフェリー・クリスパン
パーフォーマー：フロリアン・アルバン（ダンサー）、イゴール・ベカガエフ（ダンサー）、エリアス・カスティーロ（テノール）、サミュエル・デュテルトル（俳優）、ノエミ・エットラン（ダンサー）、マグヌス・ヤコブソン（俳優）
声：シャーロット・ランプリング
ダンサー：アマンディーヌ・アルビッソン、ヴァレンティ―ヌ・コラサント、エヴ・グリンツテイン
グラン・フォワイエのダンサー：オーバーヌ・フィルベール、ロクサーヌ・ストヤノフ、レイラ・ディラック、ジュリア・コーガン、セバスチャン・ベルトー、ヤン・シャイユー他
ロトンド・デ・ザボネのダンサー：シャルリーヌ・ギーゼンダンナー、ポーリーヌ・ヴェルドゥーセン、マロリ・ゴーディオン、オーレリアン・ウエット、シリル・ミットリアン他
大階段のダンサー：マリー＝ソレーヌ・ブーレ、ローランス・ラフォン、ロール＝アデライド・ブーコー、アリステール・マダン、アレクサンドル・ボッカラ他
動物：エルヴァン・ル・ルー、ピエール・レティフ

『ザ・アート・オブ・ナット・ルッキング・バック』（レパートリー入り）
音楽（録音）：ホフェッシュ・シェクター、ジョン・ツォルン「リタニアＩＶ」、ヨハン・セバスティアン・バッハ「二台のヴァイオリンのための協奏曲ニ短調」、ニティン・ソ―ホニー「フラジル・ウインド」
振付：ホフェッシュ・シェクター
照明：リー・カラン
衣装：ベックス・アンドリュース
テクニカル・アドヴァイザー：エドモンド・トロッター
ダンサー：オニール八菜、ミュリエル・ジュスペルギ、マリオン・バルボー、エロイーズ・ブルドン、イダ・ヴィキンコスキ、カロリーヌ・オズモン、マリオン・ゴーチエ・ド・シャルナセ、クレマンス・グロス、エロイーズ・ジョックヴィエル

『ザ・シーズンズ・カノン』
録音音楽：マックス・リヒター（ヴィヴァルディ「四季」の編曲　2012年）
振付：クリスタル・パイト
装置：ジョン・ゴーワー・テイラー
衣装：ナンシー・ブライアント
照明：トム・ヴィッサー
ダンサー：マリー・アニエス＝ジロ、リュドミラ・パリエロ、アリス・ルナヴァン、エヴ・グリンツテイン、エレオノール・ゲリノー
フランソワ・アリュ、アレッシオ・カルボーネ、ヴァンサン・シャイエ、マルク・モロー、ジェレミー＝ルー・ケール、ダニエル・ストークス、シモン・ヴァラストロ、アドリアン・クーヴェーズ、アレクサンドル・ガス　他