オペラ座ダンサー・インタビュー:フローリアン・マニュネ

ワールドレポート/パリ

大村真理子(マダム・フィガロ・ジャポン パリ支局長)
text by Mariko OMURA

Florian Magnenet フローリアン・マニュネ (プルミエ・ダンスール)

2011年、プルミエ・ダンスールとしての成長が楽しみ

2010年11月に開催された昇級コンクールで、男性プルミエ・ダンスールの1席をフローリアン・マニュネが射止めた。12月は『アポロ』と『白鳥の湖』の2つの公演で大活躍。彼の力強くもエレガントな踊りにすでに注目しているバレエ・ファンもいることだろう。昇級した今年、彼の新しい冒険に期待しよう。

Q:2010年のコンクールに際し、プルミエ・ダンスールの1空席を獲得できるという確信がありましたか。
A:このコンクールで昇級できたら! という期待はもちろんありましたよ。
なぜって、そのために猛稽古を続けたのですからね。2009年はコンクールまで後1週間というときに怪我をして、参加を断念しています。1か月以上、昇級を目指して稽古を続けたのに、それが突然ぷつん! という感じに終わってしまって、あああ、来年もう一回コンクールにチャレンジせねば・・・と。これは辛い経験でした。

Q:自由曲にリファールの『白の組曲』からマズルカを選んだのはなぜですか。
A:2009年のコンクールのときに、『白鳥の湖』のスロー・ソロを選びました。でも、踊らずじまいとなったわけで、それで今回もこれで、と思ったのです。でも12月の『白鳥の湖』の公演に配役されたので、別の課題曲を選ぶ必要があって・・・。マズルカは過去に舞台で踊っていて、『白鳥の湖』とはまったく異なるダンスですが、自分の身体がすごく快適に動けるという点ではぼくには同じだったので、これに決めたんです。どちらも好きなタイプの踊りです。

(C)Mariko Omura

© Mariko Omura

Q:スジェからプルミエ・ダンスールに昇級して、なにが変わりましたか。
A:コンクールは11月でしたが、公式にプルミエ・ダンスールというタイトルとなるのは1月1日から。プルミエ・ダンスールはドゥミ・ソリスト、ソリストに配され、もうコール・ド・バレエはしません。といっても、ぼくはスジェ時代からソリストに配役されていたので・・・。大きな変化というのは、ぼくのモチベーションですね。ぼくは役のパーソナリティを深めることに興味があるので、アンサンブルが美しくあることを要求されるコールドバレエの仕事はそれほど好きではなかったので、こうした点でこの昇級はとてもうれしいんです。
コール・ド・バレエとソリストというのは、同じオペラ座バレエ団員でありながら、別の仕事といってもいいでしょう。1日のスケジュールがまったく異なるし、また、自身の身体の管理という点でも、大きな違いがありますからね。

Q:コール・ド・バレエで舞台にたつときは、たとえ他のダンサーより高く飛べる、という場合でも控えるわけですね。
A:極端にいえば、そういうことです。一人飛び出しては美しくないでしょう。たとえば、24羽の白鳥が舞台にでてきて、一羽だけ手の動きが違ったら、すぐに目立つし、見た目の美しさが乱れてますね。それに比べてソリストの仕事はもっとパーソナルで、仕上げが大切となります。

Q:1999年9月の入団からこれまで11年間のキャリアで、踊る喜びを大きく感じたのはどの作品ですか。
A:舞台の上で踊ることで喜びが得られる、ということを知ったのは、オーレリー(デュポン)と、2005年に『シンデレラ』を踊ったときです。スジェに上がったばかりのときでした。怪我をしたマニュエル・ルグリの代わりに、パートナーにぼくを彼女が希望してくれたんです。突然のことで、2週間で準備するのは大変でしたね。最初リハーサル・ルームでオーレリーと二人で稽古というとき、少し緊張しました。でも、それと同時にこれから何が始まるのか、というのが具体的にわかってなかったので、それはラッキーだったのかもしれません。この抜擢は、本当にぼくには大きなチャンスでした。それまで舞台でソロを踊ったのは、「若いダンサーの夕べ」ぐらいでしたから。この『シンデレラ』をきっかけに、ソリストの役造りということに興味がわき始めたのです。ワーオ、僕がしたいのはこれだ! って。コール・ド・バレエとソリストは、まったく別の仕事だとこのときに知ったわけです。

2010年コンクール Photo/Sebastien Mathe,Opera National de Paris

Photo/Sebastien Mathe,
Opera National de Paris

「シンデレラ」オーレリー・デュポンと Photo Icare / Opéra national de Paris

Photo Icare / Opéra national de Paris

フローリアン「シンデレラ」 Photo Icare

Photo Icare

Q:2009年の『ライモンダ』で、ベルナールとベランジェのパ・ド・ドゥもとても楽しんで踊っていたように観客には見えました。
A:23回公演があったうち、ぼく、19回もこれを踊ったんですよ!(笑)。
最初はそれほどの予定ではなかったんですが、誰かしらが怪我するので。実のところこの振付は、ぼく向けではないんです。19回踊ろうと、疲れることには変わりないし・・。楽しかったのは、ジョジュア(オファルト)と一緒だったから。彼とはとても仲良しなんです。ベルナールとベランジェでは、一種のコンペティションのように舞台を楽しめたんです。どちらがより多くピルエットできるか、とか・・・。最後には二人揃って、ベルナールとベランジェは十分だ! となってしまったのが、おかしかったですね。

Q:振付が自分向けではないというのは、どういう意味ですか。

A:細かいパッテリーがたくさんあるんですが、ぼくはそれには背が高すぎるように感じるんです。十分に脚を寄せられていないような、スピードが十分ではないような・・・といった感じがあるからです。力のこもった強い興奮のようなのがバッテリーには必要だと思うんですが、それも自分ににはないような・・・。

フローリアン「ライモンダ」 Photo Claire Parenté

Photo Claire Parenté

Q:では得意とするテクニックは何ですか。
A:ピルエット、好きですね。それからあらゆるジャンプ。でも上手くできる、とか、得意だ、という意味ではないですよ。そしてバッテリーが嫌い、というのでもないです。

Q:バレエを始めたきっかけを話してください。
A:7歳のときです。水曜の午後は学校の授業がなく、でも、両親は仕事をしてるので、その間、ぼくは何かをしている必要があったんです。ジムに興味があったけど、近くにあったのはバレエ教室、ということで始めました。クラシックだけでなくコンテンポラリーもです。3年続けたかな。11歳のときに、ダンスが好きなら行ってみたら、と、コンセルヴァトワールを勧められたんです。

Q:習い始めてすぐにバレエが好きになったのですか。

A:いえ、最初はバレエが特に好きというわけではなく、といって嫌だ、ということもなく・・・。コンセルヴァトワールに行ったら、ここは教える方もシリアスですよね。水曜の午後のちょっとした課外活動、というのとは、もうわけがちがいます。コンセルヴァトワールに通って5〜6か月後、オペラ座の学校に紹介されました。ダンスの何かができたというわけではないのですが、身体が柔軟だったのがよかったのでしょう。1993年の2月に研修生で入って、99年に卒業しました。

Q:ダンスを職業にしよう、と思ったのはいつですか。
A:正直なところ、バレエ団に入団するまで考えたことがなかったんです。学校時代、ダンスは自分が快適に感じられることで、ときには難しいけど、乗り越えられないほど大変ななことではなくって、と思っていました。入団してから、これは仕事に悪くないかも、やってみよう! という感じになったんです。
もともとすごい情熱を持ってダンスを始めたわけではないので・・。もし上手く踊れて、そして、ぼくのすることが見る人の気にいってもらえるとしたら、もっと先に進みたい、という気にますますなるでしょうね。そしてそれが情熱をよりかきたてることになるでしょう。

Q:アーティスティックな面はどのように研究するのですか。
A:夜時間のあるときに、テレビで俳優の演技とかを注意してみています。ちょっとした連続ドラマだったりしますが、テレビの画面の前で真似してみたり・・。観客の中にはテクニックだけではなく、夢を見に来る人もいるのですから、映画や演劇のようにそうした人々を感動させられなければなりません。コール・ド・バレエで舞台にたってエトワールの踊りをみながら、ああ、自分はこれとは同じようにしないようにしようとか、ああこのアイディアを盗んで自分のソースに混ぜようとか、そんなこともしていました。観客を感動させるには、呼吸のあうパートナーを得ることも大切ですね。ぼくはエミリー・コゼットと気が合うし、身体のサイズという点でも彼女とは良い組み合わせなんです。

フローリアンの「アポロ」 Photo SEBSTIEN MATHE/Opéra national de Paris

Photo SEBSTIEN MATHE/
Opéra national de Paris

Q:自分にこれはフィットすると感じる役は何ですか。
A:それは踊ってみないと、わかりません。『若者と死』。ぼくはこのバレエが大好きだけけど、果たして自分がこの作品でいいかどうか・・。だからこそ試してみたいですね。『ロメオとジュリエット』も素晴らしいと思う。でも、これも踊ってみなければ、わからない。ソリストが踊るのをみて、ああ、踊ってみたいって思うことありますよね。見てる限りは簡単に思えるので。でも、実際に稽古してみると、あ、これは自分向きじゃなかった、って(笑)。『ボレロ』も見ていて、ああ素晴らしい、踊ってみたいと思っていますよ。でも、舞台のテーブル上にたった一人で、それに照明をあてられて、きっとすごくストレスを感じるだろうなって。

Q:クラシックとコンテンポラリー。どちらが好みですか。
A:ぼくの好みはクラシック、ネオクラシックです。サッシャ・ヴァルツやイリ・キリアンなどの作品にも配されましたが、ぼく自身としては小さいときから踊っているクラシックのほうが気が楽です。コンテンポラリー・ダンスはぼくにあまり多くを語りかけてこないんです。絵画と同じで、ルーブルの絵画とかは何か語りかけてくるものがあるけど、現代アートとなるとちょっとつかみようがなくって・・・。

Q:誰の振付が誰が好きですか。
A:たくさん好きだけど、特にという振付家はいません。同じ振付家の作品でも、好きなのもあれば、そうでもないのもあるし・・。ヌレエフの『白鳥の湖』は大好きだけど、彼の作品のすべてというわけじゃない。ローラン・プティの創るバレエは雰囲気が好きです。9月にオペラ座で公演のあった『ランデブー』は知らない作品でしたが、パリの風景の背景などもアクチュエルですごく気にいりました。

フローリアン Photo Icare / Opéra national de Paris

Photo Icare / Opéra national de Paris

Q:舞台にあがる直前、何を思いますか。
A:思いきって行こう! と。舞台というのは、したいことをしたいようにできる権利のある唯一の場所だと考えています。ぼくが自分に禁じてるのは、アーティスティックな面で自分にリミットを設けること。リハーサルでどこまで行こうか、というのを決めておきます。もし間違ったとしても、自分で思いきってできたことの結果なら満足です。舞台であがるということには、経験を増すことで対抗できます。

Q:何年後くらいにエトワールに任命されたら、と期待しますか。
A:わかりません。まずはプルミエ・ダンスールとして自分の可能性を探りたいと思っています。『シンデレラ』『パキータ』など過去に踊った役を、前よりはより良く踊りたいですし・・・。もうコール・ド・バレエを踊りながらのかけもちではないので、役作りにもっと時間をさけるようになるのがとにかくうれしいです。

<<10のショート・ショート>>

1 プティ・ペール:いません。
2 プティット・メール:ナタリー・ヴァンダール。学校でぼくが第5学年だったときに、彼女は最終学年でした。
3 趣味:たくさんあります! 例えば、系譜学が好き。家系図で自分の先祖を今、16世紀までたどれています。
4 コレクション:『アーサー王伝説』などの古い本。
5 昨日の小さな幸せ:オフの1日。晴天だったので散歩したり、時間がなくてできなかったことを片付けられた。
6 大いなる野望:仕事で自分の最善をつくし、自分に自身が持てること。
7 他人からみた自分の良い面 他の人が何というかわからないけど、ヘマをたくさんするんで、周囲を笑わせる結果となること。
8 自分が思う悪い面 悪い面は他人がみつけることでは? パートナーがぼくを非難するのは、なんでもすぐに片付けてしまうので、みつけるのが大変だって!
9 ダンサー以外に考えられる職業:これもたくさんある。例えば考古学者、宇宙飛行士など。
10 パリで好きな場所:サンルイ島。特にどの時代ということはなく、パリの古いモニュメントが好き。でも、広がりやグリーンが必要なんで、パリ市内には住めない。 

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