オペラ座ダンサーが踊ったバランシン、ブラウン、バウシュの鮮烈な3作品
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掲載
ワールドレポート/パリ
- 三光 洋
- text by Hiroshi Sanko
Ballet de l'Opera national de Paris
パリ・オペラ座バレエ団
最初は1928年ディアギレフのバレエ・リュスによって初演され、1947年にパリ国立オペラ座バレエ団のレパートリーに入ったジョージ・バランシンの『アポロ』だった。「音を動きに変換することで、音楽を目に見えるようにする」というバランシンの目指した作業がストラヴィンスキー作曲の『ミューズを導くアポロ』という音楽を得て、ダンサーたちの描くラインが見る人の目を奪う。
数多いミューズ(ギリシャ女神)からストラヴィンスキーはダンスに縁の深い3人を選んだ。カリオプは書字板を受け取り詩とリズムを、ポリムニーは唇に手を当てマイムを、テルプシコールは音楽とダンスを司る。
一連の踊りの後、アポロはテルプシコールを先頭に三人をパルナッソスの山に導き、以後女神たちの住処となる。
竪琴を手にし、白い服をまとったアポロ役のマチュー・ガニオは美しいシルエットを構成したが、エネルギーが感じられず、彫像のような静的な印象を与えた。女神では、エレガントなミリアム・ウルド・ブラアム(カリオプ)と表情豊かなプリムニーを演じたノルヴェン・ダニエルに対し、エミリー・コゼットからはテリプシコールの音楽が聞こえてこなかった。
しかし、一切の装飾を廃して、音楽のエッセンスを見事に切り取ったバランシンの魅力は誰にも抗しがたかった。
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これに続いたトリシャ・ブラウンの『O Zlozony/O Composite』はポーランドの文人チェスラウ・ミローズとアメリカの女流詩人エドナ・セント・ヴィンセント・ミレーの詩を使って、アルファベットを3つのポストモダンの動きと3つのクラシック・ダンスの動きに当てることで、詩をダンスに移し変えようとした。
ローリー・アンダーソンの録音テープは、ボーランドの女優が朗読するミローズの詩の響きと効果音、間、といったものが交錯した1980年代のソフトな現代音楽らしい音で魅力的な部分もあるが、オペラ座のオーケストラによるストラヴィンスキーの曲の演奏直後だけに、ちょっと見劣りした。星空を背景に、ミュリエル・ズスペルギがジェレミー・ベランガールとアレッシオ・カルボーネの間を詩に歌われた鳥のように身軽に飛び回った。興味深い試みで独特のポエジーがあることは誰の目にも明らかだったが、振付家の試みが斬新なだけに、一回ではちょっと全体像がつかみ切れなかった。
休憩中に舞台上にシャベルで土が一面にひかれた。生々しい大地の香りが鼻をつくなかで、どこの国ともわからない、未開地での生贄の儀式が始まった。髪を後ろで縛っただけの女たちと上半身裸で黒ズボンの男たちの、荒々しい原始的な動きがストラヴィンスキーの曲と一体となった。叩きつけるようなリズムにぴたりと合った集団の動きから放出されるエネルギーに、客席がしんとなった。静謐そのものの瞳を持ったピナ・バウシュは亡くなってしまったが、どの観客にも否応なしに迫ってくる彼女の『春の祭典』の力は比類がない。
赤い服をかぶせられたミテキ・クドーの畏れ慄く全身と見開かれた目には、生贄の痛みがこれ以上はないほど鮮烈に刻印されていた。
(2010年12月26日 ガルニエ宮)
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