オペラ座ダンサー・インタビュー:エロイーズ・ブルドン

ワールドレポート/パリ

大村真理子(マダム・フィガロ・ジャポン パリ支局長)
text by Mariko OMURA

Héloïse Bourdon エロイーズ・ブルドン(スジェ)

2010年度カルポー・ダンス賞に輝く未来のプリンセス

2007年にオペラ座バレエ団に入団したエロイーズは、2008年の初のコンクールでコリフェに上がり、その翌年、スジェに昇級した。この10月には24歳以下の才能あるダンサーに授与されるカルポー賞が彼女の手に。入団以来、主にクラシック作品に配され、舞台での踊りの場を着実に増やしている彼女。コール・ド・バレエの中にいても、その気品あふれる動き、美しいポール・ド・ブラで観客の目を惹き付ける。いつの日か、オーロラ姫やジゼルといった役で見てみたいと思わせるダンサーだ。

Q:カルポー賞の受賞を、どう受け止めましたか。
A:この受賞は素晴らしい栄誉です。同時に、大変喜ばしいご褒美といえます。毎日、身体を理想に向けて形創り、少しづつでも進歩しようと努力しています。そんな私の仕事を評価してもらえたのですから。受賞で自信がついた、ともいえるでしょうか。またマニュエル・ルグリ、アニエス・ルテスチュなど偉大なダンサーたちが過去にこの賞を受賞してることを考え合わせると、誇らしい気持ちが倍増しました。どんな賞でも頂けるのはうれしいですが、今回、オペラ座の劇場内のロトンド・デュ・グラシエで立派なセレモニーが開催され、感激もひとしおでした。

カルポー賞授賞式 (C)MICHEL LIDVAC

カルポー賞授賞式
© MICHEL LIDVAC

Q:2007年に入団し、とんとん拍子で2年でスジェへと上がったことについて、どう感じましたか。
A:昇級というのは夢の結実です。それに向けて練習をたくさんしますが、チャンスという要因もコンクールにはあります。ですから昇級しても、舞いあがることなく、頭を冷静に、謙虚さを保ち、そして一歩下がって現実を眺めることが大切だと思っています。たとえ順調に上がったにしても、さらに前進するために自問自答を続けることを自分にいいきかせているんです。スジェまで入団後2年で上がったスピードを怖いと思ったことはありません。嬉しいことですから。今年のコンクールでは12名の女性のスジェからプルミエには1席ありましたが、誰も該当せずという結果に終わりました。審査員の意見が分かれてしまい、誰も必要票数を得るに至れなかったからです。

Q:3回参加したコンクールで、毎回自由曲にヌレエフ作品を選んだのは、なぜですか。
A:私、『白鳥の湖』『バヤデール』『くるみ割り人形』など、オペラ座のレパートリーの中で、古典大作が好きなんです。ピュアで美しい動きに魅かれます。特にヌレエフの振付は、身体が実に快適に踊れるんですよ。カドリーユからコリフェのコンクールでは『ドン・キホーテ』、コリフェからスジェへは『ラ・バヤデール』、そして今年は『白鳥の湖』と、自分が踊りたいものを選んでいます。ヌレエフの作品って、コスチュームがとてもきれいでしょう。例えば『ラ・バヤデール』のガムザッティのチュチュとか、もう見るだけでうっとりしてしまいます。こうした衣装に身体が包まれると、自分が美しいと感じられて、プリンセスになった気持ちが得られます。これはコンクールの日にはとっても大切なこと。

2010年度コンクール、課題曲「マノン」 (C)SEBASTIEN MATHE/OPERA NATIONAL DE PARIS

2010年度コンクール、課題曲「マノン」
© SEBASTIEN MATHE/
OPERA NATIONAL DE PARIS

2010年度のコンクール、自由曲「白鳥の湖」 (C)SEBASTIEN MATHE/ OPERA NATIONAL DE PARIS

2010年度コンクール、課題曲「マノン」
© SEBASTIEN MATHE/
OPERA NATIONAL DE PARIS

Q:2009年1月の公演「若きダンサーたち」でもヌレエフの『白鳥の湖』を踊っていますが、これも自分で選んだのですか。
A:いいえ。この公演の演目は上層部が決めました。私のパートナーはイヴォン・ドゥモルでしたが、大変気持ちよく彼とパ・ドゥ・ドゥを踊れました。指導してくれたのはメートル・ドゥ・バレエのクロチルド・ヴァイエ。彼女は自分が教わったことを気前よく私たちに伝えてくれて、それに細かい点までよく見てくれたので、たくさんのことを学べました。もともと『白鳥の湖』は好きなバレエの1つでしたが、これをきっかけにますます踊りたい作品となりました。

Q:好きなタイプのダンサーあるいは目標にするダンサーはいますか。
A:はい、アニエス・ルテステュです。上品でエレガント、洗練されていて、見事な存在感があって・・・。私にとって、これぞバレリーナ! 私がオペラ座で初めて見たバレエは『白鳥の湖』でしたが、その日にアニエス・ルテステュがエトワールに任命されたんですよ。偶然のことです。私は6歳で、まだバレエを習い始めてはいませんでした。舞台を見終わった後に、シャンデリアを見上げたりして劇場内で余韻に浸っていたら、カーテンの裏からすごく大きな拍手が聞こえてきて・・。後で、それが彼女のエトワール任命だったと知りました。いつか、彼女のようなダンサーになれたらと思っています。過去2回のコンクールのレッスンを見てもらいましたが、彼女は私に自信を持たせてくれたんです。穏やかでとても寛大なアニエス。一人の女性としても大好きです。

Q:バレエを習い始めたきっかけは何ですか。
A:私、元気いっぱいの子どもでエネルギーを良い方法で発散させる必要があったんです。当時パリの9区に住んでいたのですが、すぐ近くにマックス・ボゾニ(2003年没)のダンス・スタジオがあり、母がレッスンの登録をしました。バレリーナを目指すとかではなく、スポーツの1つというか、子どもの放課後の習い事の1つという感じで始めたわけです。そこでマックス・ボゾニが "このおチビさん、バレリーナの素質がある!" と私に目をかけてくれて・・・。

Q:アニエス・ルテステュもマックス・ボゾニの指導を受けてますね。
A:ええ。でも、それだからといって、彼女のキャリアに私の今後を重ね合わせられたら、あらら・・・それは荷が過ぎます。でも、" 踊りたい!" という気持をマックス・ボゾニから私はもらった、というのは確かなことです。彼のスタジオにはオペラ座のダンサー、例えばパトリック・デュポン、カール・パケット、それにアニエスも通って来ていて、ボゾニから「彼らをよく見るんだよ。観察することによって、より早く多くを学ぶことができるから」とアドヴァイスされたんです。もちろんそれに従いました。観察眼を持つことはとても大切なこと。素晴らしい糧となりますね。

Q:オペラ座のバレエ学校時代はどのようでしたか。
A:私が8歳で入ったときはまだクロード・ベッシーが校長でした。最年少のクラスから始めた私は、当時、本当にまだまだベベ(赤ちゃん)! という感じ。ナンテールの寮では親と離れ、自宅を離れ、一人ぼっち。友達がいても家族とは違います。だから、精神的に成長しないと・・・。若年ながら、バレエ学校では大人にならざるを得ないんです。大変な6年でしたが、その間に一度も学校を辞めよう、バレエを辞めようと思ったことはありません。これはよくない、これはいい! というように先生たちが励ましてくれて・・。それに私自身も強い意思を持っていましたから。子役で舞台にも立ちました。私のオペラ・ガルニエでの初舞台は『くるみ割り人形』のネズミ役。『パキータ』のマズルカも踊ったんですよ。

Q:エトワールになること。それは夢ですか。
A:はい。小さいときからの夢です。それに向けて稽古に励んでいます。結果は未来が語ってくれるでしょう。でも、今のところはダンスが好きで、舞台に立つのが好きで、というのが重要なこと。何年後にエトワールになれるかなんて、それは私には予測できません。今は幸いにも大きな怪我もなく健康ですが、先のことはわからないし、空席の数にもよりますし。私を任命するにふさわしいと、上層部が思ったときのことですね。

2009年1月の公演「若きダンサーたち」より「白鳥の湖」 PHOTO AGATHE POUPENEY/OPERA NATIONAL DE PARIS

2009年1月の公演
「若きダンサーたち」より「白鳥の湖」
PHOTO AGATHE POUPENEY/
OPERA NATIONAL DE PARIS

:どのバレエ作品を踊って任命されたいですか。
A:『白鳥の湖』!

Q:これまでに一番楽しめた舞台は何ですか。
A:公演「若いダンサーたち」の『白鳥の湖』!(笑)。パートナーも、振付も、衣装も、音楽も何もかもが素晴らしかった。オーケストラの生演奏にのせて踊って・・・心から感動しました。このときに "だから、私はダンスをしてるんだわ。この仕事、本当に大好き" って思ったんです。

Q:コンテンポラリー作品に興味はありますか。
A:もちろんです! 学校では週に1度レッスンがあっただけなので、カンパニーに入ってから公演をみてコンテンポラリー・バレエを発見をしてる、という状況です。ノイマイヤー、マッツ・エク、プレルジョカージュなど素晴らしいと思います。特に『ベルナルダの家』には心を動かされました。こうした公演で振付家がオペラ座に来ると、レッスンをしてくれるんです。オペラ座にいながら他のカンパニーのレッスンが受けられるなんて・・このチャンスは絶対に活用しなければ!

Q:ダンサーとして自分の強みは何だと思いますか。
A:テクニック面ではピルエットじゃないのは確かだわ。人からいわれるように、ポール・ド・ブラか、あるいは舞台上の存在感かもしれませんね。

これもボゾニが言ってたのですが、「必ずしも足がきれいである必要はなく、舞台の上で光を放ち、ダンスが好きということが観る人の目にわかること、優雅さが重要なんだ」と。そうはいっても、もちろん、しなやかでアン・ドゥオールのきれいな足になるよう努力は怠りませんが。

Q:オペラ座の外ではどのような時間を過ごしてますか。

A:現在、マレ地区に住んでいます。お洋服、バッグ、ジュエリーなどショッピングが大好きなんですが、ここは日曜もブティックが開いていて・・・。
チュイルリー公園やリュクサンブール公園の自然の中で寛いだり、読書したりということもします。常に健康にはとても気をつけ、十分な休息をとるよう心がけています。1日たっぷり身体を働かせたら、夜は外出できませんし。もし外出したら、翌日のコンディションに響いてしまい、自分を恨むしかない結果となってしまいます。ある種の犠牲は必要なことです。でも、私たち、まだ若いのですから、ときには人生をエンジョイしなければね。バレエ学校時代から毎日が特訓のような日々を送っていて、青春を謳歌というには程遠かったので。人生を楽しむことができ、同時に自分を律することも忘れないように、ということですね。

Q:定年後のことは何か考えていますか。
A:いつかは考えなければいけないことですが、私はまだ19歳なのでまだ当分先のことです。時間はたっぷりあります。先日『パキータ』の最終公演日に、ベルトラン・ベレムのお別れ会があったんです。そのときに彼から「月日の流れはとても速い。今オペラ座バレエ団に在籍している幸運を満喫するように!」って言われました。

Q:現在(11月中旬)、何の稽古中ですか。
A:『白鳥の湖』のリハーサルのまっさい中です。私は4羽の白鳥の一羽。たくさん踊りますよ。

「パキータ」(左から2人目) PHOTO AGATHE POUPENEY/OPERA NATIONAL DE PARIS

「パキータ」(左から2人目)
PHOTO AGATHE POUPENEY/
OPERA NATIONAL DE PARIS

とても力強く、とても美しい踊り。グラン・ソーがあって、なかなかきつい振付なんです。でも、私はチャンレンジが好きなので(笑)。ドゥミ・ソリストの経験は、『ラ・バイヤデール』の3幕めの第三の影が初めてでした。コール・ド・バレエと違って、照明が自分の上にあるというのが、一番大きく感じた違いですね。オペラ座のコール・ド・バレエは高いクオリティで定評があります。アンサンブルの大切さを学べるのでコール・ド・バレエの仕事も好きですが、そこから外へ出る、というのはまた別の感動があります。ソリストとして舞台で踊る素晴らしさ。ほとんどの人がそのためにダンスをしてるのじゃないかしら。

Q:では、将来ソリストとして踊ってみたい作品は何でしょうか。
A:先ほどもいいましたけど、私は古典大作が好きなので、いつか『ラ・バヤデール』『白鳥の湖』『ジゼル』などの主役が踊れたら、すごく誇らしく思えるでしょうね。もし1つ選べといわれたら、『白鳥の湖』のオデットとオディール。これは2つの顔をもってるので、演じる楽しみもありますからね。役作りがうまくできたら、ダンスがより豊かなものになるはず。私をより成長させてくれる役だろうと思います。

《10のショート・ショート》
1 プティ・ペール:アクセル・イボ
2 プティット・メール:ジュリー・マルテルとマリアニエス・ジロ。
3 昨日の小さな幸せ:ボーイフレンドが旅先のボルドーから戻ってきたこと。
4 趣味:映画観賞。最近見たのはギヨーム・カネ監督の『プティ・ムショワール』。オルセー美術館やポンピドー・センターなどでアート観賞。写真展も行きます。好きな写真家はロベール・ドワノー。
5 他人に褒められる点:寛容さ。
6 自分で思う欠点:苛立ってしまうこと。我慢を重ねるうち、ときに爆発してしまうことがあります。
7 大いなる野望:(しばし沈黙後)"踊る身体"を持つこと。
8 ダンサー以外に考えられる職業:外交官。学校時代も午前の授業が楽しみだったように、勉強が好き。多いに学んで外交官になり、仕事であちこち旅ができたら素晴らしい!
9 旅をしたい国:自然を求めてアフリカへ。
10 身長:168cmかしら。170cmかもしれません。

Photos:(C)MICHEL LIDVAC
(C)SEBASTIEN MATHE/OPERA NATIONAL DE PARIS
AGATHE POUPENEY/OPERA NATIONAL DE PARIS

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