ロシアの伝統に根ざしながら21世紀を反映した『イワンと仔馬』

ワールドレポート/パリ

三光 洋
text by Hiroshi Sanko

Mariinsky Ballet マリインスキー・バレエ団

Rodion CHTCHEDRINE、Alexei RATMANSKI LE PETIT CHEVAL BOSSU
ロディオン・シェチェドリン作曲 アレクセイ・ラトマンスキー振付『イワンと仔馬』

11月の初めにサンクトペテルスブルクからマリインスキー歌劇場がパリのシャトレ歌劇場で引越公演を行った。わずか二日間だけだったが、現代ロシアを代表する作曲家である(1932年生)ロディオン・シェチェドリンのバレエとオペラを一本づつ上演した。
バレエはフランス初演となる2幕8場の『イワンと仔馬』だった。『イワンの馬鹿』や『火の鳥』などで日本でもよく知られた19世紀ロシアの詩人ピョートル・パーヴロウィチ・エルショーフによるロシア民話に基づいたバレエである。
音楽は1955年にまだ23歳の学生だったシェチェドリンが作曲した。
『イワンと仔馬』はすでに1864年にアルチュール・サン=レオン振付、チェザーレ・プーニ音楽でバレエとなっている。その後1895年にはマリウス・プティパが、1901年にはアレクサンドル・ゴルスキーが振付けている。シェチェドリンの音楽を使った最初の振付はアレクサンドル・ラドゥンスキーが1960年に振付け、作曲家の夫人であるマイヤ・プリセツカヤが踊った。
今回のパリ公演でマリインスキー歌劇場管弦楽団を指揮したワレリー・ゲルエフはインタヴューで「『白鳥の湖』や『ラ・バヤデール』といった有名な作品だけを取り上げるのは間違いだと思います。

マリインスキー・バレエ団『イワンと仔馬』 (C)N.Razina

『イワンと仔馬』はロシアの伝統に根ざしながら21世紀の現代を反映した作品で、現在のマリインスキー歌劇場が新しい作品を創造している生きた姿を明瞭に示してくれるでしょう。」と語っている。

台本はやや冗長だが、休憩を入れて2時間半の上演中退屈させられなかった。それは、アイロニーに富んだアレクセイ・ラトマンスキーの振付と卓越したダンサーたちのおかげだった。乳母たち、ジプシー女たちや火の鳥を演じた群舞の女性たちのシルエットは魅惑的で、観客をロシア民話の世界に導いた。ダンサーたちがそろってパントマイムを表情豊かに演じたために、かなり複雑なストーリーも明快で客席の子供たちの笑いを誘った。
レオニード・サラファーノフのエネルギーの迸るような切れ味のよい、高い技術に裏付けられた純真闊達なイワンと愛嬌のある仔馬役のグリゴリー・ポポフのコンビは非の打ち所のない出来だった。サラファーノフはこの欄でも取り上げた7月のシャトレ歌劇場のノボルシヴィルスク・オペラによる『ラ・バヤデール』でもソロルを踊って、強い印象を残している。
アリーナ・ソーモワも「ヴィルチュオーソ」という言葉がぴったり当てはまる女性的な華麗そのものの演技でヒロインの皇帝令嬢役を体現して、「19世紀ロシア・バレエの伝統そのものの美しさ」だと絶賛された。
(2010年11月1日 シャトレ歌劇場)

マリインスキー・バレエ団『イワンと仔馬』 (C)N.Razina

マリインスキー・バレエ団『イワンと仔馬』 (C)N.Razina

マリインスキー・バレエ団『イワンと仔馬』 (C)N.Razina

マリインスキー・バレエ団『イワンと仔馬』 (C)N.Razina

マリインスキー・バレエ団『イワンと仔馬』 (C)N.Razina

マリインスキー・バレエ団『イワンと仔馬』 (C)N.Razina

マリインスキー・バレエ団『イワンと仔馬』 (C)N.Razina

マリインスキー・バレエ団『イワンと仔馬』 (C)N.Razina

マリインスキー・バレエ団『イワンと仔馬』 (C)N.Razina

Photos:(C)N.Razina

指揮/ワレリー・ゲルギエフ、マリンスキー歌劇場管弦楽団、振付/アレクセイ・ラトマンスキー、衣装と装置/マクシム・イサーエフ、照明/ダミール・イスマギロフ

イワン/レオニード・サラファーノフ、姫君/アリーナ・ソーモワ、仔馬/グリゴリー・ポポフ、皇帝/アンドレー・イワノフ、高官/ユーリ・スメカロフ、海の女王/エカテリーナ・コンダウロワ、二頭の馬/カミル・ヤゴーラゾフ、アンドレイ・イエルマコフ

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