ラカッラ、シムキン、メルクーリエフなどが活躍した「21世紀のエトワール・ガラ」
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掲載
ワールドレポート/パリ
- 三光 洋
- text by Hiroshi Sanko
Théâtre des Champs-Elysées シャンゼリゼ歌劇場
パリのバレエシーズンの開幕を告げる「21世紀のエトワールガラ」が第13回を迎えた。今年もシャンゼリゼ歌劇場にバレエファンが集まった。
6組12人のエトワールの競演で目に付いたのはまずダンサーの多様さだった。またルシア・ラカッラやダニエル・シムキンといったパリ国立オペラ座バレエ団では見られないタイプのダンサーを目にする絶好の機会でもあった。
ヨーロッパ以外から唯一の参加となった中国国立バレエ団のジアン・ツァンはきれいな脚とあどけない表情で『眠れる森の美女』のパ・ド・ドゥとリンダ・エルメのシャンソンをバックに男と女の絡み合いという全く異なった演目を踊った。男性のビン・ハオは身体能力は高いのだが、動きに流麗さがなく、点の演技で線になっていなかった。
自ら振付たコンテンポラリー2作品を踊ったセルビアのレオ・ムジッチと特別招待エトワールのイリア・ルーヴェンは、視線の交差しない不思議な男と女を表現し、二人の強烈な個性が小品ながらまとまったスケッチを構成していた。
ポーランド国立バレエの小柄なアレクサンドラ・リアスツェンコと大きなエゴール・メンシコフは、きれいな動きだがワグナーの音楽が表現しているトリスタンとイゾルデのカップルというにはスケールが欠けていたが、後半のワイルの音楽とは良く合っていた。
ボリショイ歌劇場のエカテリーナ・クリサノワとアンドレイ・メルクーリエフは音楽と一体となったしなやかな動きで、あたかも空気をつかんでいるかのようだった。特にクリサノワのタンバリンを使ったエスメラルダの流れるような動きと愛くるしさには大きな喝采が送られた。
人気は今年もまずダニエル・シムキンに集まった。彼の姿が見えただけで拍手が沸き起こる。前半はソロで『堕天使』を踊った。繊細で優雅な彼の踊りは相変わらず隙がなかったが、モーツアルトをアレンジした音楽と映像の趣味の悪さが少なからず感興を削いだ。後半はバランシン振付の『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』だったが、シムキンの才能は破格で、パートナーのヤナ・サレンコは気の毒にもすっかり影が薄れてしまった。
しかし、最高の瞬間は前半最後に演じられた『弦楽のためのアダージョ』だった。サミュエル・バーバーのゆったりとした音楽に乗ったルシア・ラカッラの指先の表情、一つ一つの仕草が形作る曲線の美を前に場内には沈黙した。エトワールという言葉の響き・輝きがこれほどぴったりあてはまるダンサーは稀だろう。闇の中にラカッラとシリル・ピエールの姿が消えていくフィナーレは、人間の身体が表わしうる純粋なエロスの極限そのものだった。
(2010年9月18日 シャンゼリゼ歌劇場)(写真は当日公演のものではありません)
Photo (C)Ewa Krasucka / (C)Emmanuel Donny