ゼレンスキーのノヴォシビルスク・バレエ、サラファーノフを迎え『ラ・バヤデール』

ワールドレポート/パリ

三光 洋
text by Hiroshi Sanko

Ballet de Novossibirsk a Paris
ノヴォシビルスク・オペラ・アカデミー劇場バレエ団パリ公演

Marius Petipa : LA BAYADERE
マリウス・プティパ振付『ラ・バヤデール』

パリ夏季ダンスフェスティヴァルは、今夏シベリアのノヴォシビルスク・オペラ・バレエ団を招聘した。1945年に創立というロシアでは比較的若いノヴォルシビルスク・オペラ・バレエ団は現在百名のダンサーを擁し、ボリショイ・バレエ団とマリインスキー・バレエ団に次ぐ地位を占めている。バレエ監督は2006年からイーゴリ・ゼレンスキーが務めている。パリ公演は1967年以来である。演目は「バランシンの夕べ」『白鳥の湖』『ラ・バヤデール』の3つのプログラムだった。このうち2008年にゴールデン・マスク大賞を射止めた『ラ・バヤデール』を見た。

(C)Ballet de Novossibirsk/DR

幕が上がるとはりぼてと絵を描いた大布による舞台装置が現れた。19世紀には世界のどこの歌劇場でも使われていたが、今となっては珍しく、昔の劇場にタイムスリップしたような感覚にとらわれた。
ヒロインのニキヤを踊ったアンナ・ザーロワは小柄で、際立った技量の持ち主ではないが、大僧正と奴隷に対する視線の違いをはっきり出すところなど、マイムの表現には優れていた。水がめを持った踊りも、5月にパリ・オペラ座バレエ団で観たオーレリー・デュポンの踊りよりもはるかに素朴で、かなりヒロイン像が違って見えた。
演技面ではガムザッティ役のアンナ・オディンストワも表情豊か。第1幕2場の女二人の対決場面では、権高だが品のよいガムザッティと思わずナイフを出してしまった手を呆然と見つめるニキアがドラマを巧みに盛り上げていた。決して豪華ではないが、国王と家臣が高くなった奥のテラスから祝宴を見下ろす第2幕など、装置にも工夫が凝らされ、場面の雰囲気が明瞭に伝わってくるとともに、観客の目を楽しませた。

第3幕の影の王国は、最初薄い前幕の効果で上方に霧がかかったように見え、実際にはそれほど大きくないシャトレ歌劇場の舞台が広がりを増したように感じされた。チュチュをまとったダンサーが32人並びながら、格別の統一感を保つことができたのは、ロシア人ダンサーたちが持っている生来の音楽への反応のよさの賜物だろう。場所が舞台から少し距離のあるL列(12列目)だったことも、この場面を見るにはプラスになったようだ。また、国立イル・ドゥ・フランス管弦楽団を指揮したアンドレイ・ダニロフが場面によって出来にむらのあるミンスクの曲を、巧みな棒さばきでうまく欠点を覆い隠していたことも忘れられない。
しかし、当夜の見ものは何といってもソロルを踊ったレオニード・サラファーノフに尽きる。最初に一歩舞台に足を踏み入れると、たちまち誰もが目を奪われた。若さにあふれ、すがすがしい身体と完璧な技術。戦士ソロルにこれほどふさわしいダンサーがいるだろうか。おかげで、女性たちの影がすっかり薄くなってしまったのは気の毒になったほどである。サラファーノフが踊り出すと待ちかねていた客席から熱い拍手が起こるが、彼は淡々と演技を続け、全く無駄がない動きにはヒロインへの想いが一つ一つの所作に現れていた。第3幕の阿片を吸い幻覚にとらわれるところもその一つ。さわやかな明眸にニキヤのイメージが鮮やかに映っているのが、客席からもありありと見て取れた。
(2010年7月21日 シャトレ歌劇場)

(C)Ballet de Novossibirsk/DR

(C)Ballet de Novossibirsk/DR

※写真は以前の公演より (C)Ballet de Novossibirsk/DR

改定振付/イーゴリ・ゼレンスキー
音楽/レオン・ミンスク
装置/ダヴィッド・モナヴァルディサシュヴィリ
衣装/アレクサンダー・ヴァシリエフ
ニキヤ/アンナ・ザーロワ
ソロル/レオニード・サラファーノフ(マリインスキー・バレエ)
ガムザッティ/アンナ・オディンストワ
ファキール/オレグ・ボンドチュック
大僧正/エフゲニー・グラスチェンコ
ラジャー/セルゲイ・サモイレンコ
金の偶像/セミヨン・ヴェリシコ

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