ロビンズの雰囲気の異なるさまざまな魅力を堪能した夕べ
- ワールドレポート
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掲載
ワールドレポート/パリ
- 三光 洋
- text by Hiroshi Sanko
Ballet de l'Opera national de Paris
パリ国立オペラ座バレエ団
Hommage à JEROME ROBBINS「ロビンズへのオマージュ」
Jerome Robbins/Benjamin Millemied ロビンズ/ミルピエ
1998年に79歳でニューヨークで亡くなったジェローム・ロビンズ(1918~1998)は1974年から1996年までパリ国立オペラ座バレエ団で振付を行い、現在14作品がレパートリーに入っている。ロビンズは『ウエスト・サイド・ストーリー』(1957)をはじめとするブロードウエーのミュージカルで成功する一方、ハリウッド映画、ニューヨーク・シティ・バレエ団と広く活躍した。多様な作品から今回は『アン・ソル』『イン・ザ・ナイト』『コンサート』の三本とフランスの振付家バンジャマン・ミルピエが師のロビンズに捧げた作品『トリアード』を加えた夕べが催された。
4作品に共通していているのはカップルというテーマである。
まず最初に演じられた『アン・ソル』(ト長調)はラヴェルの『ピアノとオーケストラのためのト長調協奏曲』を使っている。
左手に大きな真夏の太陽が輝き、打ち寄せる波と空の雲を様式化して描いたエルテの洒落た装置が背景を飾る。すっきりした衣装をまとったオーレリー・デュポンとニコラ・ル・リッシュのカップルが「バスクのラプソディ」としてラヴェルが構想した曲にのって、軽々と舞うのを見ていると誰もが浜辺のうきうきした気分に充たされる。
二つ目の『トリアード』は「三つで一つのもの」という意味だが、ダンサーは男性二人(ヴァンサン・シャイエ、ニコラ・ポール)、女性二人(マリ=アニェス・ジロ、ドロテ・ジルベール)、ニコ・ムーリのオリジナル音楽を演奏するのもピアニストにトロンボーンが二人、電子音楽奏者一人である。
16歳からロビンズに師事したミルピエは今日もダンサーとして、また振付家として師の影響を受けていると語っているが、同時代の作曲家の音楽を使い(ミルピエは2006年の『アモヴェオ』初演時にムーリと出会っている)、ダンスと音楽との対話を目指した。
4人の男女の出会いは1944年にロビンズが振付けた『ファンシィ・フリー』の現代への変奏として考案されたという。人間関係と感情のやりとりをダンスによって描くという点でミルピエはロビンズの延長線上にある。ダンサーでは、マリ=アニェス・ジロに女性らしさが感じられなかったのが惜しまれた。フランスのヴェテランのバレエ評論家は「まるで女装した男」と酷評していた。
後半の二作品はロビンズの耳元から生涯はなれることがなかったショパンを使っている。中でも『ノクターン』が流れる『イン・ザ・ナイト』こそ、この夕べの頂点だった。
リュドミラ・パリエロとジェレミー・ベランガール、エミリー・コゼットとカール・パケットの二組もよかったが、オーレリー・デュポンと客演のマニュエル・ルグリの組み合わせの妙には周囲がしんとした。あくまでゆるやかで自然なものの、ぴんと張った緊張の糸の途切れないショパンの曲の特徴はそのまま、この二人の動きに重なっていた。
ロマンチックな感傷にひたった後はコミカルな『コンサート』だった。
舞台左にグランドピアノが置かれ、コンサートを聴きに来た男女のやりとりが面白おかしくスケッチされている。ひょうきんな夫を演じたアレッシオ・カルボーネと恐妻役のベアトリス・マルテルのカップルには思わず笑いがもれた。ドロテ・ジルベールは茶目っ気たっぷりな、おどけたバレリーナの役にぴったりだった。
雰囲気のがらりと違う作品によって、多面的な顔を持ったロビンズの魅力をみながたのしみ、大階段を降りる誰の顔にも明るい笑顔が広がったしあわせな夕べだった。
(2010年4月24日 パリ・オペラ座ガルニエ宮)
Photos:(C)Sébastien Mathé/Opéra natianal de Paris
En sol『アン・ソル』上演時間22分
音楽/モーリス・ラヴェル
振付/ジェローム・ロビンズ
装置・衣装/エルテ
照明/ジェニファー・ティプトン
Triade『トリアード』上演時間20分
音楽/ニコ・ムーリ
振付・衣装/バンジャマン・ミルピエ (2008年パリ国立オペラ座初演)
照明/パトリス・ブゾンブ
In the night『イン・ザ・ナイト』上演時間22分
音楽/フレデリック・ショパン
振付/ジェローム・ロビンズ
衣装/アントニー・ドーエル
照明/ジェニファー・ティプトン
Tne concert『コンサート』上演時間30分
音楽/フレデリック・ショパン
振付/ジェローム・ロビンズ
衣装/イレーヌ・シャラフ
照明/ジェニファー・ティプトン
コーン・ケッセルズ指揮パリ国立オペラ座管弦楽団