スラヴ色の濃厚なバレエ・リュス、アレキサンドロワ、ツィスカリーゼ他
- ワールドレポート
- パリ
掲載
ワールドレポート/パリ
- 三光 洋
- text by Hiroshi Sanko
Theatre des Champs-Elysees シャンゼリゼ歌劇場
Kremlin Ballet : Les Saisons russes du XXIeme siecle
クレムリン・バレエ団「21世紀のバレエ・リュス」
1907年にマリインスキー劇場から優秀なダンサーを選んでディアギレフが創設したロシア・バレエ団の1909年のパリ引越公演から一世紀が経過した。パリ国立オペラ座に続いてシャンゼリゼ歌劇場で欧州のバレエ界に衝撃を与えたロシア・バレエ団へのオマージュとして企画された公演を見た。
まず1909年5月19日にパリ公演初日に上演されたフォキーン振付の『アルミードの館』が取り上げられた。時代考証を丹念に行ったことで知られるアレクサンドル・ブノワの衣装・装置を可能な限り再現したという衣装には鮮やかな赤が目立った。
トランペットの勇壮なファンファーレとともに男性が登場し、王の手が挙がったところで奥に配置された噴水から水が噴出した。張りぼてと絵を描いた布という旧時代の装置は、太陽王ルイ14世時代のヴェルサイユの栄華をイメージした豪華絢爛なもので、抽象的でシンプルな最近の嗜好に見慣れた目にはかえって新鮮だった。ひげ男5人によるこっけいな道化のダンスやロシアの民族舞踊のステップは、今もローカルカラーの魅力を失っていない。女王のあくまでも伸びやかな肢体と、ゆったりしたゆとりにみちた王子のパ・ド・ドゥーは優雅そのものだった。
休憩後はニジンスキーがスキャンダルを引き起こした『牧神の午後』。パリ国立オペラ座ではニコラ・ル・リッシュで見たが、ニコライ・ツィシカリーゼが演じるとはるかに獣じみた、野性味が立ち上ってくる。ニンフのショールを手にした後と前では足取りががらりと変わっていた。牧神がガタリと地面に崩れるところフィナーレの生々しさにはぎくりとさせられた。
『火の鳥』はボリショイ・バレエのエトワール、マリヤ・アレキサンドロワのつま先から頭までよくしなう艶やかな舞のヴュルチオーソぶりに、観客からはため息がもれた。
欧州とは一味違うスラブ世界ならではの地方色は、一世紀を経た今も独自の魅力にかげりがないことを改めて感じさせた公演だった。
(2010年3月7日 シャンゼリゼ歌劇場)
『アルミードの館』(1909年)
振付/ミハエル・フォキーン
音楽/ニコライ・チェレプニーン
装置・衣装/アレクサンドル・ブノワ
『火の鳥』(1910年)
振付/ミハエル・フォキーン
音楽/イゴール・ストラヴィンスキー
衣装・装置/レオン・バクスト
『牧神の午後』(1912年)
振付/ヴァーツラフ・ニジンスキー
音楽/クロード・ドビュッシー
装置・衣装/レオン・バクスト
ダンサー/マリヤ・アレキサンドロワ、ミハイル・ロブーヒン、イルマ・ニオラーゼ、タチアナ・チェルノブロフキナ、ニコライ・ツィスカリーゼ、クレムリン・バレエ団