フランス・バレエの伝統を尊重したバレエ学校のデモンストレーション

ワールドレポート/パリ

三光 洋
text by Hiroshi Sanko

Ecole de Danse du Ballet de l'Opera National de Paris
パリ国立オペラ座バレエ学校

Démonstrations 「デモンストレーション」
Elisabeth Platel 全体指導/エリザベット・プラテル

1977年にパリ国立オペラ座バレエ学校校長だったクロード・ベッシーの発案で始まり、今や歳末のパリの恒例行事となったデモンストレーションがガルニエ宮で行われた。そのうち、年長組3学年の12月13日午後の公開授業を見た。

最初にエリザベット・プラテル校長による挨拶があったが、「フランスバレエの伝統を尊重したアカデミックな様式を見ていただきたい」という言葉に、学校の方針が明確に示されていた。
ブリジット・ルフェーブルバレエ舞踊監督もバスチーユ・オペラ座で行われたシンポジウム「パリ・オペラ座のレパートリー」(1671年~2009年)で講演し、「現在、コンテンポラリー・ダンスとクラシックの均衡の取れたレパートリーを目指しているが、いずれにせよパリ国立オペラ座バレエ団の特徴はアカデミズムに基づいていることだ。」と強調していたことと符牒が合っている。
太陽王ルイ14世によって創設された以来、さまざまな国のダンスを上演しながらも、根底には脈々とフランス宮廷舞踊の伝統が流れている。この伝統を尊重するのが「アカデミズム」ということのようだ。

まずベルナール・ブーシェ先生が指導する3年男子組の16歳未満の10名が登場した。舞台右袖に立った先生が細かい指示を出す。何度も繰り返されたのは「もっとゆっくり」doucementという言葉。「跳躍するために、その前に地面をしっかりと踏みしめるように」といった具体的なアドヴァイスが積み重ねられていく。「ほほえみを浮かべて踊りなさい」という一言は生徒の緊張をほぐそうという配慮だろう。

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ついでファビエンヌ・セルッティ先生の3年女子組。高度な技術を準備するためのエクササイズである。音楽はバッハ。まず、同年齢ながら男子よりはるかに大人びた表情が目に付いた。「女の子だってジャンプしますよ」と客席に先生が声をかける。「視線に注意して」とディアゴナルでまなざしの大切さを指摘していたのも印象的だった。

エリック・カミヨ先生は2年男子の担当だ。わずか1年の違いで3年生よりもはるかに体格も大きくなり、安定感をましている。カミヨ先生は注意深く見守っていて、「かたくならないで、エチエンヌ」といった具合に、ひとりひとりの生徒の名前を呼んで、激励していく。エポールマンの正確さ、努力しているところを見せない軽い跳躍、床に支えられたピルエットといった課題が並んでいる。「腕の力を抜いて、脚をのばして」といった助言が矢継ぎ早に飛んだ。

2年女子はフランチェスカ・ズンボ先生。「今年は音楽性を高めるためにすべてロシアの曲を使って練習します。音楽で身体を充たしてください。」と音楽への身体の反応を強調した。課題はアダージョ・ピエチネやプティット・カブリオレ。「音楽の中に思い切って入って」とうながし、最後の「ペトルーシュカ」では「もっと楽しそうに踊って」と注文を出した。

休憩後は来年はコール・ド・バレエへの入団試験を控えた1年生の男子組の10名がジャック・ナモン先生に導かれて現れた。「男の子たちの頭にいつもある」ピルエットの練習。ここでも「もっとゆっくり、時間をかけて」とすぐ指摘がされた。ついでグラン・ソー。「膝を柔軟に」「落ち着いて」と毅然と、しかし温かみのある声が先生からかかった。ヴァリエーションでは、「耳と目はなにをしている」とばらばらな生徒たちに叱咤した。「やる気があるね。これが何より大事。」と励ましも忘れない。「舞台にはもう鏡はない。しかも床は傾いている。でも、将来はここで踊るんだから。」とガルニエ宮特有の客席に向かって急な傾斜になっている床に戸惑う9人に声をかけた。

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これに続いた1年生女子組は9人。カロル・アルボ先生は「視線と手を遠くに投げて」、「ゆったりと落ち着いて」と指示。プティット・バットリーの後、ウエーバーの「ばらの精」のグラン・ジュテとグラン・ソーで締めくくった。

ついで、ロクサーナ・バルバカル先生による3年生男女のキャラクター・ダンスのクラスは草原の兵士と美しい奴隷女を演じた。ここでも視線に注意するように指示が出た。

最後はベルナール・ブーシェ先生が再登場して、1年生男女の「アダージョ」。ショパンの『ノクターン』と『くるみ割り人形』の雪の精の踊りで3時間にわたったデモンストレーションの幕が下りた。

体型と顔の形が似ている生徒が多く、パリ国立オペラ座バレエ団が特定の身体条件に当てはまるダンサーを選択している印象を受けた。多くの先生が生徒に視線に気をつけるように声をかけていたことも、バレエダンサーの表現手段としてのまなざしの重要性を早い時期から意識させていると思われた。
(2009年12月13日 ガルニエ宮)

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Photo:© David Elofer/Opéra national de Paris

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