スジェのエレオノール・ゲリノーとマティアス・エイマンが踊った楽しい『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』

ワールドレポート/パリ

三光 洋
text by Hiroshi Sanko

Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

"La Fille mal gardée" Frederick Ashton
『ラ・フィーユ・マル・ガルデ(リーズの結婚)』 フレデリック・アシュトン:振付

3年ぶりに『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』がガルニエ宮で上演された。今回は11公演で5人のリーズとコーラスが登場した。リーズがミリアム・ウルド=ブラーム(2回、3回目の途中で怪我で降板)、ミュリエル・ジュスペルギ(2回)、エレオノール・ゲリノー(途中からの代役を含め3回)、レティツィア・ガローニ(2回)、マリーヌ・ガニオ(2回)、コーラスがジョシュア・オファルト(3回)、マティアス・エイマン(3回)、フランソワ・アリュ(2回)、マルク・モロー(2回)、ファヴィアン・レヴィヨン(1回)だった。エレオノール・ゲリノーとマリーヌ・ガニオの二人がいずれもコール・ド・バレエに入ってから10年後に、初めて主役に抜擢されたように、ミルピエ・バレエ監督は階級にとらわれず若手ダンサーを積極的に起用している。実際の舞台は見ることができなかったが、コリフェのレティツィア・ガローニが黒い肌の女性ダンサーとしては、17世紀のパリ・オペラ座創立以来初めて主役を踊り話題を呼んだ。ミルピエ舞踊監督は就任前に「人種にとらわれずに人材を起用する」と語っていたが、その言葉を実行したことになる。

前回の2012年はミリアム・ウルド=ブラームとミュリエル・ジュスペルギの二人のリーズを見た。今回は二日目の6月30日にジュスペルギとフランソワ・アリュの組み合わせを見るつもりだったが、体調を崩して見ることができなかった。結局、革命記念日の前日に当たる7月13日に、ウルド=ブラームの代役となったエレオノール・ゲリノーとマティアス・エイマンのカップルで見た。
田園風景を描いた前幕が上がり、ハープのアルペッジオに乗って弦楽器が旋律を奏でる。フルートやピッコロは朝の鳥のさえずる声を模している。
そして第1幕の舞台となる農家の中庭が現われると、ぬいぐるみの雄鶏とパリ・オペラ座バレエ学校生徒が雌鳥たちに扮して登場し、リズミカルで軽快な音楽に合わせて滑稽なパントマイムを演じた。客席は笑いに包まれ、大きな拍手が早くも起こった。
2013年からスジェを務めているエレオノール・ゲリノーは初役だけに、役柄作りという点ではミリアム・ウルド=ブラームの肌理細かな演技には及ばなかった。しかし、19世紀にマリー・タリオーニと競い合ったオーストラリアのダンサー、ファニー・エルスラー(1810・1884)の名前が冠された有名なパ・ド・ドゥでは、きれいに整ったポワント・ワークが目を惹いた。
さらに、磨きこまれたテクニックを披瀝し、肩や腕といった上半身や手の表情の豊かさも見せてくれた。それだけに、これから舞台数を重ねてより存在感を増すことができれば、一層魅力的なダンサーとなることはまちがいない。

『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』 エレオノール・ゲリノー (C) Opéra nataional de Paris/ Benoîte Fanton

エレオノール・ゲリノー
(C) Opéra nataional de Paris/ Benoîte Fanton

また、オーレリアン・ウエット(シモーヌ母さん)とダニエル・ストークス(アラン)の二人はわかりやすいパントマイムをはじめ、コミカルな演技で観客を楽しませた。
しかし、この晩のスターは何と言ってもコーラス役のマティアス・エイマンだった。第1幕の杖にピンクのリボンを巻いて踊るソロから、リーズとのパ・ド・ドゥへとどの場面でもエイマンのしなやかな身体、速度のある動きからは目が離せない。情熱的で優しい光が宿った視線は、ヒロインを包みこむとともに、恋する若い男性の率直な喜びが周囲におのずと発散されて、観客の胸にもひしひしと伝わってきた。
農村の男女に扮したコール・ド・バレエもよくそろい、楽しそうに演技して舞台を盛り上げていた。
(2015年7月13日 ガルニエ宮)

『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』 (C) Opéra nataional de Paris/ Benoîte Fanton

(C) Opéra nataional de Paris/ Benoîte Fanton

『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』
音 楽/ルイ・ジョセフ・フェルディナン・エロール
音楽改訂/ジョン・ランチベリ
振 付/フレデリック・アシュトン(1960年)
装置・衣装/オズバート・ランカスター
照 明/ジョージ・トムソン
リハーサル/クリストファー・カール、グラント・コイル
アシスタント・メートル・ド・バレエ/ベアトリス・マルテル
リハーサル協力/オーレリー・デュポン、メラニー・ユレル、エルヴェ・モロー、バンジャマン・ペッシュ、エマニュエル・ティボー
フィリップ・エリス指揮パリ国立オペラ座管弦楽団
<配役> 
リーズ/エレオノール・ゲリノー
コーラス/マティアス・エイマン
シモーネ/オーレリアン・ウエット
アラン/ダニエル・ストークス
トマ(アランの父)/ピエール・レティフ
笛吹き/アントワーヌ・モニエ

『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』 エレオノール・ゲリノー (C) Opéra nataional de Paris/ Benoîte Fanton

エレオノール・ゲリノー (C) Opéra nataional de Paris/ Benoîte Fanton

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