シャトレ歌劇場のシーズン開幕は中国国立バレエ団の『白鳥の湖』『中国工農紅軍娘子軍連』

ワールドレポート/パリ

三光 洋
text by Hiroshi Sanko

Théâtre du Châtelet シャトレ歌劇場
Ballet national de Chine 中国国立バレエ団パリ公演

Nathalia Makarova "Le Lac des cygnes" , Wang Xixian "Le Detachement feminin rouge"
『白鳥の湖』ナタリヤ・マカロヴァ振付、『中国工農紅軍娘子軍連』ワン・シシエン振付

パリのシャトレ歌劇場は中国国立バレエ団公演でシーズンが始まった。1959年創設の同バレエ団は、旧ソヴィエト連邦から派遣された教師にクラシック・バレエのテクニックを学び、中国固有の作品を上演してきた。
今回はナタリヤ・マカロヴァ振付による『白鳥の湖』と1960年制作の映画を翻案した革命バレエ『中国工農紅軍娘子軍連』の二本が取り上げられ、パリ・バレエ界の話題となった。このバレエ団は2009年に就任したフォン・イン舞踊監督の下に平均22歳という若いダンサーたちが集まっており、今後いっそう技術や演技が向上する余地を残している。

まず9月26日に『白鳥の湖』を見た。マリウス・プティパとレフ・イワノフの原振付に依拠して、ナタリア・マカロヴァが振付けた伝統的なスタイルだった。踊りだけでなく、衣装と装置も北国の湖が背景に現れるきわめてオーソドックスなもの。欧州人に比べれたやや華奢ながら、よく鍛えられた女性のコール・ド・バレエはよくそろっていてロマンチックな雰囲気を出していた。ただ、腕の動きに躍動感がもう一歩なために、白鳥の羽ばたきの表現は少々型通りに感じられた。ソリストではツァオ・シューツーは小柄な身体ながらオデット/オディールに優美さを与えていたが、問題はジークフリート役のマ・シャオドンだった。太腿に付いた筋肉はすらりとしたパリ・オペラ座のダンサーたちの脚線に慣れた目には強い印象を与えた。王子らしい鷹揚なエレガンスは感じられなかったのが惜しまれたが、高い跳躍とピルエットで大きな拍手を集めた。
踊り以外のマイムでの演技が向上すればよりドラマの自然な流れが生まれるだろう。また国立イル・ド・フランス管弦楽団の演奏にチャイコフスキーならではの詩情があったなら、ダンサーたちの熱演による高揚感をさらに味わえただろう。

9月30日は中国国立バレエ団固有の作品『中国工農紅軍娘子軍連』だった。文化大革命の最中の1964年に、毛沢東主席夫人江青が委嘱し、同年に北京で初演されている。1930年代に海南島で蒋介石の国民党軍と毛沢東派の共産党軍(紅軍)とが対峙した内戦を背景としている。ヒロインの貧しい村娘ウ・チュンホア(ジャン・ジエン)は、大地主に捕らえられて虐待されるが、瀕死で横たわっていたところを革命派の若い軍人に救われて紅軍の女性部隊に入り、農民たちの助けも借りて国民党軍を破って大地主に復讐する。
イデオロギー色が濃厚な上に図式的な筋だが、『白鳥の湖』から一転してダンサーたちは生き生きと演技していた。パ・ド・ドゥから32回のフェッテまでロシア・スタイルのクラシック・バレエの技術をふんだんに取り込んだワン・シシエンの振付と、ウ・ツチアンの音楽、色彩豊かなローカル・カラーにみちた装置と衣装があいまって充実した舞台だった。
(2013年9月26日30日 シャトレ歌劇場)

pari1311b01.jpg

『中国工農紅軍娘子軍連』© Liu Yang(この記事当日公演の写真ではありません)

『白鳥の湖』
振付/ナタリヤ・マカロヴァ(プティパとイワノフ原振付による)
装置/ピーター・ファーマー
衣装/リナ・ソロヴイエヴァ
照明/ハン・ジアン
配役
オデット/オディール=ツァオ・シューツゥー 
王子ジークフリート=マ・シャオトン
ロットバルト=ツイ・カイ
ベンノ=ジャン・シ

『中国工農紅軍娘子軍連』
振付/ワン・シシエン
音楽/ウ・ツゥーチャン ドゥー・ミンシン、ダイ・ホン・ウェイ、シュ・ワンチュン、ワン・イエン・チャオ
装置/マ・ユンホン
照明/リアン・ホンチョー
配役
ウ・チュンホア(ヒロイン)/ジャン・ジエン
ホン・チャンチン(青年軍人)/ジョー・ジャオフィ 
隊長/リ・ジエ
シャオ・ウ(百姓娘)/ワン・チ
ラオ・ス(執事)/ジャン・ウエイ
ナン・バチェン(大地主)/リ・クー

ページの先頭へ戻る