パリの新シーズンを飾った「21世紀のエトワール・ガラ」シムキン、サレンコ、コチェトコヴァほか
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掲載
ワールドレポート/パリ
- 三光 洋
- text by Hiroshi Sanko
Les Etoiles du XXIe siècle☆21世紀のエトワール・ガラ
Théâtre des Champs-Elysées シャンゼリゼ歌劇場
パリの新しいバレエシーズンがシャンゼリゼ歌劇場の第16回「21世紀のエトワール・ガラ」で始まった。その最終日を見た。プログラムは以下の通りだった。
第1部
1.『リーズの結婚』パ・ド・ドゥ
振付/ジャン・ドーベルヴァル、音楽/フェルディナン・エロルド
マディナ・バスバイェヴァ、タイール・ガトーフ(カザフスタン共和国アスタナ国立オペラバレエ)
2. 『デスカミーノ・デ・ドス』
振付/マッティア・ルッソ、ディエゴ・ドルテッリ、音楽/クリフ・マルティネーズ、アレクサンダー・デプラ
ダーン・ヴェンヴォールト、マッティア・ルッソ (マドリッド国立バレエ)
3. 『愛が私に語りかけること』
振付/モーリス・ベジャール、音楽/グスタフ・マーラー
エリザベット・ロス、ジュリアン・ファヴロー(ベジャール・ローザンヌ・バレエ)
4. 『Strum(疾風)』
振付/ルイス・スティエンス、音楽/モーリス・ラヴェル
エヴァン・マッキー(シュツットガルト・バレエ)
5. 『Diving Into the Lilacs』
振付/ユーリ・ポソコフ、音楽/ボリス・チャイコフスキー
マリア・コチェトコヴァ、タラス・ドミトロ(サンフランシスコ・バレエ)
6.『スターズ&ストライプス』
振付/ジョージ・バランシン、音楽/ジョン・フィリップ・スーザ
ヤナ・サレンコ、ダニール・シムキン(ベルリン国立バレエ、アメリカン・バレエシアター)
(休憩)
第2部
1. 『Gwana』
付/ナチョ・ドゥアト、音楽/アルベルト・アルテチェ、ハヴィエ・パクサリーノ
カヨコ・エヴァーハート、ダーン・ヴェンヴォールト(マドリッド国立バレエ)
2. 『カプリッチオ』ソロ
振付/ダグラス・リー、音楽/シメオン・テン・ホルト
エヴァン・マッキー(シュツットガルト・バレエ)
3. 『パリの炎』
振付/ヴァシリイ・ヴァイノネン、音楽/ボリス・アサフィエフ
マディナ・バスバイェヴァ、タイール・ガトーフ(カザフスタン共和国アスタナ国立オペラバレエ)
4 『雨』
振付/アナベル・ロペス・オチョア、音楽/ヨハン・セバスチャン・バッハ
ヤナ・サレンコ、デニール・シムキン(ベルリン国立バレエ、アメリカン・バレエ・シアター)
5.『行かないで』ソロ
振付/メルディ・イチムラ、音楽と台詞/ジャック・ブレル
サラ・クラーク(カナダ・ナショナル・バレエ)
6.『Chambre séparée(ウイーン、ウイーン)』
振付/モーリス・ベジャール、音楽/アントン・ウエーヴェルン、リヒャルト・ホイベルガー
エリザベット・ロス、ジュリアン・ファヴロー(ローザンヌ・ベジャール・バレエ)
7. 『ドン・キホーテ』パ・ド・ドゥ
振付/マリウス・プティパ、音楽/レオン・ミンクス
マリア・コチェトコヴァ、タラス・ドミトロ(サンフランシスコ・バレエ)
「デフィレ・フィナル」
出演ダンサー全員、構成/ナディア・ヴェセロヴァ・テンサー
© Emmanuel Donny
© Emmanuel Donny
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観客のお目当ては2007年にこの劇場に初登場して、一挙にスターダムに躍り出たダニール・シムキンだった。ラジオ、テレビ、新聞雑誌の報道もすべてシムキン一人に照準が当てられていた。12歳から父のディミトリー・シムキンと共にガラ公演に参加し、「ダンサーとしての究極の目的ではないけれども、ガラ公演で踊るのは大好き」だという。
前半の最後に踊ったバランシンの『スターズ&ストライプ』で見られるように「短時間にミスなしで、自分の持つすべてを発揮する」シムキン独特の空気の精のようなしなやかな身のこなし、自在な高い跳躍は何度見ても爽快な気分にさせてくれる。この特性に加えて、後半には現代作品の表現者という別の顔を見せてくれた。ガラ公演の時だけのパートナーながら、ぴったりと息の合ったヤナ・サレンコとともに踊ったのは、バスク地方の振付家アナベル・ロペス・オチョワの『雨』と題されたパ・ド・ドゥだった。バッハの『ゴールドベルク変奏曲』と電子音楽とが交互に響いている薄闇に、浮かび上がった二人の白い肢体からは目が離せなかった。技術だけでない、風格とカリスマ性は26歳の若者とは思えない。
一方、エトワール・ガラはシーズン中にはパリでは見られない、未知のダンサーを目にする機会でもある。ベジャール・バレエ・ローザンヌから負傷したカテリナ・シャルキナの代役として登場したのがエリザベット・ロスだった。
相手役のジュリアン・ファヴローが実に小さく見える。極端に長いよくしなう腕と脚のすらりとした長身。小さな顔は一見したところ冷ややかに見えるが、表情は絶え間なく変わる。後半の前衛的なウエーベルンと世紀末の退廃が滲んだウイーン・オペレッタ(リヒャルト・ホイベルガー曲)という対照的な音楽を使った『Chambre séparée(ウイーン、ウイーン)』では、全く別の表情によってウイーンの持つ両面を感じさせた。
© Emmanuel Donny
やはり、ベジャール振付の『愛が私に語りかけること』で垣間見られた妖艶な、強さと弱さとが交錯する不思議な視線もちょっと類がない。冷たい熱のようなオーラが周囲に放たれていた。
もう一組印象に残ったのはサンフランシスコ・バレエのマリア・コチェトコヴァ、タラス・ドミトロの二人だ。おきゃんでキトリにぴったりのロシア女性と、鮮やかな空中での回転技を披露したキューバ人男性のカップルに客席が沸いた。来年7月のシャトレ歌劇場で開催されるパリ夏季ダンスフェスティヴァルに出演するサンフランシスコ・バレエ団への期待がふくらんだ。
(2013年9月22日 シャンゼリゼ歌劇場)
© Emmanuel Donny
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