ルグリによるウィーン国立歌劇場バレエ団の「ヌレエフへのオマージュ」

ワールドレポート/パリ

三光 洋
text by Hiroshi Sanko

Les Ete de la Danse a Paris☆パリ夏季ダンスフェスティヴァル

ウィーン国立歌劇場バレエ団/Theatre du Chatelet シャトレ歌劇場

パリでは毎夏、外国のバレエ団を招聘してパリ夏季ダンスフェスティバルが開かれている。今年はウィーン国立歌劇場バレエ団が3週間にわたってシャトレ歌劇場で3つのプログラムを上演した。

オープニングの「ルドルフ・ヌレエフへのオマージュ」(7月4日はガラ公演)、続いてデーヴィッド・ドーソン、ヘレン・ピケット、ジャン=クリストフ・マイヨー、パトリック・ド・バナなどの振付作品を組み合わせた「ミックス・プログラム」、最後がヌレエフ振付の『ドン・キホーテ』といずれもウィーン国立歌劇場に大きな足跡を残したヌレエフへの思い出に捧げられたプログラムである。1964年10月15日に自ら振付けた『白鳥の湖』をマーゴット・フォンテーンと踊ったヌレエフに、ウィーン国立歌劇場の観客のカーテンコールが
89回にもおよんだことはギネスブックに記載されている。

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© Wiener Saatsballett- Michael Pöhn

2010年9月にウィーン国立歌劇場総監督に就任したばかりの辣腕ドミニック・メイエが白羽の矢を立てたのが、パリ・オペラ座バレエ団のエトワール、マニュエル・ルグリだった。ヌレエフによってスジェからエトワールに任命されたルグリは、ウィーンとヌレエフとの強い絆を意識してダンサーたちを導いてきた。その成果が披露されるとあってパリのバレエ・ファンから注目を集めた引越公演だった。

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© Wiener Saatsballett- Michael Pöhn

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© Wiener Saatsballett- Dimo Dimov

7月6日に見た第1プログラム「ルドルフ・ヌレエフへのオマージュ」はヌレエフ自身が踊ったり、振付を行ったりした作品を主にした10の作品から構成されていた。マニュエル・ルグリは各作品の上演前に、リハーサル風景の抜粋をダンサーの名前付きで映写して、ウィーン国立歌劇場のダンサーたちをあまりよく知らない観客に配慮を示した。
プログラムはワフタング・チャブキアーニとヌレエフが振付けた『ローレンシア』のパ・ド・ドゥ、フランス初演で始まった。第2次大戦前のソヴィエトで創られ、ヌレエフが1953年に踊って最初の大きな成功をおさめた作品だそうだ。今回の公演ではウクライナ人のデニス・チェリェヴィチコが群を抜いた技量をみせて観客の眼を奪った。
これに続いた『Before Nightfall』は1985年にヌレエフがパリ・オペラ座バレエ団のためにオランダの振付家ニルス・クリストに委嘱した作品だ。

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© Wiener Saatsballett- Axel Zeinger

前半の白眉は3番目に演じられたローラン・プティ振付『こうもり』だろう。わずか8分という短い抜粋ながら、ロシア出身のオルガ・エジナとウラディミール・シスコフがヨハン・シュトラウス二世の甘美な音楽にのせて、ウィーン・オペレッタの優雅な世界を垣間見せてくれた。
フォーサイスの『The vertiginous Thrill of Exactitude』とヌレエフ振付の『眠れる森の美女』第3幕のパ・ド・ドゥで前半が終わった。第1ソリストに昇進したばかりのロベール・ガブデュランの筋骨隆々たる王子を相手にオーロラ姫を踊ったマリア・ヤコヴレワが観客の拍手を集めていた。

後半はバランシンの『ルビー』パ・ド・ドゥで始まり、パリ・オペラ座バレエ団で上演されているヴァージョンとは異なった1964年にヌレエフがウィーンで最初に振付けた『白鳥の湖』第1幕のパ・ド・サンクがパリで初めて踊られた。
ストラヴィンスキー『ロシア風スケルツォ』をバックにした『Black Cake』はタンゴのヴァリエーション。ユーモアたっぷりのイリナ・ツィンバルとエノ・ペキによるデュオが見事だった。
バレエ団の人気カップル、マリア・ヤコヴレワとデニス・チェリェヴィチコによる『海賊』のパ・ド・ドゥは、フェッテと跳躍の妙で観客を興奮の渦に巻き込んだ。最後はオルガ・エジナを中心とする10人のダンサーたちによるジョン・ノイマイヤーの『バッハ組曲第3番』という穏やかな調和の取れた世界が踊られて幕が降りた。
ロシア出身のダンサーを主軸にした活気にあふれる舞台に、パリの観客は惜しみのない拍手を贈っていた。
(2013年7月6日 シャトレ歌劇場 ※写真は取材日とは異なります)

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© Wiener Saatsballett- Michael Pöhn

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© Wiener Saatsballett- Michael Pöhn

「ルドルフ・ヌレエフへのオマージュ」上演された演目
『ローレンシア』第2幕のパ・ド・シス 
振付/ワフタング・チャブキアーニ(1939年作品、フランス初演)、音楽/アレクサンダー・クライン
『Before Nightfall』

振付/ニルス・クリスト(1985年作品)、音楽/ブフスラフ・マルティヌー『弦楽オーケストラとピアノとティンパニ』、装置/トーマス・リュペルト、衣装/ケソ・デッカー
『こうもり』第2幕のパ・ド・ドゥ
振付/ローラン・プティ(1979年作品)、音楽/ヨハン・シュトラウス二世、衣装/ルイザ・ガミエ
『Vertiginous Thrill of Exactitude』
振付/ウイリアム・フォーサイス(1996年作品)、音楽/フランツ・シューベルト『交響曲第9番ハ長調』D944 第4楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ、衣装/ステファン・ギャロウェイ
『眠れる森の美女』第3幕のパ・ド・ドゥ
振付/ルドルフ・ヌレエフ(1996年作品)、音楽/チャイコフスキー 
(休憩)
『ルビー』パ・ド・ドゥ
振付/ジョージ・バランシン(1967年作品)、音楽/ストラヴィンスキー『ピアノとオーケストラのためのカプリッチオ』、衣装/カリンスカ
『白鳥の湖』第1幕のパ・ド・サンク
振付/ルドルフ・ヌレエフ(ウィーン版1964年作品、フランス初演)、音楽/チャイコフスキー
『Black Cake』デュオ
振付/ハンス・ファン・マーネン(1989年作品)、音楽/ストラヴィンスキー『ロシア風スケルツォ』、衣装/ケソ・デッカー 
『海賊』パ・ド・ドゥ
振付/ワフタング・チャブキアーニ&ルドルフ・ヌレエフ、音楽/リカルド・ドリゴ
『バッハ組曲第3番』
振付/ジョン・ノイマイヤー(1981年作品)、音楽/ヨハン・セバスチャン・バッハ『オーケストラのための組曲第3番ニ長調 BWV1068』

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© Wiener Saatsballett- Michael Pöhn

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