和太鼓、パーカッション、雅楽で構成され幻想的で美しいキリアン振付の『輝夜姫』
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掲載
ワールドレポート/パリ
- 三光 洋
- text by Hiroshi Sanko
Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
Jiri KLIAN , ¨kaguyahime¨ イリ・キリアン振付『輝夜姫』
1988年にネーデルランド・ダンス・シアターで世界初演され、2010年にパリ・オペラ座バレエ団のレパートリーに入ったキリアンの『輝夜姫』が再演された。会場は2010年にはバスチーユ・オペラだったが、今回はガルニエ宮に変わった。
開演20分前には早くもオーケストラピットに打楽器奏者たちが姿を見せ、楽器を調音し始めた。普段は見られない光景である。子供たちが上から覗き込んで見ている。
© Opéra national de Paris/ Charles Duprat
© Opéra national de Paris/ Christian Leiber
黒い舞台幕の中央に白い照明が当てられ、月に見立てられている。舞台左袖には3本花が花瓶に入れてある。幕が上がると奥に大太鼓がきれいな円を描き、闇に7本の鉄棒が宙に吊り下げられ、左右に揺れている。棒には間隔を置いてランプが配され、非現実な感じが周囲に広がってくる。
輝夜姫の姿が後方の床からかなり高い所に現れ、静かに動きだし、やがて空中の床が傾いて滑るようにして地上に降り立つ。ゆっくりと一歩、一歩前方に向かって進むのだが、テンポが遅いだけにきわめてむずかしい。二人のヒロインではマリ=アニエス・ジローの方がはるかに安定感があった。白い「月の住人」が漆黒の闇に浮かびあがる姿は実に美しいのだが、それに幻想的なイメージを与えるのはどんなに優れたダンサーにとっても自己のすべてをなげうっても簡単ではない。ダンサーの演技に対する評価が観客によって極端に分かれた。これはキリアンの要求が極めて高度であることと、ヒロインのイメージがそれぞれの人によって違うからではないだろうか。
第1部第2場では舞台右から求婚者たちが一人づつ左に向かって進むが、いずれも与えられた使命を果たせず、最後は床に倒れ伏す。太鼓や打楽器が生む破格のエネルギーを全身で受けた5人の男性たちは、そろって生き生きとした表情でたのしそうに踊っていた。中でもアレッシオ・カルボーネはエネルギッシュで切れ味のよい動きで群を抜いていた。
キリアンは和太鼓、西洋の打楽器に雅楽と3つの異なる音を場面によって使い分けた石井眞木の音楽に寄り添って、振付を構成している。輝夜姫のソロとミカドとのデュオでは雅楽が流れる一方で、村人の争いや戦争の場面では和太鼓の轟音がガルニエ宮を揺るがした。メリハリのある巧みな舞台感覚はキリアンならではのものだろう。
ミカド役では気品あふれるエルヴェ・モローの立ち姿が見事だっただけに、第2部2場の数分間は瞬時に過ぎ去った。あまりにも出演時間が短いのは残念だ。
輝夜姫の昇天は、鏡がずらりと観客に向けて並べられ強烈な光が観客の目を射る、激しい音楽が一転して静かになり、ゆったりとヒロインが中央奥に去っていくところで幕が下りた。
今シーズンの公演ではフランスのバレエ批評家、観客からそろって高い評価を受けた舞台だった。
(2013年2月15、17日 ガルニエ宮)
© Opéra national de Paris/ Anne Deniau
© Opéra national de Paris/ Charles Duprat
© Opéra national de Paris/ Charles Duprat
© Opéra national de Paris/ Charles Duprat
© Opéra national de Paris/ Charles Duprat
© Opéra national de Paris/ Anne Deniau
© Opéra national de Paris/ Charles Duprat
『輝夜姫』
音楽/石井眞木
振付/イリ・キリアン
装置・照明/ミカエル・シモン
衣装/フェリアル・シモン、ヨーク・ヴィッサー
演奏/ミヒャエル・ド・ロー指揮 鼓童
配役/(2月15、17日の順)
輝夜姫=アリス・ルナヴァン/マリ=アニエス・ジロー
ミカド=エルヴェ・モロー/アレクシス・ルノー
ミカドの従者=ジュリアン・メザンディ、アレクシス・ルノー/イヴォン・ドゥモル、ジェレミ・ルー・ケール
求婚者たち=アレッシオ・カルボーネ、ヴァンサン・シャイエ、オーレリアン・ウエット、セバスチャン・ベルトー、アドリアン・クヴェ/アレッシオ・カルボーネ、アリステール・マダン、ジュリアン・メザンディ、セバスチャン・ベルトー、アドリアン・クヴェ