アンドリス・リエパとド・バナが再創造したルービンシュタィンの『クレオパトラ』

ワールドレポート/パリ

三光 洋
text by Hiroshi Sanko

Théâtre des Champs-Élysées シャンゼリゼ歌劇場

Kremlin Ballet  Les Saisons russes du XXIeme siecle クレムリン・バレエ団「21世紀のバレエ・リュス」

エッフェル塔を遠望するシャンゼリゼ歌劇場で第4回目の「21世紀のバレエ・リュス」が6月28日から7月1日まで開かれた。今回はモスクワのクレムリン・バレエ団により『クレオパトラ/イダ・ルービンシュタイン』『薔薇の精』『火の鳥』の3作品が演じられた。
まず、1909年にミハイル・フォーキンがイダ・ルービンシュタインのために振付けた『クレオパトラ』がパトリック・ド・バナの手によって再現された。バナはハンブルク・バレエ団で学び、ベジャールとナチョ・デュアトのもとで経歴を残したダンサーである。本欄でも紹介したウイーン国立歌劇場バレエ団のために振付けた『マリー・アントワネット』をはじめ、世界各地で活躍している。
バナは19世紀の西洋人を魅了した東方世界としてのオリエントをダンサーたちののびやかな腕の動き、異国への憧憬に彩られた音楽、20世紀初頭のアール・ヌーヴォーを意識した装置によって描き出した。
全体は9場面から成る。イダの家で始まり(第1場)、フォーキンがバレエ『クレオパトラ』を振付しながら、イダをダンサーとして磨き上げていく(第2場)。ダンディな貴族モンテスキュー公爵邸での夜会(第3・4場)、練習場でのリハーサル(第5場)、パリの社交サロン(第6場)と続いてから、1909年6月1日シャトレ歌劇場の総稽古(第7場)と翌日の初演(第8場)の大成功を経て、再びイダの家に戻って(第9場)終わる。
イダというスターダンサーを通じて第1大戦前の文化都市パリが浮かび上がってきた。あえて難を言うならば、ディアギレフによってバレエが革新されていった時代背景をもう少し突っ込んで欲しかった。
人物関係もかなり複雑な、1時間15分という大作でちょっと長い印象を残したものの、それでいて客席が沸いたのはヒロインのイダを演じたイリゼ・リエパに圧倒的な存在感があったからだろう。蛇のように撓う長い腕と指、すらりとした痩身からは、クレオパトラとイダとが二重写しになったかのような、ビアズレーが描いた女のような妖しい、コケットリーが匂いたっていた。
これに続いた『薔薇の精』は、優美なマリアンア・リズキナ(若い娘)とディミトリー・グダノフ(薔薇の精)が踊った。ウエーバーの音楽の妙とフォーキンの振付によってあふれるような詩情が二人のダンサーの身体からあふれだし、いつもながら夢幻の空間に引き込まれた。
しかし、何と言っても当夜の華は『火の鳥』を踊ったエカテリーナ・コンダウーロワだった。マリインスキー・バレエ団のプリンシパルに昇格したばかりのコンダウーロワは、イリア・グズネソフの颯爽としたイワン王子を前に、木管楽器の音色と一体となって赤い羽根が舞うかのような姿で観客の視線を釘付けにし、ロシアの民話の世界へと観客を誘った。 
(2012年7月1日 シャンゼリゼ歌劇場)

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「21世紀のバレエ・リュス」© DR(公演当日の写真ではありません)

『クレオパトラ/イダ・ルービンシュタイン』
原案/アンドリス・リエパ
音楽/ストラヴィンスキー、リムスキー・コルサコフ、グラズーノフ、マスネ、ラヴェル、フォーレ、テクビレク 
振付/パトリック・ド・バナ
台本/ジャン=フランソワ・ヴァゼル
装置/パヴェル・カプレヴィッチ
衣装/エカテリナ・コトヴァ
配役 クレオパトラ(イダ・ルービンシュタイン)/イリゼ・リエパ、ロベール・ド・モンテスキュー/アルテム・ヤシュメンニコフ、ミチェル・フォキーヌ/ミハイル・ロブキン、G氏/イリヤ・クズネツォフ、ヴァスラフ・ニジンスキー/ミハイル・マルチニュック、タマラ・カルサヴィナ/ナタリア・バラクニシュヴァ
アンナ・パヴロヴァ/アレクサンドラ・チモフェーーヴァ・アルティスト、ブロニスカヴァ・ニジンスカ/ヴェロニカ・ヴァルノフスカイア
『薔薇の精』
音楽/ウエーバー
振付/ミハイル・フォーキン
台本/ジャン・ルイ・ヴォードワイエ
装置・衣装/アンナ・ネツナヤ(レオン・バクストの原案による)
演出/アンドリス・リエパ
配役 若い娘/マリアンア・リズキナ、薔薇の精/ディミトリー・グダノフ
『火の鳥』
音楽/ストラヴィンスキー
台本・振付/ミハイル・フォーキン
装置・衣装/アンナ・ネズニとアナトリー・レズニ(アレクサンドル・ゴロヴィーヌとレオン・バクストの原案による)
振付の再現/アンドリス・リエパ
アシスタント/イゴール・ピヴォロヴィッチ
配役 火の鳥/エカテリーナ・コンダウーロワ、イワン王子/イリア・クズネゾフ
皇女/ナタリア・バカシニシェヴァ、不死身のカシュシェイ/イゴール・ポヴォロヴィッチ
クレムリン・バレエ団 音楽は録音を使用

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