ベジャール芸術と日本の伝統が一体となった『ザ・カブキ』がガルニエ宮で喝采!

ワールドレポート/パリ

三光 洋
text by Hiroshi Sanko

Maurice Béjart "LE KABUKI" モーリス・ベジャール振付『ザ・カブキ』

The Tokyo Ballet at the Paris Opéra 東京バレエ団 パリ・オペラ座公演

パリ国立オペラ座のガルニエ宮で東京バレエ団による引越公演『ザ・カブキ』が5月18日から22日まで6回にわたって上演された。その初日の舞台を見た。
このモーリス・ベジャールの作品は1986年4月6日に東京文化会館で東京バレエ団により、パリ・オペラ座バレエ団のエリック・ヴ=アンを主役に迎えて初演が行われ、その後ヨーロッパ各地のオペラハウスでも上演された。それから26年後の今回は全く違う新しいキャストによって上演された。

プロローグは現代の東京。大小のテレビ画面にはスカイツリーから渋谷の街頭までが目まぐるしく映し出され、最後はすべての画面が日の丸になる。(スカイツリーはベジャールの生前にはなかったはずだが・・・)ヘヴィメタルのロックが流れている。舞台上は現代の若者たちが雑然と動き回っているが、その中の一人の長身でネクタイにYシャツの男性が黒子から日本刀を手にしたところで、突然義太夫節が聞こえ、歌舞伎にそっくりなヌノ・コルテ・レアルによる舞台装置が現れ、男性は鎌倉時代の鶴岡八幡宮の境内へとタイムスリップした。

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© Opéra national de Paris/ Charles Duprat

ここからフィナーレの高師直邸討ち入りに至るまでの9つの場面はいずれも原作の「仮名手本忠臣蔵」から選ばれ、第1場「兜改め」、第2場「お軽、勘平」、第3場「殿中松の間」、第4場「判官切腹」、第5場「城明け渡し」、第6場「山崎街道」、第7場「一力茶屋」、第8場「雪の別れ」、第9場「仇ち討り」となっている。
忠臣蔵では四段目の塩冶判官切腹の場の後、五段目と六段目に位置する「お軽と勘平」が刃傷事件の前の第2場に置かれていることを別にすれば、ほぼ物語の筋を辿っている。しかし、当日会った観客からは「話しの筋がこみいっていてわかりにくかった」という声が挙がっていた。筆者本人ももしも原作を見たことがなかったら、どこまで筋が辿れたか心もとなかった。
幕間のフォワイエでの会話を聞くと、華麗な着物やきれいな伝統的な装置の色彩やデザイン、隈取、舞台幕の独特の使い方による舞台転換の妙、拍子木の響き、義太夫、黒子、といった歌舞伎の持つエキゾチックな要素がフランスの観客をひきつけていたことがよくわかった。
ダンサーたちの動きは歌舞伎の所作を使ったものと、クラシック・バレエの要素にインドのヨガの動きというベジャールの世界との二つが混交していた。前半はこの二つが必ずしも一体化されていないままだったのが惜しまれる。それはフランスで学んだ黛敏郎の音楽が、日本の伝統音楽、ストラヴィンスキー、ショスタコヴィッチ、フランスの現代音楽といった性格の異なる音をないまぜにしたもので、一貫した独自の音楽世界を作り出せなかったために全体の統一性を損なったためかもしれない。
ソロダンサーでは鷺坂伴内役の高橋竜太の目を見張らせるダイナミックなエネルギッシュな演技だったし、優雅な上野水香の顔世御前、松下裕次の斧定九郎役の悪党ぶりが印象的だった。

大詰めの討ち入りシーンの男性群舞は、ベジャール芸術と日本の伝統とが見事に一体となって一挙にドラマが盛り上がり、カーテンコールでは大きな拍手がしばらく鳴り止まなかった。
(2012年5月18日プルミエ ガルニエ宮)

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© Opéra national de Paris/ Charles Duprat

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© Opéra national de Paris/ Charles Duprat

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© Opéra national de Paris/ Charles Duprat

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© Opéra national de Paris/ Charles Duprat

音楽/黛敏郎(録音を使用) 
振付/モーリス・ベジャール(1986年)
装置・衣装/ヌノ・コルテ・レアル
配役
現代の若者/大星由良之助 高岸直樹
足利直義 柄本弾
塩冶判官 長瀬直義
顔世御前 上野水香
大星力弥 吉田蓮
高野師直 木村和夫
鷺坂伴内 高橋竜太
早野勘平 宮本祐宜
お軽   小出領子
現代の早野勘平 梅澤紘貴
現代のお軽 高村順子
石堂    森川茉央
薬師寺   安田峻介
斧定九郎  松下裕次
芸者    吉川留衣
与市兵衛 永田雄大
おかや   田中結子
お才    西村真由美
四十七士の第1ヴァリエーション 松下裕次
四十七士の第2ヴァリエーション 宮本祐宜

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