6000マイルを越えて贈られたギエムによる素晴らしいパフォーマンス

ワールドレポート/パリ

三光 洋
text by Hiroshi Sanko

Sylvie Guillem "6000 miles away" シルヴィ・ギエム「6000 miles away」

William Forsythe "Rearray", Jiří Kylián 『27'52"』, Mats Ek "Bye"
ウイリアム・フォーサイス振付『Rearray』、イリ・キリアン振付『27'52"』、マッツ・エック振付『Bye』ト

シルヴィ・ギエムが今年もパリのシャンゼリゼ歌劇場に出演し、熱狂的なファンが集まった。アクラム・カーンと組んだ『聖なる怪物たち』、カナダ・ケベック地方の演出家ロベール・ルパージュと振付家ラッセル・マリファントとの共同制作による『エオンナガタ』に続いて、今シーズンはフォーサイス、キリアン、エックというコンテンポラリー・ダンスの最前線を行く振付家の作品が取り上げられた。
最初はフォーサイスがギエムのために振付けた『Rearray』。パートナーはパリ国立オペラ座エトワールのニコラ・ル・リッシュだ。47歳とは思えないギエムの衰えを知らない肉体が裸の舞台に現れただけで場内にぴんとした空気が張り詰める。36歳でアキレス腱の一部が裂けたのを唯一の例外として、怪我を知らないしなやかな鋼のような身体が、これも大柄なル・リッシュとほとんど触れることなく交錯する。二人の周囲に激しさとやさしさの対比から生まれる明瞭な緊張感が薄闇の照明の下にみなぎった。
二人のフィルチュオーソの身体はフォーサイスの複雑極まりない微妙に捻じ曲げられ、あえて滑らかさに逆らうようなムーブマンが描かれていった。この始まりも終わりもない動きの連続を「まばゆいように見事」(ラ・クロワ紙マリー・ヴァランティーヌ・ショードン)と取るか、「かなり退屈なパーフォーマンス」(コンセールクラシック誌、ジャックリーヌ・チュイユー)と取るかは個人のダンス観の問題かもしれない。もっともダヴィド・モローの音楽にこれといった魅力があれば、「退屈」という印象は与えられなかったろう。
この後にギエムに招待された、フランス人のオーレリー・カイラとソロヴァキア人のルーカス・ティムラックという二人が登場し、キリアンの『27'52』でエネルギッシュな若さにあふれるデュオを見せたところで休憩となった。
後半はマッツ・エックがギエムのために考案したソロ作品『Bye』(日本公演では『アジュー』)。セルビアの奇才ピアニスト、イーヴォ・ポゴレリッチ演奏のベートーヴェン晩年のソナタ作品111が録音で流れる。舞台後方にはスクリーンがあり、黒白の画面にギエムの「分身」や舞台にはいないほかの人たちの姿が現れたり、消えたりする。エックはしなやかで軽いギエムの身体に本来はない重量感を与えようと試みたという。すばやい小さな動きからギエムの脚の周囲に不思議な空間が生まれ、いいしれぬ孤独感が周囲に漂った。
この夜、ちょっと拍子抜けがしたのは、マッツ・エック自身とアナ・ラグナのカップルが踊るエック振付の『メモリー』が演じられなかったことだ。別の日に見た人たちがそろって激賞していただけに、残念だった。
(2012年3月22日 シャンゼリゼ歌劇場)

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© Bill Cooper

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© Bill Cooper
(写真は以前の公演より)

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© Bill Cooper

『Rearray』
振付/ウイリアム・フォーサイス
音楽/ダヴィッド・モロー 
照明コンセプト/ウイリアム・フォーサイス
ダンサー/シルヴィ・ギエム、ニコラ・ル・リッシュ
『27'52』
振付/イリ・キリアン
音楽/ダーク・ハーブリッヒ
装置/イリ・キリアン
衣装/ジョーク・ヴィッサー
照明/キース・ティベス
ダンサー/オーレリー・カイラ ルーカス・ティムラック
『Bye』
振付/マッツ・エック
音楽/ベートーヴェン『ピアノソナタ作品111』アリエッタ イーヴォ・ポゴレリッチ(ピアノ)
衣装・装置/カトリン・ブレンシュテレム
照明/エリック・ベルグルント
ビデオ/エリアス・ベンクソン
ダンサー/シルヴィ・ギエム

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