オペラ座ダンサー・インタビュー:レティシア・プジョル(エトワール)

ワールドレポート/パリ

大村真理子(マダム・フィガロ・ジャポン パリ支局長)
text by Mariko OMURA

Laëtitia Pujol  レティシア・プジョル(エトワール) 

昨年末、バスチーユの『シンデレラ』で初役で好演。

ジャン=ギヨーム・バールの創作「泉」を怪我で降板し、ファンを悲しませたレティシア。12月の 『シンデレラ』では、これまでの義姉役ではなくシンデレラ役で舞台復帰を果たした。

Q :今回がシンデレラ役デビューだったのですね。
A :はい。それまでは義姉役でした。青い衣装のほうの義姉も踊りましたが、ピンクの義姉役を踊るほうがずっと多かったですね。何度もこの役を踊ったので、そろそろ別の役でこの作品に接するのがいい時期だと思っていたところだったんです。シンデレラ役を準備していて、想像していた以上に作品中での変化があって豊かな人物だということがわかり、この役を得られたことがうれしく思いました。

Q : 義姉役と主役を踊るというのは、同じバレエが2つ別な作品のように感じるものですか。

A :そう、確かにまるで別の作品のように感じました。最初難しかったのは、音楽が聞こえてくると、つい自分が義姉だと思えてしまったことです。そうすると、義姉の性格が浮かんでしまって......その役から抜け出して、別の役に入るというのは、なかなか難しいことでした。

Q : 『シンデレラ』も『ロメオとジュリエット』のジュリエット役も演じる部分が多くありますね。
A : 私がこの仕事で面白いと感じているのは、人物を作り上げることなんです。ジュリエットはとても強い気性で、彼女がロメオをひっぱっています。

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Photo Sébastien Mathé / Opéra national de Paris

彼は彼女に導かれるように進んでゆきますね。ジュリエットのほうがシンデレラより物語的に衝撃的で、強いものがありますが、でも多くを構築する必要があるという点ではシンデレラ役も同じ。例えば、第一幕の灰かぶり娘のときは動きをシンプルにして、あまりきれいにみせないようにと努めました。つまり第二幕のシンデレラをここで見せないようにということです。役の組み立てとして、灰かぶり娘と第二幕のハリウッドのシーンでは別人のように見えても両者に関係をつけるようにしました。そして第三幕の灰かぶり娘はというと、第一幕の彼女とは同じではないのです。 第三幕の彼女は、ハリウッドでの素晴らしい瞬間を体験し喜びあふれる娘でありながら、 再びぞうきん片手の灰かぶり娘でもあるという両面を持ってるのです。この部分をしっかりと見せたいと思いました。

Q : リハーサルの時間はたっぷりとれましたか。
A : はい。役作りにかける時間をゆっくりととれたおかげで、私のシンデレラ像を築くことができました。フレッシュ、イノセント、センシュアルな女性。悲しみもあり、喜びもあり、驚きもあり...。この物語はお伽話なんです。例えば第二幕でスターとして登場しますが、心は第一幕の灰かぶり娘のままで、突然降ってわいたことへの驚きを感じている女性です。第二幕は驚きに満ちあふれていますね。プロデューサーから、さあ眼を開けてご覧と言われて自分をみると、素晴らしいドレスを着ていて、人気俳優に空へと持ちあげられて......女の子にはもう夢物語。その世界に観客を連れ込みたい!と努めました。ある晩、5歳の息子が見に来たんです。『シンデレラ』って女の子向きでもあるので、公演後に「退屈しなかった?」と聞いたんです。そうしたら、「マジシャン(プロデュサー)が指をぱちってするでしょう。そうすると、時間がとまって......魔法みたいだった!」と、すっかり興奮していました。子供だけでなく大人だって、 劇場での二時間で昔読んだ物語の感動にこの作品を通じて触れられますよね。

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Photo Sébastien Mathé / Opéra national de Paris

Q : ヌレエフによる『シンデレラ』はハリウッドが舞台に置き換えられていますね。
A : 私、この脚色がとっても好きです。映画、ミュージカル、30年代......私の好きな世界なんです(注/彼女の楽屋にはアステアxロジャース、ローレルとハーディの写真がはってある)。私がこれまでに観たものから自分の中に取り込んだものを統合して、私のやりかたで舞台の上で表現しています。30年代の映画、ミュージカル映画が本当に好きなんです。第二幕のハリウッドでのダンス・シーンは、まさしくその時代からのインスパイアーですよね。

この作品の中にはさまざまなタイプのダンスがあって、面白いですね。私、タップダンスなんてこれまでしたことがなかったのですが、今回少し練習する機会が得られて、もう、それだけできちんと習ってみたい!という気になりました。

Q : ジャン=ギヨーム・バールの創作『泉』の降板は残念でしたね。

A : 足の怪我が原因だったのです。本当に残念なことでした。その前に柔らかすぎるショッソンで踊って足を痛めてしまったんです。もっと踊る部分の少ない役だったら『泉』が続けられたのでしょうけど、ナイラ役の踊りは足に課すものがとっても多いので...。 もしこれを無理して踊ったら、怪我を悪化させてしまうでしょうから諦めることにし、『シンデレラ』に備えたんです。『泉』の舞台は観ましたよ。ミリアム(・ウルド=ブラーム)は好きなダンサーなので、彼女をこの役でみられて満足でした。

Q : 怪我で休業のとき、家庭があることをありがたいと感じるものですか。
A : ええ。5歳の男の子だけでなく、20か月の女の子もいるんですよ。オペラ座では子供を持つダンサーは多いですね。仕事と私生活は互いにもたらしあうものがあって、とても豊かになれます。時間のやりくりは必要ですが、 コール・ド・バレエじゃないというのは実にラッキーです。例えば『シンデレラ』なら、コール・ド・バレエだと毎晩劇場にいなければなりませんが、私の公演は4回でしたから4晩不在というだけ。それに 『ロメオとジュリエット』は毎日6時間という稽古が続きましたが、これは例外で、稽古の時間もそれほど遅くまでじゃないので...。私、作品のかけもちができないんです。1時期1つの作品にしぼって、役柄に集中します。その世界に入り込めることによって、ダンスの喜びが得られます。そして子供と過ごす時間もとれます。例えば1月末の東京でのガラ公演にバンジャマン(・ペッシュ)が声をかけてくれたけど、私にはオペラ座があり家庭がある。だから、それ以上は無理。もしオペラ座の仕事にぽっかり穴があり、そこにタイミングよくガラがあれば参加できるのだけど...。

Q : もし子供がダンサーになりたいといったら。
A : 今のところ 、息子はバレエをみることだけで満足しています。もちろん彼がダンスを仕事にしたいなら、反対はしません。

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Photo Icare / Opéra national de Paris

でも、親の一人がこうして重要なポストにいる場合、子供がその後で同じことをするのはとても難しいように思います。というのも、どうしても比較されるでしょうから。別な道を選ぶほうが、彼には物事が複雑ではないだろうと...。私の夫は音楽家で作曲もしています。彼に他のいろいろな芸術をみせるようにし、そこから彼が選べばいいのです。この間近代美術館にいったあと、そこで見た彫刻をデッサンして私にみせてくれたんですよ。とても上手く描けてました。

Q : ダンスはどのように始めたのですか。
A : 8歳で習い始めたのですが、最初は先生との相性が悪くって。トゥールーズのコンセルヴァトワールに行ったら、と母に奨められました。あいにくとここには入れず、私立学校に。そこで、毎日レッスンに来るといいといわれて...。ここでは養老院に行って踊ったり、公演が多かったんです。それでダンスの何が気に入ったのかというと、舞台の上で踊ることだということが、わかったのです。舞台の上で表現する。これがとても好きなことなんだと。小さい時、演劇教室にも通っていたんですよ。

Q : ローザンヌのコンクールで受賞し、それによってオペラ座バレエ学校で学ぶことになったのですね。
A : 最終学年の第一ディヴィジョンで1年学びました。クラスにいるのは ずっと下からあがってきた生徒たちなので、ごく最初はちょっと難しかったですね。でも、すごく上手く行くようになりました。たくさんのことをこの1年で学びましたね。フレンチスタイルを体得するために。それは今も続いているといえます。これが毎日の仕事です 。私が習っていた学校はトゥシューズで1日8時間のレッスンがあってもっと厳しかったので、オペラ座での授業はとても穏やかに感じられました。

Q : これまでに一番忘れがたい舞台では何ですか。
A : 『ロメオとジュリエット』です。これはドラマチックな作品で、ジュリエットという女性の持つ強さも好きです。でもどう好きかを言葉で語るのは難しいわね、踊りながらじゃないと(笑)。『ドガの小さな踊り子』『シルヴィア』『嵐が丘』なども、役に入り込める作品なので好きです。表現の場があるというのは、この仕事の最大のチャンスですね。

Q : 今後踊ってみたい作品は何ですか。
A : 93年に入団して以来、踊っていない作品というと『マノン』があります。でもこれはおそらくもうじき踊ることになるでしょうから、うれしいです。

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Photo Icare / Opéra national de Paris

私たちオペラ座のダンサーは多くのキャパシティを持っているので、このダンサーはクラシック、このダンサーはコンテンポラリーとはいえません。私としてはクラシック作品よりコンテンポラリーのほうが、表現の自由があるので、もっとコンテンポラリーを踊りたいという気持ちがあります。日本ではルグリと『ル・パルク』を踊りました。オペラ座で踊って以来、私も年齢を経て成長していたので、こうした変化をもって過去に踊った作品を踊れるのは興味深いことでした。2月にローザンヌのコンクール40周年記念に過去の受賞者が集まるガラがあって、フローリアン・マニョネと『ル・パルク』のパ・ド・ドゥを踊るんですよ。

Q : 舞台に上がる直前何をしますか。
A :例えば『シンデレラ』はタップダンスとクラシックではテクニックが違うので、足の緊張を解いたりしました。私はあまり落ち着きのある方ではないので、ヨガを習ってるのですが、舞台に上がる前に自分に言い聞かせるんです。「たとえステップを失敗しても、大切なのは物語を語ること。その役についての自分の考えを見せること。観客をその世界に誘いこむことが大切。パーフェクトは不可能。私たちは機械ではないから、失敗する権利がある」と。こう語りかけてストレスを鎮めます。転んだり失敗したりも仕事のうちです。

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Photo Icare / Opéra national de Paris

Q :次の舞台は何ですか。
A : マッツ・エック『アパルトマン』のビデを踊ります。12月からもう稽古は始まってるんですよ。これも初役で、とってもうれしいです。マリ=アニエス・ジローがこれを踊ったのがすごく印象的で、そのときに素晴らしい作品!と思いました。だから、これに配役されてとても幸運です。マッツ・エックの作品は4年くらい前に『ベルナルダの家』で長女役を踊っていて、彼の振付はとても好きです。その動きはリアルライフを思わせるものがありますね。例えば "愛してる" というのに、両腕で自分の体を抱え込むような飾りのない率直な動き。彼の描く世界も好きなので、うれしいです。

<<10のショート・ショート>>


1. 趣味:子供がいるので、自分の時間が今はとれない。昔は乗馬。でもダンスとは相容れないので断念したので、これは定年後に再開したい。
2. コレクション:子供のときは鉱石をコレクションしていた。
3. 朝最初にすること:哺乳瓶の準備。
4. ダンサーでなければ選んでいた職業: 演ずること、あるいは馬の関係。
5. 定年後に考えている仕事:ダンスを通じて感情表現するアートテラピーを習っている。興味深いので、もしかするとこれを仕事にするかもしれない。
6. 得意な料理:私ではなく、ニース出身の夫がプティ・ファルシなどニース料理を上手く作る。
7. 宝もの:かけがえのないのは子供たち。
8. 出身地トゥールーズのおすすめ: 8歳まではナンテールに住んでいて、8歳から16歳までいたトゥールーズではバレエばかり。街のことはあまり詳しくない。料理ならカスレ(豆、肉などの煮込み料理)。
9 .次のバカンスの行き先:夫の出身地のニース。私も好きな街。  
10. パリで子供を連れてゆく場所:チュイルリー公園など。

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Photo Laurent Philippe / Opéra national de Paris

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Photo Laurent Philippe / Opéra national de Paris

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Photo Laurent Philippe / Opéra national de Paris

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Photo Laurent Philippe / Opéra national de Paris

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Photo Anne Deniau / Opéra national de Paris

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Photo Anne Deniau / Opéra national de Paris

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Photo Anne Deniau / Opéra national de Paris

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Photo Anne Deniau / Opéra national de Paris

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