ローザスの初期作品『弦楽四重奏曲第4番』『大フーガ』『浄夜』をオペラ座のダンサーが踊った

ワールドレポート/パリ

三光 洋
text by Hiroshi Sanko

Ballet de l'Opéra national de Paris  パリ・オペラ座バレエ団

Bartok「Quatuor No4」, Beethoven「Die Grosse Fuge」, Schönberg 「Verlärte Nacht」Anne Teresa de Keersmaeker
バルトーク『弦楽四重奏曲第4番』ベートーヴェン『大フーガ』シェーンベルク『浄夜』アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル:振付

10月にパリ・オペラ座バレエ団はベルギー(フランドル)の振付家アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルの初期作品3本をレパートリーに付け加えた。『弦楽四重奏曲第4番』(バルトーク/1986年初演)、『大フーガ』(ベートーヴェン/1992年初演)、『浄夜』(シェーンベルク/1995年初演)は、いずれもローザスにより初演された後、2006年にブリュッセルで「バルトーク、ベートーベン、シェーンベルク、レパートリーの夕べ」と題して一挙に上演されている。今回のガルニエ宮での公演もこれと同じ形をとっている。

前半はパリ・オペラ座管弦楽団のソロ奏者たちが舞台後方に座り、中央から前の空間でダンスが展開された。最初の『弦楽四重奏曲第4番』はローザスによる初演時にケースマイケル自身も踊りに加わった作品だ。当夜はセ・ウン・パク、ジュリエット・イレール、シャルロット・ランソン、ローラ・バッハマンというケースマイケルが選んだ若い女性4人が、黒のショートスカートに黒の深い靴、くるぶしまでの靴下を履いて現れた。奏者たちがバルトークを演奏し始める前にダンサーが動き出し、その動きにやがて音楽が重なっていった。

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『弦楽四重奏曲』
© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

長い髪の垂れている首筋から長い髪を両手でなで上げたり、膝を太腿に引き付けたり、飛び上がって靴を打ち付けて音を鳴らしたり、といった所作は少女が自分の中に芽生えてきた女性に驚きながら、それを楽しんでいるかのようで、画家バルチュスが描いた少女像のそこはかとないエロスが思い起された。弦楽四重奏でヴァイオリンやヴィオラ、チェロが同じ旋律を奏でたり、対位法になったり、休止したりするのと同じように4人のダンサーの動きも互いの呼吸を計りながら、全体として一つになり、生き生きとした動作からはあふれでるようなエネルギーが放出されていた。

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『弦楽四重奏曲』
© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

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『弦楽四重奏曲』
© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

『大フーガ』ではベートーヴェンの緻密な音楽をバックに、黒のスーツの7人の男性と女性1人が跳躍したり、床に崩れ落ちたり、床を転がったりするスピーディーな動きが次々に意表を付くかのように急ピッチで繰り出されながらも、全体としては音楽と同じように堅固な構築物となっていった。

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『大フーガ』© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

前半のダンスが極めて抽象的で舞台装置も一切置かれていなかったのに対して、後半の『浄夜』の背景は、白樺の幹が立ち並ぶ森を月が照らし出した。「男と女が冷たい森を通り抜けていく。月が二人を照らし、二人は月を見ている。背の高い木の上を月が弧を描いていく。」
リヒャルト・デーメルの詩にインスピレーションを得て作曲したシェーンベルクの音楽は情感にあふれ、ダンサーたちの動きを優しく包み込んでいった。今いっしょにいる男性ではない別の男性の子供を宿した女の、揺れる内面をエミール・コゼットが繊細そのものの演技で描き出した。ケースマイケルはこの物語をそのまま辿るかに見えたが、やがて男女のカップルは複数となり、8人の女性と6人の男性がさまざまな男女の姿を形にしていった。

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『浄夜』
© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

この中には久しぶりにガルニエ宮に帰ってきたマリ=アニエス・ジローの元気な姿も見られた。これらの男女のシルエットはロダンの彫刻に触発されて振付家が作り上げたものだという。ケースマイケルの詩情あふれる世界に客席で見ていていつの間にか自然に引き込まれていた。

ケースマイケルの率いるローザスは、パリ・オペラ座の招聘で、2016年2月26日から3月6日までポンピドゥー・センターで『Work/Travail/Arbeid』を上演することが決まっている。
(2015年10月22日 ガルニエ宮)

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『浄夜』© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

『弦楽四重奏曲』
音 楽 ベラ・バルトーク「弦楽四重奏曲第4番」
振付・装置 アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル
衣 装 ローザス
ダンサー セ・ウン・パク、ジュリエット・イレール、シャルロット・ランソン、ローラ・バッハマン
『大フーガ』
音 楽 ベートーヴェン「大フーガ」作品113
振 付 アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル
演 出 ジャン=リュック・デュクール
装置・照明 ヤン=ヨリス・ラマース
衣 装 ナタリー・ドゥーフィス/ローザス
音楽分析 ジョルジュ=エリー・オクトース
ダンサー アリス・ルナヴァン、ステファン・ブリヨン、カール・パケット、ヴァンサン・シャイエ、フロリアン・マニュネ、ニコラ・ポール、アドリアン・クーヴェーズ、アレクサンドル・ガス
『浄夜』
音 楽 シェーンベルク「浄夜」作品4 弦楽オーケストラ版
振 付 アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル
装 置 ジル・アイヨー/アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル
衣 装 リュディ・サブンギ
照 明 ヴィニチオ・ケリ
音楽分析 ジョルジュ=エリー・オクトース
指 揮 ヴェロ・ペーン
ダンサー エミリー・コゼット、マリ=アニエス・ジロー、レオノール・ボーラック、セヴリーヌ・ヴェスターマン、レティツィア・ガローニ、エミリー・ハズブーン、アリス・カトネ、カトリーヌ・ヒギンズ、ステファン・ブリヨン、カール・パケット、フロリアン・マニュネ、ニコラ・ポール、タケル・コスト

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