パリ・オペラ座のミルピエ監督による最初のプログラムが華やかなイベントとともに開催された

ワールドレポート/パリ

三光 洋
text by Hiroshi Sanko
Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

"20 danseurs pour le XXe siècle" Boris Charmatz、"Clear, Loud, Bright, Forward" Benjamin Millepied、"Opus19 /The Dreamer" Jérôme Robbins"Thème et variations" George Balanchine
「20世紀のための20人のダンサー」ボリス・シャルマッツ:コンセプト、『Clear, Loud, Bright, Forward』バンジャマン・ミルピエ:振付、『作品19 /The Dreamer』ジェローム・ロビンズ:振付、『テーマとヴァリエーション』ジョージ・バランシン:振付

ステファン・リスナー総監督、バンジャマン・ミルピエ芸術監督による最初のプログラムで開催される、パリ・オペラ座バレエ団の新シーズンが始まった。
9月24日のガラ公演には指揮者としてフィリップ・ジョルダン音楽監督が登場し、<バレエと音楽が一体となった>新しいオペラ座を印象付けた。ロングドレス着用のオープニングの夕べには、オランド大統領、ペルラン文化大臣をはじめ、有名人たちが集った。そしてミルピエの新作とバランシンの『テーマとヴァリエーション』、ベルリオーズの「トロイ人」の行進曲からワグナーの「タンホイザー」へと伴奏が変わったデフィレを観た。さらに4人のシェフによるFoodingの夜食が七百人の会席者に振舞われ、その後は舞踏会となったという。

一般観客の新シーズンは翌25日に始まった。まず18時からボリス・シャルマッツのコンセプトによる「20世紀のための20人のダンサー」がガルニエ宮の大階段、フォワイエ、ロトンドといった一定の広さのある空間を使って19時半過ぎまで行われた。シャルマッツは、パリ・オペラ座バレエ学校やリヨン国立高等ダンス学校(CNSMD)で学んだ。2009年からブルターニュ国立ダンスセンターの総監督として活躍し、美術館内部で複数のダンサーが踊るイヴェントを企画して話題を呼び、ニューヨークのモダンアート美術館(MoMA)やロンドンのテート美術館からも招聘されている。
今回の催しのためにガルニエ宮に着くと、大階段辺りからからドビュッシーの音楽が聞こえてきた。大階段を上がらずに地下一階に下りると、ロトンド・デ・アボネでバンジャマン・ペッシュがドビュッシーの曲をバックにニジンスキー振付の『牧神の午後』を踊っていた。観客たちは思い思いに周囲の床に座ったり、円柱の間に立って手の届くほどの距離で踊るダンサーを注視している。フォーサイス作品があるかと思うと、ヒップホップやインド舞踊と多種多彩な作品を若手やヴェテランのダンサーたちが踊っている。入場料金が15ユーロ(約2100円)と手ごろなこともあり、通常の公演には足を運んだことのない観客や小さな子供をつれた家族連れの姿が目立った。いつもの舞台と客席という関係ではない、ダンサーと観客が身体的に近い距離で出会う場が提供され、オペラ座に新たな興味を抱いた観客も多かったのではないだろうか。

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バンジャマン・ペッシュ
© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

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キャロリーヌ・バンス © Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

20時30分からの公演はトリプルビルで、前日のガラ公演であったデフィレがない代わりに、パリ・オペラ座では初演となるジェローム・ロビンズの『作品19/ザ・ドリーマー』が上演された。
最初はバンジャマン・ミルピエの新作『Clear, Loud, Bright, Forward』。これはミルピエの作品としては、オペラ座にレパートリー入りした4作目である。
この作品にはまず、「ロビンズ作品のように、バレエは物語を語るのではなく、あらすじがあるだけだ。それも人と人との関係、感情を語るための口実に過ぎない」と振付家の創作姿勢が示されていた。
ミルピエがニューヨーク・シティ・バレエ団でダンサーとして、バランシンとロビンズから大きな影響を受けたことは、この作品にも明瞭に見てとれる。女性ダンサーがポワントで床を滑るように移動する、といったクラシック・バレエの技法をベースに用いながら、天井から吊るされたランプからの光が遠隔操作で作動する変化の大きな照明や、灰色に統一された衣装によって、新味を出そうと試みられている。
ダンサーはエトワールもプルミエール・ダンスールも参加せず、すべて若いコール・ド・バレエのメンバーが選ばれた。それぞれのダンサーの個性を十分に見極めることからインスピレーションを得て振付が生まれたという。どのダンサーにも場を与えるように構成されているが、女性ではレオノール・ボーラックとローレーヌ・レヴィ、男性ではユゴー・マルシャンとマルク・モローが印象に残った。以前からミルピエ作品の音楽を作曲してきたニコ・マーリーの音楽は傑出したものとまではいえないが、バレエ音楽としてきちんとした仕上がりになっていた。この新作は観客から長い拍手とブラヴォーの声で迎えられ、ダンサーたちとミルピエは何度も舞台に呼び返された。

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『Clear, Loud, Bright, Forward』© Opéra national de Paris/ Ann Ray

新作の後はジェローム・ロビンズ(1918-1998)の『作品19/ザ・ドリーマー』だった。プロコフィエフの傑作「ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品19」に触発された作品で、夢見る男性の主人公は1979年の初演をバリシニコフが踊っている。整った容貌のアマンディーヌ・アルビッソンは繊細でいながら挑発的なヒロインを表現したが、主人公の男性を魅惑する神秘という点ではあと一歩だったように感じられた。一方、マチュー・ガニオの気品と優雅さにあふれる所作と立ち姿からはほのかな詩情が立ち上り、プロコフィエフの情感あふれる音楽にぴったりと寄り添っていた。

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『作品19/ザ・ドリーマー』© Opéra national de Paris/ Ann Ray

最後はジョージ・バランシン(1904-1983)の『テーマとヴァリエーション』だった。天井から豪華なシャンデリアがさがり、豪華絢爛な衣装はサンクトペテルスブルクのロシア宮廷を彷彿とさせた。「オペラ座のレパートリーで最も技術的にむずかしい作品」(ミルピエ監督)だが、コール・ド・バレエとソリスト二人のコントラストによって、チャイコフスキーの音楽の輪郭がくっきり浮かび出るようだった。「コール・ド・バレエにバランシンならではの緻密さが欠ける」という声もフランス人バレエ評論家からあったが、ジョシュア・オファルトとローラ・エケのエトワールカップルは、確かな技術と優雅な踊りを見せてくれた。
気鋭の若手マクシム・パスカルの指揮に導かれたパリ・オペラ管弦楽団の洗練された演奏によって、ロシア音楽の魅力をたっぷり聴かせ、ダンサーの踊りに彩りを添えていたことも付け加えておきたい。
なお当初開幕公演への出演が予定されていたオニール八菜は軽い怪我のため、11月の昇級試験や11月17日から上演される『ラ・バヤデール』のガムザッティ役への出演のために、大事をとって今回は舞台に出ていない。
(2015年9月25日、ガルニエ宮)

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『テーマとヴァリエーション』© Opéra national de Paris/ Ann Ray

『Clear, Loud, Bright, Forward』(世界初演)
音楽 ニコ・マーリー
振付 バンジャマン・ミルピエ
振付アシスタント ジャニー・テイラー
装置 ユナイテッド・ヴィジュアル・アイティスツ
照明 リュシー・カーター
衣装 イリス・ファン・ヘルペン
ダンサー レオノール・ボーラック、エレオノール・ゲリノー、マリオン・バルボー、レティツィア・ガローニ、ローレーヌ・レヴィ、オーバーヌ・フィリベール、イダ・ヴィキンコスキ、ロクサーヌ・ストヤノフ、アクセル・イボ、フロリアン・ロリユー、ジェルマン・ルーヴェ、アリステール・マダン、ユゴー・マルシャン、マルク・モロー、イヴォン・デュモル、ジェレミー=ルー・ケール

『作品19 The Dreamer』(パリ・オペラ座バレエ団レパートリー入り)
振付 ジェローム・ロビンズ(1979年)
指導 ジャン=ピエール・フローリッヒ
音楽 プロコフィエフ 「ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品19」
ヴァイオリン フレデリック・ラロック/マクシム・トランス
ソロダンサー マチュー・ガニオ、アマンディーヌ・アルビッソン

『テーマとヴァリエーション』 
振付 ジョージ・バランシン(1947年/1960年)
指導 サンドラ・ジェニングス
音楽 チャイコフスキー 「組曲第3番最終楽章 作品55 主題と変奏」
照明 マーク・スタンレー
ソロダンサー ローラ・エケ、ジョシュア・オファルト
マクシム・パスカル指揮 パリ国立オペラ座管弦楽団演奏
 

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