9個のムーヴマンで構成されたマクレガーの『感覚の解剖学』、ユーゴ・マルシャンが印象的だった
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掲載
ワールドレポート/パリ
- 三光 洋
- text by Hiroshi Sanko
Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
"L'Anatomie de la sensation pour Francis Bacon" Wayne Mcgregor
『感覚の解剖学 フランシス・ベーコンのために』ウェイン・マクレガー:振付
パリ・オペラ座バレエの2014・15年シーズンの最終公演はウェイン・マクレガー振付の『感覚の解剖学 フランシス・ベーコンのために』(2011年世界初演)の再演だった。
タイトルの『感覚の解剖学』に付けられた副題「フランンシス・ベーコンのために」はマクレガーの画家に対する傾倒を物語っており、振付のインスピレーションは直接ベーコンの絵画から与えられたという。2011年にはベーコンと振付との関連が今一つ明瞭につかめないもどかしさが残ったので、今回は直前に何枚かの絵を見てから舞台を見に行った。
ベーコンの絵で多用されている垂直あるいは水平の軸が、装置に何箇所かで反映されていた。「フロアの上の血」と題された第1ムーブマンでヤニック・ビトンクールとユゴー・マルシャンの二人が半裸での絡みあう場面は、ダンサーの動きとベーコンの筆先の動きとが重なっているかのように思われた。
© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney
デフォルメされたダンサーの身体が描く抽象的な舞台だが、照明の色の変化や照明角度の変化でダンサーのシルエットを見せたり、可動性のパネルの移動によって空間が形を変えるといった工夫が処々に凝らされていた。
ユレル、ビトンクール
© Opéra national de Paris
/Benoïte Fanton
コラサント、シャイエ
© Opéra national de Paris/
Agathe Poupeney
コラサント、シャイエ
© Opéra national de Paris /
Agathe Poupeney
9つのムーブマンから構成される作品は今回二つの配役で上演された。第1キャストには先日『マノン』でさよなら公演を終えたばかりのオーレリー・デュポン、マリ=アニエス・ジロー、ドロテ・ジルベール、アリス・ルナヴァン、マチアス・エイマンとエトワールがずらりと名前を連ね、華やかな舞台だったようだが、見ることができたのは若手を中心にした第2キャストだった。
この中で一番印象に残ったのは第1ムーブマン、第3ムーブマン(「叫び」)、第6ムーブメマン(「アンディーへのエレジー」)、第9ムーブメマン(「恐怖を追い払う」)に登場し、大きな動きを見せてくれたユゴー・マルシャンだった。ここに来て存在感を増し、パリのバレエファンから注目されるようになってきている。
9月からの2015・16年度のバレエシーズンは、いよいよバンジャマン・ミルピエバレエ監督によるプログラムとなる。3月に『白鳥の湖』で昇進したローラ・エケに続く、ミルピエ時代の二人目のエトワールに人気のフランソワ・アリュが任命されるかどうかも注目される。オニール 八菜、セ・ウン・パク、レオノール・ボーラックら若手の大胆な起用によって、今シーズン話題を呼んだ新監督による新たなオペラ座バレエ団のスタートに期待が高まっている。
(2015年7月5日 バスチーユオペラ)
エケ、マルシャン
© Opéra national de Paris/
Agathe Poupeney
エケ、マルシャン© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney
コラサント、シャイエ© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney
© Opéra national de Paris / Benoïte Fanton
『感覚の解剖学 フランシス・ベーコンのために』
音楽/マーク・アントニー・ターナージ
ピーター・ランデル指揮 アンサンブル・アンテルコンタンポラン管弦楽団
振付/ウェイン・マクレガー
装置/ジョン・パーソン
衣装/モリッツ・ユンゲ
照明/リュシー・カーター
第1ムーブマン(フロアの血)/ヤニック・ビトンクール、ユゴー・マルシャン
第2ムーブマン(ジュニアー・アディクト)/アリス・ルナヴァン
第3ムーブマン(叫び)/メラニー・ユレル、シャルロット・ランソン、ヤニック・ビトンクール、ユゴー・マルシャン他
第4ムーブマン(甘さと腐敗)/アリス・ルナヴァン、イヴォン・ドゥモル、ヴァランティーヌ・コラサント、ヴァンサン・シャイエ
第5ムーブマン(針)/メラニー・ユレル、シャルロット・ランソン、ジェニファー・ヴィゾッキ、アリステール・マダン他
第6ムーブマン(アンディーへのエレジー)/ローラ・エケ、ユゴー・マルシャン
第7ムーブマン(カット・アップ)/ジュリエット・イレール、シャルロット・ランソン、ジェニファー・ヴィゾッキ他
第8ムーブマン(クラックドー)/ヴァランティーヌ・コラサント、ヴァンサン・シャイエ
第9ムーブマン(恐怖を追い払う)/全員