オペラ座ダンサー・インタビュー:アマンディーヌ・アルビッソン

ワールドレポート/パリ

大村真理子(マダム・フィガロ・ジャポン パリ支局長)
text by Mariko OMURA

Amandine Albisson アマンディーヌ・アルビッソン(エトワール)

6月のオペラ座では『天井桟敷の人々』のガランスの初役で、ダンスの見事さだけでなく達者な役者ぶりもみせたアマンディーヌ。この夏は世界バレエフェスティバルで1年ぶりに来日する。

2006年にオペラ座バレエ団に入団したアマンディーヌは、2014年3月のオペラ座来日ツアーの直前に『オネーギン』を踊ってエトワールに任命された。オペラ座のピラミッドの頂点に至るまで8年というのは、比較的短期間なほうだろう。
彼女の後、ローラ・エケがエトワールに任命されているが、26歳のアマンディーヌは依然として最年少のエトワールだ。世界バレエフェスティバル Aプログラムで彼女はマチュー・ガニオとジェローム・ロビンズの『アザー・ダンシーズ』を踊る。WOWOWのオペラ座特集中、7月25日14時から放映される『水晶宮』ではこの二人のパートナーシップぶりを、また同日18時10分から放映される『ダンシーズ・アット・ア・ギャザリング』ではロビンズ作品を踊る彼女を見ることができる。これは来日前に彼女の魅力と才能に触れる良い機会だろう。


Q:6月には、オペラ座で『天井桟敷の人々』のガランスの初役がありましたね。

A:はい。これに配役されたのを知ったとき、とても感激しました。これまで私の舞台を見てきた人は、おそらく私がガランス向きだとは思わなでしょうね。そうした役を踊るということに、私には興味と情熱が湧いたんです。でも、その分仕事は簡単ではないわけですね。多くのリサーチが必要となって・・・・とはいっても、ガランスを45歳の女性ではなく、私なりのパーソナリティ、年齢で人物を作り上げました。映画をみて、ビデオをみて、そして役にあうようにとに努めました。

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「天井桟敷の人々」 photo Charles Duprat/ Opéra national de Paris

Q:ガランスは人生の辛苦をなめつくした女性。かなり想像力が必要でしたか。

A:そう、だってまだ私は26歳なのだから、人生経験も異なるでしょう。それゆえに、この人物を作り上げるのが面白かったと言えるの。私の想像力、映画や読書によって私が過去に学んだことを盛り込んで・・・とても、よい経験でした。このバレエにはガランスとはタイプの異なるナタリーという女性も登場するけど、私がこの作品で踊りたかったのはガランス! 彼女のように個性の強い女性役が好みなんです。

Q:パートナーのバティスト役は誰でしたか。

A:ステファン・ブリヨンです。彼とはかなり以前のツアーで、『アルルの女』を一緒に踊ったことがあります。でもたった一度だけの公演だったので、今回再び一緒に配役されたのはとってもうれしかったわ。彼とはフィーリングもぴったり合うし、一緒に踊るのはすごく心地よいことでした。『天井桟敷の人々』というのはテクニック的にすごく難しいという作品ではありません。これを踊る喜びはというと、演じる部分にあるの。もしこの作品においての難しさを語るとしたら、常にストーリーの中に自分を置いておくことですね。そうでないと観客も物語から離れてしまうことになってしまうでしょう。俳優のように演じること。これがこの作品での大事な仕事でした。ちょうど、テクニック面でとても難しい 『パキータ』の後の公演だったので、こうした仕事に専念できたのはうれしかったわ。 

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「天井桟敷の人々」 photo Charles Duprat/ Opéra national de Paris

Q:『パキータ』の前は、しばらく舞台で踊っていなかったようですね。

A:そうなんです。4か月と長いこと休んでいました。だから『パキータ』という本当に技術面で難しい作品が復帰の舞台となって、果たして本当にちゃんと踊ることが出来るものか・・・これは、すごいチャレンジとなりました。昨年末の公演『くるみ割り人形』のリハーサル中に捻挫してしまったのです。私はジョジュア(・オファルト)と踊ることになっていたのだけど、プレ・ゲネプロまで後2日というところで彼が腱を痛めてしまい、それで他のパートナー(注:ユーゴ・マルシャン)と稽古を始めたところ、今度は私が怪我をしてしまって・・・。

Q:4か月の休業中、踊り逃した作品も少なくないのではないでしょうか。

A:踊れなかったのは、まずは『くるみ割り人形』ですね。それから、『泉(ラ・スルス)』『アンドレアオーリア』『白鳥の湖』・・。でも、それが人生というもの。私がこうして怪我をして休むことになったのには、何かそれなりの意味があるのかもしれないのだし・・・。今はもう大丈夫! これが最も大切なことよ。

Q:7月のマクレガーの『感覚の解剖学』は踊らず、6月の『天井桟敷の人々』が今シーズンの最後の公演だったのですね。

A:はい。でもその後も仕事をしていました。ローマ・オペラ座バレエの芸術監督となったエレオノーラ・アバニャートからプロジェクト参加の提案があったので、そのために3週間ローマに行ってたんです。私のアーティストとしてのキャリアにこのプロジェクトはとても興味深いことだし、ローマでの本公演はちょうどオペラ座では舞台がない10月末の時期なので、タイミングも良いので、エレオノーラからの提案を引き受けることにしました。彼女がイタリアでオーガナイズするガラにも、何度かすでに参加してるんですよ。

Q:オペラ座以外の活動といえば、あなたが出演するレッスン・ビデオ「パリ・オペラ座エトワールのプライベート・レッスン」(日本コロムビア)が最近発売されました。

A:いつかはフランスでも出るかもしれないけれど、今のところ日本だけの発売なんです。オペラ座の教師の一人アンドレイ・クレムとのプロジェクトです。彼はその前には、イザベル・シャラヴォラともDVDを作ってますね。昨年、彼からレッスン・ビデオを作るので・・・というように声がかかったの。こういった提案を受けるって、うれしいことですよね。でも、最初は「本当に、私でいいの?」ってちょっと半信半疑な部分もありました。昨秋に撮影があったのだけど、けっこうストレスを感じてしまって・・。オペラ座のエトワールとして見本を示すのだから、私のすることはパーフェクトでなければいけないでしょう。さまざまなアングルから撮影された映像が、編集によってわかりやすくかつ美しいレッスン用ビデオに仕上げられています。もっとも、自分の欠点ばかりに目がいってしまいそうなので、私はまだ商品化されたDVDは見ていないのだけど。

Q:あなたへの前回のインタビューは2013年の6月で、スジェの時代でした。約2年後の現在はエトワールです。

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レッスンDVDジャケット写真© Maria-Helena Buckley

A:それは『ラ・シルフィード』の前のことですね。その後、確かにかなりなハイスピードでしたね。2013年の11月の昇級コンクールの結果、2014年の1月1日からプルミエール・ダンスーズになって、その3か月後にエトワールに任命されました(注:2014年3月5日)。3か月間だけだったので、プリミエール・ダンスーズになったということを自覚する時間もないままでしたね。それは、スジェの最後の1年はプルミエール・ダンスーズと同じように、良い配役が得られていたことも関係してると思います。この時期のことを振り返ると、なんだかとても非現実的な感じよ。 

Q:『オネーギン』のタチアナを初役で踊ってエトワールに任命されたのですね。

Q:『オネーギン』のタチアナを初役で踊ってエトワールに任命されたのですね。 pari1507b_06.jpg 「オネーギン」 photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris A:最初はタチアナの妹のオルガ役に配役されていました。それを知ったときに、私はこの役を上手くできるものかしら、ってちょっと首を傾げる感じがあっただけど、その後すぐにブリジット(・ルフェーヴル元芸術監督)から「あなたに良いニュースと悪いニュースがあるわ」って、連絡がありました。で、悪いほうからはじめてもらったの。それは「オルガ役をあなたは踊らないことになったわ」ということでした。では良いニュースは?というと、「その代わり、タチアナを踊るのよ!」と。それって、もう信じられないこと。この役を踊るのは私の大きな夢だったのだけど、もっと後のこととしての夢だったので、まさかこんなに早く実現するなんて・・。この役もガランスの時と同じく、私の年齢、私なりの人生経験で作り上げました。たっぷりと時間をかけてテクニック的にも演技的にも準備をし、そしてそれを舞台で披露し・・・とても楽しめましたね。タチアナ役を得たことで、自分がとても成長したと実感しています。これだけでも素晴らしい思い出なのに、それに加えて3度目の舞台の後で任命があって!

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「オネーギン」photo Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

Q:事前にオペラ座内に任命の噂が走ったりはしなかったのですね。

A:全然!もし少しでも気配を感じていたら、マルセイユにいる母に見に来るようにいったでしょうけど・・・。偶然にもこの晩父は見に来ていたので、これは幸運なことだったわ。後で知ったのだけど、当日の16時ごろ、オーレリー・デュポンが「今晩、公演をみにくるようにね!」って、私の仲良しのダンサーたちにショートメッセージを送っていたそうなの。

Q:その晩、公演後のカーテンコールでルフェーブル元芸術監督が舞台に登場した時、どんな気持ちになりましか。

A:私のパートナーはジョシュア(・オファルト)で、彼はすでにエトワールでしょう。ソリストで任命の可能性があるのは、私しかいなかったので、「ああ、いったい何がおきるのかしら。まさか・・・そんなことあり得ないわ!信じられない、夢見てるじゃないかしら・・・」と思いました。でも、同時に少々恐ろしかったとも言えます。エトワール任命ってダンサーの人生において、とても大切な瞬間でしょう。こうしてカーテンがあいた舞台の上で任命が行われるのは、観客にとっては確かに素晴らしいことよね。でも、ダンサーにとっては、私がシャイなせいかもしれないけれど、もうそれほど大勢の視線のない、もう少しひっそりとした環境で行われるのが望ましい・・・・。「私、本当にエトワールになれる準備ができてるのかしら。その責任を全うできるのかしら。彼ら、間違ってないはいないかしら」とか、とっても幸せに感じつつも、頭の中では疑問が渦巻いてました。

Q:エトワールになった喜びは、いつ頃実感できましたか。

A:ずっと後になってからのことよ。何か月かしてから。こうしたことを実感するって難しいことでしょう。任命によっていきなりエトワールというタイトルのダンサーになる・・・でも、私の踊りはその前日のプルミエール・ダンスーズのときと変わりがないのだから。そういうわけで時間がかかるの。今だって、本当に実感できてるのかどうか不確かなくらいで・・。オペラ座を代表するのだから、そのタイトルの役割をしっかりと受け止める必要があるわけでしょう。でも、良い時期にエトワールに任命された、とは思っています。

Q:オーレリー・デュポンが入団してまもないあなたに、「あなたはエトワールになる人よ」と言ったそうですね。

A:入団して2年目、2008年のコンクールのときから彼女にダンスをみてもらっているのです。コリフェ時代から、彼女は私にエトワールとしての才能をずっと確信してくれていたわけです。でも、最初にこう言われた頃は、「彼女ったら、大げさだわ」と思ってたんですよ。彼女は「自分が持ってるクオリティをわかってないようね。

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「エチュード」photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

いずれエトワールになるのだから、それに向けて準備をしなくてはいけないわ!」って、常にこうして私を先へ先へとプッシュしてくれていたんです。最初の頃は彼女の言葉を信じてなかったけれど、そう見てもらえるのは、うれしいことですよね。でも、あまりにもオーレリーが繰り返して言うので、いつの間にか、すっかり私の頭にそれが刷り込まれて・・・。彼女にはとても感謝してます。というのも、エトワールになるというのは重い責任を背負うことなので身体的にだけでなく、精神的にも準備されてるべきことだったので、彼女のおかげで私、備えることができていたわけです。

Q:エトワールとしての初舞台は日本でしたね。

A:そうです。3月5日に任命され、その後、東京で『ドン・キホーテ』のドリアードの女王を踊りました。エトワールになって初の舞台を日本の観客に披露 !! すごく緊張しました。キトリを踊るのでもないし、エトワールに任命されたから配役されたという役でもないのだけど、エトワールとして舞台を成功させなければ、ということにストレスを感じてしまったんです。

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「ダンシーズ・アット・ア・ギャザリング」photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

Q:その後、「エトワール・ガラ」で来日。そして今年の夏は世界バレエフェスティバルに初参加ですね。

A:世界中のダンサーにとって、このフェスティバルはたいへん有名な催しでしょう。この舞台で踊れることになって感激しています。光栄なことですよね。世界のさまざまなカンパニーのダンサーたちが集うので、彼らと話をしたり、彼らが踊るのを見ることができて・・・。とても実りの多い経験となるに違いありません。今からすごく待ち遠しいわ。私が踊るのはジェローム・ロビンズの『アザー・ダンシーズ』です。ダンサーとして高く評価しているマチュー(・ガニオ)と一緒に踊れるのも、とっても嬉しいことです。

Q:なぜこの作品を選んだのですか。

A:何にしようかと彼とあれこれ話すうち、二人ともロビンズの作品が好き、となって・・。『アザー・ダンシーズ』は彼も私もまだ踊ったことのない作品なので、これを踊る良い機会だろう!と。来シーズン、オペラ座でもこの作品がプログラムに入っています。もちろん、それゆえに選んだわけではないですよ。私たちはAプログラムにしか参加しないので、男性ダンサーが女性ダンサーをもちあげてばかりといった普通のパ・ド・ドゥはではなくて、もう少しまとまったものをおみせしたいと思ったからなんです。そしてまた超絶技巧を見せる作品というのは私たちのタイプではないので・・・。そうして考えた結果、『アザー・ダンシーズ』というのが、ベストなチョイスとなったわけです。15分近くと長く、パ・ド・ドゥ、女性のソロ、男性のソロがそれぞれ2つづつ・・・。ちょっとした小作品といった感じですね。

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「ダンシーズ・アット・ア・ギャザリング」photos Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

Q:ロビンズの作品はオペラ座ですでに経験済みですね。

A:はい、昨年『ダンシーズ・アット・ア・ギャザリング』を踊りました。ロビンズの『イン・ザ・ナイト』もそうですが、これも踊りたいと思っていた作品なんです。ロビンズの振付がどうこうというより、私、彼の作品の持つ雰囲気がとても好きなんです。音楽的でもあるし・・。あまりアカデミックな振付ではないので、身体の表現に自由があります。そうはいってもとてもよく練られ、コントロールされた振付なので、簡単ではないですよ。この『アザー・ダンシーズ』もそう。それだけにこの作品を準備することは、とっても興味深いことなんです。稽古はイザベル・ゲランが指導してくれることになっています。それにキャロル・アルボも過去に何度もこれを踊っているので、みてくれるようにお願いしようと思っています

Q:マチュー・ガニオとはオペラ座でもよく踊るのですか

A:オペラ座で彼と踊ったのは、昨年の『水晶宮(パレ・ド・クリスタル)』が初めてでした。でも、それほどたくさんというのではなかったので、今回フェスティバルで本格的に組めるのがとてもうれしいんです。

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「水晶宮」photo Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

Q:ロビンズ作品はオペラ座では昇級コンクールの自由曲によく選ばれますね。

A:私、ロビンズについては、ちょっとおかしい話があるんです。かなり前だけど、ある年のコンクールに『アザー・ダンシーズ』の2つめのスローなソロを選び、稽古を始めました。とろが、これが全然できなかったの。だからマチューとこの作品の話になった時に、彼に『私、これにはちょっとばかり悪い思い出があるの・・・』って。でも今回は踊る場所も機会も別のことだし、コンクールではソロを1つだけというのに対してフェスティバルでは作品全部を踊る、そして、私はその時よりも経験が増え、成長しています。それにロビンズの『ダンシーズ・アット・ア・ギャザリング』も無事に踊れたのだから、ということで。『アザー・ダンシーズ』は素晴らしい作品でしょう、このフェスティバルでは上手く踊れる!って確信しています。

Q:同じ作品を時期をおいて踊って、成長を実感したということはありますか。

A:その機会はまだありません。この間の『パキータ』はパリとツアーの間がそれほどなかったので、その間に反映されるほどの自分の成長があったとは思えないし。でも、とっても快適だとわかったのは、1度踊ったことのある作品を再び踊るということね。なぜって、前回の経験があるので、二度目の時のスタート時点は同じではないでしょう。ゼロからじゃないので、作品の解釈をより深めることができ、さらに前進できるのです。他のことを追求し、それに至ることが出来て・・・。身体の疲労についても、どの辺りで疲れがくるかがわかってるので、体の管理という点でも仕事がしやすくなる。こうしたことを初めて学べたのが、この『パキータ』なんです。

Q:来シーズンはどの作品を踊りますか。

A:まだ確定というのではないですが、おそらく『ラ・バヤデール』を踊るのではないかしら。ニキヤ役です。この作品は音楽、舞台装置、また第三幕でコール・ド・バレエがステージを降下してくるシーンも・・・何をとっても素晴らしいクラシック作品だと思います。踊ることができたら、とても満足です。そして、来シーズンは多分『ジゼル』『ロメオとジュリエット』も踊ります。もしこれらが実現したら、どれも初役ばかりということになります。

Q:好きな振付家は誰ですか。

A:たくさんいる・・・・。というか、どの振付家が好きということではなく、どのバレエが好きか・・・ということなんです。例えば、マッツ・エックのすべてが好き、フォーサイスのすべてが好きとはいいません。マッツ・エックのこれ、フォーサイスのこれ、ということなんです。踊るのが好きなバレエもあれば、見るのが好きなバレエもあって。いずれにしても来シーズンは、どれも初めて踊るものばかりとなりそうだけど、もしかすると全部が好きというものではないかもしれない。でも好奇心が強い質なので、新しいことに挑戦するだけでも興奮します。それに、たとえ好きにならなかったにしても、自分の栄養になることは確かなことなので!

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「水晶宮」photo Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

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