オニール八菜が初めてパートナーを組んだマチアス・エイマンと華やかに踊った『パキータ』

ワールドレポート/パリ

三光 洋
text by Hiroshi Sanko

Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

"PAQUITA " Pierre Lacotte
『パキータ』ピエール・ラコット:アダプテーションと改作振付、ジョセフ・マジリエ、マリウス・プティパ:原振付

ピエール・ラコット振付の『パキータ』が5月2日から19日まで10回にわたり公演された。今回注目されたのはやはり若手を積極的に起用する新しいオペラ座の方針だろう。最終的にはスジェのオニール 八菜とマチアス・エイマンの組み合わせが4回、エトワールに昇進したばかりのローラ・エケとカール・パケットのエトワールカップルが2回、レオノール・ボーラックとジェレミー=ルー・ケールが2回、それにアマンディーヌ・アルビッソンとフロリアン・マニュネ、アリス・ルナヴァンとフロリアン・マニュネ(一部、ジェレミー=ルー・ケール)がそれぞれ1回と合計5カップルが登場した。
当初2回の予定が最終的には4回となったオニール 八菜とマチアス・エイマンの2回目、アマンディーヌ・アルビッソンとフロリアン・マニュネ、レオノール・ボーラックとジェレミー=ルー・ケールの3組を見ることができた。

オニール 八菜の主役起用は、たった1回踊った『白鳥の湖』のオデット/オディールを振付家ピエール・ラコットが見て、19世紀のパを丹念に復元した『パキータ』のヒロインはこの人、と白羽の矢を立てた。オニール 八菜はアニエス・ルテステュの指導による2週間のリハーサルに加え、振付家からも直接アドヴァイスを受けて満を持して舞台に上った。その相手役のリュシアン・デルヴィリにはエトワールのマチアス・エイマンが選ばれた。
エイマンは第1幕冒頭、地方長官のドン・ロペスの妹セラフィーナと踊るパ・ド・ドゥから、青年貴族らしい品位あふれる立ち振る舞いと、控え目でいながら相手への気持ちのないことをはっきり感じさせる演技によって、筋書きでは取り立てて特徴が描きこまれていないリュシアンに人物としての存在感を与えていた。

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オニール 八菜
© Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

一方、パキータ役のオニール 八菜がジプシーの野営地に現れると、いつもながら若々しくすがすがしいエネルギーが発散して、ぱっと光が射したかのように周囲が明るくなった。アニエス・ルテステュによると「技術的には『パキータ』は『ドン・キホーテ』や『白鳥の湖』よりもむずかしい」ヒロインだが、舞台に立ったオニール 八菜はむずかしさを全く感じさせなかった。演技面では第1幕第1場で舞台を左手奥から立ち去ろうとしているリュシアンに対して、相手が背を向けている間にさっと近づいていって、相手が振り向く直前になってさっと顔を隠し、視線を地面に落とす場面が印象に残った。相手にちょっとでもより近くに行って自分の気持ちを伝えたいという抑えられない衝動と、少女らしい羞恥心とが心の内側で闘っているのが客席からも手に取るようにはっきり見てとれたからだった。
タンバリンやカスタネットを手にし、情熱的なジプシー娘になりきっている場面でも品位が損なわれることはない。本当の身分が分かって衣装替えをすると、一転して本来の貴族令嬢に戻る。

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オニール 八菜、マチアス・エイマン © Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

オニール 八菜とマチアス・エイマンは初めてカップルを組んだが、それぞれから発せられるオーラが相乗効果をもたらして、物語が進行するにつれて息が合い、フィナーレのサラゴス長官の宮殿でのグラン・パでは、二人の卓越したテクニックと迸り出るようなエネルギーが生む華いだ雰囲気が会場を包み込んだ。カーテンコールでは観客からの長い熱い拍手が送られ、この初顔合わせのカップルは振付家とパリのバレエファンの期待を裏切らなかったことは誰の目にも明らかだった。オニール 八菜が来シーズン以降も継続してクラシック作品で主役に起用されることは間違いないだろう。

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マチアス・エイマン
© Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

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オニール 八菜
© Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

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オニール 八菜、マチアス・エイマン
© Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

一方、怪我から復帰して久しぶりにアマンディーヌ・アルビッソンが舞台に戻ってきたのも明るいニュースだった。リュシアンは当初パートナーに予定されていたカール・パケットに代わってフロリアン・マニュネが演じた。相手役に細かな注意を払ったマニュネだが、アリス・ルナヴァンを相手に踊った13日公演で怪我したために、この組み合わせは1回公演だけに終わったのは不運としか言いようがない。

16日のソワレはレオノール・ボーラックとジェレミー=ルー・ケールという若手カップルが踊った。エイマンという、経験を積みかつ個性あふれるパートナーを得たオニール 八菜とは全く違う、より大人の女性としてヒロインを演じたアマンディーヌ・アルビッソンを見た後だっただけに、若いボーラックにはもっと舞台の中央に立つことに慣れたパートナーがふさわしかったのではないかと感じられた。
『パキータ』は豪華な装置と色鮮やかな衣装によって、スペイン趣味を愛好した19世紀のパリ・オペラ座の雰囲気をよく伝えている。ピエール・ラコットの振付がフランス・バレエの様式を復活させた作品として巧みに構成されているだけに、これからもオペラ座の重要なレパートリー作品として上演され続けられるだろう。
(2015年5月9日、11日、16日 ガルニエ宮)

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© Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

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© Opéra national de Paris/ Laurent Philippe

『パキータ』全2幕
台 本 ポール・フーシェ ジョゼフ・マジリエ
音 楽 エドアール・マリー・デルドヴェーズ ルドヴィック・ミンクス
アダプテーションと改作振付 ピエール・ラコット(2001年1月25日プルミエ)
原振付 ジョセフ・マジリエ マリウス・プティパ
衣装・装置 ルイザ・スピナテッリ
照 明 フィリップ・アルバリック
パリ・オペラ座バレエ団
パリ・オペラ座バレエ学校生徒
ファイサル・カルイ指揮 パリ国立高等音楽院優等生管弦楽団
会 場 ガルニエ宮
配 役 (5月9日、11日、16日)
パキータ=オニール 八菜/アマンディーヌ・アルビッソン/レオノール・ボーラック
リュシアン・デルヴィリ=マチアス・エイマン/フロリアン・マニュネ/ジェレミー=ルー・ケール
イニーゴ=セバスチャン・ベルトー/マルク・モロー/マルク・モロー
ドン・ロペス=パスカル・オーバン/タケル・コスト/パスカル・オーバン
ドニャ・セラフィーナ=ステファニー・ロンベルク/ファニー・ゴルス/ファニー・ゴルス
将軍、デルヴィリ公爵=ブリュノー・ブーシェ
公爵夫人=ジュリエット・ゲルネーズ/マリー=ソレーヌ・ブーレ/マリー=ソレーヌ・ブーレ

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