エロイーズ・ブルドン、セウン・パク、オニール 八菜の若手有望ダンサーが妍を競った『白鳥の湖』
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掲載
ワールドレポート/パリ
- 三光 洋
- text by Hiroshi Sanko
Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
"LE LAC DES CYGNES" Rudolf NOUREEF 『白鳥の湖』ルドルフ・ヌレエフ:振付
3月11日から4月9日にかけてパリ・オペラ座バレエ団は『白鳥の湖』を14回にわたり上演した。初日の3月11日には当初エミリー・コゼット(オデット/オディール)とステファン・ブリヨン(ジークフリート)が予定され、プログラムの表紙も飾り、ゲネプロも踊っていたが、当日バスチーユ・オペラで手渡された配役表はリュドミラ・パリエロとマチアス・エイマンに変わっていた。
このカップルは3月16日の公演も踊ったが第3幕でパリエロが負傷し、第4幕はスジェのエロイーズ・ブルドンに代わった。本欄で取り上げた2010年12月15日の公演でアニエス・ルテステュが同じように第3幕で負傷し、第4幕はパリエロに代わったことが思い出された。結局、パリエロとエイマンの組み合わせが全幕を踊ったのは初日だけだったことになる。
初日公演のカーテンコールで観客は、ジークフリート役のマチアス・エイマンをひときわ大きな拍手で迎えた。エイマンは第1幕のはじめから瞑想に沈んで、理想の女性としてのオデットを想う王子を文字通り体現した。
パリエロ、エイマン© Ann Ray/ Opéra national de Paris
第1幕のパ・ド・トロワ(フランソワ・アリュの高い跳躍に客席からブラヴォーがかかった)の間、ずっと外を見ていた王子に、家庭教師のヴォルフガングが歩み寄ってはじまったパ・ダクションは若々しいエイマンと落ち着いた風格のあるカール・パケットの息がぴったりと合って目を離せなかった。男性のコール・ド・バレエによるポロネーズに続いたヴァリエーションでもエイマンは、パリ管弦楽団の秀逸なオーボエとファゴットの音色に乗って安定した自然な滑らかな動きを見せ、照明が落ちていくとともに周囲にぱっとメランコリックな雰囲気が広がった。第2幕のヴァリエーションもゆったりとした優雅でスケールが大きく、大きな喝采が沸いた。初日への出演が直前になって決まったための緊張があったのは当然だろうが、第3幕のソロへの嵐のようなブラヴォーを耳にして、ようやく硬めだったエイマンの表情に微笑が浮かんだ。今回見た5人の王子ではやはりエイマンが抜きん出ていたことは間違いない。
パリエロ、カルボネ© Ann Ray/ Opéra national de Paris
一方、リュドミラ・パリエロは2010年に見た時に比べ、役への深化を見せてくれた。第2幕で一人でいるところを不意な王子の登場ではっと驚くところの表情の豊かさ、直裁さは観客を一気にオデットの内面へと導いた。それにつづくマイムで交わす王子との対話は二人の指と視線の表現力が豊かで、観客はオデットの打ち明け話に王子とともに引き込まれた。いったん背後から現れたロットバルトに引き離されたあとでは、エイマンがやさしく指をパリエロの腕に滑らせ引き起こされたパ・ド・ドゥとなったが、次第に二人の気持ちが通い合ってくるのが手に取るように見えた。
第2幕のフィナーレで、オデットのソロで始まってリフトから静かに下りて別れるまでの二人のマイムによる語らいも情趣にあふれていた。パリエロは現在の女性エトワールの中では確かな技術とたゆみのない研鑽によって着実に芸を磨いてきているだけに、16日の公演での怪我は惜しまれた。
リュドミュラ・パリエロ、マチアス・エイマン© Ann Ray/ Opéra national de Paris
マチアス・エイマン© Ann Ray/ Opéra national de Paris
このカップルに加えて、カール・パケットがヌレエフの振付で重要な役割を果たしている王子の指南役ヴォルフガングと悪魔ロットバルトの二役を演じた。パケットは2002年からこの役をすでに百回以上踊っているだけに、風情たっぷりの堂に入った演技でドラマを盛り上げていた。第3幕でパリエロは、宮殿にオディールとして現れたところでは、前幕とは一転して強い視線と唇をそっと王子に寄せるといったそれとない仕草で官能的な黒鳥を演じていた。
カール・パケット© Ann Ray / Opéra national de Paris
女性コール・ド・バレエによる白鳥たちは初日ながらよくそろって、宙を舞う衣装の裾のひるがえりが目に眩しく、トウシューズが床にやさしく触れる音は白鳥の羽のはばたきを思わせた。
この充実した初日公演から6日後に、スジェのエロイーズ・ブルドンの舞台を見ることができた。ブルドンは14日の第二回公演から4月2日までパリエロの負傷を受けて第4幕のみに登場した3月16日を含めると合計6回出演し、高い評価を受けた。
第1幕の冒頭の場面からブルドンは存在感にあふれ、第2幕では首を微妙に左右に振って白鳥をあらわすといった細部の表現にも工夫の跡が見られた。しなやかな指先と寂しげな陰影のある視線は、しなやかな肢体とあいまって可憐なオデットだった。相手役のジョシュア・オファルトはエイマンに比べるとロマンチックな雰囲気はなく、よりニュートラルな印象を残した。
エロイーズ・ブルドン、ジョシュア・オファルト© Ann Ray/ Opéra national de Paris
エロイーズ・ブルドン© Ann Ray/ Opéra national de Paris
エロイーズ・ブルドン、ジョシュア・オファルト © Ann Ray/ Opéra national de Paris
ジョシュア・オファルト© Ann Ray/ Opéra national de Paris
オードリック・ブザール© Ann Ray/ Opéra national de Paris
3月27日には昨年の昇級試験でプルミエール・ダンスーズに昇格したばかりのローラ・エケがオデットとオディールを踊って、バンジャマン・ミルピエがバレエ監督になって最初のエトワールに任命された。以来3回目となった4月6日の公演を見たが、エケは長い首筋とバランスの取れた肢体で説得力のあるヒロインを演じ、瞑想的というよりは熱情的なオードリック・ブザールの王子と釣り合っていた。
4月8日は当初、オーレリー・デュポンの出演が予定されていたが、三週間前になって急遽スジェのオニール 八菜の出演が決まった。優れた技術に加え、メートル・ド・バレエのクロチルド・バイエの指導を受け、毎日練習を重ねた成果がきれいな細い腕を際立たせるなめらかな動き、表情に富んだ上半身によって舞台栄えする容姿を一層引き立て、繊細そのもののヤニック・ビッテンクールの王子とともに絵になるカップルを構成し、カーテンコールでは観客から何度も呼び戻された。振付家のピエール・ラコットも観客の一人で、この演技を見て5月の『パキータ』公演の主役にエイマンの共演者として二晩出演することが決まった。
オニール八菜、ヤニック・ビッテンクール© Ann Ray / Opéra national de Paris
オニール八菜、ヤニック・ビッテンクール© Ann Ray / Opéra national de Paris
オニール八菜© Ann Ray / Opéra national de Paris
最終日の4月9日は大道具方のストライキにより、場面転換なし、照明の変化も最低限で公演が行われたが、高さと瞬発力のあるスポーティなフランソワ・アリュのジークフリートと繊細そのもののセウン・パクのヒロインという対照的だが息の合ったカップルの魅力が悪条件を忘れさせてくれた。
今回の『白鳥の湖』公演によって、序列にとらわれず、若手を思い切って起用するバンジャマン・ミルピエ新バレエ監督の方針がはっきりと打ち出された。特にエロイーズ・ブルドン、セウン・パク、オニール 八菜がヒロインとして起用されて成功をおさめたことで、この秋の昇給試験に向けた女性スジェの熱い闘いの火蓋が切って落とされ、オペラ座の新時代が幕を開けようとしている。
(2015年3月11日、17日、4月6日、8日、9日 バスチーユ・オペラ)
セウン・パク© Ann Ray/ Opéra national de Paris
セウン・パク© Ann Ray/ Opéra national de Paris
音 楽 チャイコフスキー
振付・演出 ルドルフ・ヌレエフ(パリ・オペラ座バレエ1984年)
原振付 マリウス・プティパ レフ・イワノフ
装 置 エジオ・フリジェッロ
衣 装 フランカ・スカルチアピーノ
照 明 フィリップ・アルバリック
ケヴィン・ローデス(4月9日のみガレット・キースト)指揮 パリ・オペラ座管弦楽団
会 場 バスチーユオペラ
配 役
オデット/オディール
リュドミラ・パリエロ(3月11日)/エロイーズ・ブルドン(3月17日)/ローラ・エケ(4月6日)/オニール 八菜(4月8日)/セウン・パク(4月9日)
セウン・パク、フランソワ・アリュ© Ann Ray/ Opéra national de Paris
ジークフリート王子
マチアス・エイマン(3月11日)/ジョシュア・オファルト(4月6日)/オードリック・ブザール(4月6日)/ヤニック・ビッテンクール(4月8日)/フランソワ・アリュ(4月9日)
ヴォルフガング(家庭教師)/ロットバルト
カール・パケット(3月11日、17日、4月8日)/ステファン・ブリヨン(4月6日、9日)
王妃 マリー=ソレーヌ・ブーレ(全日)
フランソワ・アリュ© Ann Ray/ Opéra national de Paris
第1幕のパ・ド・トロワ
ヴァランティーヌ・コラサント/エヴ・グリンシュタイン/フランソワ・アリュ(3月11日)ヴァランティーヌ・コラサント/エヴ・グリンシュタイン/ユゴー・マルシャン(3月17日、4月6日)/レテシア・ガローニ/オーバーヌ・フィルベール/フロリモン・ロリユー(4月8日)
第2幕
4羽の小さな白鳥
マリーヌ・ガニオ/エレオノール・ゲリノー/ポーリーヌ・ヴェルデュゼン/オーバーヌ・フィルベール(3月11日、17日)マリーヌ・ガニオ/ミリアム・カミオンカ/マリオン・バルボー/リディー・ヴェレイユ(4月6日)マリーヌ・ガニオ/エレオノール・ゲリノー/ミリアム・カミオンカ/ポーリーヌ・ヴェルデュゼン(4月8日)
4羽の大きな白鳥
エロイーズ・ブルドン/オニール 八菜/ロール=アデライード・ブーコー/ファニー・ゴルス(3月11日)オニール 八菜/ロール=アデライード・ブーコー/ファニー・ゴルス/エミリー・アズブーン(3月17日)ロール=アデライード・ブーコー/レテツィア・ガローニ/エミリ・アズブーン/イダ・ヴィキンコスキ(4月6日)
第3幕
チャルダシュ
エヴ・グリンシュタイン/アレッシオ・カルボーネ(3月11日、17日、4月6日)マリオン・バルボー/ジュリアン・コゼット(4月8日)
ダンス・エスパニョール
ヴァランティーヌ・コラサント/ステファニー・ロンベルグ/ヤニック・ビッテンクール/ヤン・シャイユー(3月11日、17日)ロール=アデライード・ブーコー/レティツィア・ガローニ/フロリモン・ロリユー/ジェルマン・ルーヴェ(4月6日、8日)
ダンス・ナポリターナ
メラニー・ユレル/エマニュエル・ティボー(3月11日)メラニー・ユレル、シモン・ヴァラストロ(3月17日)ポーリーヌ・ヴェルデュゼン/ダニエル・ストークス(4月6日、8日)
ヤニック・ビッテンクール© Ann Ray/ Opéra national de Paris
コラサント、アリュ、グリンシュタイン© Ann Ray/ Opéra national de Paris
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