オペラ座ダンサー・インタビュー:ユーゴ・マルシャン

ワールドレポート/パリ

大村真理子(マダム・フィガロ・ジャポン パリ支局長)
text by Mariko OMURA

Hugo Marchand ユーゴ・マルシャン(スジェ)

昨年のコンクールの結果、2015年1月1日よりスジェとなったユーゴ・マルシャン。ダイナミックなダンスと見事なテクニックで、舞台に若々しいエネルギーをもたらすダンサーだ。21歳の彼へのバンジャマン・ミルピエ新芸術監督の信頼は厚く、5月20日、『マノン』で大先輩ドロテ・ジルベールをパートナーにデ・グリューを初役で踊ることが決まった。

昨年末、『くるみ割り人形』でコリフェの彼はコール・ド・バレエだけでなく主役(王子・ドロッセルマイヤーの2役)を踊ることになった。ところがパートナーも公演日程もめまぐるしく変わり、大役を得た彼のストレスは相当のものだったろう。オペラ座のピラミッドを快調に登っている将来が楽しみな若いダンサーが日々心に思うことなど、いろいろと聞きたいところである。午後はガルニエ宮での『マノン』のリハーサル、夜はバスチーユで『白鳥の湖』の公演という日々の彼。両者の合間を縫ってのインタビューは、リハーサルが予定より長びいたために、少々駆け足気味となってしまったのが心残りだ。

Q :『マノン』ではデ・グリューに配役されましたね。

A:はい。公演予定は最終日の5月20日で、それまではずっとコール・ド・バレエで出演します。僕はまだスジェであってソリストではないので、プルミエ・ダンスールになるまでコール・ド・バレエをするのは当然のことなんです。

Q:『くるみ割人形』で主役に抜擢されてから、あなたの名前はオペラ座のダンスファンの間でよく聞かれるようになりました。でも、この公演ではさまざまな出来事があなたに起きたのでしたね。

A:はい。この公演を巡っては、精神的にも肉体的にもひどく強烈な時間を経験することになりました。 なぜって・・・最初、僕は代役だったんですが、「公演日は今のところないけれど、万が一誰かダンサーが怪我をした場合に備えておくように ! 」って言われ、それでメラニー・ユレルと稽古を始めました。バレエを覚え、パ・ド・ドゥやヴァリアシオンも稽古をし・・・。そうして2週間過ぎたところで、怪我で休んでいたステファン・ビュリヨンが復帰していて、彼がメラニー・ユレルと踊ることになりました。彼の代役だった僕はコール・ド・バレエに戻って・・・。その後1週間はずっとコール・ド・バレエだけの稽古をしていたんですが、「マチアスはまだ痛みが残っていて、舞台には戻れないかもしれない。彼のパートナー予定のリュドミラ・パリエロと稽古を初めて欲しい」と。こういわれて、彼女と稽古を始め、その5日後にマチアスは復帰できないことがコンファームされました。「あ、すごいぞ。リュドミラと舞台で僕は踊れるんだ ! 」って。ところが、ところがです。プルミエ・ダンスールのヴァンサン・シャイエが主役の配役に加えられ・・・

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「くるみ割人形」Photo Sébastien Mathé / Opéra national de Paris

Q:彼がリュドミラと踊ることになったのですね。

A:これは辛かったですね。メラニーと稽古をし、リュドミラとも稽古をし・・・実に仕事に打ち込んでいたんですから。メラニーとリュドミラでは体格が違うので、ポジションなど新たな仕事が必要だったし、関係も異なるので・・・。それで、代役の稽古を続けるものの、君は代役だから公演日はないよ、ということで、リハーサルスタジオでも代役の僕だけは別に後ろのほうで・・・。

Q:失望もさぞかし大きかったでしょう。

A:もちろんですよ。ひどく、がっかりしました。上にあがったかと思うと、下降して・・・心の動きがまるでエレベーターにのったようでした。きつかったですね。そして次にさらに辛いことが起きました。「ステファン・ビュリヨンが怪我をして、踊れなくなった。メラニー・ユレルと君が3公演踊ることになった」と告げられたんです。これで、ついに舞台で踊れることが僕に確約されたんです。メラニー・ユレルと3公演 ! これは本当にうれしかったですね。僕、本当に満足で・・・

Q:では、辛い思いはもう終わったのではないのですか。

A:いえ。まだ続きがあるんです。聞いてください。『くるみ割り人形』ではエリザベット・モーランがリハーサルコーチとなってくれて、素晴らしい時間を過ごせました。彼女は実にたくさんのことを教えてくれて・・・これは僕にとって本当に初の大役だったんです。何しろ、それまで役についたことがなかったんだし。この作品はプリンスとドロッセルマイヤーというだけでなく、手品をするマジシャンの部分もあれば、子供たちとパントマイムもあって、簡単な役じゃないですよね。20歳の僕が、60歳の役で・・・と。でも、エリザベット・モーランと一緒にたっぷりと仕事をし、初めてメラニーと舞台上で通し稽古をしたときは、本当に上手くゆきました。というところで、バンジャマン・ミルピエから告げられたのは、「ジョジュア・オファルトが足を痛めてしまったので、アマンディーヌ・アルビッソンと踊れなくなった。だから君が彼女と・・・」と。これ、月曜日のことで、彼女との公演は同じ週の土曜。これには少々衝撃を受けましたけど、素晴らしいことなので引き受けました。そして翌日に早速アマンディーヌと稽古を始めたんです・・・が、彼女、そこで足を捻ってしまって踊れなくなったんです。再び上がったところで、一気に下におろされて、またも僕の気持ちはエレベーター状態。アマンディーヌと踊れると思ったら、踊れなくなって、とこれも僕には辛いことでした。

Q:それで再びメラニー・ユレルと踊ることになったのですね。

A:そうです。僕たちの当初の初舞台は12月20日に予定されていました。それが12月1日が二人の初舞台、と3週間も早まって・・・僕たち舞台で踊れる準備がまだできてない状態でした。それで、大変な1週間を過ごすことになったんです。

Q:その時期にコンクールもあったのではないですか。

A:そうです。月曜日に『くるみ割り人形』の初舞台を終え、翌日がコンクールの通し稽古。そして水曜日がコンクール。木曜日は『くるみ割り人形』のコール・ド・バレエで、そして金曜日が『くるみ割り人形』の2公演目でした。その週が始まる前の日曜日に、翌日から始まる1週間の予定をみたときの僕のストレスといったら !!!!

Q:日頃ストレスには強いほうですか。

A:ストレス管理することはできますが、初の大役、コンクール・・・あまりにもたくさんのことを管理しなければならない状態に追い込まれてしまったので、本当にきつかったです。で、『くるみ割り人形』の初舞台は無事に終わったものの、僕はあまりにもストレスがひどくって、舞台上で最初から最後までまったく喜びを感じることができませんでした。心理的に厳しいですよね、苦しみしかないのだから。ところが、金曜日の2度目の公演は、その正反対。ストレスから解放され、感情的にも弾けることができました。

Q:そのために何か特別なことをしたのですか。

A:はい。バレエ全体をしっかり復習し、気持ちを鎮静するように努めました。それにコンクールが終わって、しかもスジェへの昇級が決まって・・・精神的に解放されたんですね。それで2度目の『くるみ割り人形』が終わり、実に上手くいって、大満足。次の公演はちょっと先の12月20日・・・の予定でした。ところが、ところがです。僕、21歳の誕生日を迎えたので仲間たちと祝って寝るのがちょっと遅くなってしまった翌朝(注12月10日)に、「ドロテ・ジルベールが怪我をしたので、今晩は君とメラニーが踊ることになった」と電話がきたんです。再びの突然・・・。本当に大変でした。でも、今振り返ると、この時期は最高だったと言えます。なぜって、実にたくさんのことを学ぶことができたからです。感情をコントロールすること、ソリストの役は素晴らしいけど重圧に感じすぎると踊りには良い結果がでないので軽く受け止められるようにすること・・・とか。最終的に12月1日から29日まで、6公演で主役を踊り、あとのすべての公演ではコール・ド・バレエを踊りました。パ・ド・トロワのパストラルも踊っていて・・。とにかく強烈な1か月でした。

Q:年明けの休暇は自宅で休養という感じでしたか。

A:『くるみ割り人形』の後は、すっかり消耗しきっていましたね。ストレス解消が必要なので1月1、 2日は、休息そのもの。でも、すぐにその後ドバイでガラ公演がありました。海外、しかも暑い土地に行くことは素晴らしい気分転換となりました。パリとは異なる雰囲気で、海辺だったのでバカンス気分が味わえて・・。3日間に4公演というハードなガラでしたけど、でもダンサー同士の関係もよくって良い雰囲気でした。そしてパリに戻って、仕事の日々が再開したのですが、僕、1月は踊ってないんです。年明け公演だったコンテンポラリー作品のミックスビルの1つ『アンドレオーリア』で、僕はステファン・ビュリオンの代役でした。彼が問題なく公演を努められたので・・・。もっとも、最後の公演で踊ることになったんですよ。というのも、マチアス・エイマンが足を痛めたので彼の代わりです。でも、僕は彼の代役ではなかったので、その日のうちに急遽、彼のパートを覚えねばならず・・・で、その夜に舞台に立ちました。

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「くるみ割人形」Photo Sébastien Mathé / Opéra national de Paris

Q:こうした突発事への対応は『くるみ割り人形』ですでに体得ずみですね。

A:そうです、たっぷりと ! 良い舞台にするために、いかにストレスやテクニックを管理するのかとかを学んでいました。それにその前、昨年7月に参加したヴァルナのコンクールでも多くを学んでいたんです。というのも午前4時まで続いたりとかリハーサルのコンディションがとにかく悪くって。コンクールなので上手くやり遂げたいという思いもある分、ストレスも大きくなりますよね。このコンクールのために半年がかりで8つのヴァリアシオンを準備しました。けっこうな仕事量ですよね。で、8つの準備をしたのだから、当然8つとも舞台で披露したいでしょ。もし最初の回で落とされたら、2つしか踊れないことになってしまう。つまり、残りの6つのヴァリアシオンは踊らず終いとなってしまう。最後まで進んで学んだすべてを舞台で踊るのが僕の目標。最終的には銅メダルを獲得することができて満足しています。

Q:8つのヴァリアシオンは自分で選んだのですか。

A:そうです。このコンクールではテクニックをみせる必要があって・・。クラシックが6つ、コンテンポラリーが2つ。すごく良い経験ができました。これによって次に来るシーズンへのパワー、耐久力を得ることができました。そして迎えた今シーズンでは、僕は大きな責任を負う立場となり、信用もされるようになって・・・。

Q:そういったことを期待して入団しているのですよね。

A:そうです。でも、最初の2年間はほとんど何も僕はしてないんですよ。代役で・・・・。これって辛いこと。たっぷりとバレエを学び、とても良いレヴェルにあるのに、学校を出てカンパニーに入団するや何もなし ! という状態に陥るっていうのは。カドリーユは代役なので舞台で実際に踊ることはなく、存在を考慮してもらえるっていう雰囲気でもなくって。それに最初のコンクールでコリフェに上がれなくって・・・。僕4位でした。ジェルマン(・ルーヴェ)は3位で二人ともカドリーユをもう1年することになったんです。

Q:昨年のコンクールでスジェ2席を得たのは、あなたとジェルマンでしたね。 彼とはどのような関係ですか。

A:彼は僕の最高の友だち。学校時代からの付き合いで、ものすごく気が合うんですよ。僕は研修生として第5ディヴィジョンに入ったのですが、その後第3ディヴィジョンにあがりました。そこでジェルマンと知り合いました。その年の試験では、彼が1位で僕が2位。次の第2ディヴィジョンでも同じく。第1ディヴィジョンに共にあがり、カンパニーに一緒に入って・・・。コリフェに上がるのも同時なら、スジェに上がるのも同時でした。ずっと二人揃って同じ歩みで進んでいます。本当に気の合う二人で、互いの間に競争意識はまったくなし。というか、ポジティヴな競争がある、という感じです。常に互いを慮っていて・・。

Q:スジェに同時に上がれたのは幸いだといえますね。

A:そうですね。学校時代からずっと一緒だったので、もしどちらか1人しか上がれなかったら、辛かったでしょうね。でも次はプルミエ・ダンスールですから、ソリストとなると状況は変わってくるでしょう。幸い、今は二人ともソリストとして同じように配役されているけれど。

Q:カンパニー内、あなたが最も背の高いダンサーですか。

A:オードリック・ブザールがいますね、彼もとても大きい。僕は191センチ。彼はおそらく僕より1〜2センチ高いんじゃないかな。でも、僕は体つきがしっかりしてるので、彼より大きく見えるかもしれませんね。

Q:その体格ゆえに舞台上でのあなたの存在感はとても大きいですね。そうした利点については自分でも意識していますか。

A:いえ、実のところ、僕は自分の体にコンプレックスがあって・・・今はそれほどでもなくなったけど。以前は、自分がダンサーの理想型におさまってない、他のダンサーと同じじゃない、っていう思いが強くありました。現実として大きすぎる、筋肉がつきすぎているということで、僕は少々脇に置かれていたんです。今は違いますけどね。

Q:主役に配役されるようになったおかげですね。

A:はい。それまでは他のダンサーたちのようにもっとすんなりと、細い筋肉で、背ももう少し低かったらって思っていました。今は自分の体型を受け入れてます。それが僕の価値となっていて、他の人と異なるということで、観客を驚かせることもできるのだし・・・。舞台上の存在感というのは自分では意識はないけれど、毎回テクニック的にも感情的にも、舞台上で自分の最大を出そうと努めてるのは確かです。

Q:前回のコンクールでは自由課題で『エチュード』を選びました。テクニックを見せるためですか。

A:これは7月のヴァルナのコンクールでも踊っているんです。踊るのが大好きな作品なんです。音楽は素晴らしいし、振付はとても男性的で、様式があって。このように美しくて、すごく華のある作品って あまり目にする機会がないタイプです。短いヴァリアシオンながら、自分の持つ多くをこめることができる作品。強いインパクトがあって・・・。とても満足しています。

Q:この手のスタイルと、これから踊る『マノン』の振付はかなり異なります。デ・グリューを踊ると知った時、どのような思いがありましたか。

A:スタイルは完全に異なりますね。『アンドレアオーリア』のリハーサル中だったのですが、バンジャマン・ミルピエが近づいてきて「ドロテ・ジルベールと『マノン』を踊ることになったよ」って僕に言ったんです。これって、いったいどういうことなのだろうという驚きで、ちょっと頭が空白になりました。とても強いパーソナリティのデ・グリュー役は男性ダンサーにとって最高の役だと思ってるんです。で、しかも、それをドロテ・ジルベールと ! 信じられないことですよ。テクニック的にも女優的にも素晴らしいダンサーのドロテと僕が・・・。

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「コンクール」
Photo Sébastien Mathé /Opéra national de Paris

学校時代にステージで見たドロテはすでにエトワールで・・・その彼女と自分が踊るというプレッシャー、そして誇らしさもあって・・・。もっとも、その後何もこの件で進展がなかったので、ああひょっとして状況は変わったのだろうかと思ってました。最終的に配役がコンファームされ、2週間前からドロテとの稽古が始まっています。これまでのところとても上手くいっていますよ。

Q:5月20日に一度だけの公演ですね。

A:はい。でもそれだけでも僕にとってはすごいことです。音楽は美しく、エトワールが踊る作品で、強いパーソナリティの役で、衣装も素晴らしいし・・・これはバレエの傑作なんですから、1度だけでも参加できるというので満足ですよ。この役を踊れたらって、夢見ていたんです。30歳になってソリストになれてたら、これを踊れるのだろうかって思っていたのが、21歳で踊れることになったんです。
最初はアーティスティックな面で僕に務まるものだろうかと不安が大きかったのだけど、思ったほど大変ではありませんでした。今リハーサルではテクニック面だけでなく同時に演劇面も進めています。この両方を切り離してはできない作品ですからね。情熱をかきたれられる仕事ですよ。テクニック面を忘れられるほどしっかりと身につけて、舞台上でドロテと共に物語を語りたい。そして強い時間を二人で過ごしたい。一度しかないので、ストレスにおちいらないようにと思っています。ユーゴ・マルシャンが踊るのではなく、ユーゴ・マルシャンによるデ・グリューという人物が踊る。そう思うとストレスが軽減されます。自分以外の人物を演じること、他人になりきることによって安心が得られるのです。舞台に出てぱっと踊るという『エチュード』とは違って、ストーリーを語る作品。僕の向かいにドロテがいて、彼女が僕をみつめ、周囲を他のアーティストたちに囲まれていて・・・こうして不安から解放されます。
僕は『くるみ割り人形』でたくさん経験も積んだことに加え、2週間前にはマリ=アニエス・ジローとも踊ってるんですよ。マリインスキー・フェスティヴァルのクロージング・ガラ(注 3月22日)で、バンジャマン・ミルピエの新作を踊ったんです。このガラにはオペラ座から他にもダンサーが参加してますけど。よその劇場で、あまりよく知らないパートナーとともに踊るということも経験済みとなって・・・。

Q:その作品は今後も踊る機会がありそうですか。

A:そうあって欲しいですね。とても美しい作品です。難しい作品ですが、身体の大きなダンサーとのパ・ド・ドゥの経験をすることができました。マリ=アニエスはすごく大きいというのではないのだけど腕も脚もとにかく長いので、それゆえに振幅が大きくって、それを上手くコントロールすることも学べました。二人の間には沢山のやりとりもあり、通じ合うもの生まれました。

Q:彼女も大先輩ですね。

A:そう。だから、彼女と踊ると知った時のショックといったら ! 僕にとってマリ=アニエスといったら、10歳のときに自宅のDVDで見たダンサーなんです。エトワールとしての彼女のキャリアは長くって、それだけに僕にはもう並外れた出来事だったんです。こうしたダンサーと自分が踊れることになるなんて想像もしてなかった。

Q:バンジャマン・ミルピエから信頼されてることが自分でも感じられますね。

A:はい、すごく。これはとてもうれしいことです。だから、彼を失望させたくないですね。

Q:デ・グリュー役以外に踊りたいと夢見ている作品はありますか。

A:僕、ヌレエフの『ロメオとジュリエット』が踊りたいんです。ロメオのような人物だと自分を重ね合わせるのが簡単なんです。といっても、1つのカテゴリーに閉じ込められたくはありません。例えば、もしティボルト役が踊れることになったら、これもうれしいですよ。悪の匂いのする役、強い個性のある役に興味あります。『白鳥の湖』のロットバルト役とか・・・。『天井桟敷の人々』ではラスネール役の代役なんですよ。こうした役につくことができるのは、新しいタイプの役なのでうれしいです。

Q:あなたに広い役柄を体験させるという上層部の意向があるでしょうか。

A:それはわからないけど、 いろいろなことに触れられる機会があるので僕としては多いに満足しています。今シーズンはフォーサイスがあり、『くるみ割り人形』があり、マリ=アニエス・ジロとマリインスキー劇場でコンテンポラリーのパ・ド・ドゥを踊ることができ、そしてデ・グリュー役・・・シーズンの最後は今のところ何を踊るかがわかってはないのだけど、これまででもうすでに大満足なので、バカンスに出てもいいって感じですよ(笑)。

Q:今シーズンの締めは『リーズの結婚』か『感覚の解剖学』のどちらかですね。

A:どちらに配されるのか、まだわかっていません。でも、「若いダンサーたち」の公演で、ジュリエット・イレールとウェイン・マクレガーの『ジェニュス』を踊っていて、このスタイルがとっても気に入りました。これをヴァルナのコンクールでも選んだほどです。身体の揺り動かし、極限の追求、それにレントゲン写真のモチーフのコスチュームもすごく気に入ったんです。だから『感覚の解剖学』でマクレガーと再び仕事ができたら、って思います。

Q:あなたのパワフルなダンスを思うと、『ドン・キホーテ』のバジリオ役を踊るところを見てみたいと思うのですが、この役には惹かれませんか。

A:・・・『ドン・キホーテ』はテクニックの見せ所もあるし華やぎのある作品ですよね。でも肉体的にすごくきつい作品。だから身体の辛さゆえに、バジリオ役を踊っても他の役ほど喜びが得られそうもありません。もちろん役を踊ることによって進歩が得られるし、うれしいとは思うけど・・・。配役されて困ることはないけど、夢見る役では ありません。

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「ジェニュス/2014年 若いダンサーたち」
Photo Benoîte Fanton / Opéra national de Paris

Q:プリンス役というのは興味をひかれるものですか。

A:プリンスというのは主役なので、そういう意味で憧れますよね。『白鳥の湖』でプリンス役を踊れたら最高だっただろうな。特にヌレエフのヴァージョンはダンサーの価値を見せることのできる振付で、1幕から4幕まで、素晴らしいヴァリアシオンやパ・ド・ドゥがあって・・・。『白鳥の湖』のプリンス役は演じる部分が大きいので、踊ってみたいものです。

Q:オペラ座ではクラシックとコンテンポラリーの両方が上演されますが、好みはありますか。

A:僕は基本的にクラシックのダンサーです。コンテンポラリー・ダンスについては本格的に学んでいません。でも、コンテンポラリーといって幅広いし、異なる動き方、新しいことを学ぶことに準備はできてるのだけど、公演のためにオペラ座に来るコレオグファラーたち、自分たちが求める動きをすでに出来るダンサーを選んでしまうので、なかなか僕にはチャンスが来ないんです。コンテンポラリーといっても動きはクラシックなフォーサイスやマクレガーのスタイルが、僕には向いてるんですね。僕は身体がしなやかで、こうしたダンスのためのクオリティが備わっています。出来るかどうかはわからないけど、キリアン、ピナ・バウシュ、ケースマイケルなど踊ってみてみたいと思っています。

Q:どのようなきっかけでダンスを始めたのですか。

A:僕にダンスが課された、という感じなんです。8歳の時に、僕はダンスをするんだ!って、突然習い始めました。家族内で誰もダンスをしていないし、なぜなのかはわからない。頭か身体か、自分の中にダンスを抱えて生まれて来たのでしょうね。これ、説明できないことなんです。

<10のショート・ショート>
1.プティペール :ヤニック・ビタンクール(25歳の彼とは、今では友だちのような関係)
2. 典型的な朝食 :紅茶、タルチーヌ(バゲット+バター+ジャム)、ヨーグルト、果物。
3. 幸せな気分が得られる匂い:雑木林やラヴェンダーといった太陽、バカンス、寛ぎに結びつく香り。
4. 最近満足した出来事 :『マノン』を踊れること。
5 . 最近すごく怒りを覚えた出来事:思い出せない(すぐにカッとする質なので、その後は忘れてしまうせいだと思う)。
6. 好きな作曲家:ラフマニノフ(チャイコフスキー、リストなどロマンチックな音楽が好み)。
7. 舞台に上がる直前に必ずすること: 人を避けられる場所に行き、以前少し齧った ソフロロジーを実践する。呼吸を整え、ポジティヴなイメージを頭の中に描く。そして舞台に向かう。
8. 夢のバカンス先:イビザ(すでに2度行っている)。あるいはモルディブなどの楽園的な島。あるいはバスク地方やランド地方など自然を満喫できる土地。
9. 時間ができたらしたいこと:友だちと時間を過ごしたい(気分を変えるためにも、オペラ座の外の友だちをもっと作りたい)。ナントにいる両親に会いにゆきたい。
10 .今はまっている事、物:チョコレート !(仕事量が膨大な時期なので、身体が必要としてるせいだと思う)。仕事 ! (良いことかどうかわからないが)。

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