ダンサーの身体を美しく見せ、詩情を漂わせたノイマイヤーによるマーラー『大地の歌』世界初演

ワールドレポート/パリ

三光 洋
text by Hiroshi Sanko

Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

" Le Chant de la Terre " John Neumeier 『大地の歌』ジョン・ノイマイヤー振付 世界初演

パリ・オペラ座バレエ団の公演で今シーズンで最も注目されていたのが、73歳を迎えたジョン・ノイマイヤー振付の『大地の歌』世界初演だった。パリ・オペラ座がノイマイヤーに新しいバレエ作品を委嘱し、彼が即刻提案したのがマーラーが生涯の最後に残した歌唱付きの交響曲だった。
ノイマイヤーは半世紀以上前、シュツットガルト・バレエ団のダンサーだった時に同じ曲にケネス・マクミランが振付けた作品の世界初演を踊っている。1975年に『マーラー第3交響曲』を振付けて以来、40年間もマーラーに触発された振付を続けてきたが、今回の作品はマクミランへのオマージュとして生まれた。
本来の6つの歌の前に20分のプロローグが付け加えられ、休憩なし1時間25分の作品だが、振付家はいずれの歌でも音楽を忠実にダンサーの身体によって辿っていく。

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『大地の歌』© Opéra national de Paris/ Ann Ray

舞台には、ノイマイヤー自身が考案した芝生の生えた傾斜した斜面が置かれ、中空には月の満ち欠けのように形が変化する円形の鏡が吊り下げられた。また古代中国の服にインスピレーションを受けた衣装も品のある趣味のよいものだった。スペクタクルは斜面の上に座っていたマチュー・ガニオが、下に向かってすべり降りるところから始まった。
李白をはじめとする唐詩には友情、自然、季節、酒という古代から普遍の人間の問いが取り上げられている。マチュー・ガニオとカール・パケットの二人が息のあったコンビで詩で歌われた友情を余情たっぷりに表現したり、レテシィア・プジョルが神秘的な雰囲気を漂わせ、愛娘を失ったマーラーが曲に託した想いが感じさせたのを始めとして、ノイマイヤーのよく知っているソリストたちがそろって熱の入った演技を繰り広げた。

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レティシア・プジョル、マチュー・ガニオ
© Opéra national de Paris/ Ann Ray

これに対して、群舞は音楽の流れをそっくりそのまま身体に置き換えただけのような動きが多く、ソリストによる場面のような詩情はあまり感じられなかった。
たしかにダンサーの身体をこれほど美しいものに見せてくれる振付家は希だろう。きれいな舞台だったことは間違いない。またオーケストラピットから流れたパトリック・ランジュ指揮のパリ・オペラ座管弦楽団と男声ソリスト二人の演奏も水準の高いものだった。しかし、目が見ているものと耳に響いている音とが一体となった時に起こる化学反応が、今回は客席にいて感じられることのないまま、幕が下りてしまった感がある。今まで見たノイマイヤーの作品には、いつも身体を超えたメッセージが伝わってきただけに少々予想外だった。
(2015年2月24日 ガルニエ宮)

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マチュー・ガニオ© Opéra national de Paris/ Ann Ray

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パケット、ガニオ© Opéra national de Paris/ Ann Ray

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マチュー・ガニオ© Opéra national de Paris/ Ann Ray

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レティシア・プジョル© Opéra national de Paris/ Ann Ray

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© Opéra national de Paris/ Ann Ray

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ノルヴェン・ダニエル© Opéra national de Paris/ Ann Ray

John Neumeier ジョン・ノイマイヤー振付 『Le Chant de la Terre』『大地の歌』
音 楽 グスタフ・マーラー
振付・装置・衣装・照明 ジョン・ノイマイヤー
パトリック・ランジュ指揮 パリ・オペラ座管弦楽団
テノール独唱 ブルクハルト・フリッツ
バリトン独唱 ポール・アルミン・エーデルマン
配 役
プロローグ
(ジョン・ノイマイヤーがマーラーに付け加えた部分、『大地の歌』のピアノ版の第6の歌惜別(ヴェッセラ・ペロヴスカ演奏)の録音抜粋より構成されている)
マチュー・ガニオ、レテシア・プジョル、カール・パケット、ノルヴェン・ダニエル
第1の歌(「大地の哀愁に寄せる酒の歌」テノール歌唱)
マチュー・ガニオ、カール・パケット
ノルヴェン・ダニエル、フロリアン・マニュネ、ローラ・エケ、ヴァンサン・シャイエ、ミュリエル・ズスペルギー、オードリック・ブザール
セヴリーヌ・ヴェステルマン、アレクシス・ルノー、ロレーヌ・レヴィ、セバスチャン・ベルトー、シャルロット・ランソン、ファビアン・レヴィヨン
レオノール・ボーラック、マルク・モロー、セ・ウン・パク、アントニオ・コンフォルティ、ジュリエット・イレール、シリル・シュクルン
クリステル・ガルニエ、ミカエル・ラフォン、シルヴィア・サン・マルタン、アクセル・イボ、ダフネ・ジェスタン、アレクサンドル・ガス
第2の歌 (「秋に寂しきもの」バリトン歌唱)
レテシア・プジョル、マチュー・ガニオ
第3の歌 (「青春について」テノール歌唱)
マチュー・ガニオ
ミュリエル・ズスペルギー、フロリアン・マニュネ
レオノール・ボーラック、セバスチャン・ベルトー、セ・ウン・パク、アントニオ・コンフォルティ、シルヴィア・サン・マルタン、アクセル・イボ、シャルロット・ランソン、アレクサンドル・ガス
第4の歌 (「美について」バリトン歌唱)
カール・パケット
ノルヴェン・ダニエル、ローラ・エケ
クリステル・ガルニエ、セヴリーヌ・ヴェステルマン、ダフネ・ジェスタン、ジュリエット・イレール、ローレーヌ・レヴィ
オードリック・ブザール、ヴァンサン・シャイエ、マルク・モロー、アレクシス・ルノー、ファビアン・レヴィヨン、ミカエル・ラフォン、シリル・シュクルン
第5の歌 (「春に酔えるもの」テノール歌唱)
ヴァンサン・シャイエ
第6の歌(「惜別」バリトン歌唱)
レテシア・プジョル、マチュー・ガニオ、カール・パケット ダンサー全員

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プジョル、ガニオ© Opéra national de Paris/ Ann Ray

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カール・パケット© Opéra national de Paris/ Ann Ray

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© Opéra national de Paris/ Ann Ray

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© Opéra national de Paris/ Ann Ray

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