ミルピエ、ロック他、世界初演を含む4作の尖鋭なコンテンポラリー・ダンスが上演された

ワールドレポート/パリ

三光 洋
text by Hiroshi Sanko

Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

"Répliques" Nicolas Paul "Salut" Pierre Rigal "Together Alone" Benjamin Millepied "Andréauria" Eduard Lock
『レプリック』ニコラ・ポール:振付 『挨拶』ピエール・リガル:振付(世界初演)『Together Alone』バンジャマン・ミルピエ:振付(世界初演)『アンドレオーリア』エドアルド・ロック:振付

2月のガルニエ宮でのパリ・オペラ座バレエ団公演は、世界初演2作を含む現代作品が4つ並んだ。
まず最初はオペラ座バレエ団ダンサー(2002年からスジェ)のニコラ・ポール振付の『レプリック』だった。優れた現代作曲家ジェルジ・リゲッティの音楽を使い、鏡を置いた空間に半透明の幕が舞台奥から手前に順々に落ちていくきれいな舞台は何度見ても美しい。リュドミラ・パリエロとヴァンサン・シャイエを始めとする4組の8人のダンサーたちが、個人の内面を繊細にそこはかとなく映し出していった。

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© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

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© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

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『レプリック』© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

2作品目はピエール・リガル振付の新作『Salut(挨拶)』だった。リガルは1973年に高級ぶどうシャスラで広く知られる南西フランスの町モワサックで生まれ、トゥールーズ大学で経済学、高等オーディオヴィジュアル学院で映画を学んでいる。ビデオクリップの制作者としてキャリアを開始し、アフリカンダンスからダンスの世界に入った。ヘディ・マーレム、ヴィム・ヴァンデケビュス、フィリップ・ドゥクフレらに師事し、2003年からカンパニー・デルニエール・ミュニュットを主宰している。

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『Salut』
© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

パリ・オペラ座デビューとなった今回の新作は、録音された大きな拍手の音が響くのに合わせて舞台上のダンサーたちが挨拶するところからスタートした。これは誰もが意表を突かれたおもしろいオープニングだった。題名の『Salut』はフランス語で「挨拶」を意味する。ダンサーの生活のさまざまな場面で見せるこの言葉の多様な側面を、ホアン・カンボンのオリジナル音楽に乗って展開していった。
黄色の床に白・黒の衣装にかつらを被ったダンサーたちが登場。やがてポワントを使って、コッペリアを思わせる機械仕掛けの人形のように動きはじめた。衣装はチュチュからシースになったり、やがて服を少しづつ脱いでいく。装置も背景に輝いていた太陽が姿を消し、青いネオンによる巨大な月に変わるなど映画を勉強した人だけに視覚面に工夫が凝らされていて、それなりに目を楽しませてくれた。ただし全体としての構成が今ひとつだったため、38分間という上演時間が途中から長く感じられた。

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『Salut』© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

休憩後にミルピエ・バレエ監督が新たに振付けた『Together Alone』の世界初演が行われた。フィリップ・グラスの「ピアノのためのエチュード第20番」をバックにオーレリー・デュポンが、怪我をしたエルヴェ・モローに代わって舞台に上ったマルク・モローとパ・ド・ドゥを踊り、いつもながら優雅な動きで観客を魅了した。この10分ほどの作品は、ジェローム・ロビンズのスタイルを思わせる繊細で優雅なクラシック作品だった。オーレリー・デュポンは4月初旬に『白鳥の湖』を二回踊った後、4・5月にバスチーユ・オペラで上演されるケネス・マクミラン振付『マノン』を最後に引退する。さよなら公演は5月18日に予定されている。

最後はエドアルド・ロック振付の『アンドレオーリア』だった。この題名は25年前に振付家が出会った女装者(トラヴェスティ)のファーストネームから取られている。1950年代にマース・カニンガムはダンス作品をジョン・ケージと作った時に、あらかじめ打ち合わせをしないことで、ダンスが音楽に影響されていない作品を作ったが、エドアルド・ロックも同じ手法を用いてこの作品を作り上げた。
時に応じて舞台に現れたり消えたりする、金属製の装置と闇を強調した照明によって刻々と変化する空間の中で、ダンサーたちの身体がしなやかに躍動し、鍛え上げた肉体の限界のぎりぎりの姿が観客の目に飛び込んでくる。特にアリス・ルナヴァンの周囲の空間を切り裂くような鋭い動きは強い衝撃を見る人に与えた。
(2015年2月3日 ガルニエ宮)

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『Andréauria』
(C) Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

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『Andréauria』© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

『Répliques』 
音 楽 ジェルジュ・リゲッティ 「Momunent」(二台のピアノのための3つの作品、1976年)、「フレスコヴァルディへのオマージュ」(Musica Ricercata,1951-1953)、「ラメント第4楽章」(ホルン、チェロ、ピアノのためのトリオ、1982年)
振 付 ニコラ・ポール(2009年パリ・オペラ座)
装 置 ポール・アンドルー
衣 装 アデリーヌ・アンドレ
照 明 ハジッド・ハキミ
ダンサー リュドミラ・パリエロ、ヴァンサン・シャイエ、ヴァランティーヌ・コラサント、アウレリアン・ウエット、ローランス・ラフォン、アレクサンドル・カルニアト、ジェニフェ−ル・ヴィゾッキ、ブリュノー・ブーシェ
『Salut』(世界初演)
オリジナル音楽 ホアン・カンボン
振 付 ピエール・リガル
衣 装 ロワ・ジェンティ
照 明 ウルス・シェーネバウム
音 響エンジニア セバスチャン・トルゥーヴェ
ダンサー ステハニー・ロンベーロ、マリーヌ・ガニオ、キャロリーヌ・ロベール、マリオン・バルボー、イダ・ヴィイキンコスキ、リュシー・マテキ、カロリーヌ・オズモン、ソフィア・パルセン
ジェレミー・ベランガール、バンジャマン・ペッシュ、ヤン・シャイユー、ユゴー・ヴィオレッティ、ジャン=ヴァチスト・チャヴィニエ、タケル・コスト、パブロ・レガサ、アクセル・マリアーノ

『Together Alone』(世界初演)
音 楽 フィリップ・グラス 「ピアノのためのエチュード第20番」
振 付 バンジャマン・ミルピエ 
照 明 ウルス・シェーネバウム
ダンサー オーレリー・デュポン、マルク・モロー
『Andréauria』
音 楽 ダヴィッド・ラング
振 付 エドアルド・ロック振付(パリ・オペラ座2002年)
装 置 ステファーヌ・ロワ
衣 装 リズ・ヴァンダル
照 明 ジョン・ムルノ
ピアノ ドゥニ・シュイエ、ニコラ・マラルト
ダンサー(出演順)アリス・ルナヴァン、ヴァランティーヌ・コラサント、エロイーズ・ブルドン、ステファーヌ・ブリヨン、ジェルマン・ルーヴェ、マチアス・エイマン、ジョシュア・オッファルト、メラニー・ユレル、リディー・ヴァレイル、ファニー・ゴルス、シモン・ヴァラストロ

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『Andréauria』
© Opéra national de Paris/ Agathe Poupeney

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