オペラ座ダンサー・インタビュー : マチュー・ガニオ

ワールドレポート/パリ

大村真理子(マダム・フィガロ・ジャポン パリ支局長)
text by Mariko OMURA

Mathieu Ganio  マチュー・ガニオ(エトワール)

ニコラ・ル・リッシュの引退により、今シーズンより最古の男性エトワールとなったマチュー。現在オペラ・バスチーユで公演中の『くるみ割人形』で、ドッセルマイヤー - プリンス役を好演中だ。5年前に初役で踊った役柄にさらに厚みを与え、クララ役のドロテ・ジルベールと息のあった舞台で観客を楽しませている。

毎年末、ガルニエとバスチーユの両劇場で大掛かりで豪華な公演が開催されるが、怪我で降板するダンサーも少なくない。バスチーユで公演のある『くるみ割人形』では予定されていたエトワール2名が休業となったため、彼が9回の公演をこなすことになった。それが終わると、年末にはフィレンツェのコムナーレ劇場で『トリスタンとイゾルデ』が予定されている。そして年明けには、能楽師の梅若玄祥と共演する『美の饗宴』(1月6日大阪、1月8日東京)のために来日! 20歳という若さでエトワールという責任ある肩書きを背負い、10年間着実に成長を続けてきた彼が、2015年には一段と大きな花を開かせることが期待できる勢いだ。

Q:『くるみ割人形』の会場で配られる配役表に、リハーサル・コラボレーターとしてオーレリー・デュポン、バンジャマン・ペッシュ、エルヴェ・モローの名前が掲載されています。これはどういうことなのでしょうか。

A:今期の僕が最初に踊ったフォーサイスの『Woundwork 1』では、アニエス・ルテステュがコーチしてくれたけど、彼女はもう引退していますね。今回のように現役のエトワール3名がリハーサル指導をするというのは、確かに新しい試みだといえます。これって彼らにとって、良い方法ですね。引退する前にこうした仕事が好きか、向いてるか、ということを知る機会となるのだから。

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同時に、そして、これは過渡期のダンサーだけでなくオペラ座にとっても良いやり方です。上手くいったら、引退後の彼らにこうした仕事を安心して託せますからね。

Q:仲間がコーチをするリハーサル。スタジオはどんな雰囲気でしたか。

A:僕とドロテのカップルを受け持ったのはバンジャマン・ペッシュで、すごく素晴らしいリハーサル時間を過ごすことができたって言えます。このコラボレーションができたのは、嬉しいことでした。彼のおかげでクラシック作品を踊りたい!!っていう気持ちが、僕に戻ってきたんですよ。彼のおかげでクラシック作品の見方が変わりました。

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「くるみ割り人形」photo/Michel Lidvac

Q:それはどういう意味ですか。

A:彼とは以前から互いに理解しあえる仲で、意見も率直に言いやすい。でも、意気投合の関係って仕事においては時に上手くゆかないこともあるものだけど、今回はとても良い方向に作用したんです。ドロテと僕の二人を、彼はとても上手く導いてくれた。自分の意見を強いることをせず、常に提案してくれました。 テクニック面だけでなく役作りについても、僕たち二人を経験のあるアーティストとして彼は扱ってくれました。これによって僕たちに責任が与えられるので、こちらからも提案をしなければ、となって・・・でも、それゆえに自由だと感じることができた。それに何と言っても彼の強みは、たいそうなユーモアの持ち主であること。相手をリラックスさせます。こうした古典大作のバレエって技術的にも厳しく、精神的にも難しい。リハーサルの時期の朝に思うのは、ああ、今日も長いリハーサルの1日だ、ああ仕事の後は体が痛むんだろうなぁ、などと思いがち。長い先を思ってストレス、不安にかられます。ところが彼が僕たちの気持ちを上手くほぐしてくれるので、リハーサルはすごく良い雰囲気。 リハーサルに行きたい! 僕とドロテの関係も上手くいって、あ、『くるみ割人形』は上手くゆくぞ、という気になれて・・。
早く舞台で踊りたい、クラシックを踊りたい!・・という意欲が湧いたんです。クラシック作品というと、つい難しい大作に取り組むんだ! 上手くできるか不安いっぱい! となってしまうのだけど、今回はクラシック作品というのは、グループで作り上げる芸術的に楽しい作品なんだ、という目でみることができました。これは本当に素晴らしいことでした。実際舞台を見た人たちからも、良い反応が得られて、このバンジャマンとのコラボレーションは観客にも良い結果をもたらしたんだと確信できました。今後も彼と共にリハーサルする機会があるのを願っています。

Q:5年ぶりのドッセルマイヤー役ですが、その間の成長によって役の見方に変化が生じたということはありますか。

A:5年前に『くるも割り人形』に配役された時、稽古が始まる前ですが、プリンスの部分にフォーカスを置いていました。で、実際に稽古が始まって、ドッセルマイヤーとは ? と役について知ったときに、ああ、この作品ではプリンスの部分だけでなく、ドッセルマイヤーの部分も大切なんだ、するべきことがたくさんある、と理解したんですよ。

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「くるみ割り人形」photo/Michel Lidvac

5年前に比べると今、若々しさや身体的面での勢いという点で異なるので、よりドッセルマイヤーの役作りを深めることにしました。この5年の間に姪っ子(注・妹マリーヌ・ガニオの長女)が生まれ、また知人の子どもの名付け親となったりということもあり、この子たちに対するように舞台上で子どもたちを「わーっ」と驚かせるようにしたい、と思ったんです。 たとえバレエの作品内であっても舞台の上で子どもたちの目は、怖がったり、喜んだりしています。それに彼らにしてみれば、オペラ座のダンサーと一緒に舞台に立ってるんだ、という一種魔法のような時間を過ごしているわけですからね。初役の時は、子ども相手に手品を見せたりしながらも、ああ、この後でトゥールアンレールやソードバスクがあるなあ、といったことが頭にひっかかっていたのだけど、今回は子供たちの表情や、彼らとのやりとりを心から味わっているんですよ。

Q:役作りに取り組むにあたり、どういったことをしたのですか。

A:徐々に役を作り上げていたのです。図書館で資料をリサーチしたりといのではなく、自分の経験、成長をいかしてのことです。

Q:ドッセルマイヤーというのは二面性のあるようなミステリアスな人物ですね。どんな男性をイメージしていますか。

A:彼は自分のお気に入りのクララに対しては、とっても優しいけど、弟のフリッツに対してはそうじゃない。彼が人形を壊したときなど、耳をひっぱって、お尻をけっ飛ばしますね。それが余計に、クララの彼への幻想を大きくすることになるんですが・・。年長者なのに、子ども相手にアトラクションをやってみせたり、とてもミステリアス。老人ではないけど、片足をひきずっていて・・。でも、もし彼を攻撃したら、逆襲されそうな感じ・・こういった謎めいた面があります。 例えば『ハリー・ポッター』などの映画でも、こういうちょっと不気味な感じの登場人物がいますよね。時には優しいけど、時には意地悪で、いったいどんな人間なんだろうかという。こういったことも、ドッセルマイヤーのイメージ源となってます。彼って優しいのか意地悪なのか、醜いのか魅力的なのか・・そうした謎めいた面があるからこそ、人の気を惹くんですよね。クララは彼にすっかり魅了されていて、二人の間には通いあうものがありますね。ドッセルマイヤーはお気に入りの彼女に対して愛情を感じています。名付け親として、父性愛的なものです。 彼女は彼を笑わせてくれるし、少しばかり若返ったような気になれる。この晩、彼はクララに合うのが目的で来ただけなので、社交界的集まりにはうんざり。だから、適当なところで二階に上がってしまうでしょう。

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「くるみ割り人形」photo/Michel Lidvac

Q:ドッセルマイヤー役の時、足が悪いように見せ続けるのは大変ですね。

A:キャプテン・クックのように義足をつけてるのではなく、年齢ゆえに身体が錆びついて、リューマチか炎症かなにかで足が不自由、背中も痛む、という感じ。毎回 足をひきずることを少しトレーニングしてから、舞台に出ます。もし何もせずに舞台に出てしまうと、本当らしくみえないだろうから。足については、自分が怪我をしたときの経験を役立てました(笑)。5年前の初役の時は足を引きずりすぎてしまった感じがあって、さて今回 どんな風にしようかと歩き方を探っていたときに、あるダンサーから「あれ、怪我しちゃったの ?」と聞かれたんです。この時に、ああ、これはちょうどいい具合にひきずってるんだな、って(笑)。

Q:舞台上では手さばき見事に手品をみせますね。

A:そう ?  以前何かのバレエでフェンシングが必要なときは指導者がついたけど、この程度の手品だとそれほど難しい芸ではないでしょう。だからマジシャンから特に指導を受けることはなく、ぼくなりに稽古しての結果なんだけど・・・。簡単な手品とはいえ、舞台に出る前には自然にみえるように何度も稽古しますよ。難しいのは音楽にのせて、花束を素早い動作で美しく取り出すこと。 それにマジシャンは大きく広がるケープをつけ大きな帽子をかぶってという格好の上、周囲を子どもに囲まれているので、手のこんだ手品ではないにしても自然に見せるのってけっこう大変ですよ。

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「くるみ割り人形」photo/Michel Lidvac

Q :『くるみ割人形』は子ども向けのバレエとしてクリスマス時期に上演されますが、クララの子どもから思春期への成長の物語でもあります。

A:多くの童話って、このようにもう1つ別の解釈があるもので、バレエではそれが視覚的にも明快です。クララのナイーブな願望・・・とはいえ、プリンスへの気持ちは思春期にはいった女の子の理想の男性に対する願望で、セクシュアルな暗示がないにしても彼に惹き付けられているのです。

Q:このバレエで特に好きなシーンはありますか。

A:第一幕の最後の雪の王国です。コール・ド・バレエがとても素晴らしい。

Q:子どもの頃に見ていて、自分もチュチュを着て、ポワントで踊りたいとか思たりしましたか。

A:(笑)そんなこと、一度も思ったことがありません。 このシーンが好きなのは、バレリーナたちが一丸となって生み出すエネルギーです。グループのパワーに惹かれます。女性のコール・ド・バレエがこれほどグランソーをする作品って、珍しいでしょう。それにオペラ座のコールドバレエは信じられないほど全員の踊りが揃ってるので、ダンスの視覚的衝撃がすごい。だから、これを見ているうちに自分もこのグループ効果に参加したい! という気になるんです。ヌレエフ作品で僕もコール・ド・バレエを踊ったことがあるけど、この雪の王国のシーンはグループパワーの最高の例です。

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「くるみ割り人形」photo/Michel Lidvac

Q:自身のコール・ド・バレエ時代、似たような体験がありますか。

A:はい、『白鳥の湖』のポロネーズでは男性ダンサーが一丸となって踊ります。これは、とても刺激的でした。また、僕は経験がないけどジョン(・ノイマイヤー)の作品のコール・ド・バレエにも、そういう面がありますね。疲れがきたときって、ラインやデッサンを保つことに普通以上に注意深くある必要があって、そういうときに全員で集中力を発揮しあい、一種のライバル意識をかき立てられて・・・・それにポロネーズは音楽も素晴らしいので余計に盛り上がれます。素晴らしい思い出です。ソリストになってしまうと、こういうグループの効果を味わえないでしょう。

Q:『くるみ割人形』はこの後もまだまだ複数公演が控えていますが、2〜3日おきに踊るというリズムは体調的にどうなのでしょうか。

A:まだ最後(注 :12月22日が最終公演)まで終わってないので、何ともわかりません。1か月の間にこうした古典大作を9回踊るって、初めての経験。チャレンジですね。ヌレエフ作品は最後のグラン・パ・ド・ドゥだけでなく作品を通じて振り付が豊かで踊りが多いですし..。公演のたびに身体を快調にしておく必要があるので、長期間、身体管理にすごく集中しなければなりません。でも過去にも経験してることだけど、たとえ疲労があるにしても、公演数が多いと役柄に慣れ親しんでゆき、またちょっと上手くいかなかったことも次には上手くいくようになって・・と、回を重ねるごとに余裕が生まれ、その役を踊ることに喜びが増してい くんですよ。

Q:『くるみ割人形』が終わると、フィレンツェで12月28日と30日にドロテ・ジルベールと共に『トリスタンとイゾルデ』を踊ります。この創作者ジョルジオ・マンチーニとは初めての仕事ですか ?

A: はい。彼は僕がコリフェからスジェに上がるときの審査員の一人だったので、僕のことを覚えていて・・でも、この11年、一緒に何かをしたといことはありません。彼と仕事をして驚かされたのは、創作するスピードの速さ。3つのパ・ド・ドゥとつなぎの部分を合わせて約1時間の作品を、10日間で創ってしまいました。1日やってみてそのアイディアについて3〜4日考えてみて、といったリズムではなく、毎日毎日進めてゆく。こんな状況だと苛立ったりしそうなものだけど、彼は常に穏やかで優しくって。彼は僕とドロテに信頼を置いてくれていて、僕たちの意見を聞いてくれます。そうすると、僕たちのほうでも彼を喜ばせたい! という気になるものでしょう。すごく快適な環境で創作は進みました。これって、彼のクオリティですね。スタジオ内に重圧感が流れることはなく、いつもポジティブな雰囲気でした。 彼からジャッジされるという感じが全くなく、「ああ、僕、上手くできてないなあ」「彼は満足してないんじゃないか」といった気がかりから完全に解放されて仕事ができました。

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「くるみ割り人形」photo/Michel Lidvac

Q:ダンサー側から振付そのものを提案したこともありますか。

A:彼は自分のしたいことが明快だったので、とてもはやく創れたわけです。スタジオに長時間こもって、あれしてみて、これしてみよう、などと言う感じでなかなか進まない、というのではなかった。創作は彼の頭の中でどんどんと進んでて、僕たちはそれについてゆくという感じでした。もちろん、彼のアイディアがすべてが実現可能というわけではないので、そういう時に僕たちのほうから、彼の希望を可能な限り実現できるようにというようにもってゆける提案はしましたけど。

Q:自分に創作された作品を踊るのは、ダンサーにとって光栄なことですね。

A:そうです。よく言ってるように、自分の身体に誂えられたオートクチュールのようなものですから。誰かがアーチストとして僕に何かをクリエートしてくれる、というのは満足できることです。自分を豊かにすることができる機会となります。自分がしてることを気に入ってくれて、そこからさらに引き出されるものがあって・・。こちらもベストを差し出そうという気になるでしょう。両者の間に交換がある。アーチストにとって大切なことです。

Q:ジョルジョからの『トリスタンとイゾルデ』の提案はすぐに承諾しましたか。

A:創作のプロジェクトはすぐに気に入りました。この物語は『ロメオとジュリエット』のように、文学の世界において偉大なラヴストーリー1つですよね。そしてなんといっても、ワーグナーの音楽! イゾルデの死の曲は大好きで、この曲にのってトリスタンの役を踊れるって、すごい幸運です。こう考えただけで興奮し・・僕に訴えてくるもののあるプロジェクトでした。 創作が始まる前には少々不安がありました。時間を捻出する必要があるし、精力の投入も要求されることなので。オペラ座でのリハーサルの合間やプライヴェートの時間などをオーガナイズする必要があって、果たしてそうしたことをする準備が自分には出来てるのだろうか・・と。いろいろな疑問、問いかけがあったけど、創作が始まるや、そうしたことは消え去って、参加の喜びで満たされました。

Q:3つのパ・ド・ドゥをビデオがつなぐという形式の作品ですね。

A:はい。1つめは出会い、2つめはパッション、3つめは死、思い出。それぞれアイデンティティのあるパ・ド・ドゥです。でもつなぎはビデオだけでなく、一種の演出があって僕とドロテも 舞台上にいますよ。ぼくたちが舞台の上にいない、というのはごくわずかの時間です。

Q:この曲で踊れたら、という作品は他に何かありますか。

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「くるみ割り人形」photo/Michel Lidvac

A:例えばラジオなどからクラシック音楽が流れてくると、時々、ああ、これで踊れたら、というように思うことがあります。最近聞いたなかではチャイコフスキーのバイオリン・コンチェルトかな。これにバレエが振付けられたら、すごいだろうなとは思います。でも、1つの作品にするには短い曲なので、難しいでしょうね。でも、この曲で踊れたらワァーオ! です。

Q:日本の「美の饗宴」で踊るジョルジオ・マンチーニの作品はどんなものですか。

A:音楽はヴィヴァルディです。バレエのタイトルはガリレオ・ガリレイの有名な言葉をとって、『それでも地球はまわる』。とてもオーガニックで踊るのが快適な振付けなんですよ。 バレエについて何も知らない人も、バレエに通じている人も誰でもが喜びを見いだせる作品。誰にとってもアクセスが簡単な作品といえます 。スタイルはネオクラシックで、良い意味で一般受けする振付だと思います。

Q:「美の饗宴」では人間国宝・梅若玄祥との初顔合わせですね。

A:はい。夏に「エトワールガラ」の大阪公演の際に、彼に合う機会がありました。その姿をみただけで、存在感に圧倒されました。フランスには人間国宝というタイトルがないんです。それゆえ、ああ、この人物は日本国中で人間国宝として知られてるのか・・と、とっても強い印象をうけました。

Q:彼が舞う能をみたことはありますか。

A:彼の仕事は尊敬しています。ビデオで見たのですが、お面のクオリティの高さに驚かされました。お面は能において、とっても大きな役割を担ってますね。表情がとても豊かで、見ているうちにお面だということを忘れて、本当の顔だと錯覚しそうになりました。 動揺させられると同時に驚きがありました。ビデオを見ていて、その変身ぶりに、このお面の裏にいるのは本当に彼なの ? って。能というのはとても伝統的で、日本文化の代表芸術といえますね。すごく興味深いです。僕の想像する日本のイメージそのものといえます。

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デフィレ photo Michel Lidvac

衣裳、舞台装飾、能楽堂・・僕のイメージするある時代の日本の具体化を、能の世界でみることができるんです。プリンスとプリンセスの時代のフランスやヨーロッパを愛する日本の人が、ヌレエフの作品を見たら、魔法のようにその時代にタイムトリップしたように感じるでしょう。それと同じです。

Q:彼と何か特別に話したいことはありますか。

A:いいえ。話をするよりも、小さな子どものように好奇心いっぱいに目を見開いて、学びとりたい。きっと強烈なものを彼から受けとることができるだろうって、期待してます。

Q:この公演では妹マリーヌ・ガニオがパートナーですね。

A:妹と踊れるので、とってもうれしいです。オペラ座の「ダンサー・コレオグラファー」の公演で、ミリアム・カミオンカが僕たちに振付けた『プレ・ドゥ・トワ』以降、二人で踊る機会がなかったのです。だから、このチャンスはこの「美の饗宴」の提案に惹かれた理由の1つなんですよ。二人でローラン・プティ振付の 『瞑想タイス』を踊ります。公演のオーガナイザーからこれを提案されたんです。兄妹なので、愛のパ・ド・ドゥは踊れないでしょう 。ぼくたち二人が踊れる作品をみつけるのって、けっこう難しいんですよ。『瞑想タイス』なら二人とも好きだし、しかも両親が踊ったものなので意味深い作品です。といっても、僕はまだ踊ったことがなく、今回が初めて。だから、これから来日に向けて前にしっかりと稽古を積まなくては!

Q:梅若玄祥とある作品を共に舞う、というようなことは今後考えられますか。

A:今のところは何とも言えませんが、今回の公演が上手くゆき、そして観客にも受け入れられるのなら、先々考えられなくもないでしょう。もし僕と彼の間に通うものがあって、彼も興味をもつのなら・・・。

Q:この来日公演の後、オペラ座では何の公演に配役されていますか。

A:ジョン・ノイマイヤーの『大地の歌』。これは創作なのだけど、このインタビューが掲載される頃に創作が始まる作品なので、今のところは何も語ることができません。その次が『マノン』、そして『天井桟敷の人々』。この2つは今から再演を心待ちしている作品なんですが、ちょっとばかり心が痛むことがあります。というのは、気持ちの通じあうイザベル・シアラヴォラがこの2作品のパートナーで、二人でとても強い時間を共有した作品なのです。それだけに、この2作品を思うにつけ、彼女が引退してもうオペラ座にはいないのだという不在をより強く感じてしまいます。『天井桟敷の人々』のほうはまだ知りませんが、『マノン』のパートナーは、うれしいことにレティシア・プジョルです。どちらの作品においても、新しいパートナーと新たな瞬間を築き上げることになります。

Q:今シーズンの始め、最古のエトワールとして初めてのデフィレがありました。どのような印象を得ましたか。

A:前回のデフィレのときにニコラを見ていて、彼の頭の中ではどんなことが去来してるんだろう・・て考えたんですよ。それが彼にとって最後のデフィレでしたから。今回の僕が受けた印象を言葉で表すのは、とても難しい。38歳や39歳で引退が近づいているダンサーがデフィレの最後に最古のエトワールとして登場するというのと、僕の年齢(注/30歳)の場合ではそこから受ける印象はまったく異なるだろうと想像します。とても誇らしことだったけど、同時に大きな責任を痛感しました。さあ、これからはお前が最年長エトワールなんだぞ、といったものです。ふつう最年長者に対して人はレスペクトがありますね。敬意を受けるには、ただ古い、長いということだけでなく、それに相応しい力、適性を備えてなければならない。経験、成熟がなくてはならない・・。
もう1つ言えるのは、時の流れを意識したことです。毎日仕事を続けているうちに、ここに至っていた! という時間の流れに驚かされました。そして、こうして時はあっという間に 流れるのだから、あらゆる瞬間を満喫してゆかねば、と、つくづく思いました。エトワールになりたての10年前、ぼくの前に誰もエトワールが行進してなかったのに、今では、僕以降に任命された8名のエトワールが前を行進していて・・・。 ただ、デフィレの後に『Woundwork1』の舞台が控えていたので、それについても頭の中で思いが巡っていて・・・デフィレの時の気持ちというのはさまざまな要素がまじりあったものでした。でも、いずれにせよ体験してみたい! と僕が願っていたような強烈な瞬間を味わえたのは確かです。

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デフィレ photo Michel Lidvac

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